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第二章 夏
第三十八話 エアコン
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「さ、寒い……」
暑い暑い夏。
そんな季節の中でありえない言葉が俺の後ろの席の杏実さんの口から溢れる。
だが、その言葉を俺も否定することができない。なぜなら俺も少し、いや、かなり肌寒く感じているからだ。
原因は俺達の席の位置と、教室に設置されているエアコンにある。
俺達の通う北燈高校には各教室にエアコンが完備されている。そして、それが生み出す冷風は教室全体に広がるように設定してあるは・ず・だった。しかし、今この瞬間は何故かエアコンの中心前方に風が集中する設定となっているようだった。
そして、風の集まっているエアコンの中心前方にいるのは、誰なのか。
お察しの通り、俺と杏実さんだ。近くを見ても俺達以外に寒がっている人はいないようなので、やはり俺と杏実さんの二人だけが冷風の集中砲火を食らっているようだった。
「何で真夏にこんな目に遭わないといけないんだよ……」
あまりの寒さに思わず悪態が溢れると、「本当にそうだよ……」と杏実さんも同調する。
実際のところはそこまで冷たい風が出ている訳ではないのかもしれない。しかし、半袖を着ていて、ここ最近のうちに暑い事に慣れてしまった体にはかなり堪える。
後ろの席からは肌を擦る音が度々聞こえてくる。女子はスカートなので、夏でも長ズボンを履いている男子よりも寒い環境に置かれた時の被害は大きいのだろう。
この状況を打破する方法は俺達には存在しない。やっている授業がかなり重要な所なので先生に申し出るのも憚られるし、そもそもエアコンの管理は先生の管轄ではないはずだから申し出ても何も変わらない可能性が高い。
幸いにも、授業時間はあと十分。それだけ耐えれば何か手を打つ事も可能だ。まあ、手を打つって言ってもエアコンを管理している所に掛け合う事は出来ないはずなので、ロッカーから軽く羽織れる物を持ってくる(俺はそんな物持ってないが)とか、購買で暖かい飲み物を買うとかくらいだけど。
この授業が終わった後の行動なんかを考えていると、後ろの席から呟きが聞こえてきた。
「碧君……あったかそうな席でいいなぁ」
声に反応して振り返ると、杏実さんが窓寄りで日差しが少し注がれている碧の席をじっと見つめていた。
碧はそんな杏実さんに気づくことなく、手で顔を扇いでいる。うん、暖かいっていうか、ちょっと暑そうだね。俺と杏実さんの所に冷気が溜まってるから当然かもだけど。
授業の最後で碧を気にしていたおかげで、一時だけだが寒さを気にしないで過ごすことができた。この授業は冷気のせいで全く集中できなかったから後で碧にノートを見せてもらおう。
チャイムが授業終了を告げ、号令に合わせて挨拶をすると、ロッカーから薄手のカーディガンを取り出して羽織った杏実さんと共に暑い廊下に飛び出し、冷えた体を温めるように小走りで購買へと向かった。
暑くて暑い夏の日。
俺はエアコンが効いているはずの教室でなぜか暑さに苦しめられていた。というか、多分クラスの半分くらいの人が苦しめられていた。
「碧、なんか妙に暑くないか?」
そう言って、隣の席の大喜がこちらに視線を送ってくる。大喜の意見はもっともだと俺は思う。
何かがおかしいと思い、エアコンの方をじっと観察していると、その正面に位置している佑と杏実の様子に違和感を感じた。肌を手で擦るといったような、体を温めるような行動をしている。
もしや………エアコンの不具合であの辺に冷気溜まってる?
そんな疑問を抱えながら、手で顔を扇いで暑さを紛らわせつつ残り十分程の授業を受ける。暑いのはまあまあキツイが、今回の授業は重要な事がたくさん出てきているので汗が滲む手を動かし、ノートに文字を刻んでいく。
授業が終わり、佑と杏実が教室を飛び出していくのを見届けると、「なんか教室内暑くない?」なんて声が飛び交う中、空いている佑の席に足を運ぶ。すると、佑の席付近に行った時点でその辺りの空気の冷たさを感じた。
そして、佑の席に着いた時には思わず「さむっ」と声が溢れていた。こんな中で授業受けてたのか……。ちょっと同情するな。
エアコンをじっと見ると、やはり冷気を送り出す排気口が歪な程に中央に向いている。まだ午前なので、エアコンがこのままだと中々困る。何かこちらから対処出来ないだろうかと、掃除用具ロッカーから箒を取り出して、その柄で排気口をつついてみる。
すると、ウィーン……という機械音と共に排気口が動き出し、全体に冷気を送れる状態になった。
あれ?もしかして、誤作動で変な位置で固まってただけだったか。適当につついてみただけだったけど、なんか直ってラッキー。これで快適に授業を受けれる。
俺は自分のした事に満足しながらゆったりと自分の席についた。
暖かいお茶のペットボトルを抱えて佑と杏実が帰ってくるまであと三分。
暑い暑い夏。
そんな季節の中でありえない言葉が俺の後ろの席の杏実さんの口から溢れる。
だが、その言葉を俺も否定することができない。なぜなら俺も少し、いや、かなり肌寒く感じているからだ。
原因は俺達の席の位置と、教室に設置されているエアコンにある。
俺達の通う北燈高校には各教室にエアコンが完備されている。そして、それが生み出す冷風は教室全体に広がるように設定してあるは・ず・だった。しかし、今この瞬間は何故かエアコンの中心前方に風が集中する設定となっているようだった。
そして、風の集まっているエアコンの中心前方にいるのは、誰なのか。
お察しの通り、俺と杏実さんだ。近くを見ても俺達以外に寒がっている人はいないようなので、やはり俺と杏実さんの二人だけが冷風の集中砲火を食らっているようだった。
「何で真夏にこんな目に遭わないといけないんだよ……」
あまりの寒さに思わず悪態が溢れると、「本当にそうだよ……」と杏実さんも同調する。
実際のところはそこまで冷たい風が出ている訳ではないのかもしれない。しかし、半袖を着ていて、ここ最近のうちに暑い事に慣れてしまった体にはかなり堪える。
後ろの席からは肌を擦る音が度々聞こえてくる。女子はスカートなので、夏でも長ズボンを履いている男子よりも寒い環境に置かれた時の被害は大きいのだろう。
この状況を打破する方法は俺達には存在しない。やっている授業がかなり重要な所なので先生に申し出るのも憚られるし、そもそもエアコンの管理は先生の管轄ではないはずだから申し出ても何も変わらない可能性が高い。
幸いにも、授業時間はあと十分。それだけ耐えれば何か手を打つ事も可能だ。まあ、手を打つって言ってもエアコンを管理している所に掛け合う事は出来ないはずなので、ロッカーから軽く羽織れる物を持ってくる(俺はそんな物持ってないが)とか、購買で暖かい飲み物を買うとかくらいだけど。
この授業が終わった後の行動なんかを考えていると、後ろの席から呟きが聞こえてきた。
「碧君……あったかそうな席でいいなぁ」
声に反応して振り返ると、杏実さんが窓寄りで日差しが少し注がれている碧の席をじっと見つめていた。
碧はそんな杏実さんに気づくことなく、手で顔を扇いでいる。うん、暖かいっていうか、ちょっと暑そうだね。俺と杏実さんの所に冷気が溜まってるから当然かもだけど。
授業の最後で碧を気にしていたおかげで、一時だけだが寒さを気にしないで過ごすことができた。この授業は冷気のせいで全く集中できなかったから後で碧にノートを見せてもらおう。
チャイムが授業終了を告げ、号令に合わせて挨拶をすると、ロッカーから薄手のカーディガンを取り出して羽織った杏実さんと共に暑い廊下に飛び出し、冷えた体を温めるように小走りで購買へと向かった。
暑くて暑い夏の日。
俺はエアコンが効いているはずの教室でなぜか暑さに苦しめられていた。というか、多分クラスの半分くらいの人が苦しめられていた。
「碧、なんか妙に暑くないか?」
そう言って、隣の席の大喜がこちらに視線を送ってくる。大喜の意見はもっともだと俺は思う。
何かがおかしいと思い、エアコンの方をじっと観察していると、その正面に位置している佑と杏実の様子に違和感を感じた。肌を手で擦るといったような、体を温めるような行動をしている。
もしや………エアコンの不具合であの辺に冷気溜まってる?
そんな疑問を抱えながら、手で顔を扇いで暑さを紛らわせつつ残り十分程の授業を受ける。暑いのはまあまあキツイが、今回の授業は重要な事がたくさん出てきているので汗が滲む手を動かし、ノートに文字を刻んでいく。
授業が終わり、佑と杏実が教室を飛び出していくのを見届けると、「なんか教室内暑くない?」なんて声が飛び交う中、空いている佑の席に足を運ぶ。すると、佑の席付近に行った時点でその辺りの空気の冷たさを感じた。
そして、佑の席に着いた時には思わず「さむっ」と声が溢れていた。こんな中で授業受けてたのか……。ちょっと同情するな。
エアコンをじっと見ると、やはり冷気を送り出す排気口が歪な程に中央に向いている。まだ午前なので、エアコンがこのままだと中々困る。何かこちらから対処出来ないだろうかと、掃除用具ロッカーから箒を取り出して、その柄で排気口をつついてみる。
すると、ウィーン……という機械音と共に排気口が動き出し、全体に冷気を送れる状態になった。
あれ?もしかして、誤作動で変な位置で固まってただけだったか。適当につついてみただけだったけど、なんか直ってラッキー。これで快適に授業を受けれる。
俺は自分のした事に満足しながらゆったりと自分の席についた。
暖かいお茶のペットボトルを抱えて佑と杏実が帰ってくるまであと三分。
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