友人に裏切られて勇者にならざるを得なくなったけど、まだ交渉の余地はあるよね?

しぼりたて柑橘類

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三・五章R:惨事、現に狂え

一話:行きはよいよい

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 孤児院を出たリンとステラ。しばらく歩いた二人は、ステラの妹オススメの『角尾村』にやってきた。
 村の入口に立ち止まった二人は、口をぽかんと開けて立ち止まる。


 「す、すごい……」

 「……すごいですっ……!」


 目の前に広がる大通り。端から端まで店がひしめき合い、活気にあふれている。多様な見た目の人々の生活の場がそこにはあった。
 ゴブリンが人間の店で金貨を支払う。
 その隣のアラクネは糸で器用に袋を作り、商品を詰めて渡した。
 通りの中心で陽気なオークは歌い、そのリズムに合わせてスケルトンが踊る。そのまわりには人だかりができ、思い思いにチップを投げた。
 村と呼ぶにはあまりに大きすぎる。王国にも引けを取らないほど、豊かな街がそこにはあった。
 しばらく呆然と眺めていると、歌っていたオークが二人に気がついた。


 「あ、新入りが来たぞ~!!」

 
 一斉に振り返り、笑顔で手招きする。


 「おーい! こっちこっち! そこの騎士っぽいやつ強そうだな! 力比べしようぜ!」

 「隣の子もべっぴんさんだ~! オイラの新作のドレスがあるからモデルやってよ~!!  背が高いから画になると思うんだ~!」


 皆、手招きする。歓迎ムード一色だというのに、誰一人としてこちら側に駆け寄る人がいない。不思議そうにリンとステラは顔を突合せた。


 「……おい……お前さんたち……」


 かすれた声の主は、薄汚い格好の老人だった。村の入口、『角尾村』と書かれた看板より村側にある椅子に座っていた。
 

 「は、はい……な、なんでしょうかぁ……」


 応えたステラに、老人は立ち上がることなく目線だけ合わせた。シワの入ったまぶたを懸命に持ち上げ、目を見開く。

 
 「この村に……入っちゃいかんっ……! 二度と……出られなくなるぞ! 若かりし頃のわしのように! 永遠に……!」


 震える声で必死に訴える。もう老い先短いであろう彼は息を荒らげつつも、まっすぐ二人を見すえている。
 街の人々は相変わらず笑顔で手招く。


 「大丈夫だよ! そのおじいちゃんさ、もうボケちゃってるから村に来た人みんなにそう言ってるんだ!」

 「この村が楽しすぎて出られなくなるって話ならマジだぜ! 早く来いよ!ここにはなんでもある!」
 

村の人々と老人、そしてリンの顔色を交互にうかがうステラは頭を抱えた。


 「ど、どどどどどうしましょうっ……!? わたしは一体どうすればぁ!!」


 目を回すステラ。リンはその様子を見て微笑んでからステラを落ち着かせる。


 「落ち着いて、ステラ。 少し入ってみて、その後で出るかどうするか考えればいいじゃない? せっかく妹さんから教えてもらったんだしさ」


 そう言うリンの手を握り、老人は無言で首を横に振る。


 「……」


 しばらく老人と見つめ合ったリンは、老人の手を軽く払いのける。そして笑顔でステラの手を取った。


 「は、はい! そうですね……! では……行きましょうっ!」


手を繋いですすむ二人。


 「来てくれたか! ありがとうよ! そろそろ昼だろう? うちで食べていけよ!奢るぜ?」

 「いやいや、うちのご飯を食べていきなさい!」

 「そうやっちゃ店主に悪い! ここは俺が払うから二人ともたんまり食っていきな! 」

 「みんなで歓迎の歌を歌おうじゃないか! おーいみんなー!! 新入りが来たぞー!! 」 


 すぐに人波に囲まれ、迎え入れられた。
 ステラは涙ながらに笑って、リンの方を向いた。

 「す、すごいですっ! 夢みたいです! わたしが……こんなに受け入れてもらえるだなんてぇ……!!」

 「良かったねステラ!大歓迎だ!! ……それにしてもなんであのご老人はあんなことを言ったんだろう……」


 小声で口に出すも、そんな悩みはすぐに消える。
 陽気な村民はリンとステラを担ぎあげ、村の中心へと向かった。


  「……はぁ。 また……止められなかった」


 落胆する老人は独り、静かな空を見上げる。
 老人が視線を注ぐ先、ハエが一匹飛んでいる。ハエは村の中から外に向かって飛び続け、老人の目の前で


 ここは角尾村。来る者拒まず、去る者追わず。
 追わずとも良い理由がここにはあるのだ。
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