上 下
15 / 71
初めての仕手戦

15 売り本尊、マクシミリアン誕生

しおりを挟む
 さて、仕手戦を仕掛けるにしても、何事も準備からだな。
 今ここで勝負を仕掛けても、本尊を損させることは出来ない。
 まともにぶつかったら資金力で負けるので、策をこうじることにした。

 いつものようにヨーナスの事務所に行き、彼を見つけると

「ヨーナス、お願いがあるんだけど、荷馬車を3台とその荷台にいっぱいの塩を入れる瓶を用意してほしいんだ」

 そうお願いした。

「何をするんですか?」

「買い本尊がわかったんだ。だから、勝負するに決まっているじゃない」

「シェーレンベルク公爵ですね」

 意外なことに彼は既に本尊を知っていた。
 昨日の今日でよくわかったな。

「商人は情報が命ですからね」

 という事は辺境伯家か公爵家に情報を流している奴がいるんだろうな。
 それを責めるつもりもないけどね。
 しかし、そうなると事は慎重に進めないと情報が筒抜けになってしまうな。

「その早耳には感心するよ」

 尚、昭和の時代はインサイダー情報も早耳情報と呼ばれ、それを取ってくるのが優秀とされていた。
 証券業界が蛇蝎のように嫌われているのもよくわかる話ですね。
 素人は情報を持った玄人に食い物にされていたわけですから。

「お褒めにあずかり光栄です」

 ヨーナスは悪びれた様子もない。
 当然だと言わんばかりの態度だ。

「それで、このままだと戦争になっちゃうからそれを止める。シェーレンベルク公爵と真っ向勝負だよ」

「マクシミリアン様は上得意ですから諫言いたしますが、シェーレンベルク公爵家の資産は天井知らずと言われております。その公爵が買い占めをしているのですから、売りでは勝てないですよ」

「まあ普通に考えたらそうだよねえ」

「ええ」

 ヨーナスは僕が考えを改めると思ったらしい。

 が、

「いや、明日の引け直前にドテン売りをするよ。5000枚売って欲しいんだ。ヨーナスも買い玉があるなら手仕舞いしたほうがいい」

 僕は忠告を聞かない。

「荷馬車と関係があるんですね」

「そうだよ。毎日ヨーナスの商会に塩を運んでくるつもりだ。ローエンシュタイン家が管理する土地で塩を産出する場所が見つかったと言ってね」

 そこまで種明かしをすると、ヨーナスも納得した。

「それなら暴落しますね」

「でしょ」

 そこでヨーナスの表情が一瞬で険しくなった。

「でも、マクシミリアン様の手持ちの塩は20トンしかないですよね」

「そこはヨーナスが心配することは無いよ。毎日持ってくる瓶を受け入れてくれたらそれでいい」

「わかりました、請けましょう」

 こうしてヨーナスはその日のうちに荷馬車を用意してくれ、ローエンシュタイン家が管理する土地まで来てもらった。
 ここで一度御者には徒歩で帰ってもらい、明日またここに来るようにお願いした。
 距離はそんなに遠くは無いので、徒歩でもなんとかなる距離だ。

 その後屋敷に帰ると雰囲気は最悪だった。
 アルノルトが調度品に八つ当たりをして壊していた。
 安くはないのになあと、遠目で見ながら近寄らずに自分の部屋を目指す。

 父の執務室の前を通った時には、寄り子の貴族に声をかけて戦争の準備をするようにと怒鳴っている声が聞こえてきた。
 やはり期近の清算日までに決着をつけないとまずいことになりそうだなと改めて思う。

 夜になると晩御飯をマルガレータが運んできたが、どうもその表情は暗かった。
 それが気になったので聞いてみた。

「マルガレータ、どうしたの?心配事でもあるの?」

「はい。マクシミリアン様はご存知でしょうか、近々ルードルフ様が隣の領地に戦争を仕掛けるという噂を」

「まあ、屋敷の中にいれば嫌でも聞こえてくるよねえ」

「はい。それで実家と嫁ぎ先の事が心配になりまして」

 彼女も貴族の出身なので、戦争ともなれば家族は駆り出される。
 場合に寄ったら彼女自身もだな。
 それが心配なのだろう。

「僕がなんとかするよ」

 そう言うと、彼女は微笑んだ。

「マクシミリアン様はお優しいのですね。それが本当ならこの身を捧げてもよろしいのですが。ただ、マクシミリアン様にもどうにも出来ないのもわかっております」

「うーん、本気なんだけどねえ」

 会話はそこまでとなり、僕は食事をとって明日に備えて早めに寝た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

その断罪、三ヶ月後じゃダメですか?

荒瀬ヤヒロ
恋愛
ダメですか。 突然覚えのない罪をなすりつけられたアレクサンドルは兄と弟ともに深い溜め息を吐く。 「あと、三ヶ月だったのに…」 *「小説家になろう」にも掲載しています。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。

柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。 詰んでる。 そう悟った主人公10歳。 主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど… 何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど… なろうにも掲載しております。

処理中です...