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第108話 体制監査
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ペール缶とリンス作りから解放されて、久しぶりに冒険者ギルドに出勤したらどうにも雰囲気がおかしい。
別にモンスターに乗っ取られたとかいうわけではないが、全体的にピリピリとしたムードとなっている。
「やっと出てきたわね」
シルビアがやってきた。
彼女の雰囲気はいつもと変わらない。
「なんか冒険者ギルドの雰囲気がピリピリとしているんだけど何かあったの?」
「ああ、アルトのいない間に監査があるって連絡が来てね。本部からの監査員が来るんでみんな緊張しているのよ」
「監査なんてあるんだ」
「ええ、数年に一度本部から監査員が来るのよ。悪さをしていたり、冒険者からの評判が悪かったりするのを放置していたら、他の冒険者ギルドも迷惑するからね」
「確かにそうだね」
成程、本社からの監査みたいなもんか。
身内といえば身内だが、そうでもないと言えばそうでもない。
「今回はカイロン伯爵の冒険者ギルドもできたから、同時に監査して比較されるからいつもよりも大変よ」
確かに同じ街に冒険者ギルドは二つもいらないとか結論付けられたら困るな。
統合ともなれば職員は解雇されるだろうし。
「何を監査されるかわかっているの?」
「仕事全般よ。特に今回はあんたの『相談窓口』と『MMR』が新設の部署になるから、重点的に監査されるかもしれないわね」
「じゃあ資料をまとめておきますか」
そういって、資料作りを買って出たが、表計算ソフトもプレゼンソフトもない事を忘れていたことを後悔した。
全て手書きでやらなきゃならないんだぞ。
20世紀の会社みたいだな。
作業標準書も全部手書きだ。
写真は現像したものを物理的に張り付けてある。
懐かしいな。
懐かしいだけで、やりたいとは思わないが。
とまあ、そんな感じで監査当日まで資料作成に追われた。
「いよいよね」
監査当日の朝。
シルビアですらも緊張している。
程なくして監査員が冒険者ギルドにやってきた。
「それでは本日監査をさせていただきます」
監査員は穏やかな感じの男性だ。
年齢は40歳くらいだろうか。
客先の監査でやってくるやり手の品質管理課長や係長って感じはなく、ISOの監査員のような印象をうける。
前者は指摘事項をみつけてやろうって感じだが、後者はそんな目的では来ない違いがある。
監査員にはギルド長が付いて回り、受け答えをしている。
俺の所へは直ぐにはこなそうだな。
いつもみたいにコーヒーを飲んで呆けているわけにもいかないので、机に座って真面目に相談者を待つふりをする。
時間を潰すのも大変だね。
こういう時に限って相談者が来ない。
別に限ったことではないか。
結局午前中は監査員はまわってこなかった。
午後になると俺の所にギルド長と一緒にやってきた。
さて、何を聞かれることやら。
ISOみたいにマニュアルがあるわけではないので、かえって難しいかな。
「ここが噂の相談窓口ですね」
そう言われた。
「噂になってますか?」
俺は監査員に訊いた。
「ええ。依頼書のサイン忘れの対策で作ったポカヨケってやつですか。あれを考えた職員に是非とも会いたかったんですよ」
そういえばそんなこともあったな。
水平展開で他の冒険者ギルドにも配ったんだ。
「どうしてあれを考え付いたのですか?」
「不具合の真因を追求してたどり着きました」
「真因ですか」
「はい。全ての不具合には真因があります。その真因さえ見つけてしまえば、あとはそれを潰すだけですからね」
そうはいうが、真因が分かっていても解決できない事も沢山あった。
建前ですよ、建前。
「実は今回は監査に加えて、君の本部への配置換えの打診も兼ねているんだよ」
「本部への配置換え!?」
それは初耳だ。
現地採用の工場勤務から、本社への移動とか栄転だな。
その分仕事はきつくなるけど。
是非ともお断りしよう。
「それは任意ですか?強制ですか?」
思わずあれしちゃった元アイドルみたいな受け答えしちゃった。
「強制というわけではないが、名誉なことだと思うよ」
「確かにありがたい申し出ですが、私にはまだこの街でやらなければならないことがあります」
グレイスが独り立ちできていないので、俺が本部に転勤となるなら連れて行かねばならない。
折角逃げてきた王都に戻るわけにもいかないのである。
というのを遠回しに言ってみた。
もちろん、俺の仕事がきつくなるのが嫌なのだが、それを言うわけにはいかないしね。
「そうか、残念だよ」
そこで転勤の話は終わった。
それ以外にはMMRの活動についても聞かれたが、QCサークル発表会みたいなノリで、俺の作った資料で説明を行って理解してもらった。
冒険者ギルド全体の監査も終わり、大きな指摘事項もなく皆ほっとした。
ピリピリとした雰囲気も気が付けば無くなっている。
後日、俺を訪ねてカイロン伯爵が冒険者ギルドにやってきた。
「アルト、娘をやるから家に来てくれ」
「どうしたんですか伯爵」
聞けばカイロン伯爵の冒険者ギルドは指摘事項が沢山あり、取り潰しとはならなかったがその代わり毎月改善結果を王都にある冒険者ギルド本部まで報告に来るように言われたんだとか。
開業間もない素人集団では、効果的な改善ができるわけもなく、監査員が絶賛していた俺を引き抜きに来たというわけだ。
なんでそんな重点管理メーカーに行かなきゃならんのだということで、丁重にお断りした。
だが、オーリスは激おこである。
曰く、「自分の魅力はそんなものか」だとか。
女子めんどくせ。
別にモンスターに乗っ取られたとかいうわけではないが、全体的にピリピリとしたムードとなっている。
「やっと出てきたわね」
シルビアがやってきた。
彼女の雰囲気はいつもと変わらない。
「なんか冒険者ギルドの雰囲気がピリピリとしているんだけど何かあったの?」
「ああ、アルトのいない間に監査があるって連絡が来てね。本部からの監査員が来るんでみんな緊張しているのよ」
「監査なんてあるんだ」
「ええ、数年に一度本部から監査員が来るのよ。悪さをしていたり、冒険者からの評判が悪かったりするのを放置していたら、他の冒険者ギルドも迷惑するからね」
「確かにそうだね」
成程、本社からの監査みたいなもんか。
身内といえば身内だが、そうでもないと言えばそうでもない。
「今回はカイロン伯爵の冒険者ギルドもできたから、同時に監査して比較されるからいつもよりも大変よ」
確かに同じ街に冒険者ギルドは二つもいらないとか結論付けられたら困るな。
統合ともなれば職員は解雇されるだろうし。
「何を監査されるかわかっているの?」
「仕事全般よ。特に今回はあんたの『相談窓口』と『MMR』が新設の部署になるから、重点的に監査されるかもしれないわね」
「じゃあ資料をまとめておきますか」
そういって、資料作りを買って出たが、表計算ソフトもプレゼンソフトもない事を忘れていたことを後悔した。
全て手書きでやらなきゃならないんだぞ。
20世紀の会社みたいだな。
作業標準書も全部手書きだ。
写真は現像したものを物理的に張り付けてある。
懐かしいな。
懐かしいだけで、やりたいとは思わないが。
とまあ、そんな感じで監査当日まで資料作成に追われた。
「いよいよね」
監査当日の朝。
シルビアですらも緊張している。
程なくして監査員が冒険者ギルドにやってきた。
「それでは本日監査をさせていただきます」
監査員は穏やかな感じの男性だ。
年齢は40歳くらいだろうか。
客先の監査でやってくるやり手の品質管理課長や係長って感じはなく、ISOの監査員のような印象をうける。
前者は指摘事項をみつけてやろうって感じだが、後者はそんな目的では来ない違いがある。
監査員にはギルド長が付いて回り、受け答えをしている。
俺の所へは直ぐにはこなそうだな。
いつもみたいにコーヒーを飲んで呆けているわけにもいかないので、机に座って真面目に相談者を待つふりをする。
時間を潰すのも大変だね。
こういう時に限って相談者が来ない。
別に限ったことではないか。
結局午前中は監査員はまわってこなかった。
午後になると俺の所にギルド長と一緒にやってきた。
さて、何を聞かれることやら。
ISOみたいにマニュアルがあるわけではないので、かえって難しいかな。
「ここが噂の相談窓口ですね」
そう言われた。
「噂になってますか?」
俺は監査員に訊いた。
「ええ。依頼書のサイン忘れの対策で作ったポカヨケってやつですか。あれを考えた職員に是非とも会いたかったんですよ」
そういえばそんなこともあったな。
水平展開で他の冒険者ギルドにも配ったんだ。
「どうしてあれを考え付いたのですか?」
「不具合の真因を追求してたどり着きました」
「真因ですか」
「はい。全ての不具合には真因があります。その真因さえ見つけてしまえば、あとはそれを潰すだけですからね」
そうはいうが、真因が分かっていても解決できない事も沢山あった。
建前ですよ、建前。
「実は今回は監査に加えて、君の本部への配置換えの打診も兼ねているんだよ」
「本部への配置換え!?」
それは初耳だ。
現地採用の工場勤務から、本社への移動とか栄転だな。
その分仕事はきつくなるけど。
是非ともお断りしよう。
「それは任意ですか?強制ですか?」
思わずあれしちゃった元アイドルみたいな受け答えしちゃった。
「強制というわけではないが、名誉なことだと思うよ」
「確かにありがたい申し出ですが、私にはまだこの街でやらなければならないことがあります」
グレイスが独り立ちできていないので、俺が本部に転勤となるなら連れて行かねばならない。
折角逃げてきた王都に戻るわけにもいかないのである。
というのを遠回しに言ってみた。
もちろん、俺の仕事がきつくなるのが嫌なのだが、それを言うわけにはいかないしね。
「そうか、残念だよ」
そこで転勤の話は終わった。
それ以外にはMMRの活動についても聞かれたが、QCサークル発表会みたいなノリで、俺の作った資料で説明を行って理解してもらった。
冒険者ギルド全体の監査も終わり、大きな指摘事項もなく皆ほっとした。
ピリピリとした雰囲気も気が付けば無くなっている。
後日、俺を訪ねてカイロン伯爵が冒険者ギルドにやってきた。
「アルト、娘をやるから家に来てくれ」
「どうしたんですか伯爵」
聞けばカイロン伯爵の冒険者ギルドは指摘事項が沢山あり、取り潰しとはならなかったがその代わり毎月改善結果を王都にある冒険者ギルド本部まで報告に来るように言われたんだとか。
開業間もない素人集団では、効果的な改善ができるわけもなく、監査員が絶賛していた俺を引き抜きに来たというわけだ。
なんでそんな重点管理メーカーに行かなきゃならんのだということで、丁重にお断りした。
だが、オーリスは激おこである。
曰く、「自分の魅力はそんなものか」だとか。
女子めんどくせ。
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