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材木相場
38 久々の登校
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魔法学園に通っている学生という身分のうちに僕は侯爵へとなった。
国王からの任命という訳ではなく、爵位の金銭取引での結果である。
元々は近衛騎士団長のヒンデンブルク侯爵が所有していた爵位であり、領地は決して広いものではない。
が、それでも管理するには人手がいる。
もう爵位を持て余し過ぎて、領地を管理できる人材が足りないので、今回もブリュンヒルデの父である公爵閣下に頭を下げて、領地を管理する人材を借りることになった。
爵位を金銭取引できるというのも考え物だな。
これなら領地から上がってくる税金を、50年にわたって受け取る権利とかの方がよさそうだ。
ギリシャがゴールドマンサックス証券と結んでいた契約みたいなやつだな。
あれはたしか空港権益を売り渡したのだったかな。
ギリシャショックで一時期注目を集めたファイナンスだ。
もし次に爵位で支払いを提案されたら、逆にこちらからそれを提案してみようか。
そして、本日は久しぶりの魔法学園への登校である。
オットマーに刺されて倒れている間は当然登校できずに休んでいた。
なんとなく、登校して好奇の目に晒されるのが嫌だったのだが、ここで登校しないとこのまま不登校になりそうだったので、我慢して登校することにした。
すると、校舎の前でドミニク殿下が待ち構えていた。
「おはようございます。ひょっとして待っていました?」
「意識が戻ったと聞いてな。今日登校することは公爵から連絡をもらっていた」
殿下は僕に近づいてくる。
同性ながらあまりの色っぽさに、ついついドキッとしてしまった。
思わず殿下から目をそらしてしまった。
「どうした?」
殿下は不思議そうに僕を見る。
「いや、ちょっと眩しかったもので」
「そうか」
殿下は空を見上げ、太陽の位置を確認した。
僕が眩しかったのは太陽ではなく殿下ですよ。
とは流石に言えない。
「傷はもういいのか?」
「ええ、回復魔法で傷跡が全く残ってませんよ」
シャツをめくって刺された場所を殿下に見せる。
通り過ぎる女生徒が真っ赤な顔でこちらを見ているのがわかり、いらぬ誤解を招いたかと後悔した。
相手も僕と目が合うとそそくさと校舎に入っていった。
「それにしても侯爵か。出世が早いな」
殿下が笑う。
「これは僕の手柄じゃないですからね。寝ている間に父と義父が動いて、ヒンデンブルク侯爵から賠償金を取っていただけです」
「聞いているよ。でも、そこに至るまでの道を作ったのはマクシミリアンだろう。オットマーに株を高値で掴ませて、尚且つその後に無価値にしてしまう。君にとっては面白くもない話だろうが、オットマーはその後アンネリーゼから向けられた冷たい目線で、もう彼女の傍に居られないと絶望して犯行に至ったそうだ」
「それならせめてアンネリーゼを刺してもらいたかったですね。そうすればブリュンヒルデの仕事もそこで終わっていた」
僕は肩をすくめた。
まったく、こっちに来ないでアンネリーゼに向かってもらいたかったよ。
お前を殺して俺も死ぬっていうのが定番なのに、なんでどいつもこいつも僕を刺そうとするのか。
「なんにしても、今回の件でオットマーがそこまで熱を上げていたアンネリーゼは裏があるんじゃないかと思う奴が多くなって、いよいよあの女の素性もわかりそうだよ。兄上の派閥は今ヒンデンブルク侯爵を失って浮足立っているしね」
「その辺は僕はノータッチです。門外漢ですからね。傾国の美女とやらの素性は野次馬根性で知りたいと思いますけどね」
「付き合ってみようとは?」
「御冗談を。うちには美女が三人もいるのですよ。これ以上増やす必要なんかどこにもありません」
「夜眠れなくなるな」
「それは今でもですよ」
そういうと殿下は大いに笑った。
「うらやましい限りだ」
「ドミニクだってあんな綺麗な婚約者がいるんだからいいじゃないか」
「政略結婚だよ」
面白くもなさそうにそう言い捨てた。
「お忍びで一緒に食事に行くくらいなのにですか?」
「そうだな。いい子ではあるが、それでも恋愛かと言われると首をかしげたくなるな」
どうも殿下は恋愛結婚に憧れているらしい。
王族としてそれは叶わない事であるから、余計に欲しくなるのだろう。
王族貴族の価値観としてまずは家を次世代に繋ぐというのがある。
だから、家のしがらみを捨てて恋愛結婚というのはまずない。
親同士が決めた婚約者と結婚してから好きになるというか、家を守るという共通の目的をもって夫婦としてやっていく感じだな。
だから、貴族が愛人を作るのも跡継ぎさえ作ってしまえば、あとは好きな人と子供を作りたいっていう気持ちから来るとか。
側室にすると跡継ぎの問題があるから、相続権の無い庶子のほうが都合が良いというのもうなずける。
日本でも倫理的に顔をしかめられるが、金も無くて子供をキチンと育てられない親ならば、庶子であっても大学まで出してくれる親のほうがいいのでは無いかと思っていた。
甲斐性とでもいうか、お金だけではないが、一夫一婦だから上手くいくという訳でもない。
フィエルテ王国でも庶子だけど優秀で、親の仕事を手伝っている役人なんていうのも珍しくない。
キチンと育てて、仕事の面倒までみているのならそれは立派に親としての務めを果たしていると言えるのではないだろうか。
話が逸れたな。
「ドミニク、出会いは親が決めた結婚相手でも、そこから愛に発展することもあるから」
「マクシミリアンが羨ましいよ。婚約者をそこまで愛せるのは体の相性か?」
答えにくいことをさらっと訊いてくる。
ちょっと赤面したのが自分でもわかった。
「相性が良いのか悪いのかは、あの三人しか知らないのでわかりません」
「三人にだって差はあるだろ?」
「そりゃあまあ。でも、いつも三人で激しく攻めてくるから、じっくり比べることなんて出来ませんよ。ドミニクこそどうなの?相性が良いの?」
「俺はまだ童貞だからな。相性なんてわからんよ」
「ずるい!」
どうみても嘘なのだが、そろそろ授業が始まるので、二人で教室へと向かった。
結局僕の夜の生活の告白だけで終わってしまったな。
一応、殿下も僕のことを心配してくれたみたいだけど。
教室に入るとみんなが一斉にこちらを向く。
そして、どこからともなくヒソヒソと話す声が聞こえてくる。
「モテる男は辛いな」
と殿下が肘でつついてきた。
「殿下への視線では?」
「まさか。あわよくば侯爵閣下に取り入ろうとしているのさ、男も女もね。卒業後の就職先か、はたまた嫁ぎ先か。マクシミリアンは目立ち過ぎなんだよ」
僕ははあ~っと大きなため息をついた。
「爵位が欲しければ売りますけどね。全部借金のかたに貰ったものなので」
「普通はその爵位を買う金がないんだよ。そもそも、金が無いから爵位を手放したわけだしな。同額を簡単に用意できるなら爵位を手放さんぞ」
殿下の言うことも尤もだ。
高額でいて換金性が悪い。
爵位なんて流動性のない金融商品みたいなもんで、手放したくても買い手を見つけるのが大変なのだ。
着席して直ぐに教師がやってきて、出欠の確認が始まる。
最初の授業はフィエルテ王国の歴史についてであり、今日は300年前に起きた大火の話だった。
フィエルテ王国の建物は木材も使われており、火事になると類焼しやすい。
また、冬場は乾燥して風が強いので、大火事になることが結構あるのだ。
そんな環境から火消しのような組織が発達してきた。
そして勿論付け火は大罪となっている。
雰囲気的には江戸時代だ。
これで火付盗賊改方でも居れば完璧だ。
そんな前世を思い出すような歴史の授業が終わり、休み時間ともなると僕のところににも何人かがやってきた。
みんな傷のことを心配するような事を言ってくれるが、その裏には殿下の言うように、嫁ぎ先仕官先としての下心が見え隠れする。
嫁ぎ先は無理だけど、人材不足なので仕官してくれるならありがたい。
男女問わず優秀ならどんどん雇用するつもりだ。
そんな感じで久々の学園生活をして、授業が終わり屋敷に帰るとヨーナスが待っていた。
国王からの任命という訳ではなく、爵位の金銭取引での結果である。
元々は近衛騎士団長のヒンデンブルク侯爵が所有していた爵位であり、領地は決して広いものではない。
が、それでも管理するには人手がいる。
もう爵位を持て余し過ぎて、領地を管理できる人材が足りないので、今回もブリュンヒルデの父である公爵閣下に頭を下げて、領地を管理する人材を借りることになった。
爵位を金銭取引できるというのも考え物だな。
これなら領地から上がってくる税金を、50年にわたって受け取る権利とかの方がよさそうだ。
ギリシャがゴールドマンサックス証券と結んでいた契約みたいなやつだな。
あれはたしか空港権益を売り渡したのだったかな。
ギリシャショックで一時期注目を集めたファイナンスだ。
もし次に爵位で支払いを提案されたら、逆にこちらからそれを提案してみようか。
そして、本日は久しぶりの魔法学園への登校である。
オットマーに刺されて倒れている間は当然登校できずに休んでいた。
なんとなく、登校して好奇の目に晒されるのが嫌だったのだが、ここで登校しないとこのまま不登校になりそうだったので、我慢して登校することにした。
すると、校舎の前でドミニク殿下が待ち構えていた。
「おはようございます。ひょっとして待っていました?」
「意識が戻ったと聞いてな。今日登校することは公爵から連絡をもらっていた」
殿下は僕に近づいてくる。
同性ながらあまりの色っぽさに、ついついドキッとしてしまった。
思わず殿下から目をそらしてしまった。
「どうした?」
殿下は不思議そうに僕を見る。
「いや、ちょっと眩しかったもので」
「そうか」
殿下は空を見上げ、太陽の位置を確認した。
僕が眩しかったのは太陽ではなく殿下ですよ。
とは流石に言えない。
「傷はもういいのか?」
「ええ、回復魔法で傷跡が全く残ってませんよ」
シャツをめくって刺された場所を殿下に見せる。
通り過ぎる女生徒が真っ赤な顔でこちらを見ているのがわかり、いらぬ誤解を招いたかと後悔した。
相手も僕と目が合うとそそくさと校舎に入っていった。
「それにしても侯爵か。出世が早いな」
殿下が笑う。
「これは僕の手柄じゃないですからね。寝ている間に父と義父が動いて、ヒンデンブルク侯爵から賠償金を取っていただけです」
「聞いているよ。でも、そこに至るまでの道を作ったのはマクシミリアンだろう。オットマーに株を高値で掴ませて、尚且つその後に無価値にしてしまう。君にとっては面白くもない話だろうが、オットマーはその後アンネリーゼから向けられた冷たい目線で、もう彼女の傍に居られないと絶望して犯行に至ったそうだ」
「それならせめてアンネリーゼを刺してもらいたかったですね。そうすればブリュンヒルデの仕事もそこで終わっていた」
僕は肩をすくめた。
まったく、こっちに来ないでアンネリーゼに向かってもらいたかったよ。
お前を殺して俺も死ぬっていうのが定番なのに、なんでどいつもこいつも僕を刺そうとするのか。
「なんにしても、今回の件でオットマーがそこまで熱を上げていたアンネリーゼは裏があるんじゃないかと思う奴が多くなって、いよいよあの女の素性もわかりそうだよ。兄上の派閥は今ヒンデンブルク侯爵を失って浮足立っているしね」
「その辺は僕はノータッチです。門外漢ですからね。傾国の美女とやらの素性は野次馬根性で知りたいと思いますけどね」
「付き合ってみようとは?」
「御冗談を。うちには美女が三人もいるのですよ。これ以上増やす必要なんかどこにもありません」
「夜眠れなくなるな」
「それは今でもですよ」
そういうと殿下は大いに笑った。
「うらやましい限りだ」
「ドミニクだってあんな綺麗な婚約者がいるんだからいいじゃないか」
「政略結婚だよ」
面白くもなさそうにそう言い捨てた。
「お忍びで一緒に食事に行くくらいなのにですか?」
「そうだな。いい子ではあるが、それでも恋愛かと言われると首をかしげたくなるな」
どうも殿下は恋愛結婚に憧れているらしい。
王族としてそれは叶わない事であるから、余計に欲しくなるのだろう。
王族貴族の価値観としてまずは家を次世代に繋ぐというのがある。
だから、家のしがらみを捨てて恋愛結婚というのはまずない。
親同士が決めた婚約者と結婚してから好きになるというか、家を守るという共通の目的をもって夫婦としてやっていく感じだな。
だから、貴族が愛人を作るのも跡継ぎさえ作ってしまえば、あとは好きな人と子供を作りたいっていう気持ちから来るとか。
側室にすると跡継ぎの問題があるから、相続権の無い庶子のほうが都合が良いというのもうなずける。
日本でも倫理的に顔をしかめられるが、金も無くて子供をキチンと育てられない親ならば、庶子であっても大学まで出してくれる親のほうがいいのでは無いかと思っていた。
甲斐性とでもいうか、お金だけではないが、一夫一婦だから上手くいくという訳でもない。
フィエルテ王国でも庶子だけど優秀で、親の仕事を手伝っている役人なんていうのも珍しくない。
キチンと育てて、仕事の面倒までみているのならそれは立派に親としての務めを果たしていると言えるのではないだろうか。
話が逸れたな。
「ドミニク、出会いは親が決めた結婚相手でも、そこから愛に発展することもあるから」
「マクシミリアンが羨ましいよ。婚約者をそこまで愛せるのは体の相性か?」
答えにくいことをさらっと訊いてくる。
ちょっと赤面したのが自分でもわかった。
「相性が良いのか悪いのかは、あの三人しか知らないのでわかりません」
「三人にだって差はあるだろ?」
「そりゃあまあ。でも、いつも三人で激しく攻めてくるから、じっくり比べることなんて出来ませんよ。ドミニクこそどうなの?相性が良いの?」
「俺はまだ童貞だからな。相性なんてわからんよ」
「ずるい!」
どうみても嘘なのだが、そろそろ授業が始まるので、二人で教室へと向かった。
結局僕の夜の生活の告白だけで終わってしまったな。
一応、殿下も僕のことを心配してくれたみたいだけど。
教室に入るとみんなが一斉にこちらを向く。
そして、どこからともなくヒソヒソと話す声が聞こえてくる。
「モテる男は辛いな」
と殿下が肘でつついてきた。
「殿下への視線では?」
「まさか。あわよくば侯爵閣下に取り入ろうとしているのさ、男も女もね。卒業後の就職先か、はたまた嫁ぎ先か。マクシミリアンは目立ち過ぎなんだよ」
僕ははあ~っと大きなため息をついた。
「爵位が欲しければ売りますけどね。全部借金のかたに貰ったものなので」
「普通はその爵位を買う金がないんだよ。そもそも、金が無いから爵位を手放したわけだしな。同額を簡単に用意できるなら爵位を手放さんぞ」
殿下の言うことも尤もだ。
高額でいて換金性が悪い。
爵位なんて流動性のない金融商品みたいなもんで、手放したくても買い手を見つけるのが大変なのだ。
着席して直ぐに教師がやってきて、出欠の確認が始まる。
最初の授業はフィエルテ王国の歴史についてであり、今日は300年前に起きた大火の話だった。
フィエルテ王国の建物は木材も使われており、火事になると類焼しやすい。
また、冬場は乾燥して風が強いので、大火事になることが結構あるのだ。
そんな環境から火消しのような組織が発達してきた。
そして勿論付け火は大罪となっている。
雰囲気的には江戸時代だ。
これで火付盗賊改方でも居れば完璧だ。
そんな前世を思い出すような歴史の授業が終わり、休み時間ともなると僕のところににも何人かがやってきた。
みんな傷のことを心配するような事を言ってくれるが、その裏には殿下の言うように、嫁ぎ先仕官先としての下心が見え隠れする。
嫁ぎ先は無理だけど、人材不足なので仕官してくれるならありがたい。
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