上 下
89 / 439

第88話 何故失敗しないのでしょうか?

しおりを挟む
「どうしてこうなった……」

 俺は冒険者ギルドの相談窓口でコーヒーを飲みながら呟いた。
 俺の悩みは、転生した世界に不具合が多すぎるということだ。
 前世で読んだ異世界転生小説は、現代の知識を持った主人公が、異世界で色々なものを作って社会を発展させていく。
 それは薬だったり、シャンプーだったり、紙だったり、火薬だったりする。
 その製法を異世界の人達に伝えるのだが、異世界の人達も教えてもらった製法で失敗することがないのだ。
 俺の転生した世界なんてロットアウトが常にあるぞ。
 俺のいる冒険者ギルドだけでも色々と不具合があるのに、水島の方など設計不良だって出ているっぽい。
 なんて人間臭い世界にきてしまったのだろうか。
 失敗しない人達ばかりの世界に転生していたら、品質管理の仕事なんて凄く楽だったろうな。
 メッキの話とか読んでいると、作者はメッキの不良率知ってて書いているのかなとか、脱脂工程無しでいきなりやっちゃうのとか、そんなことが気になったなー。
 まあ、ここでも客先に謝りに行く事がないから、それだけでも楽になっているのだけれども。
 文句ついでに言わせてもらえば、異世界転生小説に、ちょい役でも品質管理が出てこないじゃないか。
 いらないのか?
 その世界には品質管理はいらないのか?
 お前のスキルで作った野菜も武器もばらつきは無いのか?
 ばらつき無いと工程能力の計算できないけど、本当にいいのか?
 それとも、品質保証だったらいいのか?
 それはそれで面倒だけど。

 いや、そこまで品質管理の仕事にプライドがあったりとかするわけじゃないんだけど、社会が発展していく過程でどうしても品質管理は必要になってくるんじゃないかと思うんですよね。
 それが理解されたのが大企業で昭和。
 中小企業だと平成が終わっても、「品質管理は金を生まない」って経営者がいるからなんともいえないけど。
 日本でも不具合出たから選別にこいって言ったら「選別は見積もりに入ってません」って言い切る会社があったりして、令和になっても人類は進化しないから、もうアクシズ落としちゃおうぜって思ったりしたもんだ。
 話が逸れましたね。
 きっと異世界に転生してチートスキルを持つと、不具合なんて出ない方法を考えつくんでしょうね。
 FMEAで1点になるような素晴らしいスキルで溢れているんだと思います。

「アルト、疲れている?」

 シルビアが心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。
 ついつい考え事に集中して周りが見えなくなっていたようだな。

「いや、大丈夫だ」
「そう。無理はしないでね」
「ありがとう」

 そう言って、カップに残っていたコーヒーを飲み干す。

「すいません、相談にのっていただきたいのですが」
「はいなんでしょうか」

 そうして今日も俺の相談窓口は新人冒険者がやってくるのであった。


※作者の独り言
前世のネットで見た知識だけで、良品がつくれる主人公凄いですよね。
そういう能力がある人はぜひとも弊社に就職していただきたい。
様々な小説投稿サイトを見ても、異世界転生品質問題を扱っているのは拙著だけ。
品質問題について延々と語る異世界転生小説とか、沢山あっても困りますがな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

灰色の冒険者

水室二人
ファンタジー
 異世界にに召喚された主人公達、  1年間過ごす間に、色々と教えて欲しいと頼まれ、特に危険は無いと思いそのまま異世界に。  だが、次々と消えていく異世界人。  1年後、のこったのは二人だけ。  刈谷正義(かりやまさよし)は、残った一人だったが、最後の最後で殺されてしまう。  ただ、彼は、1年過ごすその裏で、殺されないための準備をしていた。  正義と言う名前だけど正義は、嫌い。  そんな彼の、異世界での物語り。

魔族の国で第二の人生始めます。 

腹減り雀
ファンタジー
異世界に転移してしまった主人公。転移した先の国で生きていくことを決めたが、それからとんでもない目に。選択を間違ったかもしれないと悩みながらも楽しく生きる日々。 ※R指定は念のためで、ほとんどコメディです。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。

みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。 主人公は断罪から逃れることは出来るのか?

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...