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五章L:神は高らかに告げる
五話:説得はいかに
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「ただいま戻りました! 素晴らしい管理体制、感服いたしました!」
「メイドさんの案内もとても助かりました。感謝します」
俺らは口々にそう言ってツメクに頭を下げる。
「気に入っていただけて何よりです~。 さぁ、どうぞおかけになって~お話の続きをいたしましょうか~」
ツメクは俺らが出る時と全く変わらない笑顔を見せた。俺らが席に着くと同時、ナナカはツメクに語りかける。
「ご主人様。 そろそろ私共はディナーの準備をしてまいりますので、席を外させていただきます。どうぞしばしご歓談ください」
「ええ。 今日はお客様もいらっしゃるから入念に準備してちょうだい」
「かしこまりました……」
ナナカはスカートの裾をつまんで一礼すると、メイドたちに出ていくよう促した。メイドたちはナナカの方を不思議そうに見ていた。
列を成して出ていくメイドの最後尾を歩くナナカは、ドアに差し掛かると深々と一礼、最後に俺に一瞥して出ていった。
気を取り直し、俺はツメクに話しかける。
「先程取り寄せると仰っていましたが、このような俗世から離れたところでは食料品の調達も一苦労でしょう? どうなさっているのですか?」
「ふふ~。近くの街から商人の方が度々いらっしゃるのでさほど困ってはいませんよ~。たまに珍しいものも入ってまいりますし~」
「珍しいもの、と言いますと?」
俺がそう言うと、ツメクの目がギラりと光る。そして頬がわずかに緩んだ。
「ふふふ……なんだと思われますかぁ?」
どうやら話したくて仕方ない様子のツメク。この話ならかなり時間を稼げそうだ。俺はニヤリと笑って、
「こう見えて私、嗜好品や珍品に造詣がございまして。当てさせていただいてもよろしいですか?」
そう言った。
「ふふ~当てられるものなら……どうぞ」
完全に乗り気なツメクは、テーブルの上に肘をついて微笑んだ。俺も微笑みつつ身構え、長話の覚悟をした。
なぜ俺ができる限り長話しようとしているかと言うと、話は裏口にいた頃まで遡る。
呆然としていたナナカは、ようやく口を動かした。
「に、逃げる? ……ここから?どうやって……?」
目を丸くしているナナカ。疑っていると言うよりは、理解が追いついていないといった様子だ。おそらく逃走など考えもしなかったのだろう。
「簡単です。あなた達を解放して、ツメクに一泡吹かせればいいんですよ」
「そうね。 それが一番簡単だし知りたいことも聞き出せるわ」
頭を抱えるナナカに対し、ゼラは提案をすんなりと受け入れているようだった。
「私がここに残るなら、繋がれている貴女も残ることになりますが……覚悟の上ですね?」
決まりきってはいるだろうが、聞かないと気が済まなかった。ゼラはふふんと鼻を鳴らし、不敵に笑う。
「上等よ。 旅が始まってから殺されてばっか。ぜーんぶ手遅れだったもの。 救える命があるなら救いたいに決まってるじゃない。それに……アイツは一度ギャフンと言わせなきゃ気が済まない!」
「なら、決まりですね。それではナナカさん、貴女ばどうされますか?」
ナナカは震えながら顔を上げてこちらを見てきた。
「……お前ら……正気か?うちのご主人はタダの人間じゃねぇ。何をしようにも手が先に出る。アンタらは捕食対象だ。まず話し合いなんか出来ねえぞ? 殴って言い聞かせられるほどの腕っぷしがあるのか?」
「それどころか……ほら、アタシたちはこういうヒモで繋がってんのよ」
ゼラは俺の右腕と繋がっている左腕を掲げた。
ナナカは目を抑えた。
「そんな状況を……打破できるくらいの作戦があるのかよ」
「ええ。今から作ります」
「……今から? 冗談じゃねぇ……。これからできるかどうかすら分からねぇ作戦に賭けろってのか?」
「ですが、私たちが逃げれば貴女は殺されますし、私たちを見殺しにすれば永遠に貴女とその仲間は助かりませんよ? ……協力した方が身のためだと思いますが」
半ば脅しのような俺の言葉に、ナナカは渋い顔をして答えた。
「……クソっ……乗ってやるよ。……何をすればいい」
「まずは説得です。 メイド全員からの協力を得ましょう。時間は私がつくります」
「はぁ? 今あの部屋に全員居るってのにどう説得するんだよ!みんな八つ裂きにされちまうぞ?」
「適当な理由をつけて部屋を変えれば良いんですよ。私がその間ツメクの相手をします」
「相手をするって……話でもしてる気か? 無理だな。ご主人が五分以上話してるのなんて見たことないぞ?」
呆れながら言うナナカに、俺は微笑んで返す。
「ご安心を……私、口は立ちますから」
と、言うわけで俺は話し続けて時間を稼いでいたのである。俺はかれこれ一時間ほど奇品、珍品の話をし続けた。
ツメクもこの話は好きだったようでスルスルと話が出てくる。程なくして集めているという古文書をどれほど苦労して探したかという話を熱弁された。
しかしコイツがさらっていたやつにそんな嗜好品をたしなめる階級の人間はいない。それ故に互いにできる話が少なかったのだろう。
現にツメクは俺の目の前で口に手を当てて楽しそうに笑っている。
「まあ! その『インサツ』の技術があればもっと沢山本が出回るかもしれませんね~! わたしの屋敷には古い文献が沢山ありますし、一度使ってみたいですね~!」
「そうなんですよ。同じ本が作れるとなると多くの人に同じ内容の本を読んでもらえるわけですから、こうして話が出来る同行の好も生まれましょう」
今は少し前に聖書に使われたという『活版印刷』の話をしていた。教育を受けていないのかと思ったが、本を平気で読めるほどには字が読めるらしい。それもどうにか見つけ出したらしい古文書レベルのものをだ。 やはりツメクはどこかの令嬢で、この館は幽閉用の建物と考えた方が良いのかもしれない。
俺がそんなことを話しながら考えていると、
「失礼いたします」
と、言ってナナカは戸を開けた。真っ直ぐツメクの元に向かい、耳打ちをする。
それを笑顔で聞き入れたツメクはポンと手を打った。
「えぇ。 それがいいですね~。お二方、今晩は泊まって行ってくださいな。『ディナー』に……ご招待させてください」
そう言い終わる頃、ツメクの口角は不気味に釣り上がるのだった。
「メイドさんの案内もとても助かりました。感謝します」
俺らは口々にそう言ってツメクに頭を下げる。
「気に入っていただけて何よりです~。 さぁ、どうぞおかけになって~お話の続きをいたしましょうか~」
ツメクは俺らが出る時と全く変わらない笑顔を見せた。俺らが席に着くと同時、ナナカはツメクに語りかける。
「ご主人様。 そろそろ私共はディナーの準備をしてまいりますので、席を外させていただきます。どうぞしばしご歓談ください」
「ええ。 今日はお客様もいらっしゃるから入念に準備してちょうだい」
「かしこまりました……」
ナナカはスカートの裾をつまんで一礼すると、メイドたちに出ていくよう促した。メイドたちはナナカの方を不思議そうに見ていた。
列を成して出ていくメイドの最後尾を歩くナナカは、ドアに差し掛かると深々と一礼、最後に俺に一瞥して出ていった。
気を取り直し、俺はツメクに話しかける。
「先程取り寄せると仰っていましたが、このような俗世から離れたところでは食料品の調達も一苦労でしょう? どうなさっているのですか?」
「ふふ~。近くの街から商人の方が度々いらっしゃるのでさほど困ってはいませんよ~。たまに珍しいものも入ってまいりますし~」
「珍しいもの、と言いますと?」
俺がそう言うと、ツメクの目がギラりと光る。そして頬がわずかに緩んだ。
「ふふふ……なんだと思われますかぁ?」
どうやら話したくて仕方ない様子のツメク。この話ならかなり時間を稼げそうだ。俺はニヤリと笑って、
「こう見えて私、嗜好品や珍品に造詣がございまして。当てさせていただいてもよろしいですか?」
そう言った。
「ふふ~当てられるものなら……どうぞ」
完全に乗り気なツメクは、テーブルの上に肘をついて微笑んだ。俺も微笑みつつ身構え、長話の覚悟をした。
なぜ俺ができる限り長話しようとしているかと言うと、話は裏口にいた頃まで遡る。
呆然としていたナナカは、ようやく口を動かした。
「に、逃げる? ……ここから?どうやって……?」
目を丸くしているナナカ。疑っていると言うよりは、理解が追いついていないといった様子だ。おそらく逃走など考えもしなかったのだろう。
「簡単です。あなた達を解放して、ツメクに一泡吹かせればいいんですよ」
「そうね。 それが一番簡単だし知りたいことも聞き出せるわ」
頭を抱えるナナカに対し、ゼラは提案をすんなりと受け入れているようだった。
「私がここに残るなら、繋がれている貴女も残ることになりますが……覚悟の上ですね?」
決まりきってはいるだろうが、聞かないと気が済まなかった。ゼラはふふんと鼻を鳴らし、不敵に笑う。
「上等よ。 旅が始まってから殺されてばっか。ぜーんぶ手遅れだったもの。 救える命があるなら救いたいに決まってるじゃない。それに……アイツは一度ギャフンと言わせなきゃ気が済まない!」
「なら、決まりですね。それではナナカさん、貴女ばどうされますか?」
ナナカは震えながら顔を上げてこちらを見てきた。
「……お前ら……正気か?うちのご主人はタダの人間じゃねぇ。何をしようにも手が先に出る。アンタらは捕食対象だ。まず話し合いなんか出来ねえぞ? 殴って言い聞かせられるほどの腕っぷしがあるのか?」
「それどころか……ほら、アタシたちはこういうヒモで繋がってんのよ」
ゼラは俺の右腕と繋がっている左腕を掲げた。
ナナカは目を抑えた。
「そんな状況を……打破できるくらいの作戦があるのかよ」
「ええ。今から作ります」
「……今から? 冗談じゃねぇ……。これからできるかどうかすら分からねぇ作戦に賭けろってのか?」
「ですが、私たちが逃げれば貴女は殺されますし、私たちを見殺しにすれば永遠に貴女とその仲間は助かりませんよ? ……協力した方が身のためだと思いますが」
半ば脅しのような俺の言葉に、ナナカは渋い顔をして答えた。
「……クソっ……乗ってやるよ。……何をすればいい」
「まずは説得です。 メイド全員からの協力を得ましょう。時間は私がつくります」
「はぁ? 今あの部屋に全員居るってのにどう説得するんだよ!みんな八つ裂きにされちまうぞ?」
「適当な理由をつけて部屋を変えれば良いんですよ。私がその間ツメクの相手をします」
「相手をするって……話でもしてる気か? 無理だな。ご主人が五分以上話してるのなんて見たことないぞ?」
呆れながら言うナナカに、俺は微笑んで返す。
「ご安心を……私、口は立ちますから」
と、言うわけで俺は話し続けて時間を稼いでいたのである。俺はかれこれ一時間ほど奇品、珍品の話をし続けた。
ツメクもこの話は好きだったようでスルスルと話が出てくる。程なくして集めているという古文書をどれほど苦労して探したかという話を熱弁された。
しかしコイツがさらっていたやつにそんな嗜好品をたしなめる階級の人間はいない。それ故に互いにできる話が少なかったのだろう。
現にツメクは俺の目の前で口に手を当てて楽しそうに笑っている。
「まあ! その『インサツ』の技術があればもっと沢山本が出回るかもしれませんね~! わたしの屋敷には古い文献が沢山ありますし、一度使ってみたいですね~!」
「そうなんですよ。同じ本が作れるとなると多くの人に同じ内容の本を読んでもらえるわけですから、こうして話が出来る同行の好も生まれましょう」
今は少し前に聖書に使われたという『活版印刷』の話をしていた。教育を受けていないのかと思ったが、本を平気で読めるほどには字が読めるらしい。それもどうにか見つけ出したらしい古文書レベルのものをだ。 やはりツメクはどこかの令嬢で、この館は幽閉用の建物と考えた方が良いのかもしれない。
俺がそんなことを話しながら考えていると、
「失礼いたします」
と、言ってナナカは戸を開けた。真っ直ぐツメクの元に向かい、耳打ちをする。
それを笑顔で聞き入れたツメクはポンと手を打った。
「えぇ。 それがいいですね~。お二方、今晩は泊まって行ってくださいな。『ディナー』に……ご招待させてください」
そう言い終わる頃、ツメクの口角は不気味に釣り上がるのだった。
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