友人に裏切られて勇者にならざるを得なくなったけど、まだ交渉の余地はあるよね?

しぼりたて柑橘類

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五章L:神は高らかに告げる

三話:ツメクのメイド

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 メイドにこの館の事情を聞こうとしたら、俺らはいきなり屋敷の裏口まで連れてこられた。そしてここまで俺らを連れてきたメイドが急に泣き始めたので、今はゼラがそいつをなだめていた。


 「アンタ大丈夫……?」


 ゼラは右手で背中をさすり、メイドを落ち着かせようとしていた。その甲斐あってか嗚咽は少しずつ小さくなり、今は首を横に振って答えられるくらいの余裕が生まれていた。
 こういう話は同性に任せた方がいい。まして俺の発言が原因っぽいし下手に絡むとこじれるだろう。それにゼラは修道司祭。曲がりなりにも相談の専門家だ。まさに適任だろう。
 かくしてゼラに任せっきりで手持ち無沙汰だった俺は、周りを見回していた。ここは裏口兼物置のようで、食料品入りと書かれた木箱が山積していた。どれも真新しく、物品の入れ替えは高頻度で行われているようだった。こんな山奥にまでやってくる商人も大変だな。
  一方、給仕。ようやく落ち着いてきたようで、ゼラの手を握っていた。


  「悪ぃなシスターさん……落ち着いてきたぜ……。ぢ~ん……」


 スカートの前についているエプロンで、思いっきり鼻をかんだ。
 ゼラは小さくうなずき、話しかける。


 「今なら……話せそう? アタシたち聞きたいことが沢山あるんだけど……」

 「ああ……。今俺が好き勝手言っても、伝わりずらいだろうからな」

 
 給仕は時折しゃくり上げながらそう返した。
 
 
 「じゃあ、まずアンタについて聞かせてもらっていい? アンタの名前、いつからここにいるのか知りたいわ」

 「……俺はナナカ。  つい二週間前までは王国の外れで農民してた」

 「じゃあナナカ。アンタはなんでここに来たか教えてもらっていい?」

 「分からねえ。ここにもさらわれてきたんだ。でも……なぜさらわれたか、検討はついてる。 俺はこの館の主人に食われるために、ここに連れてこられた家畜なんだ……」

 
 そう言ってナナカは顔を伏せた。
 給仕が板についていないと思ったら、そもそも生業にしていなかったようだ。それならあのぎこちなさも納得だ。
 ゼラは続ける。

 
 「……この館の主人が、あんたをディナーにするってわけね? にわかには信じ難いけど……本当なの?」

 「ああ、そうだ。 俺はこの目で見たんだ……! それに……あいつの名前は……」

 「……名前は?」

 「『ツメク』だ。 ……そう言えばわかるだろ?」

 「「──!?」」


 ツメク。孤児院で子供たちを誘拐し、リンと戦ったという魔王軍の幹部。あのドレスの女はツメクだったのか……。だがしかし、気になる言い方だな。
 俺は話に割って入った。


 「あの、ナナカさん。 貴女はツメクの名前をご存知のようですけれど、どこでその名前を?」

 「あ? ガキの頃親から『悪いことしたらツメクに食われる』って話されねえか?」

  「……存じ上げませんね。すみませんが」

 「悪いけどアタシも知らないわ。マザーから聞いたことないもの」


 そういうことだったか。てっきり堂々と悪事をはたらいているのかと思った。
 俺は続けて聞いた。


 「大変心苦しいのですが……私がツメクに『すぐ戻る』と言った時、なぜああも取り乱されたかが分からないのですが。それを伺っても?」


 ナナカの眉間にシワが寄った。そして心底嫌そうな顔をした後、俺に顔を突合せて喋り始める。


 「……ご主人が人を食う時には3つのルールがある。 まず食べるタイミング。 五日かけて一人の体を内臓まで全部食べる……骨も残らない。むしろ骨が好きらしい。
 次に優先順位。来客があった時にはその客から。次にここに来てから一番日が長いメイド。でもそいつの歳が十二を超えてなかったら、次に日が長いメイドが食われる。
 そして……この中で最優先される条件が……。『ヘマをした給仕はその日のうちに食べる』と言うやつだ。これはただの仕事のミスとかではなく、逃げる、逃がすと言った行動を取った奴らのことを言う」


 そこまで言って、俺の襟首を掴んで顔を肉薄させた。


  「だってのにお前が!お前がすぐ戻るだなんて余計なこと言ったせいで!  お前らが戻らなかったらご主人様に怪しまれるだろうが!! 今日は……誰も死なないハズだったのに!」

  「……ナナカさん」

 「まだ引き継ぎも終わってねえ! 昨日入ってきたばっかの新入りだっているんだ……!だってのに……酷いじゃねえかよこんなこと……!!」

 「ナナカさん」

  「──ッ!?」


 俺はナナカの襟を掴み返した。


 「お詫びという訳では無いですけれど……もし、助かる方法を私が知っていると言ったら……どうしますか?」


 そう言う俺を、ナナカは呆然と見つめていた。
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