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第二章 夏
第四十二話 それぞれの思惑
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午前六時、鳴った目覚まし時計を止めて起床した俺はとりあえず洗面台で顔を洗う。
そして朝食を済ますと、前日のうちに用意しておいた鞄の中にちゃんと水着などのプール用具一式が入っているのを確認した俺はそれを手に、駅へ───プールへと向かった。
プールに行くために俺が乗った電車には、一緒にプールに行く碧も乗っていた。
「佑も同じ電車か。気が合うな」
同じ電車に俺が乗っている事に気づいて碧が俺に声をかける。
「八時集合ならこの電車が丁度良いからな。集合の十五分前くらいにあっちに着ける。よほど余裕を持ちたい人ならもう一本前に乗るかもしれないけど」
俺がそう返すと、碧が「だよなー」と同意する。
その後、来れなくなってしまった友香梨さんの代わりに杏実さんは誰を誘ったんだろう、といったことを話しながら電車に揺られているうちに電車はプールの最寄駅に到着した。
駅に降り立った俺達は、スマホの地図アプリをたよりにプール施設へと足を運んだ。アプリのおかげで迷う事なく目的地に辿り着いた俺達は次は杏実さんと決めた集合場所の自動販売機を探す。
確か出入り口から少し離れた位置にあるんだったよな、どこだ…………あ、多分あれだ。
発見した集合場所だと思われる自動販売機に近づくと、その横に背が高めの女の子がスマホに目を落としながら立っていることに気づいた。
誰だろ、杏実さんが新しく誘った子か?
そう思いながら少し歩みを進めると、近づいてきた俺に気がついたその子がぱっと顔を上げる。───その顔を見た瞬間、俺の体は思わず固まっていた。
なんで千波がここに?!
こんな驚きの声も出なくなっている俺に、同じくらい驚いているように見える千波が声を溢す。
「え……佑?」
その一言を放った後に、俺の『想い人』の動きが停止した。そんな彼女に、驚きで硬直した体を無理矢理動かした俺が声をかける。
「え……?杏実さんが新しく誘った子って千波なの?!杏実さん………ちゃんと伝達してよ……」
千波がいるって知ってたらもうちょっとちゃんとプラン練ったのに~!あとで杏実さんには一言文句を言わないとな。
そんな事を内心で考えつつ、千波に俺の友人である碧の事を紹介したりして、杏実さんの到着を待った。
夏の早い日の出と共に起床した私───香山彩陽は、とりあえず鏡に向かい、時間をかけて丁寧にいつものポニーテールを作る。
なんといっても、今日は私の『推し』の千波ちゃんと一緒にプールに行く日。元の予定から変わって、杏実ちゃん達も一緒に行く事になったけど、それも含めて楽しみで仕方がない。
そんな気持ちの影響なのか、いつもよりも身だしなみの用意に時間がかかってしまい、気づけば電車の時間が迫っていた。この電車を逃して次の電車にすると、向こうに到着する時間が集合のギリギリになってしまう。
そう考えた私は急いで準備の仕上げをすると、早足で駅に向かった。
スマホで漫画を読みながら電車に揺られること十数分。私を乗せた電車がプール施設の最寄駅に到着した。
駅に降り立った私は、迷う事なく真っ直ぐにプール施設に向かって歩く。ちゃんと昨日のうちにスマホで経路を確認しといた甲斐があったな~。
プール施設の前に着いた私は、千波ちゃんに教えてもらった集合場所の自動販売機を探した。辺りを見渡しながら歩くと、それらしいものが見つかった。
さらに近づくと、その陰に千波ちゃんがいるのも見えた。千波ちゃんに向かって思わず駆け出しそうになった時に気づいてしまった。────その隣に『推し』の好きな人である与田君がいる事に。
与田君の隣に男の子がもう一人(恐らく杏実ちゃんの好きな人)いる事も把握した瞬間、私は理解してしまった。
この二人が杏実ちゃんが誘った子達なんだと。そして、私がいなければ千波ちゃんと杏実ちゃんはプールでダブルデートができるんだと。
私がいてもきっと二人は楽しんでくれるけど、二人とも私に頼りながら好きな人とやりとりをするだろうから、恋愛的な発展はきっと少なくなる。
そう思ってしまった私は、無意識のうちに千波ちゃんに嘘のメッセージを送っていた。
『ごめん、千波ちゃん。今日プール行けなくなっちゃった。朝から頭痛が酷くて……本当にごめんね』
これでいい。私はまた別の機会に二人とプールに行こう。今日はダブルデートで『推し』と友人の恋を発展させる事の方がずっと大事だ。きっとこんな機会は二度と来ない。だから、頑張れ二人とも。
心の内でそう唱えた私は、そっとその場を離れた。
楽しみのあまり、いつもより早く起きた朝。
私は碧君に見せても恥ずかしくないように丁寧に髪型を作り、持っている中で一番自分に似合っていると思う服で身を包むと準備万端。
時計を見ると、丁度良い時間。何事もなければ少し余裕を持ってプールに着くことができる電車がやってくる少し前。
不必要に走ったりして髪型が崩れたり、転んだりしてはいけないので、はしゃぎたい気持ちを抑えて普通に歩いて駅に向かった。
電車に乗っている間の空き時間に思い出すのは、数日前の千波ちゃんとの電話。
友香梨ちゃんが来れないと分かった時に、代わりの子の候補として一番に思い浮かんだのが千波ちゃんだった。だって、一緒に行く佑君は、千波ちゃんの好きな人なのだから。
思い切って電話をかけてみると、快くオーケーしてくれた。その時の嬉しさといったら、本当に最高だった。部活で一番仲の良い友達が来れることになったのだから当然かもしれないけど。
それに、彩陽ちゃんも一緒に来てくれるのも朗報だった。これなら私の行動のアドバイスを彩陽ちゃんから受けることができるから、佑君を千波ちゃんと行動させることもできるからね。ん?私?無理無理、碧君と二人きりで行動なんてしたら絶対なにかやらかしちゃうから誰かに付いてもらわないと。
そんな事を考えていたせいだろうか。気がつくと、思ったよりも時間が経っていた。
そろそろ到着かな?と思って電車内の電光掲示板を見た私は、さっきまで浮かれていた心が絶望に染まる事になる。
……………一駅過ぎてる…?
大慌てで次の駅で電車を降り、反対方向に戻る電車に乗り込む。
行き過ぎたのが一駅だけだったおかげで致命的な失態にはならなかったけど、少し余裕を持てる予定だった時間は消費されてしまった。
結局、プールの最寄駅に着いたのは集合時間のはずの午前八時。急げば二分ほどでプールに着けるはず。
そう思った私は、走らないようにしようという自分の中をきまりを破り、駆け足でプール方面に向かった。
そして、私が定めた集合場所に到着した午前八時二分過ぎ。
「遅いよ~、杏実。ま、プールが開くのはもう少し後だから全然大丈夫だけど」
笑顔が添えられた『想い人』からのそんな言葉と、一緒に笑っている佑君と千波ちゃんに私は迎えられた。
そして朝食を済ますと、前日のうちに用意しておいた鞄の中にちゃんと水着などのプール用具一式が入っているのを確認した俺はそれを手に、駅へ───プールへと向かった。
プールに行くために俺が乗った電車には、一緒にプールに行く碧も乗っていた。
「佑も同じ電車か。気が合うな」
同じ電車に俺が乗っている事に気づいて碧が俺に声をかける。
「八時集合ならこの電車が丁度良いからな。集合の十五分前くらいにあっちに着ける。よほど余裕を持ちたい人ならもう一本前に乗るかもしれないけど」
俺がそう返すと、碧が「だよなー」と同意する。
その後、来れなくなってしまった友香梨さんの代わりに杏実さんは誰を誘ったんだろう、といったことを話しながら電車に揺られているうちに電車はプールの最寄駅に到着した。
駅に降り立った俺達は、スマホの地図アプリをたよりにプール施設へと足を運んだ。アプリのおかげで迷う事なく目的地に辿り着いた俺達は次は杏実さんと決めた集合場所の自動販売機を探す。
確か出入り口から少し離れた位置にあるんだったよな、どこだ…………あ、多分あれだ。
発見した集合場所だと思われる自動販売機に近づくと、その横に背が高めの女の子がスマホに目を落としながら立っていることに気づいた。
誰だろ、杏実さんが新しく誘った子か?
そう思いながら少し歩みを進めると、近づいてきた俺に気がついたその子がぱっと顔を上げる。───その顔を見た瞬間、俺の体は思わず固まっていた。
なんで千波がここに?!
こんな驚きの声も出なくなっている俺に、同じくらい驚いているように見える千波が声を溢す。
「え……佑?」
その一言を放った後に、俺の『想い人』の動きが停止した。そんな彼女に、驚きで硬直した体を無理矢理動かした俺が声をかける。
「え……?杏実さんが新しく誘った子って千波なの?!杏実さん………ちゃんと伝達してよ……」
千波がいるって知ってたらもうちょっとちゃんとプラン練ったのに~!あとで杏実さんには一言文句を言わないとな。
そんな事を内心で考えつつ、千波に俺の友人である碧の事を紹介したりして、杏実さんの到着を待った。
夏の早い日の出と共に起床した私───香山彩陽は、とりあえず鏡に向かい、時間をかけて丁寧にいつものポニーテールを作る。
なんといっても、今日は私の『推し』の千波ちゃんと一緒にプールに行く日。元の予定から変わって、杏実ちゃん達も一緒に行く事になったけど、それも含めて楽しみで仕方がない。
そんな気持ちの影響なのか、いつもよりも身だしなみの用意に時間がかかってしまい、気づけば電車の時間が迫っていた。この電車を逃して次の電車にすると、向こうに到着する時間が集合のギリギリになってしまう。
そう考えた私は急いで準備の仕上げをすると、早足で駅に向かった。
スマホで漫画を読みながら電車に揺られること十数分。私を乗せた電車がプール施設の最寄駅に到着した。
駅に降り立った私は、迷う事なく真っ直ぐにプール施設に向かって歩く。ちゃんと昨日のうちにスマホで経路を確認しといた甲斐があったな~。
プール施設の前に着いた私は、千波ちゃんに教えてもらった集合場所の自動販売機を探した。辺りを見渡しながら歩くと、それらしいものが見つかった。
さらに近づくと、その陰に千波ちゃんがいるのも見えた。千波ちゃんに向かって思わず駆け出しそうになった時に気づいてしまった。────その隣に『推し』の好きな人である与田君がいる事に。
与田君の隣に男の子がもう一人(恐らく杏実ちゃんの好きな人)いる事も把握した瞬間、私は理解してしまった。
この二人が杏実ちゃんが誘った子達なんだと。そして、私がいなければ千波ちゃんと杏実ちゃんはプールでダブルデートができるんだと。
私がいてもきっと二人は楽しんでくれるけど、二人とも私に頼りながら好きな人とやりとりをするだろうから、恋愛的な発展はきっと少なくなる。
そう思ってしまった私は、無意識のうちに千波ちゃんに嘘のメッセージを送っていた。
『ごめん、千波ちゃん。今日プール行けなくなっちゃった。朝から頭痛が酷くて……本当にごめんね』
これでいい。私はまた別の機会に二人とプールに行こう。今日はダブルデートで『推し』と友人の恋を発展させる事の方がずっと大事だ。きっとこんな機会は二度と来ない。だから、頑張れ二人とも。
心の内でそう唱えた私は、そっとその場を離れた。
楽しみのあまり、いつもより早く起きた朝。
私は碧君に見せても恥ずかしくないように丁寧に髪型を作り、持っている中で一番自分に似合っていると思う服で身を包むと準備万端。
時計を見ると、丁度良い時間。何事もなければ少し余裕を持ってプールに着くことができる電車がやってくる少し前。
不必要に走ったりして髪型が崩れたり、転んだりしてはいけないので、はしゃぎたい気持ちを抑えて普通に歩いて駅に向かった。
電車に乗っている間の空き時間に思い出すのは、数日前の千波ちゃんとの電話。
友香梨ちゃんが来れないと分かった時に、代わりの子の候補として一番に思い浮かんだのが千波ちゃんだった。だって、一緒に行く佑君は、千波ちゃんの好きな人なのだから。
思い切って電話をかけてみると、快くオーケーしてくれた。その時の嬉しさといったら、本当に最高だった。部活で一番仲の良い友達が来れることになったのだから当然かもしれないけど。
それに、彩陽ちゃんも一緒に来てくれるのも朗報だった。これなら私の行動のアドバイスを彩陽ちゃんから受けることができるから、佑君を千波ちゃんと行動させることもできるからね。ん?私?無理無理、碧君と二人きりで行動なんてしたら絶対なにかやらかしちゃうから誰かに付いてもらわないと。
そんな事を考えていたせいだろうか。気がつくと、思ったよりも時間が経っていた。
そろそろ到着かな?と思って電車内の電光掲示板を見た私は、さっきまで浮かれていた心が絶望に染まる事になる。
……………一駅過ぎてる…?
大慌てで次の駅で電車を降り、反対方向に戻る電車に乗り込む。
行き過ぎたのが一駅だけだったおかげで致命的な失態にはならなかったけど、少し余裕を持てる予定だった時間は消費されてしまった。
結局、プールの最寄駅に着いたのは集合時間のはずの午前八時。急げば二分ほどでプールに着けるはず。
そう思った私は、走らないようにしようという自分の中をきまりを破り、駆け足でプール方面に向かった。
そして、私が定めた集合場所に到着した午前八時二分過ぎ。
「遅いよ~、杏実。ま、プールが開くのはもう少し後だから全然大丈夫だけど」
笑顔が添えられた『想い人』からのそんな言葉と、一緒に笑っている佑君と千波ちゃんに私は迎えられた。
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