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第一章 春

第八話 眼鏡

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 俺は眼鏡をかけている。それはもう、小学生の頃から。ゆえに、進級や進学をして、仲の良い人が適度に増えてくると毎度のように聞かれる。
「佑ってどれくらい目悪いの?いつからかけてるの?」と。

 今回それを聞いてきたのは碧だった。もう四月も終わろうという時期なので例年と比べるとその質問をされるのは少し遅めだ。

 そして、その質問に毎度こう答える。

「俺の視力?0.1は余裕で下回ってるよ。かけ始めたのは小学………二年の時くらいかな?昔のことすぎてあんま詳しくは覚えてないんだよな」
「0.1未満……?流石に悪すぎじゃね?え、じゃあこれ見える?」

 そう言うと碧は少し距離を取り、そこで何本か指を立て、「何本立ってるでしょー?」と聞いてくる。
 出た、眼鏡かけてる人あるあるナンバーワン。目が良い人は目が悪い人に見えてる世界を知らないから、目が悪いとはどういう事かがよくわからないらしく、その結果少し離れた所から指の数を聞いてくるのだ。
 ちなみに、目が悪くても輪郭はぼんやりと見えてるので数メートル離れた程度なら何本指が立ってるかはわかる。

「立ってる指?二本。それくらいわかるんだよな~、いくら目が悪くても」
「へぇ、これくらいはわかるんだ。じゃあ逆に何が見えない?」
「俺は近視だから近くのものはある程度見える。見えないのは遠くにある細かいもの。例えば………あそこの時計とか」
「時計?時計はでかいから見えるんじゃないの?」
「あ、ごめん。言い方が分かりにくかった。時計自体があるのは分かるけど、時計が読めないってこと。だから、今何時でしょ~?とか聞かれると答えれない」

 そう答えると、ふーん、と呟きながら時計を眺めている。どうやらイマイチよく分かってなさそうだ。

「じゃ、一回俺の眼鏡かけてみるか?めっちゃ度が強いから多分世界が歪むぞ」
「まじで?じゃあちょっと借りる」
 
 そう言い俺の眼鏡を手に取り、かけた碧は眼鏡の度に負けてふらつく。その後どうにか体勢を立て直すと顔を歪めて眼鏡を外す。

「え?佑、こんなのかけて生活してんの?やばくない?」
「それをかけてないとよく見えないほど俺の目は悪いってこと」

 そして、眼鏡を返してもらい、辺りを見渡すと杏実さんがこちらをガン見していることに気づいた。そっちに視線を向けると、杏実さんはあからさまに目を逸らす。それでもずっと見つめてやると、観念したようにこちらに寄ってくる。

「そんなにこっち見てどうしたよ?」
「いや~、楽しそうに話してるな~って」
「本音は?」
「眼鏡かけた碧君カッコいい………」
「本人に直接伝えてあげなよ」
「私にそんなことができるとでも?!」
「いけるいける、頑張れ」

 すると、杏実さんはそっと碧の方に近づくと小声で碧に話しかける。

「碧君……眼鏡似合うね」

 流石に「カッコいい」とは直接伝えれなかったみたいだ。うん、流石に恥ずかしいよね。
 賞賛を受けた碧も少し照れているのか小声で「ありがと」と言っている。

 その後、碧がこんなことを言い出す。
「そうだ、杏実も佑の眼鏡かけてみてよ。マジでヤバいから」
「え~、本当に?じゃあ……佑君、眼鏡ちょっと貸してくれる?」
「あ、いいよ。はい」

 そうして俺の眼鏡を杏実さんに手渡して、杏実さんが眼鏡をかけるのだが一瞬で分かった。めっちゃ眼鏡似合ってる。可愛すぎないか?今俺は眼鏡外してるから近くの杏実さんの顔も若干ぼやけてはいるけど、それでも可愛いって分かる。
 普段の杏実さんは明るくて柔らかいイメージだけど、眼鏡をかけると一気に知的な感じになる。こ、、これがギャップ萌え……!
 そう思っていると、予想通りではあるが眼鏡の度に負けた杏実さんが碧と同じようにふらつく。しかし碧と違ったのは体勢を立て直さなかったこと。ふらついたままバランスを崩し、倒れる。───碧の肩に。
 碧の肩に倒れたと気づいた瞬間、眼鏡による目眩などどこかに行ってしまったようで、顔を真っ赤にして固まっている。どうにか一言「ご、ごめんね」と呟くのが精一杯のようだ。
 そして、返答で碧がさらに追い打ちをかける。

「あ、大丈夫だよ。杏実が軽かったおかげで全然衝撃なかったし。あと、杏実も眼鏡似合ってたね」

 それを聞いたのを最後に杏実さんが完全にショートして赤い顔をさらに赤くして固まってしまった。
 これで碧は何も狙ってないというのだからとんでもない。スキル「杏実さんキラー」とか持ってるだろ。

 そんなことをやっているうちに先生が教室に入ってくる。そういえば次は帰りのHRホームルームだったな、と思い出し、席に着く。ちら、と杏実さんの方を見るとカクカクした動きで自分の席に向かっていた。やばい、ここまで来るともう面白い。笑いを堪えていると、先生が話し始める。

「明日からGWゴールデンウィークが始まるが、気を抜かないように。課題もあるからな~」

 そうかもうそんな時期か。特に予定も何もないし暇だな、これは。
 その後、いくつかの連絡があり、HRが終わり、高校生活一ヶ月目が終了した。
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