74 / 90
四章RL:探り当てし交渉の地
四話:交渉決裂
しおりを挟む
俺が折れた剣を前に呆然としていると、少し後方で折れた片割れが地面に突き刺さる音がした。それでハッとする。
俺の目の前には、したり顔で納刀するリンの姿があった。
「勝負ありー! ふふふっ! ちょっとずるしちゃったけど、私の勝ちだよローレル!」
上機嫌にそう言う姿を見ると、何となく諦めもつくというものだ。
俺は両手を掲げた。
「降参だ降参。もうお前には勝てねえよ」
「へぇ……ほんとに? 何か奇策とかあるんじゃないの?」
「ねえよ。 さっきから両手を上げてるだろ?」
リンはしばらく考えて、
「うん、何もなさそうだね! これからはずっと着いてきてもらうよ、ローレル!」
嬉しそうにそう言った。
「やっぱりお前、俺に着いてきて欲しいんだな?」
「当たり前じゃん! 聖剣を取りに行くのも星見村に向かうのも、ずっと着いてきて欲しい!! まず手始めにステラに会ってもらうね! ステラっていうのは私の仲間で魔法使いで……」
リンは夢中になって話している。それを俺は聞き流しつつ、状況を整理する。
俺はこのままリンについて行けば、魔王を殺して王国を滅ぼす手伝いをさせられる。ついて行かないという選択肢はない。ゼラの話はリンの口から一切出なかった。知らないか、わざと触れていないかのどちらかだが、高確率で今後殺されるだろう。今じゃなくても、近い将来必ずだ。
「……レル? ……ローレル?」
リンは俺の目の前で手を振っている。 俺からあまりに反応を感じなかったから、心配したのだろう。
「ああ、ごめんごめん。 最近寝つきが悪くてね」
「なんだ! そういうことだったんだ。あまりにもぼーっとしてたから、何かあったかと思っちゃったよ」
そう言って、リンはこちらに背を向けて立ち上がる。
俺は迷っていた。こいつを倒すビジョンがあまりにも見えなかったせいでだ。
俺にはリンを殺せない。 最初から俺は交渉のテーブルにすら着けていない。なら、テーブルごとひっくり返すくらいの奇策が必要だ。
「さて、出かけようかローレル! 私たちの冒険に!」
さっさと認めれば、きっと俺だけは助かったのだろうな。そんなことを考えながら、俺は手を下に下ろす。そして、こちらに背を向けるリンに話しかけた。
「リン、ちょっと待ってくれ。見せたいものがある」
「うん? どうしたの──っ!?」
俺は寄ってきたリンの目に向けて、砂をかけた。先程転んだ時に、篭手の間に入り込んだ砂は、目潰しするには十分な量であった。
そしてリンが目を押えたのとほぼ同時に、俺は後ろに向かって走る! 向かうのは先程飛ばされた剣の切っ先の方向!
簡単な話、俺が死ねば全ては解決するのだ。リンが俺を連れていくという理由が無いならここを去り、魔王国に向かうだろう。そしてゼラが俺の死体を見つけることさえ出来れば、国に援軍を呼べる。魔王国にもガーベラと言うやつにに俺に借りを作っている。地図上で挟み撃ちの構造になるはずだ。強い人間も数には勝てない。そうすれば最悪の事態は避けられる。
俺が剣の端を喉元にあてがったその時だ。
「へぇ……私のこと信じてくれないの? こんなにも正しいって認めてるのに?」
そんな声が聞こえた。
「確かにお前は人として正しい。だが、正しいだけの人間などこの世に居ない。 よってお前はもう人でない」
「なら、君もそうなるといい」
目を押さえるリンが指さす先、俺の後方の茂みだ。ガサガサと葉が揺れた後……。
「ローレル? 話って……っ!?」
茂みの陰からゼラが出てきた。目を丸くして尻もちを着いた。
「嘘……リン……さん?」
「あの子、ローレルの相方らしいよね。 今、王国に引き返す動機も、方法も。ちゃんと消してあげるよ」
そう言って、リンは剣を片手に振りかぶる……。
間違いない、投げる気だ!読まれていたか……ここまで!
「クソがっ!!」
俺は剣の切っ先を捨て、リンとゼラの間に飛び込んだ。
「ぐっ、ぐあぁぁぁぁっっ!!」
俺の左の腰より少し上、背中側から刺さった剣は俺の腹まで貫通し、鍔のところでつっかえて止まっていた。まじかよ……鎧を貫きやがった。
俺は両手を広げて真正面のゼラを庇う。こうしたところでなんの意味があるか知らないが、やらないよりはマシだ。
「どいてよ。 殺せないじゃんそいつ」
「んなこと言われたら尚更動く訳には……いかないな」
「とりあえず剣だけ貰うね」
「っ──ぐうっ!!」
背中側から剣が抜かれる。少しだけ腹の風通しが良くなった気がしてきた。ようやく我を取り戻したゼラは俺の胸ぐらを掴んだ。
「なんで……!アンタ……なんでアタシを庇って!」
「お望み通り、風通しが少し良くなったぜ? ゼラ」
「軽口なんか叩いてる場合じゃないでしょ! 逃げなきゃ! 逃げないとアタシたち死ぬわよ!」
「そうだが……どこに逃げる?」
「……逃がすわけないじゃん」
俺の左肩が掴まれた。先程とは比にならない力だ。鎧ごと骨が軋むのがわかった。リンの覇気がまるで違う。殺気に近いそれを漂わせ、リンは一言呟いた。
「……残念だ。 君になら分かってもらえると思ったのに」
俺はゆっくりと目を瞑る……。
「『上り閃 三両』!!」
聞き覚えのある声と、斬撃が俺の頭上を飛んだ。
「助太刀に参ったぞ……ローレル殿!!」
「チッ……また潰さないといけないハエが増えた」
俺の目の前には、したり顔で納刀するリンの姿があった。
「勝負ありー! ふふふっ! ちょっとずるしちゃったけど、私の勝ちだよローレル!」
上機嫌にそう言う姿を見ると、何となく諦めもつくというものだ。
俺は両手を掲げた。
「降参だ降参。もうお前には勝てねえよ」
「へぇ……ほんとに? 何か奇策とかあるんじゃないの?」
「ねえよ。 さっきから両手を上げてるだろ?」
リンはしばらく考えて、
「うん、何もなさそうだね! これからはずっと着いてきてもらうよ、ローレル!」
嬉しそうにそう言った。
「やっぱりお前、俺に着いてきて欲しいんだな?」
「当たり前じゃん! 聖剣を取りに行くのも星見村に向かうのも、ずっと着いてきて欲しい!! まず手始めにステラに会ってもらうね! ステラっていうのは私の仲間で魔法使いで……」
リンは夢中になって話している。それを俺は聞き流しつつ、状況を整理する。
俺はこのままリンについて行けば、魔王を殺して王国を滅ぼす手伝いをさせられる。ついて行かないという選択肢はない。ゼラの話はリンの口から一切出なかった。知らないか、わざと触れていないかのどちらかだが、高確率で今後殺されるだろう。今じゃなくても、近い将来必ずだ。
「……レル? ……ローレル?」
リンは俺の目の前で手を振っている。 俺からあまりに反応を感じなかったから、心配したのだろう。
「ああ、ごめんごめん。 最近寝つきが悪くてね」
「なんだ! そういうことだったんだ。あまりにもぼーっとしてたから、何かあったかと思っちゃったよ」
そう言って、リンはこちらに背を向けて立ち上がる。
俺は迷っていた。こいつを倒すビジョンがあまりにも見えなかったせいでだ。
俺にはリンを殺せない。 最初から俺は交渉のテーブルにすら着けていない。なら、テーブルごとひっくり返すくらいの奇策が必要だ。
「さて、出かけようかローレル! 私たちの冒険に!」
さっさと認めれば、きっと俺だけは助かったのだろうな。そんなことを考えながら、俺は手を下に下ろす。そして、こちらに背を向けるリンに話しかけた。
「リン、ちょっと待ってくれ。見せたいものがある」
「うん? どうしたの──っ!?」
俺は寄ってきたリンの目に向けて、砂をかけた。先程転んだ時に、篭手の間に入り込んだ砂は、目潰しするには十分な量であった。
そしてリンが目を押えたのとほぼ同時に、俺は後ろに向かって走る! 向かうのは先程飛ばされた剣の切っ先の方向!
簡単な話、俺が死ねば全ては解決するのだ。リンが俺を連れていくという理由が無いならここを去り、魔王国に向かうだろう。そしてゼラが俺の死体を見つけることさえ出来れば、国に援軍を呼べる。魔王国にもガーベラと言うやつにに俺に借りを作っている。地図上で挟み撃ちの構造になるはずだ。強い人間も数には勝てない。そうすれば最悪の事態は避けられる。
俺が剣の端を喉元にあてがったその時だ。
「へぇ……私のこと信じてくれないの? こんなにも正しいって認めてるのに?」
そんな声が聞こえた。
「確かにお前は人として正しい。だが、正しいだけの人間などこの世に居ない。 よってお前はもう人でない」
「なら、君もそうなるといい」
目を押さえるリンが指さす先、俺の後方の茂みだ。ガサガサと葉が揺れた後……。
「ローレル? 話って……っ!?」
茂みの陰からゼラが出てきた。目を丸くして尻もちを着いた。
「嘘……リン……さん?」
「あの子、ローレルの相方らしいよね。 今、王国に引き返す動機も、方法も。ちゃんと消してあげるよ」
そう言って、リンは剣を片手に振りかぶる……。
間違いない、投げる気だ!読まれていたか……ここまで!
「クソがっ!!」
俺は剣の切っ先を捨て、リンとゼラの間に飛び込んだ。
「ぐっ、ぐあぁぁぁぁっっ!!」
俺の左の腰より少し上、背中側から刺さった剣は俺の腹まで貫通し、鍔のところでつっかえて止まっていた。まじかよ……鎧を貫きやがった。
俺は両手を広げて真正面のゼラを庇う。こうしたところでなんの意味があるか知らないが、やらないよりはマシだ。
「どいてよ。 殺せないじゃんそいつ」
「んなこと言われたら尚更動く訳には……いかないな」
「とりあえず剣だけ貰うね」
「っ──ぐうっ!!」
背中側から剣が抜かれる。少しだけ腹の風通しが良くなった気がしてきた。ようやく我を取り戻したゼラは俺の胸ぐらを掴んだ。
「なんで……!アンタ……なんでアタシを庇って!」
「お望み通り、風通しが少し良くなったぜ? ゼラ」
「軽口なんか叩いてる場合じゃないでしょ! 逃げなきゃ! 逃げないとアタシたち死ぬわよ!」
「そうだが……どこに逃げる?」
「……逃がすわけないじゃん」
俺の左肩が掴まれた。先程とは比にならない力だ。鎧ごと骨が軋むのがわかった。リンの覇気がまるで違う。殺気に近いそれを漂わせ、リンは一言呟いた。
「……残念だ。 君になら分かってもらえると思ったのに」
俺はゆっくりと目を瞑る……。
「『上り閃 三両』!!」
聞き覚えのある声と、斬撃が俺の頭上を飛んだ。
「助太刀に参ったぞ……ローレル殿!!」
「チッ……また潰さないといけないハエが増えた」
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

転生勇者の三軒隣んちの俺
@aozora
ファンタジー
ある日幼馴染のエミリーと遊んでいる時に木の枝から落ちて気を失ったジェイク。目を覚ました時、彼は自分が転生したと言う事を自覚する。ここはRPGファンタジーゲーム”ソードオブファンタジー”の世界、そして俺はオーランド王国の勇者、”赤髪のジェイク”。あのゲームで主人公は国王からの依頼で冒険の旅に旅立ったはず。ならばそれまでにゲーム開始時以上の力を手に入れれば。滾る想い、燃え上がる野心。少年は俺Tueeeをすべく行動を開始するのだった。
で、そんな様子を見て”うわ、まさにリアル中二病、マジかよ。”とか考える男が一人。
これはそんな二人が関わったり関わらなかったりする物語である。
この作品はカクヨム様、ノベルピア様、小説になろう様でも掲載させて頂いております。
よろしくお願いします。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる