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ゴブダン 10話 (幕間) 新たな動き
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コンコン
「ギルドマスター、少しよろしいですか?」
20代前半に見える、メガネをかけた、いかにも秘書という感じの、綺麗な女性がドアをノックする。
「おう、入れ」
「失礼します」
ギルドマスターの許可を貰い、女が部屋に入ると、部屋の奥で筋肉質な男が、机と向かい合い椅子に座っている。
「どうした、アリーシャ、何かあったのか?」
ギルドマスターが、用件を尋ねる。
「はい、少し気になることがありましたので、ご報告に。今定期連絡便から書簡が届きまして、目を通していたのですが、その中に西の農地開拓をおこなっているエリアの先で、開拓村がゴブリンに襲撃され、女性が2名拐われたという事件がおきたらしいのです」
アリーシャと呼ばれた女性が淡々と話す。
「ん? ゴブリンなんて、今じゃ珍しくも無いだろ? 俺が小さいころは珍しかったが、40年前の大最悪以降、あちこちでモンスターが沸きまくり、今じゃ討伐する冒険者の方が、人手不足で困っているくらいなんだぞ、ガハハハハ。昔のラースはな、それこそモンスターの数が少なくて、冒険者が余りまくっててだな~…………」
ギルドマスターと呼ばれる筋肉男が、ゲラゲラ笑いながら昔話を始める。
アリーシャは、また始まったかと呆れながらも、話を進める。
「もうその話は何度も聞きました。それで、西の端にあるレクソンの冒険者ギルド支部から、C級の冒険者チームが派遣されたのですが、1ヶ月経っても帰って来ないそうなのです。もっともその冒険者チームに依頼したのは調査がメインで、救出は可能ならばと、いうことだったらしいのですが」
ギルドマスターも、流石にその話を聞いては笑顔ではいられない。
「つまり、ゴブリンごときにC級冒険者チームが殺られたって言いたいのか? ちなみにそのチームの数は何人だ?」
例えどれだけ優秀な冒険者であっても、少数では万が一ということもあり得る。
「その冒険者チームをまとめるリーダーのレベルは22でした。他のメンバーも皆レベルだけなら15以上の者達らしく、冒険者ランクもC級とD級が寄せ集まった中堅のチームで、人数は10人」
アリーシャは冒険者チームの詳細を細かく伝える。
「10人だと!?」
ギルドマスターもその数に驚く。
自分の経験からいっても、あり得ないことだ。
たかが、ゴブリンごときに、それだけの数+レベルの冒険者達が殺られるなど、聞いたことがない。
それこそ前代未聞だ。
「はい、10人です。ですが、先ほども言いましたように、依頼したのは調査がメインです。まだ目撃されたゴブリンに殺られたとは限りません。ただ、開拓民の報告から、開拓村を襲撃したゴブリンは高価な装備で武装し、魔法を使用してきたとのことです。辺境ですから、上位種族が沸いた可能性もあります。この内容については、C級冒険者チームにも伝えたとのことですが」
ギルドマスターは眉間にしわを寄せながら、深く考え込む。
「それで?」
だが、結論が出ず、答えを先送りにして、話を進める。
「はい、レクソン支部からは、最初に拐われた女性2名並びに、C級冒険者チームの捜索などを加えた、調査隊の派遣を、又は可能であれば上級冒険者チームに今回の件を依頼したいとのことです」
「なるほど。話は大体わかった。でだ、今すぐ頼めそうな上級の冒険者が空いているのか?」
上級の冒険者チームは、世界中にモンスターがあふれて以降、どこでも人気があり、取り合いで忙しく、フリーでいることなどあり得ない。
何かを依頼するときは、大体予約という感じになってしまう。
「今すぐに頼めそうなのはいません。最短でミリシャのS級チームが半月後には帰還予定とはなっていますが、彼女のチームは、依頼達成後はその報酬を使って遊び歩いたりするので……大抵寄り道して帰ってきますから……」
アリーシャが困った表情で、顔を左右に振る。
「あ~アイツのチームか、確かに仕事は早いんだがな……仕方ない。アイツが帰ってくるまえに、今空いてる奴らで、調査チームを作り派遣しろ。それと、決して深追いせず、調査に徹底させるように厳命しておけ」
確定情報ではなくても、ゴブリンごときにC級が殺られた可能性がある以上、注意しなくてはいけない。
だが、そんなことを他の奴らに言ったら余計に舐めてかかり、二の舞になる恐れがある。
「わかりました。すぐに手配いたします。それとギルドマスター、この件はアンナ様には報告を致しましょうか?」
アリーシャは少し下がったメガネを直しながら、問いかける。
「冗談だろ?」
ギルドマスターは、額から汗を流して答える。
こんなゴブリンごときの案件で、報告なんてしたら何を言われるかわからない。
最悪、無能者と、首を切り落とされるかもしれない。
「わかりました。では、失礼致します」
アリーシャが部屋から出ていく。
まさか、アリーシャが冗談を言うとは思わなかった。
いや……アリーシャならば本気だったかもしれない。
ギルドマスターは、冷や汗を拭い、仕事に戻る。
まさか、自分がこの時報告しなかったことで、相手に更なる時間を与え、取り返しのつかないことになるとは、思いもしないで……。
「ギルドマスター、少しよろしいですか?」
20代前半に見える、メガネをかけた、いかにも秘書という感じの、綺麗な女性がドアをノックする。
「おう、入れ」
「失礼します」
ギルドマスターの許可を貰い、女が部屋に入ると、部屋の奥で筋肉質な男が、机と向かい合い椅子に座っている。
「どうした、アリーシャ、何かあったのか?」
ギルドマスターが、用件を尋ねる。
「はい、少し気になることがありましたので、ご報告に。今定期連絡便から書簡が届きまして、目を通していたのですが、その中に西の農地開拓をおこなっているエリアの先で、開拓村がゴブリンに襲撃され、女性が2名拐われたという事件がおきたらしいのです」
アリーシャと呼ばれた女性が淡々と話す。
「ん? ゴブリンなんて、今じゃ珍しくも無いだろ? 俺が小さいころは珍しかったが、40年前の大最悪以降、あちこちでモンスターが沸きまくり、今じゃ討伐する冒険者の方が、人手不足で困っているくらいなんだぞ、ガハハハハ。昔のラースはな、それこそモンスターの数が少なくて、冒険者が余りまくっててだな~…………」
ギルドマスターと呼ばれる筋肉男が、ゲラゲラ笑いながら昔話を始める。
アリーシャは、また始まったかと呆れながらも、話を進める。
「もうその話は何度も聞きました。それで、西の端にあるレクソンの冒険者ギルド支部から、C級の冒険者チームが派遣されたのですが、1ヶ月経っても帰って来ないそうなのです。もっともその冒険者チームに依頼したのは調査がメインで、救出は可能ならばと、いうことだったらしいのですが」
ギルドマスターも、流石にその話を聞いては笑顔ではいられない。
「つまり、ゴブリンごときにC級冒険者チームが殺られたって言いたいのか? ちなみにそのチームの数は何人だ?」
例えどれだけ優秀な冒険者であっても、少数では万が一ということもあり得る。
「その冒険者チームをまとめるリーダーのレベルは22でした。他のメンバーも皆レベルだけなら15以上の者達らしく、冒険者ランクもC級とD級が寄せ集まった中堅のチームで、人数は10人」
アリーシャは冒険者チームの詳細を細かく伝える。
「10人だと!?」
ギルドマスターもその数に驚く。
自分の経験からいっても、あり得ないことだ。
たかが、ゴブリンごときに、それだけの数+レベルの冒険者達が殺られるなど、聞いたことがない。
それこそ前代未聞だ。
「はい、10人です。ですが、先ほども言いましたように、依頼したのは調査がメインです。まだ目撃されたゴブリンに殺られたとは限りません。ただ、開拓民の報告から、開拓村を襲撃したゴブリンは高価な装備で武装し、魔法を使用してきたとのことです。辺境ですから、上位種族が沸いた可能性もあります。この内容については、C級冒険者チームにも伝えたとのことですが」
ギルドマスターは眉間にしわを寄せながら、深く考え込む。
「それで?」
だが、結論が出ず、答えを先送りにして、話を進める。
「はい、レクソン支部からは、最初に拐われた女性2名並びに、C級冒険者チームの捜索などを加えた、調査隊の派遣を、又は可能であれば上級冒険者チームに今回の件を依頼したいとのことです」
「なるほど。話は大体わかった。でだ、今すぐ頼めそうな上級の冒険者が空いているのか?」
上級の冒険者チームは、世界中にモンスターがあふれて以降、どこでも人気があり、取り合いで忙しく、フリーでいることなどあり得ない。
何かを依頼するときは、大体予約という感じになってしまう。
「今すぐに頼めそうなのはいません。最短でミリシャのS級チームが半月後には帰還予定とはなっていますが、彼女のチームは、依頼達成後はその報酬を使って遊び歩いたりするので……大抵寄り道して帰ってきますから……」
アリーシャが困った表情で、顔を左右に振る。
「あ~アイツのチームか、確かに仕事は早いんだがな……仕方ない。アイツが帰ってくるまえに、今空いてる奴らで、調査チームを作り派遣しろ。それと、決して深追いせず、調査に徹底させるように厳命しておけ」
確定情報ではなくても、ゴブリンごときにC級が殺られた可能性がある以上、注意しなくてはいけない。
だが、そんなことを他の奴らに言ったら余計に舐めてかかり、二の舞になる恐れがある。
「わかりました。すぐに手配いたします。それとギルドマスター、この件はアンナ様には報告を致しましょうか?」
アリーシャは少し下がったメガネを直しながら、問いかける。
「冗談だろ?」
ギルドマスターは、額から汗を流して答える。
こんなゴブリンごときの案件で、報告なんてしたら何を言われるかわからない。
最悪、無能者と、首を切り落とされるかもしれない。
「わかりました。では、失礼致します」
アリーシャが部屋から出ていく。
まさか、アリーシャが冗談を言うとは思わなかった。
いや……アリーシャならば本気だったかもしれない。
ギルドマスターは、冷や汗を拭い、仕事に戻る。
まさか、自分がこの時報告しなかったことで、相手に更なる時間を与え、取り返しのつかないことになるとは、思いもしないで……。
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