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第二章 夏
第三十四話 雷
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中々梅雨が終わらず、前日と変わらずしとしとと雨が降る今日の昼休み。
早々にお弁当を食べ終わり、碧達と雑談に勤しんでいた俺に、教室の外から名前を呼ぶ声が届く。
「佑~?ちょっと時間いいかしらぁ?」
喋り方で呼ぶ声の相手を断定しつつ、そちらに顔を向けると、案の定そこには新聞部の副部長であり、家の近さから幼い頃から関わりのある一つ年上の先輩───舞唯さんが立っていた。
顔立ちが整っていて、スタイルも良く、性格がややねじ曲がっている事を度外視すれば、まさしく完璧美女である彼女はクラス内のほとんどの視線を集め、彼女に呼ばれた俺も必然的に好奇の目を向けられる。
とりあえず「何の用ですか」と言いながら舞唯さんの方へと向かうと、その後ろから『想い人』もひょっこりと顔を出す。
え?なんで舞唯さんと千波が一緒に?と驚いていると、舞唯さんからさらに要望が飛んでくる。
「あ、三柴ちゃんと幾田君も呼んでくれる?」
なぜ舞唯さんが杏実さんと碧を呼ぶのだろう、と思いながらも二人を連れて舞唯さんの下へ向かうと、舞唯さんはただ一言、「付いてきて」とだけ俺達に言うと要件も告げずに歩き始めた。
一体何が目的なんだ?
舞唯さんに連れられてやってきたのは、誰もいない新聞部の部室。そこに着いてから、ようやく舞唯さんが口を開く。
「何も言わずに急に連れてきちゃってごめんねぇ。どうしても周りには言いづらい事情があってねぇ」
独自のペースで俺達に話しかける舞唯さんに、俺は率直に疑問をぶつける。
「言いづらい事情って?」
俺のその質問を受け、一瞬だけ言葉を詰まらせてから舞唯さんが答える。
「……不審者騒動についてよぉ」
舞唯さんのその言葉に、杏実さんと千波が頬を強張らせる。それもそのはず、あれがあったのはまだたった一月前で、そこで直接被害に遭ったのがこの二人なのだから。
そんな二人を守るように、俺と碧が口を挟む。
「新聞のトピックにするためにあの件を出すのは流石に承諾出来ませんよ」
「佑に同じく、いくら先輩とはいえ、あれを客引きに使わせるのはちょっと無理です」
強い意思を示す俺と碧を見て、舞唯さんが慌てて言葉を紡ぐ。
「あー、ちょっとわたしの言葉が足りなかったわねぇ。今回は、この間不審者騒動があったから、どういう状況で何が起こったかを新聞に載せて、注意喚起しろって先生からの指示があっただけだから安心してねぇ。もちろん匿名にするしぃ」
それを聞き、俺はホッと胸を撫で下ろした。よかった、あの時の事を根掘り葉掘り聞かれて、記事にされる訳ではないらしい。
他の三人に目を向けると、誰もが安心した表情を浮かべていた。
それを見た舞唯さんが再度口を開く。
「それじゃあ、まぁその辺の椅子に座って。あの時の事を、概要だけでも教えてもらえるかなぁ?」
向こうの事情も理解した今度は誰も口を挟まず、言われるがままに座ると、杏実さんが舞唯さんの質問に答え始めた。
杏実さんと舞唯さんの話は、始まってしまえば早いもので、途中で千波が言葉を付け加えながら滞りなく進み、俺と碧は一度も口を開いてない。
今考え直すと、俺と碧はきっと杏実さんと千波を安心させるために呼ばれたのだろうという事に気づいた。そんな舞唯さんからの配慮に心の中で感謝を告げておく。
杏実さんと舞唯さんの話はそのまますんなり終わり、先生から新聞部が頼まれていた仕事は無事に終了した。なので、用がなくなった俺達は自分達の教室へ戻ろうとすると、後ろから大人びた声が飛んでくる。
「せっかく昼休み終了まで時間があるんだからちょっと雑談でもしようよぉ~」
その誘いを断ると後々面倒な事になりそうだと直感的に感じた俺は体の向きを変えると、再び舞唯さんに向き合い、椅子に腰掛けた。他の三人も俺に続くと、さっきまでの暗い話から一気に雰囲気を変え、全員で明るく話を始めた。
全員での雑談は、普段の生活の事から学校での事、球技大会などのイベントの事など、様々な話題が飛び交う。その中で千波が、不審者騒動の時に俺に助けられたという事を口にすると、舞唯さんにニヤニヤした目で見られた。やめてほしい。
話が盛り上がっていき、全員のテンションが上がる中、急に空が瞬いた。続けて、数秒後にはゴロゴロゴロ、と音が響き、さっきまでささやかに降っていた雨が強まる。雷だ。
雷が鳴った瞬間、さっきまで楽しげな表情を浮かべて喋っていた俺の『推し』の顔が一気に暗くなる。そして、続けて鳴った雷にビクッと肩を跳ねさせる。
あれ?もしかして………。俺がそう思っていると、舞唯さんが俺の持った疑惑を口に出す。
「もしかしてぇ、三柴ちゃん、雷怖い?」
舞唯さんの言葉に、弱々しい声を震わせながら強がって杏実さんが反論する。
「そ…そんなこと、ない、です」
杏実さんがそう言った瞬間、再度空が白光を放つ。そして、今度は間髪入れずに、ピシャーン!!!と雷鳴が轟く。
それと同時に杏実さんが「ひゃぁ~!!」と悲鳴を上げ、青ざめさせながら近くにいた碧にしがみつく。
さらに、その瞬間、俺も右肩に衝撃を受けた。そちらを見ると、俺の右肩に千波が引っ付いていたのが目に入った。え?これどんな状況?
俺が混乱しているのに気づき、慌てて千波が俺から離れて、弁明しだす。
「あっ、いや、違うの!別に雷が怖いとかじゃなくて………」
言いながら、段々と千波の顔が朱に染まっていく。自分でもそれを感じているらしく、自分の手で顔を覆ってそれを隠そうとしている。いやいや、可愛すぎる。なんだこれ。
いますぐにでも千波に抱きついてしまいそうな衝動を抑えるため、碧と杏実さんの方に目を向けると、雷が怖いことがバレた事と、咄嗟に好きな人にしがみついてしまった事の二重で顔を真っ赤にしている杏実さんがいた。あっちもあっちで可愛いな、おい。
雷のせいで一時的に止まった雑談も舞唯さんが再開させると、時折鳴る雷に杏実さんが肩を震わせながらも楽しい会話を続けた。
それ自体はとても楽しい時間だったのだが、舞唯さんから放たれるニヤニヤとした視線だけが、どうにも気恥ずかしさを感じさせられた。
早々にお弁当を食べ終わり、碧達と雑談に勤しんでいた俺に、教室の外から名前を呼ぶ声が届く。
「佑~?ちょっと時間いいかしらぁ?」
喋り方で呼ぶ声の相手を断定しつつ、そちらに顔を向けると、案の定そこには新聞部の副部長であり、家の近さから幼い頃から関わりのある一つ年上の先輩───舞唯さんが立っていた。
顔立ちが整っていて、スタイルも良く、性格がややねじ曲がっている事を度外視すれば、まさしく完璧美女である彼女はクラス内のほとんどの視線を集め、彼女に呼ばれた俺も必然的に好奇の目を向けられる。
とりあえず「何の用ですか」と言いながら舞唯さんの方へと向かうと、その後ろから『想い人』もひょっこりと顔を出す。
え?なんで舞唯さんと千波が一緒に?と驚いていると、舞唯さんからさらに要望が飛んでくる。
「あ、三柴ちゃんと幾田君も呼んでくれる?」
なぜ舞唯さんが杏実さんと碧を呼ぶのだろう、と思いながらも二人を連れて舞唯さんの下へ向かうと、舞唯さんはただ一言、「付いてきて」とだけ俺達に言うと要件も告げずに歩き始めた。
一体何が目的なんだ?
舞唯さんに連れられてやってきたのは、誰もいない新聞部の部室。そこに着いてから、ようやく舞唯さんが口を開く。
「何も言わずに急に連れてきちゃってごめんねぇ。どうしても周りには言いづらい事情があってねぇ」
独自のペースで俺達に話しかける舞唯さんに、俺は率直に疑問をぶつける。
「言いづらい事情って?」
俺のその質問を受け、一瞬だけ言葉を詰まらせてから舞唯さんが答える。
「……不審者騒動についてよぉ」
舞唯さんのその言葉に、杏実さんと千波が頬を強張らせる。それもそのはず、あれがあったのはまだたった一月前で、そこで直接被害に遭ったのがこの二人なのだから。
そんな二人を守るように、俺と碧が口を挟む。
「新聞のトピックにするためにあの件を出すのは流石に承諾出来ませんよ」
「佑に同じく、いくら先輩とはいえ、あれを客引きに使わせるのはちょっと無理です」
強い意思を示す俺と碧を見て、舞唯さんが慌てて言葉を紡ぐ。
「あー、ちょっとわたしの言葉が足りなかったわねぇ。今回は、この間不審者騒動があったから、どういう状況で何が起こったかを新聞に載せて、注意喚起しろって先生からの指示があっただけだから安心してねぇ。もちろん匿名にするしぃ」
それを聞き、俺はホッと胸を撫で下ろした。よかった、あの時の事を根掘り葉掘り聞かれて、記事にされる訳ではないらしい。
他の三人に目を向けると、誰もが安心した表情を浮かべていた。
それを見た舞唯さんが再度口を開く。
「それじゃあ、まぁその辺の椅子に座って。あの時の事を、概要だけでも教えてもらえるかなぁ?」
向こうの事情も理解した今度は誰も口を挟まず、言われるがままに座ると、杏実さんが舞唯さんの質問に答え始めた。
杏実さんと舞唯さんの話は、始まってしまえば早いもので、途中で千波が言葉を付け加えながら滞りなく進み、俺と碧は一度も口を開いてない。
今考え直すと、俺と碧はきっと杏実さんと千波を安心させるために呼ばれたのだろうという事に気づいた。そんな舞唯さんからの配慮に心の中で感謝を告げておく。
杏実さんと舞唯さんの話はそのまますんなり終わり、先生から新聞部が頼まれていた仕事は無事に終了した。なので、用がなくなった俺達は自分達の教室へ戻ろうとすると、後ろから大人びた声が飛んでくる。
「せっかく昼休み終了まで時間があるんだからちょっと雑談でもしようよぉ~」
その誘いを断ると後々面倒な事になりそうだと直感的に感じた俺は体の向きを変えると、再び舞唯さんに向き合い、椅子に腰掛けた。他の三人も俺に続くと、さっきまでの暗い話から一気に雰囲気を変え、全員で明るく話を始めた。
全員での雑談は、普段の生活の事から学校での事、球技大会などのイベントの事など、様々な話題が飛び交う。その中で千波が、不審者騒動の時に俺に助けられたという事を口にすると、舞唯さんにニヤニヤした目で見られた。やめてほしい。
話が盛り上がっていき、全員のテンションが上がる中、急に空が瞬いた。続けて、数秒後にはゴロゴロゴロ、と音が響き、さっきまでささやかに降っていた雨が強まる。雷だ。
雷が鳴った瞬間、さっきまで楽しげな表情を浮かべて喋っていた俺の『推し』の顔が一気に暗くなる。そして、続けて鳴った雷にビクッと肩を跳ねさせる。
あれ?もしかして………。俺がそう思っていると、舞唯さんが俺の持った疑惑を口に出す。
「もしかしてぇ、三柴ちゃん、雷怖い?」
舞唯さんの言葉に、弱々しい声を震わせながら強がって杏実さんが反論する。
「そ…そんなこと、ない、です」
杏実さんがそう言った瞬間、再度空が白光を放つ。そして、今度は間髪入れずに、ピシャーン!!!と雷鳴が轟く。
それと同時に杏実さんが「ひゃぁ~!!」と悲鳴を上げ、青ざめさせながら近くにいた碧にしがみつく。
さらに、その瞬間、俺も右肩に衝撃を受けた。そちらを見ると、俺の右肩に千波が引っ付いていたのが目に入った。え?これどんな状況?
俺が混乱しているのに気づき、慌てて千波が俺から離れて、弁明しだす。
「あっ、いや、違うの!別に雷が怖いとかじゃなくて………」
言いながら、段々と千波の顔が朱に染まっていく。自分でもそれを感じているらしく、自分の手で顔を覆ってそれを隠そうとしている。いやいや、可愛すぎる。なんだこれ。
いますぐにでも千波に抱きついてしまいそうな衝動を抑えるため、碧と杏実さんの方に目を向けると、雷が怖いことがバレた事と、咄嗟に好きな人にしがみついてしまった事の二重で顔を真っ赤にしている杏実さんがいた。あっちもあっちで可愛いな、おい。
雷のせいで一時的に止まった雑談も舞唯さんが再開させると、時折鳴る雷に杏実さんが肩を震わせながらも楽しい会話を続けた。
それ自体はとても楽しい時間だったのだが、舞唯さんから放たれるニヤニヤとした視線だけが、どうにも気恥ずかしさを感じさせられた。
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