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第2話 STAYGOLD

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「ねえ、遠藤って誰よ」





 村田紗奈の姉ちゃんは、躊躇することなくその辺の男子に声を掛けている。その勢いに圧倒されたその男子はおずおずと「あいつだけど……」と俺の方を指さす。





 俺の存在に気付いた村田姉はずかずかと俺の方に近づいてきて、俺の机をバシっと叩いて、ぶしつけにこう言った。





 「あんたが遠藤和人ね。あんたギター弾けるんでしょ。軽音部に入りなさい」





 んんんんーーーー?何で俺がギター弾けるの知ってんだ?そして、何で転校2日目で軽音部に入ってんだこの姉ちゃん!





 俺が呆気にとられ、無言でいると、構わず村田姉は続ける。





 「私バンドやりたいの。昨日軽音部入ったら、ギター弾ける人材が何処にもいないのよ!おかしいでしょ!?軽音部なのに!そんであんたの噂を聞きつけて、スカウトしに来たって訳。あんた親父さんミュージシャンなんでしょ?あんたもギター弾けるって聞いたわよ。そんな逸材をほっとく訳にはいかないわ。あんた、軽音部入りなさい!」





 何か俺の情報が既に漏れているらしい。確かに俺の親父はミュージシャンだが、そんなに有名な方じゃない。そして俺もギターは弾けるがパンクしか興味がない。第一コミュ障の俺が部活って……ということで、丁重にお断りしようと声を発した瞬間だった。





 「あの、俺……」





 「あー!まだるっこしいわね!あんた今から部室来なさい!そこで何か弾いてみて!」





 と俺の首根っこを引っ掴んで、無理やり立たせると廊下まで引きずっていった。引きずられながら村田妹を見ると、恥ずかしそうにうつむいているだけだった。……恐らくこの女が姉だとばれたくない&恥ずかしくて前を向けないのだろう。うん。そんな姿も可愛い。なんて思ってる内に軽音部の部室まで来てしまった。





 「さ、入って!」





 俺は無理やり中に入れられると、既に部室にいた2人の女の子と目が合った。どっちも見かけたことはあるが、確か上の学年だったはず。そもそもこの高校の軽音部は存続してるのが不思議なくらい存在感がない。まあ、この「ボカロ」だとか「弾いてみた」の時代に部活に入る奴も少ないのはしょうがないことかもしれないけどね。





 と、俺が所在なく立っていると村田姉は、





 「はい!」





 とエレキギターを俺に渡してきた。フェンダーのストラトか。きっと昔誰かが使ってて置きっぱなしになっていたものだろう。アンプにはつながってるな……でもいきなり弾けって!つーか俺まだ何も言ってねーし!





 「あのー俺、まだ軽音部に入るとか何も言って……」





 「あん?あんたギター弾けるのよね?」





 「はあ、まあ、一応」





 「だったら!入部決定!いいわよね?まどか、カスミ」





 まどかとカスミというのはさっきから様子を伺っている女の子2人のことだろう。そして二人ともにこにこしながら「いいよー」とか言ってる。何だこの状況は!





 「はい、入部決定!じゃあ何か弾いてみて」





 「えっとあの、何かリクエストとか……」





 「そうね……あんたハイスタ弾ける?」





 ハイスタというのは正式名称HI-STANDARDといって日本のパンクの金字塔だ。何を隠そう全曲弾ける。





 「まあ、一通りは」





 「じゃあ、STAYGOLDのリフ弾いてみて」





 STAYGOLDというのはハイスタの中でも一番メジャーな曲だ。パンク好きな俺が何度練習したか分からない。何かこの姉ちゃんと趣味が合いそうな気がしてきたぞ。そう思うとちょっとテンション上がるな。





 俺は気合を入れてSTAYGOLDのリフを弾いた。あ、リフってのはまあ曲の最初の部分だと思っとけば大体間違いない。





 俺の弾いたリフはアンプ直のエレキギターだったから歪んでなかったので、ちゃかちゃか感がかなりあったがめっちゃ正確に弾いたつもりだった。どんな反応をするかな……恐る恐る村田姉を見ると、目をウルウルさせてこっちを見ていた。何だ?





 「あんたよ!私が探していたのは!今の時代ハイスタなんて時代遅れだとか、打ち込みで十分だとかごちゃごちゃいう奴がいるけど、今のあんたのリフは本物だった!バンドやるわよ!」





 うわー、何かの琴線に触れちゃったらしい。でも俺も内心悪い気はしていない。俺も最近の音楽シーンは好きなれない部分が多かったから意見が合いそうだ。





 「分かりました。バンドやりましょう!」





 ノリで言ってしまったが、他のメンバーはどうするんだろう。





 「あの、ベースとドラムは……」





 「ああ、ベースは私が弾くわ。ドラムはそこのまどかが叩ける。カスミはキーボードね。これでメンバーは揃ったわ!ついにまともなバンドができる!」





 すげーテンションの上がり具合だな……今までバンドがらみで何か嫌なことでもあったのだろうか。





 でも俺はふと気付いた。





 「あの……ボーカルは……?」





 「あんた歌うまい?」





 「いや、そこまでは」





 「じゃあ、心当たりがいるわ。安心して。あ、そういえば同じクラスじゃん。私の妹。あの子歌めっちゃ上手いのよ」





 ええええええええええ!ま、まさか、村田紗奈と一緒にバンドを!?この俺が!?昨日までぼっちで机にハグしてた俺が!?





 何か思いもかけない方向に話が転がってきた……
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