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第一章 春
第二話 友達と名前
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入学式の翌日。
自転車で片道十五分の通学路を通り、高校へ向かった。
自分のクラスの指定の駐輪場に乗ってきた自転車を停めに行くと、そこに大柄な男子生徒が同じように自転車を停めようとしていた。
あそこに停めようとしてるってことは同じクラスの子だよな…。流石に昨日の自己紹介では名前も顔も覚えてないから誰なのかはわからんが。
ここは一つ話しかけてみるべきか…?なんて考えつつ自転車を停めていると、
「おい、君、うちのクラスの最後の名簿番号の人だよね」
と向こうから声をかけられた。
「そ、そうだよ」
と返すと、相手は
「やっぱそうか!いや~、名前は覚えてないけど、一番最後の人ってだけでなんか印象には残ってたんだよな。俺は峰口大喜だ。一年間よろしくな」
と朗らかに返してきた。
遠くから見た感じだと大柄で少し太り気味な子かと思ってたけど、近くで見ると違うな。太って見えるだけで多分これ筋肉がかなりついてるからそう見えてるだけだ。おっと、向こうがせっかく自己紹介までくれたのにすっかり考え込んでしまった。
「あ、俺は与田佑。よろしく」
と少し焦りつつ笑顔でこちらも自己紹介をすると、峰口君はじっとこちらを見つめてくる。
どうしたのだろう、俺になんかついてる?と思いながら不思議そうに見つめ返すと、峰口君は何か決心したように口を開いた。
「えっ、と、昨日はかなり緊張してて誰とも話せなかったけど、俺、みんなと仲良くなりたいんだ。だから、とりあえず!与田君!友達になってくれませんか!」
そんなこと言われずとも、クラスメイトなんだから友達になるつもりだったけど、こうしてはっきり言われると、気持ちがいいな、と思い、
「勿論!」
と返事をした。
その後、峰口君と他愛のない会話をしながら教室に向かった。
「峰口君ってめっちゃガタイいいけど、なんかスポーツやってるよね?」
「おう、野球やってる。ポジションはキャッチャーで、中学の時は四番だった。そもそも俺、野球の推薦でこの学校入ってるし」
(このガタイでキャッチャーで四番とか漫画のキャラクターかよ……)
「それにしてもいいな、推薦か。俺は一般入試でギリギリ合格だったから」
「推薦でも一般でも受かれば同じだろ、てかさっき俺のこと『峰口君』って呼んだだろ?同い年で友達なんだから下の名前呼び捨てでいいよ、佑」
おお、いきなり下の名前で呼ばれた。今日初めて喋った子にそう呼ばれるとなんかむず痒いが心地よい。
「お、オーケー、ひ…大喜」
と、こちらも下の名前で呼び返したが、なんとなく気恥ずかしくて少し詰まってしまった。でも、下の名前で呼び合うと、一気に友達感が増すなぁ、と感傷に浸りながら歩いてると後ろから
「ロキー!」
ときれいでよく通る、聞き覚えのある女子の声が飛んできた。この入学2日目の時点で聞き覚えのある女子の声なんて、1人しか心当たりがない。
半ば確信しながら、後ろの声の主をちらと見ると、予想通りそこには『推し』である三柴杏実がいた。
「あ、ロキの隣りにいるのは誰かと思ったら入学式の時に話した子!え~と、与田君?だっけ?その節はどうもお世話になりました…」
あ、『推し』になんとなく覚えられてる!なんて考えが一瞬頭をよぎったが、それとは別に浮かんだ疑問にかき消される。『ロキ』ってなんだ…?
そう考えていると、大喜が
「俺のことだよ、ひろきだからな」
と教えてくれた。どうやら疑問が口から漏れていたらしい。
「え、ていうか、あだ名で呼ばれてるってことは大喜と三柴さんって知り合いなの?」
と新たに湧いた疑問を口に出すと、三柴さんが
「私たち中学同じなんだよね~、規模も小さかったから関わることも多かったし」
と答えてくれた。
俺がなるほどね~、なんて思っているうちに、2人の会話が進む。
「それでなんで声かけたんだ?杏実」
「いや~、特に何かあるわけじゃないよ?強いて言えば挨拶かな。ロキは体格いいから遠くから見てわかりやすいんだよね」
「ふーん、そうか。というか杏実、佑と知り合いだったのか?」
「入学式の時にちょっと喋っただけだけどね、そっちこそなんか仲良いじゃん」
「あぁ、さっき友達になってな」
「あ!というか与田君!」
うお、ここで急に俺?!
「ロキが下の名前で呼んでるから私も呼んでいい?あ、私のことも下の名前で呼んでいいから」
なんてことだ。女子の、そして『推し』を名前で呼ぶ?なんて高度なことを要求するんだこの子は。でも断る理由がなさすぎる。
「い、いいよ。あ…杏実さん」
うん、流石にいきなり呼び捨ては無理だった。でもまあ、『さん』がついてるとはいえ下の名前で呼んでるからオーケーってことで。
「ありがと!改めてよろしくね、佑君」
そうして、俺と大喜と杏実さんは3人で話しながら教室へと向かった。
入学二日目、朝。
友達ができた上に『推し』と名前で呼び合うことになった。
自転車で片道十五分の通学路を通り、高校へ向かった。
自分のクラスの指定の駐輪場に乗ってきた自転車を停めに行くと、そこに大柄な男子生徒が同じように自転車を停めようとしていた。
あそこに停めようとしてるってことは同じクラスの子だよな…。流石に昨日の自己紹介では名前も顔も覚えてないから誰なのかはわからんが。
ここは一つ話しかけてみるべきか…?なんて考えつつ自転車を停めていると、
「おい、君、うちのクラスの最後の名簿番号の人だよね」
と向こうから声をかけられた。
「そ、そうだよ」
と返すと、相手は
「やっぱそうか!いや~、名前は覚えてないけど、一番最後の人ってだけでなんか印象には残ってたんだよな。俺は峰口大喜だ。一年間よろしくな」
と朗らかに返してきた。
遠くから見た感じだと大柄で少し太り気味な子かと思ってたけど、近くで見ると違うな。太って見えるだけで多分これ筋肉がかなりついてるからそう見えてるだけだ。おっと、向こうがせっかく自己紹介までくれたのにすっかり考え込んでしまった。
「あ、俺は与田佑。よろしく」
と少し焦りつつ笑顔でこちらも自己紹介をすると、峰口君はじっとこちらを見つめてくる。
どうしたのだろう、俺になんかついてる?と思いながら不思議そうに見つめ返すと、峰口君は何か決心したように口を開いた。
「えっ、と、昨日はかなり緊張してて誰とも話せなかったけど、俺、みんなと仲良くなりたいんだ。だから、とりあえず!与田君!友達になってくれませんか!」
そんなこと言われずとも、クラスメイトなんだから友達になるつもりだったけど、こうしてはっきり言われると、気持ちがいいな、と思い、
「勿論!」
と返事をした。
その後、峰口君と他愛のない会話をしながら教室に向かった。
「峰口君ってめっちゃガタイいいけど、なんかスポーツやってるよね?」
「おう、野球やってる。ポジションはキャッチャーで、中学の時は四番だった。そもそも俺、野球の推薦でこの学校入ってるし」
(このガタイでキャッチャーで四番とか漫画のキャラクターかよ……)
「それにしてもいいな、推薦か。俺は一般入試でギリギリ合格だったから」
「推薦でも一般でも受かれば同じだろ、てかさっき俺のこと『峰口君』って呼んだだろ?同い年で友達なんだから下の名前呼び捨てでいいよ、佑」
おお、いきなり下の名前で呼ばれた。今日初めて喋った子にそう呼ばれるとなんかむず痒いが心地よい。
「お、オーケー、ひ…大喜」
と、こちらも下の名前で呼び返したが、なんとなく気恥ずかしくて少し詰まってしまった。でも、下の名前で呼び合うと、一気に友達感が増すなぁ、と感傷に浸りながら歩いてると後ろから
「ロキー!」
ときれいでよく通る、聞き覚えのある女子の声が飛んできた。この入学2日目の時点で聞き覚えのある女子の声なんて、1人しか心当たりがない。
半ば確信しながら、後ろの声の主をちらと見ると、予想通りそこには『推し』である三柴杏実がいた。
「あ、ロキの隣りにいるのは誰かと思ったら入学式の時に話した子!え~と、与田君?だっけ?その節はどうもお世話になりました…」
あ、『推し』になんとなく覚えられてる!なんて考えが一瞬頭をよぎったが、それとは別に浮かんだ疑問にかき消される。『ロキ』ってなんだ…?
そう考えていると、大喜が
「俺のことだよ、ひろきだからな」
と教えてくれた。どうやら疑問が口から漏れていたらしい。
「え、ていうか、あだ名で呼ばれてるってことは大喜と三柴さんって知り合いなの?」
と新たに湧いた疑問を口に出すと、三柴さんが
「私たち中学同じなんだよね~、規模も小さかったから関わることも多かったし」
と答えてくれた。
俺がなるほどね~、なんて思っているうちに、2人の会話が進む。
「それでなんで声かけたんだ?杏実」
「いや~、特に何かあるわけじゃないよ?強いて言えば挨拶かな。ロキは体格いいから遠くから見てわかりやすいんだよね」
「ふーん、そうか。というか杏実、佑と知り合いだったのか?」
「入学式の時にちょっと喋っただけだけどね、そっちこそなんか仲良いじゃん」
「あぁ、さっき友達になってな」
「あ!というか与田君!」
うお、ここで急に俺?!
「ロキが下の名前で呼んでるから私も呼んでいい?あ、私のことも下の名前で呼んでいいから」
なんてことだ。女子の、そして『推し』を名前で呼ぶ?なんて高度なことを要求するんだこの子は。でも断る理由がなさすぎる。
「い、いいよ。あ…杏実さん」
うん、流石にいきなり呼び捨ては無理だった。でもまあ、『さん』がついてるとはいえ下の名前で呼んでるからオーケーってことで。
「ありがと!改めてよろしくね、佑君」
そうして、俺と大喜と杏実さんは3人で話しながら教室へと向かった。
入学二日目、朝。
友達ができた上に『推し』と名前で呼び合うことになった。
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