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第一章 春
第二十話 打ち上げとメロンソーダ
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球技大会を終えた夕方、グラウンドの整備やらで部活動が休みとなった学生が選ぶことと言えば、やはり打ち上げ一択である。
うちのクラスもそれに違わず、誰かが「打ち上げしよーよー」と口にした瞬間、全員の思考がそれに支配され、その話題で持ちきりになる。
どこに行こうか、なんて話で盛り上がる中、大喜が宣言する。
「やっぱラーメン屋だろ!」
「いや、野球部のテンションで会場決めるなよ!男子だけなら別にそれでいいけど、今回は女子もいるからな!」
すかさず俺がツッコミを入れると、クラスがドッと笑いに包まれる。
「打ち上げでラーメン屋とか斬新すぎだろ~」
「普通にカラオケとかで良くね?」
周りからも半笑いで大喜の案は棄却されて、すぐさま代替案が出される。その「カラオケ」という単語に周囲の女子が反応し、賛同する。別に俺も異論はなかったので放っておくと、結局打ち上げの会場はカラオケで決まった。
こういうノリが苦手な子や、普通に用事があった子などが抜け、二十人強でカラオケにやってきた。
受付で部屋は空いているかなどを確認すると、全員で入れる大部屋は埋まってしまっているが、二部屋に分かれれば入れるとのことだった。
なので、その場でざっくりと二グループに分かれてみて、クラス長の指示を受けて少し調整を入れると、大分いい感じになった。
俺は杏実さんや碧、大喜などの仲の良い人と上手く同じグループになることができたのでとりあえず一安心。あまり関わったことの無い子も混ざっているが、そういうのもこういった場の醍醐味だろう。
店員の案内に従い、部屋に入るとすぐに大喜が曲を選択して歌い始める。いやいや、早いって。歌い出すのは乾杯とかの後じゃないのか?
とりあえず一人で盛り上がっている大喜は置いておき、残りのみんなでドリンクバーを取りに行った。
ドリンクバーに全員で並び、順番に飲み物をグラスに入れていく。俺は少し悩んだ末にコーラを、碧はメロンソーダを選んだ。その後に待っていたのは杏実さんの番。ドリンクバーのタッチパネルを前に長考している。それを見た碧が杏実さんに声をかける。
「杏実、だいぶ悩んでるみたいだね。みんなもう行っちゃったよ?」
「あ、ごめんね、すぐ決めるから。碧君は………メロンソーダにしたの?私、炭酸飲んだことなくて……炭酸って美味しい?」
「俺は好きだよ。でも、苦手って人も結構いるし、無理はしなくてもいいと思うけど」
「悩んでもキリがない気がするから、私もメロンソーダにしてみよっかな」
そのやりとりを見て、あ、杏実さん、碧と同じ物飲みたいんだな、と思っていると碧と杏実さんが戻ってきたので、三人で部屋へと向かった。
部屋に戻ると、他のみんなは俺達が帰ってくるのを待っていてくれたようで、俺達が来た瞬間に乾杯の音頭が取られる。音頭を取るのはさっきまで歌っていたと思われる大喜。
「よし、じゃあ球技大会総合二位を祝して~、乾杯!!」
それに合わせてみんなでグラスを合わせる。そんな中、音頭を取ったものの最初から歌っていたせいで1人だけ合わせるグラスがない大喜がとても面白かった。
乾杯を済ませると、各自が適度に歌を歌いつつ、球技大会の感想会。今回は好成績を残せたため、ほとんどの人が良かった点などについて話している中、杏実さんは一人、悲観的な意見を述べている。
「最後の試合……最初に私が当てられなければ展開は違ったかもしれないのに……はぁ」
というのも、決勝戦で件のドッヂボール最強女子の最初の被害者となったのが杏実さんだったのだ。開始と同時に放たれたボールに杏実さんは右足を捉えられ、あえなくアウトとなってしまい、そこから次々と味方が撃破されていき、全滅となってしまった。
でも、あれは本当に相手が悪かっただけだったから気に病む必要はないと思う。
周りのみんなも同じ意見のようで、「あれは仕方ないから気にしないでよ~」といった声がかけられている。
それを受け、杏実さんは「うん、そうだよね、せっかく総合で良い結果が取れたんだから楽しまないと!」と切り替えた様子で満タンのグラスを勢いよく傾ける。そして、緑に光る液体が杏実さんの喉に流れ込むと急に杏実さんが咽せる。
それを見た周囲が心配すると、すぐに杏実さんが言葉を発する。
「けほっ、だ、大丈夫……。初めて炭酸飲んだからびっくりしただけ。………炭酸ってこんなに舌が痺れるんだ……」
そう涙目で言った杏実さんを見て、碧が腹を抱えながら笑いを堪えている。
そして、杏実さんは恐る恐るもう一度メロンソーダに口をつけて……やはり軽く咽せる。それを見た碧がとうとう笑いを堪えきれなくなり、吹き出した。
「あ~!碧君笑った!ひどい~」
そう顔を少し赤くしながら抗議の声を上げる杏実さんだが、この場ではそこまで緊張せずに碧と関われている気がするな、と思った。球技大会を通じて少しはあの二人は距離が縮まったのだろうか。そして俺も、千波との距離を縮めることができただろうか。
そんな感慨に耽っているうちに楽しい時間は過ぎていく。
それにしても……杏実さん、炭酸苦手なの可愛いな。
うちのクラスもそれに違わず、誰かが「打ち上げしよーよー」と口にした瞬間、全員の思考がそれに支配され、その話題で持ちきりになる。
どこに行こうか、なんて話で盛り上がる中、大喜が宣言する。
「やっぱラーメン屋だろ!」
「いや、野球部のテンションで会場決めるなよ!男子だけなら別にそれでいいけど、今回は女子もいるからな!」
すかさず俺がツッコミを入れると、クラスがドッと笑いに包まれる。
「打ち上げでラーメン屋とか斬新すぎだろ~」
「普通にカラオケとかで良くね?」
周りからも半笑いで大喜の案は棄却されて、すぐさま代替案が出される。その「カラオケ」という単語に周囲の女子が反応し、賛同する。別に俺も異論はなかったので放っておくと、結局打ち上げの会場はカラオケで決まった。
こういうノリが苦手な子や、普通に用事があった子などが抜け、二十人強でカラオケにやってきた。
受付で部屋は空いているかなどを確認すると、全員で入れる大部屋は埋まってしまっているが、二部屋に分かれれば入れるとのことだった。
なので、その場でざっくりと二グループに分かれてみて、クラス長の指示を受けて少し調整を入れると、大分いい感じになった。
俺は杏実さんや碧、大喜などの仲の良い人と上手く同じグループになることができたのでとりあえず一安心。あまり関わったことの無い子も混ざっているが、そういうのもこういった場の醍醐味だろう。
店員の案内に従い、部屋に入るとすぐに大喜が曲を選択して歌い始める。いやいや、早いって。歌い出すのは乾杯とかの後じゃないのか?
とりあえず一人で盛り上がっている大喜は置いておき、残りのみんなでドリンクバーを取りに行った。
ドリンクバーに全員で並び、順番に飲み物をグラスに入れていく。俺は少し悩んだ末にコーラを、碧はメロンソーダを選んだ。その後に待っていたのは杏実さんの番。ドリンクバーのタッチパネルを前に長考している。それを見た碧が杏実さんに声をかける。
「杏実、だいぶ悩んでるみたいだね。みんなもう行っちゃったよ?」
「あ、ごめんね、すぐ決めるから。碧君は………メロンソーダにしたの?私、炭酸飲んだことなくて……炭酸って美味しい?」
「俺は好きだよ。でも、苦手って人も結構いるし、無理はしなくてもいいと思うけど」
「悩んでもキリがない気がするから、私もメロンソーダにしてみよっかな」
そのやりとりを見て、あ、杏実さん、碧と同じ物飲みたいんだな、と思っていると碧と杏実さんが戻ってきたので、三人で部屋へと向かった。
部屋に戻ると、他のみんなは俺達が帰ってくるのを待っていてくれたようで、俺達が来た瞬間に乾杯の音頭が取られる。音頭を取るのはさっきまで歌っていたと思われる大喜。
「よし、じゃあ球技大会総合二位を祝して~、乾杯!!」
それに合わせてみんなでグラスを合わせる。そんな中、音頭を取ったものの最初から歌っていたせいで1人だけ合わせるグラスがない大喜がとても面白かった。
乾杯を済ませると、各自が適度に歌を歌いつつ、球技大会の感想会。今回は好成績を残せたため、ほとんどの人が良かった点などについて話している中、杏実さんは一人、悲観的な意見を述べている。
「最後の試合……最初に私が当てられなければ展開は違ったかもしれないのに……はぁ」
というのも、決勝戦で件のドッヂボール最強女子の最初の被害者となったのが杏実さんだったのだ。開始と同時に放たれたボールに杏実さんは右足を捉えられ、あえなくアウトとなってしまい、そこから次々と味方が撃破されていき、全滅となってしまった。
でも、あれは本当に相手が悪かっただけだったから気に病む必要はないと思う。
周りのみんなも同じ意見のようで、「あれは仕方ないから気にしないでよ~」といった声がかけられている。
それを受け、杏実さんは「うん、そうだよね、せっかく総合で良い結果が取れたんだから楽しまないと!」と切り替えた様子で満タンのグラスを勢いよく傾ける。そして、緑に光る液体が杏実さんの喉に流れ込むと急に杏実さんが咽せる。
それを見た周囲が心配すると、すぐに杏実さんが言葉を発する。
「けほっ、だ、大丈夫……。初めて炭酸飲んだからびっくりしただけ。………炭酸ってこんなに舌が痺れるんだ……」
そう涙目で言った杏実さんを見て、碧が腹を抱えながら笑いを堪えている。
そして、杏実さんは恐る恐るもう一度メロンソーダに口をつけて……やはり軽く咽せる。それを見た碧がとうとう笑いを堪えきれなくなり、吹き出した。
「あ~!碧君笑った!ひどい~」
そう顔を少し赤くしながら抗議の声を上げる杏実さんだが、この場ではそこまで緊張せずに碧と関われている気がするな、と思った。球技大会を通じて少しはあの二人は距離が縮まったのだろうか。そして俺も、千波との距離を縮めることができただろうか。
そんな感慨に耽っているうちに楽しい時間は過ぎていく。
それにしても……杏実さん、炭酸苦手なの可愛いな。
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