友人に裏切られて勇者にならざるを得なくなったけど、まだ交渉の余地はあるよね?

しぼりたて柑橘類

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四章RL:探り当てし交渉の地

四話:交渉決裂

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 俺が折れた剣を前に呆然としていると、少し後方で折れた片割れが地面に突き刺さる音がした。それでハッとする。
 俺の目の前には、したり顔で納刀するリンの姿があった。


 「勝負ありー! ふふふっ! ちょっとずるしちゃったけど、私の勝ちだよローレル!」


 上機嫌にそう言う姿を見ると、何となく諦めもつくというものだ。
 俺は両手を掲げた。


 「降参だ降参。もうお前には勝てねえよ」

 「へぇ……ほんとに? 何か奇策とかあるんじゃないの?」

 「ねえよ。 さっきから両手を上げてるだろ?」


 リンはしばらく考えて、

 
 「うん、何もなさそうだね! これからはずっと着いてきてもらうよ、ローレル!」


 嬉しそうにそう言った。


 「やっぱりお前、俺に着いてきて欲しいんだな?」

 「当たり前じゃん! 聖剣を取りに行くのも星見村に向かうのも、ずっと着いてきて欲しい!! まず手始めにステラに会ってもらうね! ステラっていうのは私の仲間で魔法使いで……」


 リンは夢中になって話している。それを俺は聞き流しつつ、状況を整理する。
 俺はこのままリンについて行けば、魔王を殺して王国を滅ぼす手伝いをさせられる。ついて行かないという選択肢はない。ゼラの話はリンの口から一切出なかった。知らないか、わざと触れていないかのどちらかだが、高確率で今後殺されるだろう。今じゃなくても、近い将来必ずだ。


 「……レル? ……ローレル?」


 リンは俺の目の前で手を振っている。 俺からあまりに反応を感じなかったから、心配したのだろう。


 「ああ、ごめんごめん。 最近寝つきが悪くてね」

 「なんだ! そういうことだったんだ。あまりにもぼーっとしてたから、何かあったかと思っちゃったよ」


 そう言って、リンはこちらに背を向けて立ち上がる。
 俺は迷っていた。こいつを倒すビジョンがあまりにも見えなかったせいでだ。
 俺にはリンを殺せない。 最初から俺は交渉のテーブルにすら着けていない。なら、テーブルごとひっくり返すくらいの奇策が必要だ。


 「さて、出かけようかローレル! 私たちの冒険に!」 

  
 さっさと認めれば、きっと俺だけは助かったのだろうな。そんなことを考えながら、俺は手を下に下ろす。そして、こちらに背を向けるリンに話しかけた。


 「リン、ちょっと待ってくれ。見せたいものがある」

 「うん? どうしたの──っ!?」


 俺は寄ってきたリンの目に向けて、砂をかけた。先程転んだ時に、篭手こての間に入り込んだ砂は、目潰しするには十分な量であった。
 そしてリンが目を押えたのとほぼ同時に、俺は後ろに向かって走る! 向かうのは先程飛ばされた剣の切っ先の方向!
 簡単な話、俺が死ねば全ては解決するのだ。リンが俺を連れていくという理由が無いならここを去り、魔王国に向かうだろう。そしてゼラが俺の死体を見つけることさえ出来れば、国に援軍を呼べる。魔王国にもガーベラと言うやつにに俺に借りを作っている。地図上で挟み撃ちの構造になるはずだ。強い人間も数には勝てない。そうすれば最悪の事態は避けられる。
 俺が剣の端を喉元にあてがったその時だ。


「へぇ……私のこと信じてくれないの? こんなにも正しいって認めてるのに?」

 
 そんな声が聞こえた。


 「確かにお前は人として正しい。だが、正しいだけの人間などこの世に居ない。 よってお前はもう人でない」

「なら、君もそうなるといい」


 目を押さえるリンが指さす先、俺の後方の茂みだ。ガサガサと葉が揺れた後……。


 「ローレル? 話って……っ!?」


 茂みの陰からゼラが出てきた。目を丸くして尻もちを着いた。


 「嘘……リン……さん?」

 「あの子、ローレルの相方らしいよね。 今、王国に引き返す動機も、方法も。ちゃんと消してあげるよ」


 そう言って、リンは剣を片手に振りかぶる……。
 間違いない、投げる気だ!読まれていたか……ここまで!

  
 「クソがっ!!」


 俺は剣の切っ先を捨て、リンとゼラの間に飛び込んだ。


 「ぐっ、ぐあぁぁぁぁっっ!!」


 俺の左の腰より少し上、背中側から刺さった剣は俺の腹まで貫通し、鍔のところでつっかえて止まっていた。まじかよ……鎧を貫きやがった。
 俺は両手を広げて真正面のゼラを庇う。こうしたところでなんの意味があるか知らないが、やらないよりはマシだ。


 「どいてよ。 殺せないじゃんそいつ」

 「んなこと言われたら尚更動く訳には……いかないな」

 「とりあえず剣だけ貰うね」

 「っ──ぐうっ!!」


 背中側から剣が抜かれる。少しだけ腹の風通しが良くなった気がしてきた。ようやく我を取り戻したゼラは俺の胸ぐらを掴んだ。


 「なんで……!アンタ……なんでアタシを庇って!」

 「お望み通り、風通しが少し良くなったぜ? ゼラ」

 「軽口なんか叩いてる場合じゃないでしょ! 逃げなきゃ! 逃げないとアタシたち死ぬわよ!」

 「そうだが……どこに逃げる?」


 「……逃がすわけないじゃん」


 俺の左肩が掴まれた。先程とは比にならない力だ。鎧ごと骨が軋むのがわかった。リンの覇気がまるで違う。殺気に近いそれを漂わせ、リンは一言呟いた。


 「……残念だ。 君になら分かってもらえると思ったのに」


 俺はゆっくりと目を瞑る……。






 「『上り閃 三両』!!」


 聞き覚えのある声と、斬撃が俺の頭上を飛んだ。


 「助太刀に参ったぞ……ローレル殿!!」

 「チッ……また潰さないといけないハエが増えた」
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