友人に裏切られて勇者にならざるを得なくなったけど、まだ交渉の余地はあるよね?

しぼりたて柑橘類

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三・五章R:惨事、現に狂え

二話:帰りはこわい

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  角尾村に入って村民に囲まれたリンとステラは、日が傾いてもなお、歓待を受けていた。
 リンは村の男たちに囲まれ、腕相撲の相手をさせられていた。


 「おいおいすげぇな! このまま勝ったら十人抜きだぜ?!」

 「ぐ、ぐぅぅ……動かないっ! 何なんだコレ……!」

 
 リンの相手をしているのはリンよりはるかに大きなリザードマン。歯を食いしばり、リンの右腕を押し続ける。一方リンは汗ひとつかかず、笑顔で応える。


 「これで本気? 両手、使っていいよ」

 「クッソ……言いやがったな! ──うおぉぉぉ!!」


 リザードマンは両手と全体重をかけてリンを押すも、ビクともしない。


 「さて、決めさせてもらうよっ……! 」


  そう言うと同時、リザードマンの巨体は腕とともに勢いよく地に倒れた。受け身も取れずに床に倒れ、鈍い音が響いた。
 

 「すげえ! 十人抜きだぁ!! 全力のリザードマンすら軽くいなしちまった!」

 「まじかよ負け無しだったのに……すげえ新入りが来たもんだ……」

 
 リンはリザードマンを助け起こす。

 
 「大したやつだ……俺がこうも負けるとはな。メンツが丸つぶれだ」

 「ごめんね。本気でと言われたからには手を抜けないからさ」

  「完敗だぜ、騎士さんよ。後で俺の子供たちに会わせてやる」

 「嬉しいね。ありがとう」


 そう言って手元のジョッキを交わし、一気に飲み干す。


 「ぶはぁ……! そういや騎士さん、アンタら二人だけでここに来たのか? ハネムーンか何に来るにはしけたところだろ?」

 「へ? 違う違う!私は聖剣を引き抜きに……っていうかそもそも私たち二人だけじゃなくてベイも……」


 村に入る際、ベイを連れて来忘れていたのだ。
 外に出ようと立ち上がると、相席していたリザードマンに手を引かれる。


 「おい、どこ行くつもりだ? まだ一口しか飲んでねえだろ」

 「あ~……ちょっと外に用事があってね! すぐ戻るから!」

   
 リンはそう言って人混みをかき分けて外へと向かった。


 「……そうか」


 リザードマンはゆっくりと立ち上がると、リンの後を追うように外へ出た。
 

 リンは外へ向かう途中、ステラの後ろ姿を見つけた。


  「やっぱり長い髪ね! ちょっと傷んでるけど束ねればあんまり気にならないわ!少しずつケアして行きましょうね!」

 「うわぁ! しっぽまで着いてる! でもゴワゴワしてるわね。ちょっと梳かして……あ、私の髪油があるわ! あれも使っちゃいましょうか!」

 「オイラのドレス、しっぽ穴はついてないからなぁ。付ければいいだけでヤンスね!」

 「ひぃぃぃ……! り、りんさぁん……助けてくださぁい……!」


 ステラは着せ替え人形のように服代わる代わるあてがわれていた。手を伸ばして助けを求めるが、その手も握られてネイルを塗られる。
 リンの近くに、先程の仕立て屋風の男がやってくる。


 「騎士さん。オイラもそうなんですが、ちょっとやる気が出ち待ったでヤンス。 しばらくステラさんをお借りしたいんですがいいでヤンスかねぇ?」

 「もちろん。お代は後で払うからさ、思う存分ドレスアップしてあげて!」

 「分かったでヤンス! 気合い入れてコーディネートするでヤンスから、帰ってきた時腰抜かしちゃ駄目でヤンスよー!!」

 
 そう言ってその場を去る仕立て屋を手を振って見送り、リンは外へと向かった。
  外はすっかり暗くなってしまっていた。急いで入ってきた所に着くと、村の外には草を食むベイの姿があった。
 リンはベイに駆け寄る。 

 
 「よかった! ごめんね遅くなっ──て?」


  も、急に目の前の景色が変わった。いつの間にか村のはずれから、村の市場の中心部にいた。ベイの姿はない。どうやら一人でここまで飛ばされたようだ。
 

 「村の秘密にも、来て一日で気付くとはな……侮れん男だ」


 聞きなれたその声に振り返るリン。そこには先程までのリザードマンが。大剣を持って立っていた。
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