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最終章
第29話 経緯の真実
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誰しもが異能を操ることが可能となる――魔法という架空のおとぎ話の存在を現実のものとした品がある――マホウの篭手。
だが、これは魔法ではない。実際のその世界の多くの者は正常じゃないこのチカラをこう呼ぶ――異能と。
異能を知らない人間が奇術をマジックやイリュージョンと呼ぶのと同じ感覚で、または漫画やゲームの影響で魔法という言葉で表現してしまうのにすぎないのだ――。
「精神をエネルギーに魔法を行使出来るって……そんなことが可能なのか?」
にわかには信じ難い話である。架空の話と思っていた魔法が平然と出てきたことが。
「ええ、信じられないかもしれないけどあるのよ。森野汪はそれを手に入れたの――円川組からね」
「円川組? よくニュースで耳にするあの……」
この事件が起こる三日前も、円川組系の暴力団組員が会社員からカネを脅し取って逮捕されたというニュースを耳にしたばかりだ。
それ以前も――いや、十四年前もニュース番組で円川組の構成員が武器や麻薬の密売で逮捕されたり、別の事件で殺人を犯した組員の初公判のニュースでその名前を耳にする機会は多かった。
「そうよ。ついでに言えば、森野汪を今までずっと面倒見ていたのも円川組」
「じ、じゃあ森野は……」
――信じられない。十四年前のあの事件後にヤクザになったとでもいうのか。
森野は確かにあの日、警察に連れて行かれたはずである。覚えている――薄れゆく意識の中、しっかりとその背中を見ていたのを。
更生施設へ行った話が本当だとするならば、その行き着く先がヤクザというのも辻褄が合わない。どうすればそうなるのか。
――もしやそれが通っていた学校が知らぬ存ぜぬで、長崎の更生施設に送られたという噂が広まったのもそれが理由なのか……森野がヤクザになった事実を隠蔽するため……?
「あたしの調べた情報だと、経緯はボカされていて分からなかったけど、森野汪は2017年から円川組の構成員として籍を置いていたわ」
更にと言わんばかりに衝撃の真実が突き刺さる――。
――十一年前だ。当時は高校二年生。地区大会の決勝戦で敗れ、柔道部を退部。家族の意向もあって受験勉強に切り替えた年――。
「それはどこの情報だよ?」
怪訝な目で透き通るほど綺麗な髪をした水色の頭を見る。第一、ボカされていたとはどういうことか。
「奴らのパソコンから、管理してるデータベースにアクセスして森野汪の経歴を調べた」
「デタラメに入力されたという可能性もなくはないか?」
「残念ながら本当よ。組の関係者の経歴がすべて載ったデータベースを見たんだもの」
円川組の管理するサーバーに存在するデータベース。
アクセスは出来るがパスワードがかけられていた。が、組事務所内にある事務作業のためにあるパソコンならば、どれでもサーバーにアクセスだけは出来た。
ある日の暗い夜、一台のノートパソコンをこっそり拝借し、スパイ活動で突き止めておいたパスワードを使ってロックを解除。
そこには森野汪以外にも、組の重要人物や末端の構成員たちの経歴がまとめて丁寧に保存されていた――。
だが一介の一般人にすぎない男が、どのような経緯で2017年に円川組に入ったのか、一切記載はなかった。
「で、そのマホウの篭手というのも、円川組が作った物なのか?」
「正確な開発者は分からない。でも篭手を開発者から預かり、森野に渡したのは奴らよ」
「なるほど、お前の目的は分かった。だが、そんなお前は何者なんだ? オレを敵のふりして助けようとしたり、森野の持つその篭手を奪取しようとしたりと――」
一番の目的であろう篭手を狙うだけでなく、自分も助けてくれる。そんな彼女の正体が掴めない。
「そうね。あたしの正体は、今はハッキリと知らない方がいいわ。一言でいえば潜入工作員」
その単語だけで、イリアという少女の立ち位置が明確になってきた。
だがその肩書きの本質は善なるものか、それとも悪なのか――見当がつかない。
最も、それが悪だとしても、ひとまず味方であることは好都合なのだが。それこそまさに運も実力、見方によっては偶然の幸運――僥倖である。
「篭手の奪取も、アンタのために行動するのも、すべて上の命令よ」
上――それは何者なのか。
なぜ篭手の奪取だけでなく、こちらを助けてくれるのか。単純に欲しい物だけが狙いならば人助けはしない。それなりの理由があるのだろうか。
――都合はいいが、気になってしょうがない。
「エメラルドタワーに着けば戦いは避けられないと思う。これをあげるわ」
ちょうど車がバスの通りすぎた交差点の横断歩道の前で止まった所で、イリアは前からこちらに手を伸ばす。
「なんだ? これは――お守り代わりか?」
「それ、両腕に絶対に着けたままでいて。森野の篭手に対抗出来るから。あと――」
手渡されたのは二つの太い白銀の腕輪。フチに金の装飾が施されたそれは、とても高価な代物であることを窺わせる――。
だが、これは魔法ではない。実際のその世界の多くの者は正常じゃないこのチカラをこう呼ぶ――異能と。
異能を知らない人間が奇術をマジックやイリュージョンと呼ぶのと同じ感覚で、または漫画やゲームの影響で魔法という言葉で表現してしまうのにすぎないのだ――。
「精神をエネルギーに魔法を行使出来るって……そんなことが可能なのか?」
にわかには信じ難い話である。架空の話と思っていた魔法が平然と出てきたことが。
「ええ、信じられないかもしれないけどあるのよ。森野汪はそれを手に入れたの――円川組からね」
「円川組? よくニュースで耳にするあの……」
この事件が起こる三日前も、円川組系の暴力団組員が会社員からカネを脅し取って逮捕されたというニュースを耳にしたばかりだ。
それ以前も――いや、十四年前もニュース番組で円川組の構成員が武器や麻薬の密売で逮捕されたり、別の事件で殺人を犯した組員の初公判のニュースでその名前を耳にする機会は多かった。
「そうよ。ついでに言えば、森野汪を今までずっと面倒見ていたのも円川組」
「じ、じゃあ森野は……」
――信じられない。十四年前のあの事件後にヤクザになったとでもいうのか。
森野は確かにあの日、警察に連れて行かれたはずである。覚えている――薄れゆく意識の中、しっかりとその背中を見ていたのを。
更生施設へ行った話が本当だとするならば、その行き着く先がヤクザというのも辻褄が合わない。どうすればそうなるのか。
――もしやそれが通っていた学校が知らぬ存ぜぬで、長崎の更生施設に送られたという噂が広まったのもそれが理由なのか……森野がヤクザになった事実を隠蔽するため……?
「あたしの調べた情報だと、経緯はボカされていて分からなかったけど、森野汪は2017年から円川組の構成員として籍を置いていたわ」
更にと言わんばかりに衝撃の真実が突き刺さる――。
――十一年前だ。当時は高校二年生。地区大会の決勝戦で敗れ、柔道部を退部。家族の意向もあって受験勉強に切り替えた年――。
「それはどこの情報だよ?」
怪訝な目で透き通るほど綺麗な髪をした水色の頭を見る。第一、ボカされていたとはどういうことか。
「奴らのパソコンから、管理してるデータベースにアクセスして森野汪の経歴を調べた」
「デタラメに入力されたという可能性もなくはないか?」
「残念ながら本当よ。組の関係者の経歴がすべて載ったデータベースを見たんだもの」
円川組の管理するサーバーに存在するデータベース。
アクセスは出来るがパスワードがかけられていた。が、組事務所内にある事務作業のためにあるパソコンならば、どれでもサーバーにアクセスだけは出来た。
ある日の暗い夜、一台のノートパソコンをこっそり拝借し、スパイ活動で突き止めておいたパスワードを使ってロックを解除。
そこには森野汪以外にも、組の重要人物や末端の構成員たちの経歴がまとめて丁寧に保存されていた――。
だが一介の一般人にすぎない男が、どのような経緯で2017年に円川組に入ったのか、一切記載はなかった。
「で、そのマホウの篭手というのも、円川組が作った物なのか?」
「正確な開発者は分からない。でも篭手を開発者から預かり、森野に渡したのは奴らよ」
「なるほど、お前の目的は分かった。だが、そんなお前は何者なんだ? オレを敵のふりして助けようとしたり、森野の持つその篭手を奪取しようとしたりと――」
一番の目的であろう篭手を狙うだけでなく、自分も助けてくれる。そんな彼女の正体が掴めない。
「そうね。あたしの正体は、今はハッキリと知らない方がいいわ。一言でいえば潜入工作員」
その単語だけで、イリアという少女の立ち位置が明確になってきた。
だがその肩書きの本質は善なるものか、それとも悪なのか――見当がつかない。
最も、それが悪だとしても、ひとまず味方であることは好都合なのだが。それこそまさに運も実力、見方によっては偶然の幸運――僥倖である。
「篭手の奪取も、アンタのために行動するのも、すべて上の命令よ」
上――それは何者なのか。
なぜ篭手の奪取だけでなく、こちらを助けてくれるのか。単純に欲しい物だけが狙いならば人助けはしない。それなりの理由があるのだろうか。
――都合はいいが、気になってしょうがない。
「エメラルドタワーに着けば戦いは避けられないと思う。これをあげるわ」
ちょうど車がバスの通りすぎた交差点の横断歩道の前で止まった所で、イリアは前からこちらに手を伸ばす。
「なんだ? これは――お守り代わりか?」
「それ、両腕に絶対に着けたままでいて。森野の篭手に対抗出来るから。あと――」
手渡されたのは二つの太い白銀の腕輪。フチに金の装飾が施されたそれは、とても高価な代物であることを窺わせる――。
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