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第二章 夏
第四十六話 プールでの昼ごはん
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うーん、「頑張ればいける」の精神で泳いだけど、ダメだったね。
冷静に考えると、運動がまあまあできる千波を相手にハンデを背負っての勝負は無謀だったし、水泳が得意な碧を相手に同じ条件で戦うのも勝ち目が薄かったな。
杏実さん相手なら……と思ったけど、意外と杏実さんも速かった。水泳の授業の時はそこまで速くなかったと思ったんだけどなぁ。
まあ、どれも言い訳で、実際のところは「俺のバタ足がヘボかった」で終了だ。
なんて考えている俺に向かって、千波がさっきまで激しく動かしていた足をさすりながらピースサインをしている。
そう、この勝負に勝ったのは千波である。
猛烈なバタ足で泳ぐ碧も、千波の丁寧で可憐な泳ぎには敵わなかったらしい。
悔しがっている碧と杏実さん、そして笑顔を浮かべている千波に、先に屋台の方に行って何を食べるか決めておいて、と一言告げると、勝負に負けた俺は更衣室に置いてある鞄の中の財布を取りに戻った。
財布を手に屋台の方に行くと、何やら三人で盛り上がっていた。
「何かあった?」
千波と杏実さんの後ろから顔を覗かせ、そう聞くと、一瞬驚いた表情を見せた後、状況を説明してくれた。
「えっと、杏実ちゃんから聞いた話だと、ここの屋台はおにぎりみたいな軽食を売ってるって話だったけど今見たらお弁当みたいなのもいくつかあってどれにするか悩むねって話してたとこ」
なるほどね。視線を千波から屋台に移すと、確かに店頭にはコンビニ弁当程ではないものの、少し小さめの弁当がいくつか並んでいた。
唐揚げ、ハンバーグ、コロッケ……といった大きめのおかずが入っている物もある。確かにこれは悩ましいね。
しばらく店頭の弁当と睨めっこをして、結局俺はコロッケ弁当に決めた。白ご飯とコロッケ一つ、それに少しのサラダが入って400円。中々にお手頃価格。男子高校生にとっては、量は僅かに少ないようにも思えるが、この後も泳ぐと考えるとこれくらいが丁度良いだろう。
隣で悩んでいた三人も決めたらしく、店員さんに梅おにぎり、鮭おにぎり、唐揚げ弁当を注文していた。
財布係となった俺は四人分の昼食代を一旦払う。
そして念の為、碧と杏実さんにあとでちゃんと代金を払うように釘を刺しておく。
真面目な二人が昼食代を払わないで逃げるなんてことは想像出来ないが、お小遣い制の俺にとっては死活問題に繋がりかねないから一応ね。
弁当などを受け取る際に、店員さんから屋台の隣のベンチと机を使って食べるように指示されたのでそれに従い、近くの机に食べ物を置く。
二人がけのベンチが机を挟んで二つ。
碧が何も考えずに座ったのを見て、一瞬だけ躊躇った後、思い切りよく碧の隣に杏実さんが座る。その結果、俺と千波も隣同士に。
少し緊張しながら座ると、それぞれが自分の昼食を前にして、「いただきます」と手を合わせた。
おにぎりや弁当を頬張りながら、俺達はこの後何をするか、と話し合った。
「さっきまでと同じように流れるプールで遊んでるだけでもいいけど、他のことも出来るならそっちの方が楽しめるよね」
そう言う千波に、他の全員で全力で賛成する。
やれるのなら色んなことやりたいよね!予習不足と観察不足のおかげで何がやれるかは全く知らないから何も言えないが。
と、考えていると、それまで黙って唐揚げを口に運んでいた碧が口を開く。
「そういえば、さっき流れるプールにいる時にウォータースライダー見えたよ。あれ、やらない?」
その一言に、杏実さんが沸き立つ。
「いいね!それ!行こうよ!」
そんな風に口にして、気分が上がった様子で杏実さんが手を広げると、隣に座っていた碧にぶつかる。慌てて謝って、羞恥で顔を紅くしている。もはやお馴染みの光景だ。
これまで何度も似たような事を起こしているので、もう碧も杏実さんの抱いている恋心に気づいててもおかしくないと思うんだが……。案外自分に向けられた感情には気づけないのかもしれないな。
おっと、思考が逸れていた。今はウォータースライダーの話だ。普通に楽しそうだよね。絶叫系って程でも無いだろうし、きっとみんなで楽しめる。
「俺も賛成。あとは、千波が良いなら決定だね」
そう言い、千波に視線を向けると、コクンと頷き、「私も良いよ、楽しそうだし」と言ってくれた。
なので、昼ごはんの後に行く場所が決定した。
あとは昼ごはんを美味しくいただくだけ。雑談をしながら、残りのご飯を食べ、みんなで手を合わせる。
そして出たゴミを集めて、屋台のゴミ箱に持っていこうと立ち上がった時に、少しよろけて千波が俺の肩にぶつかる。
「大丈夫?ちょっと疲れてる?」
そう聞くと、「うん、ちょっとだけ疲れてるかも」と笑って答えた。その後少し千波の様子を見ていたが、再びよろけたりする事は無かったのでとりあえず頭の隅に置いておくくらいにして、そこまで気にかけないでおこう。千波も心配されるのは好きじゃないだろうし。
と、そんな一幕もあった後、俺達は四人で歩き、時にはプールの中を横切ってショートカットをして、ウォータースライダーに向かった。
冷静に考えると、運動がまあまあできる千波を相手にハンデを背負っての勝負は無謀だったし、水泳が得意な碧を相手に同じ条件で戦うのも勝ち目が薄かったな。
杏実さん相手なら……と思ったけど、意外と杏実さんも速かった。水泳の授業の時はそこまで速くなかったと思ったんだけどなぁ。
まあ、どれも言い訳で、実際のところは「俺のバタ足がヘボかった」で終了だ。
なんて考えている俺に向かって、千波がさっきまで激しく動かしていた足をさすりながらピースサインをしている。
そう、この勝負に勝ったのは千波である。
猛烈なバタ足で泳ぐ碧も、千波の丁寧で可憐な泳ぎには敵わなかったらしい。
悔しがっている碧と杏実さん、そして笑顔を浮かべている千波に、先に屋台の方に行って何を食べるか決めておいて、と一言告げると、勝負に負けた俺は更衣室に置いてある鞄の中の財布を取りに戻った。
財布を手に屋台の方に行くと、何やら三人で盛り上がっていた。
「何かあった?」
千波と杏実さんの後ろから顔を覗かせ、そう聞くと、一瞬驚いた表情を見せた後、状況を説明してくれた。
「えっと、杏実ちゃんから聞いた話だと、ここの屋台はおにぎりみたいな軽食を売ってるって話だったけど今見たらお弁当みたいなのもいくつかあってどれにするか悩むねって話してたとこ」
なるほどね。視線を千波から屋台に移すと、確かに店頭にはコンビニ弁当程ではないものの、少し小さめの弁当がいくつか並んでいた。
唐揚げ、ハンバーグ、コロッケ……といった大きめのおかずが入っている物もある。確かにこれは悩ましいね。
しばらく店頭の弁当と睨めっこをして、結局俺はコロッケ弁当に決めた。白ご飯とコロッケ一つ、それに少しのサラダが入って400円。中々にお手頃価格。男子高校生にとっては、量は僅かに少ないようにも思えるが、この後も泳ぐと考えるとこれくらいが丁度良いだろう。
隣で悩んでいた三人も決めたらしく、店員さんに梅おにぎり、鮭おにぎり、唐揚げ弁当を注文していた。
財布係となった俺は四人分の昼食代を一旦払う。
そして念の為、碧と杏実さんにあとでちゃんと代金を払うように釘を刺しておく。
真面目な二人が昼食代を払わないで逃げるなんてことは想像出来ないが、お小遣い制の俺にとっては死活問題に繋がりかねないから一応ね。
弁当などを受け取る際に、店員さんから屋台の隣のベンチと机を使って食べるように指示されたのでそれに従い、近くの机に食べ物を置く。
二人がけのベンチが机を挟んで二つ。
碧が何も考えずに座ったのを見て、一瞬だけ躊躇った後、思い切りよく碧の隣に杏実さんが座る。その結果、俺と千波も隣同士に。
少し緊張しながら座ると、それぞれが自分の昼食を前にして、「いただきます」と手を合わせた。
おにぎりや弁当を頬張りながら、俺達はこの後何をするか、と話し合った。
「さっきまでと同じように流れるプールで遊んでるだけでもいいけど、他のことも出来るならそっちの方が楽しめるよね」
そう言う千波に、他の全員で全力で賛成する。
やれるのなら色んなことやりたいよね!予習不足と観察不足のおかげで何がやれるかは全く知らないから何も言えないが。
と、考えていると、それまで黙って唐揚げを口に運んでいた碧が口を開く。
「そういえば、さっき流れるプールにいる時にウォータースライダー見えたよ。あれ、やらない?」
その一言に、杏実さんが沸き立つ。
「いいね!それ!行こうよ!」
そんな風に口にして、気分が上がった様子で杏実さんが手を広げると、隣に座っていた碧にぶつかる。慌てて謝って、羞恥で顔を紅くしている。もはやお馴染みの光景だ。
これまで何度も似たような事を起こしているので、もう碧も杏実さんの抱いている恋心に気づいててもおかしくないと思うんだが……。案外自分に向けられた感情には気づけないのかもしれないな。
おっと、思考が逸れていた。今はウォータースライダーの話だ。普通に楽しそうだよね。絶叫系って程でも無いだろうし、きっとみんなで楽しめる。
「俺も賛成。あとは、千波が良いなら決定だね」
そう言い、千波に視線を向けると、コクンと頷き、「私も良いよ、楽しそうだし」と言ってくれた。
なので、昼ごはんの後に行く場所が決定した。
あとは昼ごはんを美味しくいただくだけ。雑談をしながら、残りのご飯を食べ、みんなで手を合わせる。
そして出たゴミを集めて、屋台のゴミ箱に持っていこうと立ち上がった時に、少しよろけて千波が俺の肩にぶつかる。
「大丈夫?ちょっと疲れてる?」
そう聞くと、「うん、ちょっとだけ疲れてるかも」と笑って答えた。その後少し千波の様子を見ていたが、再びよろけたりする事は無かったのでとりあえず頭の隅に置いておくくらいにして、そこまで気にかけないでおこう。千波も心配されるのは好きじゃないだろうし。
と、そんな一幕もあった後、俺達は四人で歩き、時にはプールの中を横切ってショートカットをして、ウォータースライダーに向かった。
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