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第二章 夏
第四十四話 浮き輪
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入場口を通り、プールのあるエリアに入った俺達はとりあえずプールサイドにあるシャワーを浴びる。
これは子どもの頃から染み付いている習慣だが、どうやらシャワーを浴びる事で体の汚れを落とす、というプールに入る前のマナーに則ったものらしい。
夏の暑さで熱を帯びていた体に冷たいシャワーを浴びると、最初は体温と水の温度差で体がびっくりするが少し経つと心地良く感じるようになる。
俺の隣では冷たい水を浴びた杏実さんが「ひゃっ!冷たい!」と可愛らしい声を出している。
シャワーを浴び終えた俺達は最初はどこに行こうか、と適当に歩いていると、何かを見つけたらしい杏実さんが突然走り出す。そして、見つけた何かに辿り着く前にプールサイドで足を滑らせて転びかける。危なっかしくてハラハラする。
なんとか無事に目指していた場所に到着した杏実さんが大きな声で残りの三人に提案する。
「これ持って流れるプールに行こうよ~!」
そう言って杏実さんが指を指す先にあるのは───浮き輪。
なるほどね。浮き輪に乗って流れるプールに流されるの楽しいもんね。
先に浮き輪置き場に走って行った杏実さんに追いついた千波が浮き輪を受け取ると、次はさらに後に追いついた俺と碧に浮き輪を渡そうとするが俺達は2人揃ってそれを断る。
それに驚いた杏実さんが声を上げる。
「え?!二人とも浮き輪要らないの?みんなで流されようよ!」
そう言う杏実さんに苦笑しながら俺は言葉を返す。
「だって、みんなで浮き輪に乗ってる時に誰かが浮き輪ごとひっくり返ったら助けに行ける人がいなくなっちゃうでしょ。俺と碧は立ち泳ぎで流されるとするよ」
俺のその言葉に、納得したように千波が口を開く。
「確かにそうだね。そこまでは私も頭が回ってなかったよ。ありがとね、二人とも」
そんな冷静な千波とは対照的に、杏実さんは恥ずかしそうに顔を赤くしている。恐らくさっきの俺の発言に出てきた「浮き輪ごとひっくり返りそうな誰か」が普段からドジっ子属性を発揮している自分を指していると気づいたのだろう。
そんな杏実さんを見て笑いを堪えながら碧が杏実さんの要望通りに流れるプールの方に歩いていくので、慌てて俺達もそのあとを追った。
流れるプールに着くと、俺と碧は勢いのままに水に飛び込む。続いて女子二人が水面に浮き輪を浮かべると、浮き輪の穴にお尻を入れる形で座る。───否、座ったのは一人だけ、目測を誤ったらしい俺の『推し』は浮き輪の端に腰掛ける格好となり、激しく水飛沫を上げながら転倒する。
「ちょっ……杏実さん?! 大丈夫?」
慌てて俺と碧が泳いで杏実さんに近づき、千波も器用に浮き輪を動かして杏実さんの方に向かうと、水面から杏実さんの顔が飛び出す。
「ぷはっ………びっくりしたぁ」
俺達の心配を他所に気の抜けた声を発する杏実さんの姿を見て、俺達は思わず声を上げて笑う。
「もー、佑の言った通りじゃん。気をつけろよー、杏実」
碧からそんな風に声をかけられ、恥ずかしそうに笑みを浮かべながらもう一度杏実さんは浮き輪の上に乗り込もうと挑戦する。
杏実さんから見えないように、碧がそっと浮き輪を支えていたのも功を奏したのか、今度はひっくり返らずに浮き輪に座ることに成功した。
そうして無事に乗れたことに嬉しそうにしながら杏実さんが前に進み出したのを合図に、俺達も流れるプールの水流に身を委ねて前に進んだ。
水の流れに流されるまま、プールの冷たさを楽しむ。
時々、隣で浮き輪に乗りながら水をかけ合っている千波と杏実さんから流れ弾が飛んでくる。そんな時は俺も水を飛ばし返しては、二人からキャーキャー言われるという幸せな時間を過ごしていた。
碧もたまに杏実さんの方に参戦したり、水の流れに逆らってみたりと楽しそうにしている。
そんな風にみんなで流れ、流され、楽しんでいると、途中で小学生の一団と遭遇した。その一団はプールの流れに少し逆らいながら水をかけ合ったりして遊んでいるため、ただ流されているだけの俺達よりも前に進むペースが遅く、みるみるうちに俺達との距離が縮む。
仕方なく、俺は小学生の子に「ごめんね、ちょっとだけ通してね」と声をかけ、急いで少しの隙間を通る。
しかし、小学生が俺みたいな見知らぬ人の話を聞いてくれるはずもなく、俺が通った隙間は瞬く間に小学生に潰される。
時折俺が通ったような少しの隙間はできるが、当然ながら浮き輪を持っている杏実さんと千波は通れない。
これは困ったな、と思いながら水流に逆らって小学生の一団を抜けた所に留まっていると、何かあったのか、小学生がプールの端の方に集まり出した。
通るには絶好の機会!
それに気づいた俺以外の三人も今が好機とばかりに一気に体を動かし始める。
最初に碧が通り、続いて杏実さんが通る。そして、最後に千波が通ろうというタイミングで再び小学生が動きだす。
急に動いた小学生を避け切れず、千波が乗った浮き輪が勢いよく弾かれる。
ぶつかった衝撃で千波の体が浮き輪から投げ出される。その瞬間、俺の体が無意識に動いた。
千波の正面に入り、全身で千波の体を受け止める。
すると、当然ながら千波の柔らかい体が俺の体に密着する。その事に気づき、顔が熱くなってくるのを感じた俺は咄嗟に顔を千波に見られないように逸らした。
その時に一瞬だけ視線に入った千波の顔も、何故か俺と同じように赤くなっているような気がした。
これは子どもの頃から染み付いている習慣だが、どうやらシャワーを浴びる事で体の汚れを落とす、というプールに入る前のマナーに則ったものらしい。
夏の暑さで熱を帯びていた体に冷たいシャワーを浴びると、最初は体温と水の温度差で体がびっくりするが少し経つと心地良く感じるようになる。
俺の隣では冷たい水を浴びた杏実さんが「ひゃっ!冷たい!」と可愛らしい声を出している。
シャワーを浴び終えた俺達は最初はどこに行こうか、と適当に歩いていると、何かを見つけたらしい杏実さんが突然走り出す。そして、見つけた何かに辿り着く前にプールサイドで足を滑らせて転びかける。危なっかしくてハラハラする。
なんとか無事に目指していた場所に到着した杏実さんが大きな声で残りの三人に提案する。
「これ持って流れるプールに行こうよ~!」
そう言って杏実さんが指を指す先にあるのは───浮き輪。
なるほどね。浮き輪に乗って流れるプールに流されるの楽しいもんね。
先に浮き輪置き場に走って行った杏実さんに追いついた千波が浮き輪を受け取ると、次はさらに後に追いついた俺と碧に浮き輪を渡そうとするが俺達は2人揃ってそれを断る。
それに驚いた杏実さんが声を上げる。
「え?!二人とも浮き輪要らないの?みんなで流されようよ!」
そう言う杏実さんに苦笑しながら俺は言葉を返す。
「だって、みんなで浮き輪に乗ってる時に誰かが浮き輪ごとひっくり返ったら助けに行ける人がいなくなっちゃうでしょ。俺と碧は立ち泳ぎで流されるとするよ」
俺のその言葉に、納得したように千波が口を開く。
「確かにそうだね。そこまでは私も頭が回ってなかったよ。ありがとね、二人とも」
そんな冷静な千波とは対照的に、杏実さんは恥ずかしそうに顔を赤くしている。恐らくさっきの俺の発言に出てきた「浮き輪ごとひっくり返りそうな誰か」が普段からドジっ子属性を発揮している自分を指していると気づいたのだろう。
そんな杏実さんを見て笑いを堪えながら碧が杏実さんの要望通りに流れるプールの方に歩いていくので、慌てて俺達もそのあとを追った。
流れるプールに着くと、俺と碧は勢いのままに水に飛び込む。続いて女子二人が水面に浮き輪を浮かべると、浮き輪の穴にお尻を入れる形で座る。───否、座ったのは一人だけ、目測を誤ったらしい俺の『推し』は浮き輪の端に腰掛ける格好となり、激しく水飛沫を上げながら転倒する。
「ちょっ……杏実さん?! 大丈夫?」
慌てて俺と碧が泳いで杏実さんに近づき、千波も器用に浮き輪を動かして杏実さんの方に向かうと、水面から杏実さんの顔が飛び出す。
「ぷはっ………びっくりしたぁ」
俺達の心配を他所に気の抜けた声を発する杏実さんの姿を見て、俺達は思わず声を上げて笑う。
「もー、佑の言った通りじゃん。気をつけろよー、杏実」
碧からそんな風に声をかけられ、恥ずかしそうに笑みを浮かべながらもう一度杏実さんは浮き輪の上に乗り込もうと挑戦する。
杏実さんから見えないように、碧がそっと浮き輪を支えていたのも功を奏したのか、今度はひっくり返らずに浮き輪に座ることに成功した。
そうして無事に乗れたことに嬉しそうにしながら杏実さんが前に進み出したのを合図に、俺達も流れるプールの水流に身を委ねて前に進んだ。
水の流れに流されるまま、プールの冷たさを楽しむ。
時々、隣で浮き輪に乗りながら水をかけ合っている千波と杏実さんから流れ弾が飛んでくる。そんな時は俺も水を飛ばし返しては、二人からキャーキャー言われるという幸せな時間を過ごしていた。
碧もたまに杏実さんの方に参戦したり、水の流れに逆らってみたりと楽しそうにしている。
そんな風にみんなで流れ、流され、楽しんでいると、途中で小学生の一団と遭遇した。その一団はプールの流れに少し逆らいながら水をかけ合ったりして遊んでいるため、ただ流されているだけの俺達よりも前に進むペースが遅く、みるみるうちに俺達との距離が縮む。
仕方なく、俺は小学生の子に「ごめんね、ちょっとだけ通してね」と声をかけ、急いで少しの隙間を通る。
しかし、小学生が俺みたいな見知らぬ人の話を聞いてくれるはずもなく、俺が通った隙間は瞬く間に小学生に潰される。
時折俺が通ったような少しの隙間はできるが、当然ながら浮き輪を持っている杏実さんと千波は通れない。
これは困ったな、と思いながら水流に逆らって小学生の一団を抜けた所に留まっていると、何かあったのか、小学生がプールの端の方に集まり出した。
通るには絶好の機会!
それに気づいた俺以外の三人も今が好機とばかりに一気に体を動かし始める。
最初に碧が通り、続いて杏実さんが通る。そして、最後に千波が通ろうというタイミングで再び小学生が動きだす。
急に動いた小学生を避け切れず、千波が乗った浮き輪が勢いよく弾かれる。
ぶつかった衝撃で千波の体が浮き輪から投げ出される。その瞬間、俺の体が無意識に動いた。
千波の正面に入り、全身で千波の体を受け止める。
すると、当然ながら千波の柔らかい体が俺の体に密着する。その事に気づき、顔が熱くなってくるのを感じた俺は咄嗟に顔を千波に見られないように逸らした。
その時に一瞬だけ視線に入った千波の顔も、何故か俺と同じように赤くなっているような気がした。
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