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第一章 春

第三十一話 テスト勝負 at 校門前

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 碧、杏実と歴史のテストで勝負をしてから数日後。
 受けたテストが全て返却された。
 そして、俺はおよそ二週間前に千波とした話を思い出しながら、校門の外で少しずつ落ちゆく太陽と共に千波を待っていた。



 およそ二週間前、図書館で勉強して、公園でおにぎりを食べた後の帰り道。

 テストについて雑談を交わしながら家へと向かっている最中に、千波が言った。

「今回も、やるの?」

 目的語の存在しないその一言。しかし、さっきまで話していた内容から千波が何を指してそれを言ったのかを俺は理解した。
 千波が言ったそれは俺と千波が中学の頃から二人で行なっている『テスト勝負』の事だ。中学の頃、成績がかなり良い方だった俺達は定期テストの度に各教科の点数と学年順位で勝負をしていた。
 今回千波が言ったのは、高校に入ってからもやるのか、という確認のためだろう。
 千波の質問に、すぐに答える。

「千波が嫌じゃないなら、やりたいな」
「じゃあ、今回もやろっか。私もモチベーション保てるし」

 千波がそう返してくれたおかげで、これからも千波とテスト勝負ができるようになった。これがあるおかげで定期テストを頑張れていると思う。

 そんなわけで、部活が終わった後に、テスト勝負のために会う約束をしたので、今は部活を終えた千波を待っているところだ。
 そして、千波を待っている間に思い出されるのは、中学の頃の記憶。
 俺も千波も中学の頃はかなり賢い部類として見られていたが、最後の詰めの質や努力量の差から俺と千波の間には埋められない差が存在していた。俺が千波に勝ったのなんか数あるテストの内のたった二回である。俺のテストの成績が良くて、今回こそ勝っただろうと思った時に限って千波の順位は俺の上を行くのだ。
 と、そんな事を思い出しながら千波を待っているが───中々千波がやってこない。いつも千波が部活を終えているはずの時間は過ぎているのだが、何かあったのかな?




 私は佑とテスト勝負をしに行くために、急いで部活の片付けをしていた。
 佑との勝負は楽しみである反面、少し不安でもある。
 今回のテストは、高校に入ってから最初のテストだったのでどの程度の問題が出るか分からなかったのと、シンプルに高校の学習内容が難しかったのもあって中学の頃と比べて全体的に点が低い気がする。なので佑に負けてしまうかもしれない、という不安に襲われる。
 私が佑と並んで歩くためにはテスト勝負で佑に負けるわけにはいかない。運動が意外とできて、コミュニケーション能力が高い、などの私が持ってない物を沢山持っている佑に唯一ちゃんと勝てるのが勉学面なのだから。
 そんな想いを抱えながら、いつもより早いペースで楽器を元の場所に戻し、楽譜を鞄にしまって───そうして普段と比べて早く片付けを済まし、早く帰れる、そう思った時だった。
 普段、帰る前に全体に話をする事なんかしない顧問が今日に限ってこんな事を言い出した。

「ちょっと今日は練習中に気になった事があるから一旦集まって話を聞いてください」

 え~、なんでこんなタイミングで~!?


 とりあえず大人しく先生の話を聞いているけど……正直何も頭に入ってこない。
 夏の大会に向けての熱量が足りない、とか、良い音が出ている人が少ない、とか言われても、今は考えられない。とにかく早く終わってほしいと言う考えに脳が支配されている。
 しかし、私の願いは届かず、先生の話が延々と続く。これは完全に佑を大分待たせちゃってるから申し訳ないなぁ、と思っていると部長が声を上げた。

「すいません、先生。この後予定が入っている子もいるので……。今日はこのくらいにしておいてくれませんか?」

 部長のこの言葉に、先生も納得したようで、では今日はこの辺にしておきます、それでは今日はこれで解散で、とだけ残して音楽室を出て行った。
 それを見届けた部長が先生の話を聞いていた体勢で固まっている私達にこう言った。

「みんな、ごめんね。ちょっと私達が先生の前でミス連発しちゃったせいでこんな事になっちゃって。先生も行ったし、もう帰って良いから。みんな、また次の部活で」

 部長の言葉に、なんでこのタイミングで先生が話をしたのかを納得し、それなら仕方がないな、と受け入れた私は急いで鞄を背負って佑の待つ校門へと向かった。




 中々千波が来ないのでスマホでネットニュースを見ていると、校舎の方から千波が息を切らしてやってきた。

「はぁはぁ、ごめんね、佑。待たせちゃって。部活が長引いちゃって」

 そう謝る千波に、大丈夫だよ、と伝える。そして、千波の切れた息が元に戻るのを待ってから切り出す。

「じゃあ、早速勝負、始めようか」

 俺の言葉に千波が頷く。そして、お互いに一教科ずつ口頭で点数を言い合う。

 現代国語──────三点勝ち。
 数学I───────二点負け。
 地理───────三点負け。
 ─────────
 ─────────
 そんなやりとりをしばらく続け、最後の教科の点数を言い合い終える。この時点で、どちらが何点勝っているかはもう分からなくなっているのが通例だ。
 今回も例に漏れず、分からなくなっているので、最後にテストの順位と合計点が載っている紙をお互いに見せ合う。

「「せーのっ!」」

 俺と千波の声が重なり、紙を出し合う。そして、点数と順位を見た俺と千波は揃って声を上げて笑った。

 テスト勝負は、点数差僅か一、一位差で千波に軍配が上がっていた。

「今回も負けちゃったな」

 俺がそう言うと、千波が

「あー、勝ててよかった」
と胸を撫で下ろす。
 そして、「次も勝負しようね」と再戦の約束をすると、二人で橙色になりかけている空の下を自転車で漕ぎ出した。
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