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最終章
第33話 白黒
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「ち、ちょっと! なに二人で勝手に始めようとしてるのよ! なんとか言いなさいよ、ねえ!」
外野からの声など聞く耳も持たない。制止の声も空しく吹き荒ぶ風に飲まれるだけ。
かといって後ろから発泡するのも途中から気が引けた。さっきまでは銃口を向けられたのに。
なぜだろうか――それは野暮という他ない。これは真剣勝負だ。自分の身で考えても横槍を入れられるのはいい気がしなかった。
掲げられた鋼鉄の篭手が濃縁のオーラを纏い天からの光を浴びて輝く。濃縁の光が膨張し、辺りの風が集まって円を書き、どこからともなく飲み込んだ草木を運んでくる。
荒々しい風は二人の男の周りを外界と完全に隔絶し、髪やコートが荒れる。
風が収まると、一瞬にして辺りは様変わり。無数の草木が絡み合って出来た緑の空間。
「くっ……なんだこれは!」
もう、逃げも隠れも出来ない。生憎、タバコを吸わない鉄生はこの空間を燃やし尽くすライターも持ち合わせていない。
そして、目の前にいるのは、篭手を下ろして高揚し笑う男。更に着ていた黒いロングコートを脱ぎ捨て、縦縞の濃緑のワイシャツを露とし――、
「どうだ。"金銀龍"。おれは森野汪――真の森の王だ」
「この篭手のチカラによって、おれは草木を操れる。真の"森林王"となったのさ! いくぞ金田ぁぁ!!」
いきなりくる鋼鉄で右手ストレート――が、今度は食らわない。視界に突っ込んできた硬いそれに対しては柔らかすぎる生身のストレートで怯まず対抗。
力強い肌色のストレートを防護するように、白い球体の光が包み込む。光と鋼鉄が互いにぶつかると同時に辺りに衝撃が走る――。
「チッ……なぜだ? なぜよりによってテメエがおれに抗えるチカラを手にしているんだ! それさえ無ければ、おれが最強だというのに!」
鉄生の両手にある忌々しい白銀の腕輪をそれぞれ指差す。
「森野!! お前を止めることが――オレのやっちまった十四年前の失敗に対する償いだ!! 乗りかかった船って感じでこの腕輪を手に入れたがお前の言う通り、オレは僥倖野郎かもな。だから――」
「ウルセエ!! 何が償いだ!! おれをあの時跪かせたのが失敗だと自覚しているようだが、オレは納得しないわぁ!! ――テメエを、血祭りにあげるまではな!!」
片方の右手だけの鋼鉄の拳に対して、両手から繰り出せる白い光を纏った拳。
数では有利だ。その証拠、一発目を防御されてももう一発で空いた左肩部分を攻撃することが出来る。
この分では接近戦は無論、腕輪ありきだがこちらに分がある。
憎しみの咆哮とともに近接戦闘による猛攻を仕掛けてくるものの、右手にしか武器がなく、刹那の隙を生む。
武器である、生身の左手より重さのある鋼鉄の拳を振るう際にそれが枷となって若干の隙が生まれる。両手の重さ、質量が異なることも合わさって。
そこを突いて、鋼鉄による攻撃を避け、左脇腹に白き鉄拳を二発食らわせる。
篭手をしていない片方の生身の手では、この腕輪のチカラに立ち向かうことは到底出来ない。絶好の弱点だ。
左手でその脇腹の傷を抑えながらも鋼鉄の拳で襲いかかる。
だが、万全じゃない――ましてや片手が塞がった状態で繰り出される拳の挙動は一層分かりやすく――同時に前に出た顔を痛烈な白い拳で潰すと、血を吐き白目をむく。
「ブハッ……! こぉのやろう!!」
もう殴り合いでは不利だ――そう実感したのか、一歩距離をとって鋼鉄の篭手から放たれる水気のある伸縮自在な触手。
負傷して苦し紛れに放たれたそれは、もうその拳を出せば白い光が包んで守ってくれることを実感すれば怖くなく、臆せず前に力強く突き出せた――弾くどころか触手の先端が断片となって辺りに飛び散る。その一つが鉄生の右目に付着する。
長々と伸ばした先端が散った触手を手の中に引き戻している間の無防備を狙って、その焦る顔面に追い打ちをかけるが如く、痛烈な一発をお見舞い。
会心の一撃――だが炎症し、シワクチャな顔で繰り出される反撃の一発――あまりに素早かったその鋼鉄の拳は、まるでバットで殴られたかのような普段想像もできないくらいに破裂しそうな痛み。
「ぐっ……」
腹から顔、全身へと痛みが伝わってくる――立っているのも辛い。苦しいの言葉が吐露したくなる。
「痛えだろう? おれはなぁ、たとえ長崎に送られて毎日躾けられる日々を送り、組織にスカウトされて地獄のような日々を送っても、テメエから受けた恨みを忘れたことはなかった――」
学校で英雄から転落して数日後、街で暴力沙汰を起こしたせいで学校を退学になった。
金田のせいだ。負けたから――英雄の座から転落した。ある日、街でその背中を見かけたので殴ってブチ殺してやろうと思った。復讐のために。
親にも見放され、警察のツテで長崎の更生施設に送られ、毎日がまるで豚箱に入ったように束縛されたクソみたいな日々。
納得いかない。あの日負けて全部ぶち壊しにされた事が。
その屈辱のぶつけどころがあいつの背中しかなかった事が。なんで金田ではなく自分がこうなるのか――。
外野からの声など聞く耳も持たない。制止の声も空しく吹き荒ぶ風に飲まれるだけ。
かといって後ろから発泡するのも途中から気が引けた。さっきまでは銃口を向けられたのに。
なぜだろうか――それは野暮という他ない。これは真剣勝負だ。自分の身で考えても横槍を入れられるのはいい気がしなかった。
掲げられた鋼鉄の篭手が濃縁のオーラを纏い天からの光を浴びて輝く。濃縁の光が膨張し、辺りの風が集まって円を書き、どこからともなく飲み込んだ草木を運んでくる。
荒々しい風は二人の男の周りを外界と完全に隔絶し、髪やコートが荒れる。
風が収まると、一瞬にして辺りは様変わり。無数の草木が絡み合って出来た緑の空間。
「くっ……なんだこれは!」
もう、逃げも隠れも出来ない。生憎、タバコを吸わない鉄生はこの空間を燃やし尽くすライターも持ち合わせていない。
そして、目の前にいるのは、篭手を下ろして高揚し笑う男。更に着ていた黒いロングコートを脱ぎ捨て、縦縞の濃緑のワイシャツを露とし――、
「どうだ。"金銀龍"。おれは森野汪――真の森の王だ」
「この篭手のチカラによって、おれは草木を操れる。真の"森林王"となったのさ! いくぞ金田ぁぁ!!」
いきなりくる鋼鉄で右手ストレート――が、今度は食らわない。視界に突っ込んできた硬いそれに対しては柔らかすぎる生身のストレートで怯まず対抗。
力強い肌色のストレートを防護するように、白い球体の光が包み込む。光と鋼鉄が互いにぶつかると同時に辺りに衝撃が走る――。
「チッ……なぜだ? なぜよりによってテメエがおれに抗えるチカラを手にしているんだ! それさえ無ければ、おれが最強だというのに!」
鉄生の両手にある忌々しい白銀の腕輪をそれぞれ指差す。
「森野!! お前を止めることが――オレのやっちまった十四年前の失敗に対する償いだ!! 乗りかかった船って感じでこの腕輪を手に入れたがお前の言う通り、オレは僥倖野郎かもな。だから――」
「ウルセエ!! 何が償いだ!! おれをあの時跪かせたのが失敗だと自覚しているようだが、オレは納得しないわぁ!! ――テメエを、血祭りにあげるまではな!!」
片方の右手だけの鋼鉄の拳に対して、両手から繰り出せる白い光を纏った拳。
数では有利だ。その証拠、一発目を防御されてももう一発で空いた左肩部分を攻撃することが出来る。
この分では接近戦は無論、腕輪ありきだがこちらに分がある。
憎しみの咆哮とともに近接戦闘による猛攻を仕掛けてくるものの、右手にしか武器がなく、刹那の隙を生む。
武器である、生身の左手より重さのある鋼鉄の拳を振るう際にそれが枷となって若干の隙が生まれる。両手の重さ、質量が異なることも合わさって。
そこを突いて、鋼鉄による攻撃を避け、左脇腹に白き鉄拳を二発食らわせる。
篭手をしていない片方の生身の手では、この腕輪のチカラに立ち向かうことは到底出来ない。絶好の弱点だ。
左手でその脇腹の傷を抑えながらも鋼鉄の拳で襲いかかる。
だが、万全じゃない――ましてや片手が塞がった状態で繰り出される拳の挙動は一層分かりやすく――同時に前に出た顔を痛烈な白い拳で潰すと、血を吐き白目をむく。
「ブハッ……! こぉのやろう!!」
もう殴り合いでは不利だ――そう実感したのか、一歩距離をとって鋼鉄の篭手から放たれる水気のある伸縮自在な触手。
負傷して苦し紛れに放たれたそれは、もうその拳を出せば白い光が包んで守ってくれることを実感すれば怖くなく、臆せず前に力強く突き出せた――弾くどころか触手の先端が断片となって辺りに飛び散る。その一つが鉄生の右目に付着する。
長々と伸ばした先端が散った触手を手の中に引き戻している間の無防備を狙って、その焦る顔面に追い打ちをかけるが如く、痛烈な一発をお見舞い。
会心の一撃――だが炎症し、シワクチャな顔で繰り出される反撃の一発――あまりに素早かったその鋼鉄の拳は、まるでバットで殴られたかのような普段想像もできないくらいに破裂しそうな痛み。
「ぐっ……」
腹から顔、全身へと痛みが伝わってくる――立っているのも辛い。苦しいの言葉が吐露したくなる。
「痛えだろう? おれはなぁ、たとえ長崎に送られて毎日躾けられる日々を送り、組織にスカウトされて地獄のような日々を送っても、テメエから受けた恨みを忘れたことはなかった――」
学校で英雄から転落して数日後、街で暴力沙汰を起こしたせいで学校を退学になった。
金田のせいだ。負けたから――英雄の座から転落した。ある日、街でその背中を見かけたので殴ってブチ殺してやろうと思った。復讐のために。
親にも見放され、警察のツテで長崎の更生施設に送られ、毎日がまるで豚箱に入ったように束縛されたクソみたいな日々。
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