65 / 90
三・五章R:惨事、現に狂え
九話:育てるのか、育てられるのか
しおりを挟む
ロゼは狂喜に顔を歪めていたが、ふと冷めた目でリンとステラを見た。
「……なんだその目は。随分と不服そうだな?」
リンはステラの背をさすりながら、取り殺しそうな気迫でロゼを睨んでいたのだ。ステラはその二人の顔を見比べては、あたふたしながら泣いていた。
「『目は口ほどに物を言う』と、よく言われるが……私も流石にテレパシーまでは使えん。 言いたいことがあるならその口で言ってくれ」
「お……お母……様……そ、そのっ……」
「今更あなたと交わす言葉なんてない。達者な口の割に目は節穴らしいですからね」
「あ、あのっ……りんさん……」
「ほう? 私に何が見えていないと言うんだ、リンよ」
「や、やめ……やめましょう……?」
「……私はステラの味方で、あなたの味方じゃない。 ステラにこれ以上危害を加えるのなら、容赦なく斬る」
そう言ってリンは剣を引き抜こうとするも、ステラがその手を抑えた。
「もうやめて!! やめてくださいリンさん! ……わたしも……! 神様にお会いしたいんですっ! お母様もやめて……!リンさんと喧嘩しないでっ……! うぅ……うわあああああん!!!」
床に座り込んだまま、ステラは泣きじゃくった。誰も話を理解してくれないからだ。
「……はぁ。 ステラに救われましたね」
リンは立ち上がり、出口のドアに手をかけた。慌ててロゼは引き留める。
「おい、どこに行く気なんだ? 村には何もいないんだろう?」
「少し時間をください。 いくらステラが望んでいるとはいえ、私はあなたの言葉を信用出来ない」
そう言ってリンはロゼの手を払い、出ていった。ロゼは少し寂しそうにその背中を見送る。
「……おかあさま……ぐすっ……」
泣き腫らした目を向けるステラを、ロゼは抱きしめた。
「なぜ……泣いているのだステラ。私と血が繋がっていなかったのがそんなに嫌だったか?」
「そうじゃ……ない」
「なら、神の子だったのが嫌だったか? それとも私の首から下が無いのがダメだったのか?」
「ちがう……違うよお母様……」
「……待て、当てる。私がリンとケンカしたのがダメだったんだろう? そうだな? 待ってろ今すぐ和解を」
「そうじゃないっ!!」
「へ──おぶっ!!」
ステラに突き飛ばされたロゼの体は、後ろの本棚にめり込んだ。
「もうお母様なんか知らないもん! うわぁーん!!」
ステラはそう言い捨てて、ドアの方に走る。
「ステラっ! 私の話を[──バタン!!]……」
乱暴に閉められたドアの音。水を打ったかのようにあたりは静かになった。
「また……やってしまった……」
ロゼは独り、無駄に高い天井を仰ぎ見た。
「……伊達に長生きしているつもりは無いんだが、こうも分からないものか、子供心というものは……」
そう言いながら本棚から体を引っ張り出し、ローブについたホコリを払う。そしてため息をつきながら本を片付け始めた。ちょうどその時だ、
『お母様……お母様? 聞こえますか?』
妙に通る声が辺りに響いた。ステラと似ているが、喋り方がハキハキとしている。
「モーンか? ……あぁ。予定通りステラに会った……」
片付けをしながらロゼは答える。対してこちらは覇気がまるでない。
『その沈みよう……お姉様と早速何かありましたね?』
「……また、怒られてしまった」
『またですか』
「ああ。……これで238回目だ」
本をまとめ終えたロゼは、ソファの上で横になって目を閉じる。口だけ開けて響く声に答え続ける。
『なんでそこまで覚えてるのに反省しないんですか?』
「している。……ただ、その度に新たな地雷を発見して踏んでしまっているだけだ」
『……今日は何を起爆させたんですか? 』
「それが心当たりがなくてなぁ……うーん。無事に帰ってきたことを褒めて、16年前の話をして、しきりに聞いてきたからステラの出自の話をして……その辺でリンって勇者がキレたからあしらって……」
『待ってください』
「…… ?」
『何しれっととんでもないカミングアウトしてるんですか!!』
「首だけになったことか? 確かにあれはちょっとグロかったかなぁとは……」
『出自の方ですよ!! 』
そう言われ、ロゼはがばりと飛び起きる。
「なぜだ!? 存在している以上生まれた先はあるはずだろう!? なぜその話が嫌なんだ!?」
『母と慕っていた方が実は自分とは血も繋がってなかったと考えてみなさい! スナック感覚でそんなこと言いやがって! 血も涙もないですよ!!』
「……ほぼほぼ流れていないな。首だけだし」
『そうでしたねそういえば。 それと、お姉様男連れて来てるんですか?』
「まあ、そうではあるが……」
『わかりました。急いで行くので引き止めていてください』
「あ、ちょっと……!」
ロゼの引き止めは、またしても聞き入れられなかった。
「……どこで……育てかたを間違えたんだろうな」
ロゼは独り、透明な手で目を抑えていた。
一方その頃、リンは頭を冷やしに通りまで出ていた。
夜風を浴びながら通りを歩く。人っ子一人いないせいもあって砂地を歩く足音がよく聞こえた。
リンは途中で立ち止まった。しかし、足音は止まらない。2、3歩分、後ろで足が動いたようだ。
「おかしいよね。 ここにはもう誰もいないはずなんだけど」
振り返らずに、そう言った。
「ご、ごめんなさいぃっ! 私、リンさんが心配でっ!!」
「ダウト」
「──!?」
リンは剣を引き抜き、振り返る。目の前には身構えるステラの姿があった。
「……ステラはもっと舌足らずだ」
怒りに震えるその拳には、どす黒い魔力が込められる。
「ふひゅっ……」
目の前のステラはほくそ笑み、みるみるうちに小さな老婆に姿を変えた。老婆はシワだらけの青白い手を伸ばし、
「ひゅっひゅっひゅっ……さすがは騎士さま。初めまして……いえ、お久しぶりにございますね? 少し、この老婆めにお時間をいただけますかな?」
リンに歩みを寄せるのだった。
「……なんだその目は。随分と不服そうだな?」
リンはステラの背をさすりながら、取り殺しそうな気迫でロゼを睨んでいたのだ。ステラはその二人の顔を見比べては、あたふたしながら泣いていた。
「『目は口ほどに物を言う』と、よく言われるが……私も流石にテレパシーまでは使えん。 言いたいことがあるならその口で言ってくれ」
「お……お母……様……そ、そのっ……」
「今更あなたと交わす言葉なんてない。達者な口の割に目は節穴らしいですからね」
「あ、あのっ……りんさん……」
「ほう? 私に何が見えていないと言うんだ、リンよ」
「や、やめ……やめましょう……?」
「……私はステラの味方で、あなたの味方じゃない。 ステラにこれ以上危害を加えるのなら、容赦なく斬る」
そう言ってリンは剣を引き抜こうとするも、ステラがその手を抑えた。
「もうやめて!! やめてくださいリンさん! ……わたしも……! 神様にお会いしたいんですっ! お母様もやめて……!リンさんと喧嘩しないでっ……! うぅ……うわあああああん!!!」
床に座り込んだまま、ステラは泣きじゃくった。誰も話を理解してくれないからだ。
「……はぁ。 ステラに救われましたね」
リンは立ち上がり、出口のドアに手をかけた。慌ててロゼは引き留める。
「おい、どこに行く気なんだ? 村には何もいないんだろう?」
「少し時間をください。 いくらステラが望んでいるとはいえ、私はあなたの言葉を信用出来ない」
そう言ってリンはロゼの手を払い、出ていった。ロゼは少し寂しそうにその背中を見送る。
「……おかあさま……ぐすっ……」
泣き腫らした目を向けるステラを、ロゼは抱きしめた。
「なぜ……泣いているのだステラ。私と血が繋がっていなかったのがそんなに嫌だったか?」
「そうじゃ……ない」
「なら、神の子だったのが嫌だったか? それとも私の首から下が無いのがダメだったのか?」
「ちがう……違うよお母様……」
「……待て、当てる。私がリンとケンカしたのがダメだったんだろう? そうだな? 待ってろ今すぐ和解を」
「そうじゃないっ!!」
「へ──おぶっ!!」
ステラに突き飛ばされたロゼの体は、後ろの本棚にめり込んだ。
「もうお母様なんか知らないもん! うわぁーん!!」
ステラはそう言い捨てて、ドアの方に走る。
「ステラっ! 私の話を[──バタン!!]……」
乱暴に閉められたドアの音。水を打ったかのようにあたりは静かになった。
「また……やってしまった……」
ロゼは独り、無駄に高い天井を仰ぎ見た。
「……伊達に長生きしているつもりは無いんだが、こうも分からないものか、子供心というものは……」
そう言いながら本棚から体を引っ張り出し、ローブについたホコリを払う。そしてため息をつきながら本を片付け始めた。ちょうどその時だ、
『お母様……お母様? 聞こえますか?』
妙に通る声が辺りに響いた。ステラと似ているが、喋り方がハキハキとしている。
「モーンか? ……あぁ。予定通りステラに会った……」
片付けをしながらロゼは答える。対してこちらは覇気がまるでない。
『その沈みよう……お姉様と早速何かありましたね?』
「……また、怒られてしまった」
『またですか』
「ああ。……これで238回目だ」
本をまとめ終えたロゼは、ソファの上で横になって目を閉じる。口だけ開けて響く声に答え続ける。
『なんでそこまで覚えてるのに反省しないんですか?』
「している。……ただ、その度に新たな地雷を発見して踏んでしまっているだけだ」
『……今日は何を起爆させたんですか? 』
「それが心当たりがなくてなぁ……うーん。無事に帰ってきたことを褒めて、16年前の話をして、しきりに聞いてきたからステラの出自の話をして……その辺でリンって勇者がキレたからあしらって……」
『待ってください』
「…… ?」
『何しれっととんでもないカミングアウトしてるんですか!!』
「首だけになったことか? 確かにあれはちょっとグロかったかなぁとは……」
『出自の方ですよ!! 』
そう言われ、ロゼはがばりと飛び起きる。
「なぜだ!? 存在している以上生まれた先はあるはずだろう!? なぜその話が嫌なんだ!?」
『母と慕っていた方が実は自分とは血も繋がってなかったと考えてみなさい! スナック感覚でそんなこと言いやがって! 血も涙もないですよ!!』
「……ほぼほぼ流れていないな。首だけだし」
『そうでしたねそういえば。 それと、お姉様男連れて来てるんですか?』
「まあ、そうではあるが……」
『わかりました。急いで行くので引き止めていてください』
「あ、ちょっと……!」
ロゼの引き止めは、またしても聞き入れられなかった。
「……どこで……育てかたを間違えたんだろうな」
ロゼは独り、透明な手で目を抑えていた。
一方その頃、リンは頭を冷やしに通りまで出ていた。
夜風を浴びながら通りを歩く。人っ子一人いないせいもあって砂地を歩く足音がよく聞こえた。
リンは途中で立ち止まった。しかし、足音は止まらない。2、3歩分、後ろで足が動いたようだ。
「おかしいよね。 ここにはもう誰もいないはずなんだけど」
振り返らずに、そう言った。
「ご、ごめんなさいぃっ! 私、リンさんが心配でっ!!」
「ダウト」
「──!?」
リンは剣を引き抜き、振り返る。目の前には身構えるステラの姿があった。
「……ステラはもっと舌足らずだ」
怒りに震えるその拳には、どす黒い魔力が込められる。
「ふひゅっ……」
目の前のステラはほくそ笑み、みるみるうちに小さな老婆に姿を変えた。老婆はシワだらけの青白い手を伸ばし、
「ひゅっひゅっひゅっ……さすがは騎士さま。初めまして……いえ、お久しぶりにございますね? 少し、この老婆めにお時間をいただけますかな?」
リンに歩みを寄せるのだった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

転生勇者の三軒隣んちの俺
@aozora
ファンタジー
ある日幼馴染のエミリーと遊んでいる時に木の枝から落ちて気を失ったジェイク。目を覚ました時、彼は自分が転生したと言う事を自覚する。ここはRPGファンタジーゲーム”ソードオブファンタジー”の世界、そして俺はオーランド王国の勇者、”赤髪のジェイク”。あのゲームで主人公は国王からの依頼で冒険の旅に旅立ったはず。ならばそれまでにゲーム開始時以上の力を手に入れれば。滾る想い、燃え上がる野心。少年は俺Tueeeをすべく行動を開始するのだった。
で、そんな様子を見て”うわ、まさにリアル中二病、マジかよ。”とか考える男が一人。
これはそんな二人が関わったり関わらなかったりする物語である。
この作品はカクヨム様、ノベルピア様、小説になろう様でも掲載させて頂いております。
よろしくお願いします。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる