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第一章 春

第十四話 前期球技大会③

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 ドッヂボールの二戦目もしっかり勝利で終え、それと同時に女子バレーの勝利の報せも届き、クラスが沸く中、杏実さんは積極的に碧に話しかけに行っていた。

「勝ったよ!碧君!応援ありがと!」
「ん、おめでと。杏実もいい動きしてたよ。もうすぐ俺も試合だし、頑張らないとな~」
「私も頑張って応援するよ!」
「ありがと。じゃあ勝ってくる」

 そんな一言で会話を終えると、仲間と共にバレーコートへと向かっていく。それを見送った杏実さんが小走りでこちらに向かってくる。

「佑君!私、碧君としっかり話せた!」

 嬉々としてそう報告する杏実さんに微笑ましい視線を向けながら言葉を返す。

「うん、普通に喋れてたね。頑張ってたと思うよ。やれるなら普段からあんな感じでいきなよ」

 そう賞賛の言葉を杏実さんに伝えると、その場に杏実さんがへたりこんでしまった。

「大丈夫?熱中症?救護テント行く?」

 急いでそう声をかけるとすぐに返答がやってくる。

「いや、大丈夫………。碧君と話すのに緊張しすぎて酸欠気味なだけ。ちょっと休んでから碧君の試合見に行くから先に行ってて」
「じゃあ先に行くけど………。無理はダメだよ、ちゃんと休みなよ」

 杏実さんにそう声をかけ、心配だったので念の為近くにいた女子に杏実さんのことを伝えて一緒にいてくれるように頼むと俺は一人バレーコートへと向かった。



 碧のいるはずのバレーコートに向かう最中に、通ったコートでは女子バレーを行っていた。通り過ぎる際に横目で見てみると、得点板に「二組対八組」の文字が見える。
(二組ってことは………)
 そう思い、足を止めてしっかりと見ると、見つけることができた。───千波のことを。

 女子の中では身長が高い……というか、なんなら背が低めの俺より少し背が高い千波はバレーにいるだろうと思っていた。バスケも身長が活かせる競技ではあるものの、バスケではなくバレーを選んでいると予想していた。あの子はバスケには良い思い出がないはずだから。

 碧の試合も始まってしまうから行かなければならないが、俺の応援なんかなくても碧は勝つと信じて千波の方を少し見ていくことにした。

 千波は恵まれた身長を武器にいい動きを見せていた。相手のスパイクのブロックに入り、ボールを相手コートに叩き落としたかと思うと、今度は逆に高い打点からのスパイクを決める。
 千波のその活躍にはこっそり見ておこうなんて考えていた俺も思わず拍手をしてしまった。
 その活躍もあってか、二組は勝利まであと一点にまで迫っていた。そして、サーブを打つポジションには千波。千波の細くしなやかな腕から放たれたボールは相手の腕をすり抜け───そのままコートのラインを大きく超えた。ちょっと力みすぎてたのだろうか。
 しかしその後のプレーでしっかり得点を取り、勝利を決めていた。チームメイトと勝利の喜びを分かち合い、笑顔となっている千波にこちらまで癒される。

 わざわざ試合を見にきていたことを千波に知られるのはなんとなく恥ずかしいので足早にその場を去って碧の元へと向かった。



 私───杉山千波は頑張っていた。
 多くの男子が女子に良いところを見せたいと口々に言っているが、女子はそれを口に出していないだけで思いは同じだった。それは私も例外ではなく、佑に良いところを見せたいと願っていた。

 試合の前に観客席の辺りに目を向けたが、佑は見当たらなかった。まあ、佑も自分のクラスの応援があるだろうし、仕方がない。公的に佑からの声援が貰える杏実ちゃんが少し羨ましい。
 試合前はそんな想いを抱えていたけど、試合が始まってからはそれも忘れてプレーをしていた。

 何度もブロックし、スパイクを決め、チームに貢献していると、周りから拍手が湧いて、もっとやれるような気がしてくる。
 そんな時、スパイクを決めた時にふと拍手のする方に少しだけ目を向けると、求めていた人の姿が見えた。
 その瞬間、体の中に活力が漲ってくる。
 あと一点で勝利、サーブは私───アピールの絶好の機会。
 そう思うと急に緊張で手が震える。普段通りやればいい、それで問題ない。そう考えたけど、佑が見ているとやはり力が入ってしまい………ボールはコートの外へと行ってしまった。うう…………。

 それでも次のプレーでしっかり相手のサーブをレシーブすると、味方がしっかり点を決めてくれたおかげで勝利を手にすることができた。
 観客席の方を見ると、もう佑はいなかった。応援しにきてくれたことにお礼を言いたかったのだけど。

 あとで私も佑の試合見に行こう。あれ?でも私、佑がなんの競技に出るか知らない………。
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