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第一章 春
第三十話 テスト勝負at 1-9
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テスト前一週間のひたすらに勉強する日々を経て、迎えたテスト当日。
絶対に赤点を逃れたいという生徒の想いや、意地でも満点は出さないぞ、という先生の想いなど、様々な想いが交差したりしなかったりする中、それまでの努力を基に問題を解いていった俺達は無事にテスト期間を終了した。
しかし、テストを終えたからと言って、これで終わりにならないのが定期テストというものだ。
テストを終えた翌日には、採点の早い先生からはもうテストが返却される。そして、その結果を受け、一喜一憂し、復習するまでがテストなのである。
テストの点数でクラスが沸き立つ中、俺と碧、そして杏実さんは歴史のテストを手に、一つの机を取り囲んでいた。なぜこんな事になっているのか。事の発端はテスト開始の三日前にまで遡る。
テスト期間というのに、呑気に休み時間に雑談をしていた俺と碧の下にやってきた杏実さんが少し言葉に詰まりながらも俺達に向かって言い放った。
「佑君、と……あ…碧君、テストで勝負、しようよ!」
それを受け、俺が返答する。
「別にいいけど……全教科合計は無しね。絶対杏実さんが勝つから」
恋愛となると一気に落第コースを辿りそうな杏実さんだが、勉学の面を見ればかなりの優等生。流石は推薦で北燈高校に入っただけはある。なので、全教科の合計では勝ち目が無いと踏んだ俺は一教科勝負を提案する。
俺の提案に対し、碧も杏実さんも首を縦に振ったため、勝負方法はこれで決定。ここから決めないといけないのは、どの教科で勝負するか。
と、思っていると、碧が呟く。
「俺、歴史がいいなー。得意だから」
碧の希望を断れるはずもなく、杏実さんがそれを了承する。俺も歴史は得意な方なので、文句は無い。
よし、これで決まり───と思ったら、今度は杏実さんが中々大胆な事を言い出す。
「じゃあ……一位だった人は残りの二人に何かお願いを聞いてもらえるって事にしない?そうすればもっとやる気出るかなって思うんだけど……どう?」
あーー、これ杏実さん本気で勝ちに来て、碧に何かしてもらおうって企んでるな。まあ、別に文句はないので普通に了承する。碧も親指と人差し指で丸を作り、OKサインを出しているので決定だ。
上手く約束を取り付け、浮かれた足で自分の席に戻る杏実さんを追いかけ、碧に聞かれないように杏実さんに耳打ちする。
「杏実さん……勝ったら何をお願いしようと思ってるの?私と付き合って、とか?」
俺の言葉を聞き、杏実さんが一気に紅く染まる。
「さ、流石にそこまでの事はお願いしないよ?!……というかできない………。私が勝ったら…三人で遊びに行こうって言おうかなとは思ってたけど……」
「三人で?碧と二人でじゃなくていいの?」
「碧君と二人きりなんて……緊張で死ぬか、会話が弾まなくて気まずくて死ぬかのどっちかだよ……。佑君もいてくれなきゃだめ」
「あ……そ、そうか……」
ただ一人の『想い人』がいるとはいえ、可愛い子、というか『推し』に「いてくれないとだめ」なんて言われると流石に照れるな。それを誤魔化すついでに、舜太達を呼び寄せ、早速歴史の問題の出し合いを始めた。
そんな出来事を経て、現在。
碧の机に集まった俺と杏実さん、そして席の主である碧は絶妙な緊張感の中、点数が見えないようにしたテストを握り締め、向き合っていた。
その静寂を杏実さんが打ち破る。
「じゃあ、せーので見せ合うよ……」
杏実さんのその声に俺と碧は無言で頷く。
それを見た杏実さんが覚悟を決めた表情で声を上げる。
「よーし、せーのっ!」
杏実さんの掛け声に合わせ、全員が歴史のテストの答案用紙を机の上にバッと出す。
俺は88点、杏実さんは94点、そして碧は──────98点。
予想以上の碧の点数に俺と杏実さんは呆気に取られる。
おいおい、碧、一問ミスかよ。というか、88点ってまあまあの高得点のはずなんだが、最下位って……。
俺の隣では、94点というこちらもかなりの高得点を叩き出した杏実さんがガックリと肩を落としている。
まあ、普通に考えれば94点ってだけで勝ちを確信するよな。碧の点数が高すぎる。
そんな俺達を見て、碧が勝ち誇って言う。
「だから言っただろ~?歴・史・得・意・だって」
そう言って碧がドヤ顔を向けてくるが、もしや、と思い、隣をちらと見ると案の定、杏実さんはそれに見惚れていた。俺に見られている事に気づいた杏実さんはまたも顔を紅くして、碧から目を逸らした。
そして、碧に向き直った杏実さんは碧に尋ねる。
「じゃあ、勝った碧君は私達に何かお願い出来るけど………何にする………?」
あ、そうだった。勝ったらお願いを聞いて貰えるってルールは全員に適用されるんだった。杏実さんが勝つだろうって思ってたから杏実さん専用ルールだと勘違いしていた。
だけど……碧が何をお願いするかの予想が全くできない。なんか無茶なこと言ってこないといいな。
そう思ってジッと見つめていると、碧が口を開く。そして───
「じゃあ、購買でパンと飲み物買ってきて、今から」
と言った。
え?と困惑する俺と杏実さん。本当にそれで良いのか?もうちょっと贅沢してもいいと思うぞ?
同じ事を杏実さんも思ったのか、実際に声に出して碧に訊く。
「本当に、それだけでいいの?」
その問いに対し、碧がすぐに返す。
「そ・れ・が・いいの。今日、俺弁当忘れたから」
ええ……と困惑する俺と杏実さんを見て、碧はさらに「あ、パンは何でもいいけど、飲み物はコーヒー系でよろしく」と注文をすると、手で早く行くように促す。
なので、俺と杏実さんは財布を手に取り、購買へとパシられ───もとい、勝者に捧げる昼食を買いに出かけるのだった。
絶対に赤点を逃れたいという生徒の想いや、意地でも満点は出さないぞ、という先生の想いなど、様々な想いが交差したりしなかったりする中、それまでの努力を基に問題を解いていった俺達は無事にテスト期間を終了した。
しかし、テストを終えたからと言って、これで終わりにならないのが定期テストというものだ。
テストを終えた翌日には、採点の早い先生からはもうテストが返却される。そして、その結果を受け、一喜一憂し、復習するまでがテストなのである。
テストの点数でクラスが沸き立つ中、俺と碧、そして杏実さんは歴史のテストを手に、一つの机を取り囲んでいた。なぜこんな事になっているのか。事の発端はテスト開始の三日前にまで遡る。
テスト期間というのに、呑気に休み時間に雑談をしていた俺と碧の下にやってきた杏実さんが少し言葉に詰まりながらも俺達に向かって言い放った。
「佑君、と……あ…碧君、テストで勝負、しようよ!」
それを受け、俺が返答する。
「別にいいけど……全教科合計は無しね。絶対杏実さんが勝つから」
恋愛となると一気に落第コースを辿りそうな杏実さんだが、勉学の面を見ればかなりの優等生。流石は推薦で北燈高校に入っただけはある。なので、全教科の合計では勝ち目が無いと踏んだ俺は一教科勝負を提案する。
俺の提案に対し、碧も杏実さんも首を縦に振ったため、勝負方法はこれで決定。ここから決めないといけないのは、どの教科で勝負するか。
と、思っていると、碧が呟く。
「俺、歴史がいいなー。得意だから」
碧の希望を断れるはずもなく、杏実さんがそれを了承する。俺も歴史は得意な方なので、文句は無い。
よし、これで決まり───と思ったら、今度は杏実さんが中々大胆な事を言い出す。
「じゃあ……一位だった人は残りの二人に何かお願いを聞いてもらえるって事にしない?そうすればもっとやる気出るかなって思うんだけど……どう?」
あーー、これ杏実さん本気で勝ちに来て、碧に何かしてもらおうって企んでるな。まあ、別に文句はないので普通に了承する。碧も親指と人差し指で丸を作り、OKサインを出しているので決定だ。
上手く約束を取り付け、浮かれた足で自分の席に戻る杏実さんを追いかけ、碧に聞かれないように杏実さんに耳打ちする。
「杏実さん……勝ったら何をお願いしようと思ってるの?私と付き合って、とか?」
俺の言葉を聞き、杏実さんが一気に紅く染まる。
「さ、流石にそこまでの事はお願いしないよ?!……というかできない………。私が勝ったら…三人で遊びに行こうって言おうかなとは思ってたけど……」
「三人で?碧と二人でじゃなくていいの?」
「碧君と二人きりなんて……緊張で死ぬか、会話が弾まなくて気まずくて死ぬかのどっちかだよ……。佑君もいてくれなきゃだめ」
「あ……そ、そうか……」
ただ一人の『想い人』がいるとはいえ、可愛い子、というか『推し』に「いてくれないとだめ」なんて言われると流石に照れるな。それを誤魔化すついでに、舜太達を呼び寄せ、早速歴史の問題の出し合いを始めた。
そんな出来事を経て、現在。
碧の机に集まった俺と杏実さん、そして席の主である碧は絶妙な緊張感の中、点数が見えないようにしたテストを握り締め、向き合っていた。
その静寂を杏実さんが打ち破る。
「じゃあ、せーので見せ合うよ……」
杏実さんのその声に俺と碧は無言で頷く。
それを見た杏実さんが覚悟を決めた表情で声を上げる。
「よーし、せーのっ!」
杏実さんの掛け声に合わせ、全員が歴史のテストの答案用紙を机の上にバッと出す。
俺は88点、杏実さんは94点、そして碧は──────98点。
予想以上の碧の点数に俺と杏実さんは呆気に取られる。
おいおい、碧、一問ミスかよ。というか、88点ってまあまあの高得点のはずなんだが、最下位って……。
俺の隣では、94点というこちらもかなりの高得点を叩き出した杏実さんがガックリと肩を落としている。
まあ、普通に考えれば94点ってだけで勝ちを確信するよな。碧の点数が高すぎる。
そんな俺達を見て、碧が勝ち誇って言う。
「だから言っただろ~?歴・史・得・意・だって」
そう言って碧がドヤ顔を向けてくるが、もしや、と思い、隣をちらと見ると案の定、杏実さんはそれに見惚れていた。俺に見られている事に気づいた杏実さんはまたも顔を紅くして、碧から目を逸らした。
そして、碧に向き直った杏実さんは碧に尋ねる。
「じゃあ、勝った碧君は私達に何かお願い出来るけど………何にする………?」
あ、そうだった。勝ったらお願いを聞いて貰えるってルールは全員に適用されるんだった。杏実さんが勝つだろうって思ってたから杏実さん専用ルールだと勘違いしていた。
だけど……碧が何をお願いするかの予想が全くできない。なんか無茶なこと言ってこないといいな。
そう思ってジッと見つめていると、碧が口を開く。そして───
「じゃあ、購買でパンと飲み物買ってきて、今から」
と言った。
え?と困惑する俺と杏実さん。本当にそれで良いのか?もうちょっと贅沢してもいいと思うぞ?
同じ事を杏実さんも思ったのか、実際に声に出して碧に訊く。
「本当に、それだけでいいの?」
その問いに対し、碧がすぐに返す。
「そ・れ・が・いいの。今日、俺弁当忘れたから」
ええ……と困惑する俺と杏実さんを見て、碧はさらに「あ、パンは何でもいいけど、飲み物はコーヒー系でよろしく」と注文をすると、手で早く行くように促す。
なので、俺と杏実さんは財布を手に取り、購買へとパシられ───もとい、勝者に捧げる昼食を買いに出かけるのだった。
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