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第一章 春

第十九話 前期球技大会終幕

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 最初のプレーで警戒されてしまったのか、試合中盤、俺は相手から明らかに避けられていた。舐めてかかった相手に返り討ちに遭う、なんて中々最悪な出来事だっただろうから当然と言えば当然か。
 そんなわけで、俺の方にはほとんどボールが飛んでこなくなった。代わりに他のメンバーが狙われるようになったため、何となく申し訳なさを感じる。

 試合をしているうちに分かったのだが、二組は全体的にレベルが高い。九組が大喜を主砲として戦っているのに対し、二組は色んな人が相手を撃破していく。
 こちらが大喜で相手を撃破すると、あちらはすぐさま誰かしらが九組のメンバーに当てて同数としてくる。
 そんな均衡状態は唐突に崩れ去ろうとする。

 大喜が投げたボールが相手にキャッチされた。今までには大喜のボールが回避されることはあっても受け止められることはなかった。なので、俺も少し油断していたのだろう。
 大喜がボールを投げた瞬間、俺は自陣と相手陣の境目付近に位置していた。なので、大喜のボールをキャッチした相手からは格好の餌食だ。俺を避けていた相手でも流石に俺を狙う。慌ててそこから距離を取ろうとするが、相手が腕を振りかぶる方が早い。万事休すか。

 相手が近距離からボールを放った瞬間、これは撃破されただろう、と思った。
 こういった球技は苦手ではないとは言ったが、それはあくまでも平均的にこなせるというだけで特段得意というわけではない。なのでこの近距離から放たれたボールをキャッチできる能力なんて持ち合わせていない。

 ああ、油断してやられるなんてダサい姿は千波に見せたくなかったなぁ。
 そんな俺の思いが、記憶の中からこの状況をどうにかしのぐ方法を探して俺をフラッシュバックさせる。普通こういうのって命の危機とかに起こるんじゃないのか?そんなことを考えながらなすがままにされていると、世界がゆっくりと進んでいるような気がする。

 唐突だが、このドッヂボールにはボールが当たってもアウトにならない場合がある。
 それはボールが首よりも上の部位に当たった場合。そして───当たったボールを味方がノーバウンドでキャッチした場合。

 それを踏まえた上で、俺の脳が導き出した答えは───。

 直前の碧のバレーの試合で碧が見せたスーパーレシーブだった。
 咄嗟に腕を前に出し、腰を落とし、バレーのレシーブの構えで相手のボールを迎えうつ。そのままボールが腕に当たると、俺は体ごと後ろに倒れるが、ボールは俺に当たった位置のほぼ真上に高く上がった。
 倒れ込みながら、俺が声をあげる。

「誰かっ!あのボールをキャッチして!」

 その声から俺の意図を汲み取り、大喜がいち早く反応してボールの真下に入り込むと、しっかりとボールを掴む。
 全員がそのまま審判へと視線を向けると、ノーバウンドでキャッチしたため当然ノーアウトの判定が下る。
 すると、一気に会場が盛り上がる。

「うお!今何やった?」
「バレーのレシーブ!?」
「そういうのアリなのか!」
「すげぇ機転だな」
「スーパープレーすぎるでしょ!」

 今この瞬間は、敵味方問わず、誰もが今のプレーに感嘆の声を送っている。
 まさか自分のプレーでこんなに沸かせることがあるなんて思っても見なかったので少し驚いている。
 そうだ、今のプレーは千波の目にはどう映っただろうか。そう思い、千波の方に目をやると、彼女は友人と共にこちらに拍手を送ってくれていた。
 この試合、千波に良いところを結構見せれてるぞ!?

 結局、この試合は俺の良いプレーもあって男子チームが残員五対四で終了し、引き分けだった女子の結果も含めて九組が勝利を飾った。

 試合が終わると、碧が俺に話しかけにきた。普段ならここに杏実さんも付いてきそうなものだが、今は大喜に話しかけられているため、ここにはいない。

「お疲れ、佑。勝利おめでとう」
「お、ありがと」
「それにしてもあのプレー……もしかしなくても俺の真似した?」

 「あのプレー」というのはまあ、間違いなく相手のボールをバレーのレシーブ風に受けたやつだろう。

「あ、わかった?ヤバいって思った瞬間に浮かんだのがお前のレシーブでさ、やってみたら案外できた」
「咄嗟に浮かんだのが俺ってのがちょっと嬉しいわ」

 そんな会話をして笑いあっていると、横から一人の少女が俺に声をかける。

「あ…佑。おめでとう。うん、すごかった!」

 ぱっとそちらを向くと、そこには俺の想い人が立っていた。

「あ、千波。ありがとう」

 そう返すと、千波はさっきの試合の俺や全体がどうだったかなどを事細かに嬉しそうに話してくれた。そして最後にこう言った。

「それにしても、佑ってあんなに運動得意だったっけ。苦手ではないのは知ってたけど」
「今回のあれは本当にたまたま調子がよかっただけだよ」

 本当はここで「千波が見てくれてたから頑張った」なんて言えたらいいのだが、そんな度胸はない。

 そんなことを内心で思っていると、アナウンスが響いた。

『一年生ドッヂボール決勝の準備が整いましたので開始したいと思います。出場する生徒は集まってください』

「あ、もう試合の時間来ちゃった。じゃ、行ってくる」
「佑、頑張って。私も見にいくね」

 好きな子にこんなこと言われて張り切らないやつがどこにいるのだ。よし、やってやろう!そんな心持ちで試合に向かった。のだが。俺のそのやる気は発散されることはなかった。



 決勝は三組との試合だった。コイントスの結果、今回は女子の試合からとなったが……相手が強すぎた。試合開始から九組の女子メンバーは次々と撃破されていくと、一試合目の俺たちが相手にしたのと同じように今度はこちらが開始数分で全滅させられてしまい、俺が試合をする前に敗北が決まってしまった。

 試合後に聞いた話によると、三組の女子には中学時代にドッヂボールで全国大会に行った猛者がいたらしく、この試合の前も何回か相手を全滅負けに追い込んでいたらしい。

 そんなわけで決勝は負けてしまったが、それでも準優勝だ。十分いい結果だな。
 そう思っていると、体育館からうちのクラスの子が叫びながら走ってくる。

「三位決定戦勝った~!!!バスケ三位だ!!」

 どうやらドッヂボールと同時開催していたバスケは準決勝で負けたが、その後の三位決定戦で勝つことができたらしい。女子バレーも上の方まで残ってたはず。と、なると……総合順位も結構いいんじゃない?



 しばらくすると、閉会式を行うという旨のアナウンスがされたため、開会式と同じようにグラウンドにクラス毎に並んでいた。

 全クラスが並び、静かになると校長先生が手短に講評を述べる。そして、その後にやってきたのはお待ちかねの総合順位発表だ。

「一年生の順位を発表する。三位……四組!二位……九組!一位……三組!!おめでとう!!」

 うちのクラスの名前が呼ばれた瞬間、九組の全員が拳を天に突き上げる。男子数名は叫んでいたりもする。
 俺も周りに負けじと渾身のガッツポーズ。高校に入ってから初めての行事でここまでいい結果を出せるとは!最高!!
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