友人に裏切られて勇者にならざるを得なくなったけど、まだ交渉の余地はあるよね?

しぼりたて柑橘類

文字の大きさ
上 下
86 / 90
五章L:神は高らかに告げる

六話:不確定要素だらけの対策会

しおりを挟む
 ナナカたちが去って、客間に取り残された俺とゼラはまだ作戦会議を続けていた。


 「んじゃ、もうちょい込み入った話をするわよ」
   

 ゼラは足を組み、右腕をソファの背もたれの後ろに回す。そしてだらしない格好のまま首だけ俺の方に向けた。ゼラなりにリラックスできる姿勢なのだろう。そのまま喋り始める。


 「まずツメクの魔術よ。 ……そもそも魔術ってのがなんなのかわかんないけどね」

 「ええ。リンが使っていたのは……幻覚のようなものと、洗脳に近いもの、それと……異様に切れる剣。どれもきちんと見られた訳では無いですね」

 「……そういやマザーもリンさんが見えない何かに串刺しにされたって言ってなかった?」

 「それに状況はよく分かりませんけど急所に命中していたんですよね? ……まぐれか……いや、リン相手に心臓を狙って攻撃するだなんてまぐれでは無理ですね」

 「不可視のくせに狙いが正確とか、強すぎにも程があるでしょ。……何か穴が……」

「……これ以上は、実際に見てみないと分かりませんね。その杭のようなものをどうやって刺しているか……そもそも刺しているのかすら私たちには分からないんですから」

 「ぐぬぬ……でも、そうね。 まずこの話は良いわ、話題変えましょ」

 
  ゼラは険しい顔でそう言った。


 「次にこのヒモの外し方です」


 俺は右手に繋がるヒモを掲げながら言った。


 「本当に博打みたいなものですが、もしかしたらツメクの魔術にぶつけられれば切れるのではないかと思います」

 「その心は?」

 「物理的に切断を試みてきましたが、切れる気配がありません。 しかしこのヒモにヒールの力が流れている以上、腕を切り落としても即座に治るためこの拘束を外すには至らないんですよ。つまり、切れはしないものの、このヒモを切るしかないんです」

「……それで? 何か心当たりがありそうだけど」

 「ツメクの攻撃を当てて切ります」

 「なるほど。よく分からないものにはよく分からないものをぶつけようってわけね?」

 「ええ、悔しいですがその通りです。あの魔術の理解不能さ加減、神の力に通じるものがありますからね」


 俺は続けて言う。


「リンは神から見放されました。これを魔術を使ったからだと推測し、魔術の力が神の力と対立構造になっていると仮定します。魔術の力が貴女の祈りの力と対を成す存在ならば、ヒモを切る手立てになるかもしれません」

 「ふぅん……なるほどね」


 感心したようにゼラは言う。


 「もしかしてさっき言ってたのはヒモ切る前提の作戦なの?」

 「いいえ。 切ることができると決まった訳ではありません。私が考えたのはあくまで繋がれたままで戦う方法です」

 「へぇ……早速どうするのか教えてもらおうかしら?」

 「すみませんが教えられません」


 ゼラは俺の言葉に目をぱちくりさせた。


 「な、なんでよ!?」

 「今から多少練習したところで体力を消耗するだけだからですよ。この技は相手も面食らうこと間違いなしですから、動揺している隙に短期で畳み掛ける必要があります。少しでもアグレッシブに動けるよう、体力は温存しましょう」


 というか、ゼラはともかく俺が持ちそうにないのだ 。出来ればツメクが対応出来てい無いうちに、方をつけたい。あわよくばヒモを切りたい。


 「大丈夫。だいたい理解したわ……じゃあ、これでひとしきり話し終わったわけだけど……」


 ゼラが窓の外を眺める。とんでもなく頭を使ったのだが、対して時間は経っていない。まだオレンジの夕焼けが部屋を照らしていた。
 それを確認すると、ゼラは一言。


 「せっかくだし、この際ゆっくりとアンタ自身の話を聞きたいわ」

 「……私の……ですか?」

 「アンタひた隠しにしてるけど……この際隠し事は互いに無しにしましょう。……互いに……その……恥ずかしい目にもあったわけだし、もうこれ以上恥じるべきことも無いでしょ?」


 ゼラはわずかにはにかんだ。西日に照らされる物憂げな目は、どこか理解者を求めているようにも感じた……。


 「……貴女いい雰囲気をかもし出して、リンの幼少期エピソード聞こうとしているでしょう?」

 「クソっバレたか」

 「というか、ツメクの前で公開処刑未遂したのはこの交渉材料を得るためですか?」

「それが何よ! アタシは!アンタより先に!!森の中でしてんのよ!! アンタはいいわよね! 裏口から出てすぐ近くになぜか噴水があって! 音が消せて!!」


 そう言って膨れるゼラ。墓まで持っていかれそうなほど恨まれている。
 観念した俺は、ゼラに向き直るのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生勇者の三軒隣んちの俺

@aozora
ファンタジー
ある日幼馴染のエミリーと遊んでいる時に木の枝から落ちて気を失ったジェイク。目を覚ました時、彼は自分が転生したと言う事を自覚する。ここはRPGファンタジーゲーム”ソードオブファンタジー”の世界、そして俺はオーランド王国の勇者、”赤髪のジェイク”。あのゲームで主人公は国王からの依頼で冒険の旅に旅立ったはず。ならばそれまでにゲーム開始時以上の力を手に入れれば。滾る想い、燃え上がる野心。少年は俺Tueeeをすべく行動を開始するのだった。 で、そんな様子を見て”うわ、まさにリアル中二病、マジかよ。”とか考える男が一人。 これはそんな二人が関わったり関わらなかったりする物語である。 この作品はカクヨム様、ノベルピア様、小説になろう様でも掲載させて頂いております。 よろしくお願いします。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜

あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。 そんな世界に唯一現れた白髪の少年。 その少年とは神様に転生させられた日本人だった。 その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。 ⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。 ⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。

処理中です...