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最終章
第26話 代紋
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十四年前の十月、街中で警察に取り押さえられ、連れて行かれた。それが彼の姿を見た最後――。
鉄生が記憶を辿って口にした、森野に関する証言。
十四年前から現在という着地地点に至るまでの過程は分からない――そう、過程だけは。
森野汪――その存在は捜査線上に全くなかった。あの四人だけで事件の構図が出来上がってしまうからだ――名前が出るまでは。
最初はただの友人間による金銭の貸し借りを巡ったトラブルが原因と思っていた――が、事態は大きく様変わりした。
森野の背後にはもっと強大な存在がいる――その最たる証拠があの黒服の男たち。
二子玉川駅の監視カメラの映像に映った黒服どもの中に、何やら見覚えのあるシンボルをスーツの襟にしている者が一人。
黒い背景に金の丸い装飾が施されたバッジ。丸の中に"円"という文字が大きく達筆風に書かれた黄金に輝くシンボル。
映像を止め、ズーム拡大して見た瞬間、やっぱりかと思わず画面の前でツッコんだその代紋。あれは一介の殺し屋ではない。
暴力団、円川組の構成員だ。
この関東において裏社会の人間が関わる事件を捜査すれば、その名前が普通に浮上してくることも珍しくない。
金回りと人材に秀でた、闇から得た権力を振りかざす、この東京で幅を利かせる極道組織。
これまで何人もの組員に手錠をかけてきたが、深き闇の力を持ったその組織力は未だ衰えることを知らない。
殺し、誘拐、麻薬や武器などの密売、株の不正、そして――殺しやハッカーの技術を持った裏社会の住民への仕事斡旋……カネになる事ならば何でもやる。
取引先であるそんな闇の住民達からはこう呼ばれる――闇のベンチャー企業と。
しばらく監視カメラの映像を観察していると、同じ代紋をつけた男が他の殺し屋や子分を率いてまとめあげている。
早送りして一つずつ確認してみる。ズーム拡大すれば一目瞭然の黄金の円をぶら下げ、仲間を引き連れる組員が人混みの中を何人も通り過ぎた。
紛らわしいがやたら高価な黒いコートに素顔を覆い隠す黒い帽子、紫や赤などの派手な色をしたスーツ、冬場なのにサングラス。見破れる特徴はいくらでもある。
取り巻きは仕事斡旋を受けた雇われの殺し屋か、それとも単に武装した構成員か――どちらにしてもこの黄金に怪しく光る代紋をぶら下げる集団が一枚噛んでいることは確定している。
だが、この中に円川組を取り仕切る組長である"奴"はいるのか――いや、そもそも組長自体が関与しているのかさえ不明だ。
組長の下には若頭や若頭補佐といった執行部をはじめ舎弟だって大勢いる。組長を中心に、ただ自分たちより上に媚びへつらうだけの組織というのは昔の話。
目を凝らして、パソコンで映像を再生し、見覚えのある顔を探していると――。
「蔭山警部!! 大変です!!」
「どうした!? 何かあったのか?」
蔭山の座る机の傍に、血相を書いた表情で駆け込んできた警官は唾を飲み込んだ後――。
「今さっき、ホテルから……金田鉄生が姿を消しました。ちょっと目を離した隙に……」
鉄生が記憶を辿って口にした、森野に関する証言。
十四年前から現在という着地地点に至るまでの過程は分からない――そう、過程だけは。
森野汪――その存在は捜査線上に全くなかった。あの四人だけで事件の構図が出来上がってしまうからだ――名前が出るまでは。
最初はただの友人間による金銭の貸し借りを巡ったトラブルが原因と思っていた――が、事態は大きく様変わりした。
森野の背後にはもっと強大な存在がいる――その最たる証拠があの黒服の男たち。
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黒い背景に金の丸い装飾が施されたバッジ。丸の中に"円"という文字が大きく達筆風に書かれた黄金に輝くシンボル。
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暴力団、円川組の構成員だ。
この関東において裏社会の人間が関わる事件を捜査すれば、その名前が普通に浮上してくることも珍しくない。
金回りと人材に秀でた、闇から得た権力を振りかざす、この東京で幅を利かせる極道組織。
これまで何人もの組員に手錠をかけてきたが、深き闇の力を持ったその組織力は未だ衰えることを知らない。
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早送りして一つずつ確認してみる。ズーム拡大すれば一目瞭然の黄金の円をぶら下げ、仲間を引き連れる組員が人混みの中を何人も通り過ぎた。
紛らわしいがやたら高価な黒いコートに素顔を覆い隠す黒い帽子、紫や赤などの派手な色をしたスーツ、冬場なのにサングラス。見破れる特徴はいくらでもある。
取り巻きは仕事斡旋を受けた雇われの殺し屋か、それとも単に武装した構成員か――どちらにしてもこの黄金に怪しく光る代紋をぶら下げる集団が一枚噛んでいることは確定している。
だが、この中に円川組を取り仕切る組長である"奴"はいるのか――いや、そもそも組長自体が関与しているのかさえ不明だ。
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目を凝らして、パソコンで映像を再生し、見覚えのある顔を探していると――。
「蔭山警部!! 大変です!!」
「どうした!? 何かあったのか?」
蔭山の座る机の傍に、血相を書いた表情で駆け込んできた警官は唾を飲み込んだ後――。
「今さっき、ホテルから……金田鉄生が姿を消しました。ちょっと目を離した隙に……」
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