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第一章 春

第二十八話 テスト勉強

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 『杏実さん応援前線』が発足し、杏実さんが前のように碧と話せるように手伝っていこう、と意気込んだ俺達だが、数日後にはそれを阻まれようとしていた。
 テスト期間の開始によって。

 全国的には、一、二、三学期の三期制を採用する学校が多い中、前期、後期で構成される二期制が採用されている北燈高校ではテストは年四回、六月、九月、十二月、二月に行なわれる。今回は今年になってから一度目、高校に入学してから初のテスト、前期中間テストである。

 北燈高校はそれなりに偏差値が高く、勉強に重きを置いている学校なので、流石にここで下手は打てないから勉強をしっかりしなければならない。杏実さんのためにも、碧と関わる時間を増やしたかった俺達にとっては、このタイミングでのテストは大きな痛手だ。
 まあ、学生の本分を全うする時が来たということで受け入れておこう。
 とりあえず、来週から始まるテストに向けて勉強せねば。



 放課後、教室も勉強用に開放されていたが、俺は家に帰った。一人の方が集中できるから、というのもあるが、教室は他の子が勉強せずに、ただだべっているだけと言うのもざらにあるからだ。

 普段から一応課題は進めてあったため、テスト前の課題に時間を取られる、という事は無さそうだったが、逆に言えば普段は課題のワークくらいしか勉強していなかったため、そこまで習った内容が定着していない。
 俺はとりあえず苦手教科である数学のワークを開き、問題を時間をかけながら解き始めた。

 それから一時間ほど経った頃。机に置いておいたスマホが何かを着信して震える。勉強中にスマホを見ると集中が切れてしまう、と思い、無視しようと思ったが、もし大事な連絡だったら困るかもしれないと思い直しスマホを開く。通知が来ているのは、メッセージアプリのRIME。それの通知欄の一番上に来ているのは……可愛らしい動物のアイコン。杏実さんだ。

 何かあったのだろうか、とメッセージを見るとそこにはこう書かれていた。

『教室に残って勉強してたら周りの子がちょっとずつ帰っていって……今、碧君と二人きりなんだけど………どうすればいいの…………』

 えええ……。どうすればって、頑張れとしか言いようがない。けど、この間杏実さんの手伝いがしたい、って宣言したのだから、何もしないわけにはいかない。それに、これは杏実さんと碧の距離を縮めるチャンス。これを逃すことはしてはいけない。
 ここで杏実さんに推奨すべきは、碧に分からない問題の解き方を聞く、というものなのだが、杏実さんは普通に頭が良いため、これは効果を期待できない。
 となると、現実的に実行出来そうなものは……。

『じゃあ、ここ難しいよね~、みたいな感じでちょっと話しかけたら?』

 俺が送ったその提案に、すぐに既読が付き、『頑張ってみる』と返事が届いた。うーん、少しは力になれたのかな?その場にいないと、手伝える事が少ないし、そもそも何が最適かを見極めるのも大変だ。
 そんな事を思いつつ、俺も勉強を再開した。



 翌日、登校するとすぐに杏実さんに話しかけられる。内容はもちろん、昨日の放課後に何があったかだ。

「あのね、佑君からアドバイス貰ってから、その通りに話しかけてみたの。そしたら、その問題以前に基礎問題の方が分かんないから教えてって碧君に言われて、頑張って教えたんだけど……多分話してるうちにしどろもどろになってたからちゃんと教えれたか不安で………」

 おっ、しどろもどろになっちゃったとはいえ、ちゃんと話せたのか。これは中々良い傾向だ。杏実さんに賞賛を送りつつ、俺が言葉を返す。

「ちゃんと教えれたか不安なら本人に聞けば早い。俺、ちょっとあいつに聞いてくるよ」

 そう杏実さんに伝えた俺は、碧の下に向かった。


 碧は珍しく朝早くから登校し、自分の席で数学のワークを解いていた。そんな碧に後ろから声をかける。

「おはよ、碧。珍しく今日は朝早いな。しかも朝から勉強とか偉すぎだろ」
「あ、おはよう、佑。いやー、昨日杏実さんに放課後に教えて貰った範囲を復習したくてね」

 あれ、俺が聞きたい事をあっちから自発的に言ってきたぞ。ということは、杏実さんの教えは違和感なく伝わったのかな。そう思って、何も知らないふりをしながら碧に尋ねる。

「へぇ、杏実さんに数学教えて貰ったんだ。教えるの上手かった?」

 それに碧が明るい声を伴わせて答える。

「ああ、杏実の教え方はめっちゃ良かったよ!まあ、俺の最初の理解度が酷かっただけのような気もするけど、杏実さんにちょっとコツを教えて貰ったらサラサラ解けるようになったよ」

 その答えを聞き、じゃあ俺も杏実さんに数学教えて貰おうかな、という俺の呟きから二言、三言交わすと、俺は杏実さんの方へと戻った。

 戻ってきた俺を見て、不安そうな顔をしながら杏実さんがゆっくりと尋ねる。

「なんて……言ってた?」

 杏実さんの問いに、敢えて少し溜めを作ってから答える。

「───良かった、って。教えるの上手かったからすぐ理解できたって言ってたよ」

 俺のその答えに、杏実さんの表情が安堵に染まる。

「よかっ……たぁ……!」

 思わず声が溢れた杏実さんに、声をかける。

「多分、さ、杏実さんは自分の中では上手く話せなかったって感じてるだけで、実際はちゃんと話せてるんだよ。だから、自信持ってよ」

 それのその言葉に、実感がなさそうに杏実さんが呟く。

「そう……なのかな………だったら、いいな」

 まだ自信が湧かず、不安そうな杏実さんに向かって大きく頷くと、最近新たに仲間に加わった二人───舜太と直紀が教室に入ってきた。
 俺と杏実さんが話しているのを見つけた二人はそれぞれ何やら口にしながらこっちに近づいてくる。

「おはよー、二人ともー。なんかあったのか~?」
「せっかく『応援前線』を組んだんだから僕らを除け者にしないでくれよー」

 そんな二人に、俺と杏実さんは昨日の夕方から今日の朝、ついさっきまでに何があったかを話すのだった。
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