10 / 71
初めての仕手戦
10 動いた価格
しおりを挟む
僕は朝からヨーナスの事務所に来ていた。
リアルタイムで塩の取引価格を確認するためだ。
予定通り塩の価格はどんどん下がっていく。
90,000マルクだった先物価格はあっという間に70,000マルクを切った。
現物も当然下落していくが、先物より3,000マルク程高い価格で取引をされている。
これは時間が経つに従って価格が下落すると人々が考えている証拠だ。
期先になればなるほど値段は低い。
尚、この前清算日となったために、次の清算日はまだ25日程先になっている。
今持っている売りポジションをどこまで引っ張るかだな。
商品価格というものは仕手戦になればオーバーシュートするものだ。
上にも下にも適正価格を大きく超えていく。
今回の下落も売り急ぐ人が多くなれば、適正価格よりも下で約定することもあるだろう。
株式投資でも暴落時は買いっていうのはこのためだ。
どうしても急ぎでお金が欲しい投資家は、市場で急いで換金するために発生する現象で、古今東西どこの市場でも見る事が出来る。
特に、本尊の姿が見えないので提灯筋は不安になって売り急ぐだろう。
何故本尊は買い支えないのかという不安が、値下がりと共に増大していき、雪崩を打って株価はさがっていく。
値幅制限がない市場なので、兎に角止まらない。
パニックが起きれば一瞬でどこまでも下がっていくのだ。
午前11時になると日中足が下髭をつけて上がり始める。
下髭とはローソク足で最安値からの戻りがあり、寄り付きの価格に近付いていく事である。
一旦パニックが収まったのか、それとも本尊が買いを入れたのかはわからないが、強いリバウンドを見て売りポジションをクローズした。
現在の最安値は55,300マルク。
過去の値上がりを一気に解消した形となった。
自分が手仕舞いしたのはそれよりも上の58,900マルクであるが、相場の頭としっぽはくれてやれの格言通り諦める。
最安値最高値を取る事など不可能に近く、それを追いかけては損をするからなあ。
その後取引価格はペナントを形成する。
ペナントとは株価などの値動きが上値を切り下げ、下値を切り上げる事で次第に小さくなっていく事を指す。
丁度右に行くにしたがって細くなっていく三角形のペナントの形になるからそう言われているのだ。
このペナントが小さくなると、次に大きな値動きがあると言われている。
そしてついにペナントがブレイクした。
ブレイクとは上値や下値を結んだ直線を、価格が突破することを示す。
基本的にはブレイクした方に価格は走るのだ。
「買い注文300枚。それと現物も20トン買う。6万マルク以下は拾って!」
僕は急いでヨーナスに注文を出した。
「正気ですか?」
ヨーナスが確認をするので、彼を急がせた。
「早く!」
「わかりました」
現物については本日の取引終了時間に清算して、受け渡しは3日後となっていた。
相手に連絡して運搬の準備などがあるので、即時の引き渡しは無理なのでそうなっている。
日本でも株式の受け渡しが4日後になっていたのは名義の書き換えもいつ様になるという伝統があったのだが、上場企業の株式が電子化されて1日早くなった。
それでも3日はかかっているのだけどねえ。
それと、自分の魔法で塩を作り出せるが、あえて現物を購入したのはヨーナスに売るときに説明がつかないからである。
ここでそれをやってしまえば、成人してから家を出て気ままに暮らすことが出来なくなるから、それをすることはしない。
一度ブレイクした価格が再びサポート迄下落してくるので、そこでガンガン拾ってもらう。
何故そうしているのかといえば、本尊が売り抜けていない可能性があるからだ。
現在までの出来高が圧倒的に少ない。
数か月にわたってひっそりと塩を買い占めてきた本尊が、売り抜けるのにはこんな出来高では無理だ。
因みに現物の取引量が100トン程度。
圧倒的に先物が多いのは、現物を持たない提灯筋の取引がそこに集中したからだろう。
先物の出来高は1万枚を超えて大商いとなっていた。
買いの本尊が仕込むならむしろ今だろうな。
それまでは出来高が細くて大きなポジションなんて取る事が出来なかっただろうし。
「今日の手口情報がわかったら教えてね」
とヨーナスにお願いする。
手口とはどこの商会がどの程度のポジションを取ったのかという事だ。
これが重要で、この手口に本尊が見え隠れしてくる。
取引価格には嘘が混じるが、出来高は嘘をつけないのだ。
取引価格を釣り上げるなら上値をガンガン買っていけばよいがこれには出来高は必要ない。
しかし、ポジションの仕込みをするのなら出来高が膨らむ。
なんとなくだが下髭をつけたのは本尊の買いな気がするんだよなあ。
そしてこの出来高をコントロールするとなると、それなりの資金力が必要になる。
どこまで価格を戻すことが出来るのかお手並み拝見といこうか。
僕は引け値を確認してから屋敷に戻った。
リアルタイムで塩の取引価格を確認するためだ。
予定通り塩の価格はどんどん下がっていく。
90,000マルクだった先物価格はあっという間に70,000マルクを切った。
現物も当然下落していくが、先物より3,000マルク程高い価格で取引をされている。
これは時間が経つに従って価格が下落すると人々が考えている証拠だ。
期先になればなるほど値段は低い。
尚、この前清算日となったために、次の清算日はまだ25日程先になっている。
今持っている売りポジションをどこまで引っ張るかだな。
商品価格というものは仕手戦になればオーバーシュートするものだ。
上にも下にも適正価格を大きく超えていく。
今回の下落も売り急ぐ人が多くなれば、適正価格よりも下で約定することもあるだろう。
株式投資でも暴落時は買いっていうのはこのためだ。
どうしても急ぎでお金が欲しい投資家は、市場で急いで換金するために発生する現象で、古今東西どこの市場でも見る事が出来る。
特に、本尊の姿が見えないので提灯筋は不安になって売り急ぐだろう。
何故本尊は買い支えないのかという不安が、値下がりと共に増大していき、雪崩を打って株価はさがっていく。
値幅制限がない市場なので、兎に角止まらない。
パニックが起きれば一瞬でどこまでも下がっていくのだ。
午前11時になると日中足が下髭をつけて上がり始める。
下髭とはローソク足で最安値からの戻りがあり、寄り付きの価格に近付いていく事である。
一旦パニックが収まったのか、それとも本尊が買いを入れたのかはわからないが、強いリバウンドを見て売りポジションをクローズした。
現在の最安値は55,300マルク。
過去の値上がりを一気に解消した形となった。
自分が手仕舞いしたのはそれよりも上の58,900マルクであるが、相場の頭としっぽはくれてやれの格言通り諦める。
最安値最高値を取る事など不可能に近く、それを追いかけては損をするからなあ。
その後取引価格はペナントを形成する。
ペナントとは株価などの値動きが上値を切り下げ、下値を切り上げる事で次第に小さくなっていく事を指す。
丁度右に行くにしたがって細くなっていく三角形のペナントの形になるからそう言われているのだ。
このペナントが小さくなると、次に大きな値動きがあると言われている。
そしてついにペナントがブレイクした。
ブレイクとは上値や下値を結んだ直線を、価格が突破することを示す。
基本的にはブレイクした方に価格は走るのだ。
「買い注文300枚。それと現物も20トン買う。6万マルク以下は拾って!」
僕は急いでヨーナスに注文を出した。
「正気ですか?」
ヨーナスが確認をするので、彼を急がせた。
「早く!」
「わかりました」
現物については本日の取引終了時間に清算して、受け渡しは3日後となっていた。
相手に連絡して運搬の準備などがあるので、即時の引き渡しは無理なのでそうなっている。
日本でも株式の受け渡しが4日後になっていたのは名義の書き換えもいつ様になるという伝統があったのだが、上場企業の株式が電子化されて1日早くなった。
それでも3日はかかっているのだけどねえ。
それと、自分の魔法で塩を作り出せるが、あえて現物を購入したのはヨーナスに売るときに説明がつかないからである。
ここでそれをやってしまえば、成人してから家を出て気ままに暮らすことが出来なくなるから、それをすることはしない。
一度ブレイクした価格が再びサポート迄下落してくるので、そこでガンガン拾ってもらう。
何故そうしているのかといえば、本尊が売り抜けていない可能性があるからだ。
現在までの出来高が圧倒的に少ない。
数か月にわたってひっそりと塩を買い占めてきた本尊が、売り抜けるのにはこんな出来高では無理だ。
因みに現物の取引量が100トン程度。
圧倒的に先物が多いのは、現物を持たない提灯筋の取引がそこに集中したからだろう。
先物の出来高は1万枚を超えて大商いとなっていた。
買いの本尊が仕込むならむしろ今だろうな。
それまでは出来高が細くて大きなポジションなんて取る事が出来なかっただろうし。
「今日の手口情報がわかったら教えてね」
とヨーナスにお願いする。
手口とはどこの商会がどの程度のポジションを取ったのかという事だ。
これが重要で、この手口に本尊が見え隠れしてくる。
取引価格には嘘が混じるが、出来高は嘘をつけないのだ。
取引価格を釣り上げるなら上値をガンガン買っていけばよいがこれには出来高は必要ない。
しかし、ポジションの仕込みをするのなら出来高が膨らむ。
なんとなくだが下髭をつけたのは本尊の買いな気がするんだよなあ。
そしてこの出来高をコントロールするとなると、それなりの資金力が必要になる。
どこまで価格を戻すことが出来るのかお手並み拝見といこうか。
僕は引け値を確認してから屋敷に戻った。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
その断罪、三ヶ月後じゃダメですか?
荒瀬ヤヒロ
恋愛
ダメですか。
突然覚えのない罪をなすりつけられたアレクサンドルは兄と弟ともに深い溜め息を吐く。
「あと、三ヶ月だったのに…」
*「小説家になろう」にも掲載しています。
魔道具作ってたら断罪回避できてたわw
かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます!
って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑)
フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。
柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。
詰んでる。
そう悟った主人公10歳。
主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど…
何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど…
なろうにも掲載しております。
冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる