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第二章 夏
第四十一話 午前八時プール前
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私が見つめるスマホの画面の「現在時刻」に映る七月二十七日の文字。
私は余計な事を考えないようにするために、それをじっと見つめたまま電車に揺られている。
どうして私は今こうしているのか。それは三日前にやってきた一本の電話を起因としている。
三日前。
「もしもし、千波ちゃん?ちょっと話があるんだけど…………」
彩陽ちゃんと一緒に水着を買った帰り道、唐突に杏実ちゃんから電話がかかってきた。杏実ちゃんとはメッセージのやりとりはよくするけど、電話が来たのは初めてだったので、私何かやっちゃったかな?なんてドキドキしながら返答をした。
「どうしたの、杏実ちゃん。わざわざ電話でってことは、何か大事な話?」
「大事な話って言うか、急ぎの用事!いきなりだけど、七月二十七日って空いてる?」
七月二十七日、と聞いた瞬間、その日は彩陽ちゃんと一緒にプールに行くかもしれない日だ、と思った。
彩陽ちゃんとの約束は一応八月一日という選択肢もあるけれど、その日に私か彩陽ちゃんの予定が知らないうちに入っていた、なんてことになった場合は、七月二十七日に行くしかない。なので、申し訳ないけど杏実ちゃんのお願いは断ろう。彩陽ちゃんが先約だったから仕方がない。
自分にそう言い聞かせ、杏実ちゃんに言葉を返す。
「ごめん、杏実ちゃん。その日は彩陽ちゃんと遊ぶ予定だから、空いてない」
その私の答えを聞くと、わかりやすくがっかりした雰囲気を漏らしながら、杏実ちゃんが答える。
「そっか………。うん、分かった!ありがとね!」
そう言って、電話を切ろうとする杏実ちゃんを私は慌てて止める。
杏実ちゃんが電話をかけてまで人を誘うなんて滅多にない。きっとそこまで大変な状況なんだろう。事情さえ教えてもらえれば、私が行くのは無理でも他の子を紹介するくらいならできるかもしれない。
そんな一心で、「七月二十七日、何かあるの?」と聞いてみた。すると杏実ちゃんの口から思いもよらぬ答えが返ってきた。
「友達何人かでプールに行く予定だったんだけど、一人来れなくなっちゃって。だけど、その子がいないとアンバランスになっちゃうから、代わりに来てくれる子を探してるんだよね」
プール?!だったら事情が変わってくる。だって、その日に私達もプールに行く予定だったんだから。
杏実ちゃんの言葉の中にはちょっとよく分からない所もあったけど、私と彩陽ちゃんが代わりになる事は出来るんじゃないか。
そう思った私は、思わず言葉を返していた。
「その日、私と彩陽ちゃんもプールに行く予定だったの。だから、私達二人で代わりが務まるなら行くよ!」
私のその言葉を受け、杏実ちゃんの嬉しそうな声が返ってきた。
「ありがと!!じゃあ七月二十七日にプールで!」
その言葉を最後に、電話が切れた。
勝手に杏実ちゃんと約束しちゃった事は彩陽ちゃんに謝らないと、なんて考えながらも、私の心は七月二十七日をとても楽しみにしていた。
時は戻って現在。
私の乗った電車はプールのある駅に到着した。
そして、私の浮き足だった体は自然とプール施設の方向へと歩き出した。
プール施設の前に到着した私は、杏実ちゃんに教えられた集合の目印を探す。確か……入口から少し離れた所にある自動販売機の横だったよね。
少し辺りを見渡すと、それらしいものが見つかったので、とりあえずその横に移動し、スマホで時間を確認する。画面に表示された時刻は午前七時半を少し回ったところ。集合は午前八時なので、大分余裕を持って来ることが出来て私はホッと胸を撫で下ろす。なにせ、何年か前に友達と現地集合で遊びに出かけた時は、想定よりも行きにくい場所だったため少し遅刻してしまったから。
あの時の教訓を活かす事ができてよかった。
十五分ほどスマホでニュースを読みながら他の子が来るのを待っていると、私の方に足音が近づいてくるのが聞こえた。
杏実ちゃんかな。それとも彩陽ちゃんか、杏実ちゃんが元々誘っていた子だろうか。そう思って振り向いた先にいたのは完全に予想外の人物で、思わず声が漏れてしまう。
「え……佑?」
そう声を漏らした私の前には、『想い人』が───佑が隣に友達を連れて立っていた。なんで?友達もいるし、たまたまプールに来る日付が重なって、私の横の自動販売機で飲み物を買いに来ただけ?でも杏実ちゃん、そういえば一緒に行く子が女子だなんて一言も言ってなかった……。
色んな考えが頭を巡り、最終的に完全に思考が停止して固まってしまった私に佑が話しかける。
「え……?杏実さんが新しく誘った子って千波なの?!杏実さん………ちゃんと伝達してよ……」
その佑の発言で、杏実ちゃんが誘っていた相手が佑だと分かり、私は佑の最後の一言に激しく同意する。
佑と一緒なら、もっと入念に準備したのに~!
準備不足を悔やんでももうどうにもならないので、残りのメンバーの助けに期待する。私一人で佑の相手をしていたら、途中で力尽きる未来しか見えない。
でも、佑の隣にいる男の子は、恐らく杏実ちゃんの意中の人である碧君。ということは、杏実ちゃんも自分の事で手一杯になるはず。
つまり、頼れるのは彩陽ちゃんただ一人!そう思った矢先に、無情なメッセージが私のスマホに届いた。
「ごめん、千波ちゃん。今日プール行けなくなっちゃった。朝から頭痛が酷くて……本当にごめんね」
それを読んだ瞬間、全身から力が抜けるのを感じた。もちろん彩陽ちゃんを責めることはできないけど、これで私は一人でどうにかやっていかないといけない事が確定した。
も~~~!私、どうすれば良いの~!?
そんな心の叫びと共に、スマホが午前八時を告げる。
───杏実ちゃんはまだ来ない。
私は余計な事を考えないようにするために、それをじっと見つめたまま電車に揺られている。
どうして私は今こうしているのか。それは三日前にやってきた一本の電話を起因としている。
三日前。
「もしもし、千波ちゃん?ちょっと話があるんだけど…………」
彩陽ちゃんと一緒に水着を買った帰り道、唐突に杏実ちゃんから電話がかかってきた。杏実ちゃんとはメッセージのやりとりはよくするけど、電話が来たのは初めてだったので、私何かやっちゃったかな?なんてドキドキしながら返答をした。
「どうしたの、杏実ちゃん。わざわざ電話でってことは、何か大事な話?」
「大事な話って言うか、急ぎの用事!いきなりだけど、七月二十七日って空いてる?」
七月二十七日、と聞いた瞬間、その日は彩陽ちゃんと一緒にプールに行くかもしれない日だ、と思った。
彩陽ちゃんとの約束は一応八月一日という選択肢もあるけれど、その日に私か彩陽ちゃんの予定が知らないうちに入っていた、なんてことになった場合は、七月二十七日に行くしかない。なので、申し訳ないけど杏実ちゃんのお願いは断ろう。彩陽ちゃんが先約だったから仕方がない。
自分にそう言い聞かせ、杏実ちゃんに言葉を返す。
「ごめん、杏実ちゃん。その日は彩陽ちゃんと遊ぶ予定だから、空いてない」
その私の答えを聞くと、わかりやすくがっかりした雰囲気を漏らしながら、杏実ちゃんが答える。
「そっか………。うん、分かった!ありがとね!」
そう言って、電話を切ろうとする杏実ちゃんを私は慌てて止める。
杏実ちゃんが電話をかけてまで人を誘うなんて滅多にない。きっとそこまで大変な状況なんだろう。事情さえ教えてもらえれば、私が行くのは無理でも他の子を紹介するくらいならできるかもしれない。
そんな一心で、「七月二十七日、何かあるの?」と聞いてみた。すると杏実ちゃんの口から思いもよらぬ答えが返ってきた。
「友達何人かでプールに行く予定だったんだけど、一人来れなくなっちゃって。だけど、その子がいないとアンバランスになっちゃうから、代わりに来てくれる子を探してるんだよね」
プール?!だったら事情が変わってくる。だって、その日に私達もプールに行く予定だったんだから。
杏実ちゃんの言葉の中にはちょっとよく分からない所もあったけど、私と彩陽ちゃんが代わりになる事は出来るんじゃないか。
そう思った私は、思わず言葉を返していた。
「その日、私と彩陽ちゃんもプールに行く予定だったの。だから、私達二人で代わりが務まるなら行くよ!」
私のその言葉を受け、杏実ちゃんの嬉しそうな声が返ってきた。
「ありがと!!じゃあ七月二十七日にプールで!」
その言葉を最後に、電話が切れた。
勝手に杏実ちゃんと約束しちゃった事は彩陽ちゃんに謝らないと、なんて考えながらも、私の心は七月二十七日をとても楽しみにしていた。
時は戻って現在。
私の乗った電車はプールのある駅に到着した。
そして、私の浮き足だった体は自然とプール施設の方向へと歩き出した。
プール施設の前に到着した私は、杏実ちゃんに教えられた集合の目印を探す。確か……入口から少し離れた所にある自動販売機の横だったよね。
少し辺りを見渡すと、それらしいものが見つかったので、とりあえずその横に移動し、スマホで時間を確認する。画面に表示された時刻は午前七時半を少し回ったところ。集合は午前八時なので、大分余裕を持って来ることが出来て私はホッと胸を撫で下ろす。なにせ、何年か前に友達と現地集合で遊びに出かけた時は、想定よりも行きにくい場所だったため少し遅刻してしまったから。
あの時の教訓を活かす事ができてよかった。
十五分ほどスマホでニュースを読みながら他の子が来るのを待っていると、私の方に足音が近づいてくるのが聞こえた。
杏実ちゃんかな。それとも彩陽ちゃんか、杏実ちゃんが元々誘っていた子だろうか。そう思って振り向いた先にいたのは完全に予想外の人物で、思わず声が漏れてしまう。
「え……佑?」
そう声を漏らした私の前には、『想い人』が───佑が隣に友達を連れて立っていた。なんで?友達もいるし、たまたまプールに来る日付が重なって、私の横の自動販売機で飲み物を買いに来ただけ?でも杏実ちゃん、そういえば一緒に行く子が女子だなんて一言も言ってなかった……。
色んな考えが頭を巡り、最終的に完全に思考が停止して固まってしまった私に佑が話しかける。
「え……?杏実さんが新しく誘った子って千波なの?!杏実さん………ちゃんと伝達してよ……」
その佑の発言で、杏実ちゃんが誘っていた相手が佑だと分かり、私は佑の最後の一言に激しく同意する。
佑と一緒なら、もっと入念に準備したのに~!
準備不足を悔やんでももうどうにもならないので、残りのメンバーの助けに期待する。私一人で佑の相手をしていたら、途中で力尽きる未来しか見えない。
でも、佑の隣にいる男の子は、恐らく杏実ちゃんの意中の人である碧君。ということは、杏実ちゃんも自分の事で手一杯になるはず。
つまり、頼れるのは彩陽ちゃんただ一人!そう思った矢先に、無情なメッセージが私のスマホに届いた。
「ごめん、千波ちゃん。今日プール行けなくなっちゃった。朝から頭痛が酷くて……本当にごめんね」
それを読んだ瞬間、全身から力が抜けるのを感じた。もちろん彩陽ちゃんを責めることはできないけど、これで私は一人でどうにかやっていかないといけない事が確定した。
も~~~!私、どうすれば良いの~!?
そんな心の叫びと共に、スマホが午前八時を告げる。
───杏実ちゃんはまだ来ない。
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