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三章L:暫時、言を繰るえ
十七話:別れに再会は付き物
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「それでは。お気をつけて」
「テメェらが変なとこでくたばっちまったら俺も面目丸つぶれだ。 しぶとくやれよ」
孤児院の前。カノコさんとアングラは穏やかな笑みを浮かべてそう言った。
「「「じゃーね! 騎士さんとゼラさん!! 」」」
横並びになった子供たちは、揃って元気に言った。そして子供のうち、二人ほどが代表して出てくる。その手には白い花で作った指輪が握られていた。
俺の方にはおずおずと男の子が歩いてきた。年長のその子は、よく俺が囲まれている時に助けてくれた子だ。
「あの……私、頑張って作りました! も、もらってください!」
必死に顔を伏せ、まっすぐ腕を伸ばしてくる。
俺は片膝ついて少し歪な形のそれを手に取り、指にはめた。
「ありがとうございます。 わあ……綺麗ですね! 似合っていますか?」
そう言って指を広げて見せた。
「は、はい!! とってもお似合いですっ!」
彼の顔はぱあっと明るくなり、飛び上がってよろこんだ。
ふとゼラの方に目を向ける。ゼラに渡す役の子は常にどこかケガをしているヤンチャな女子だ。ひざまずくゼラの頭に花の冠を置いた。
「いつかぜってぇこいよ!! オレもアングラさんみたいにつよくなって、こんどはオレとたたかってもらうぜ!!」
そう言って、ゼラの拳に拳をぶつける。
「もっちろん来るわよ! その時までマザーの言うことよく聞いていい子にしとくのよ! ……マザーの関節技まじで痛いから……」
「ゼ~ラ~?」
「ひいっ!? い、行くわよローレル!! 退散退散ッ!!」
笑顔が怖くなったカノコさんから逃げるように、ゼラは後ろ向きで走る。その目と振られる両手は、子供たちの方を向いていた。
「わかりましたよ。それでは皆さん、お元気で。 また会いましょう!!」
俺はそう言って手を振って、ビオサと共に孤児院をあとにした。
孤児院がすっかり見えなくなった頃、俺はカノコさんから貰ったひもを眺める。だいだい色に煌めくそれは、
「恐らく魔導書は戦力の増強になるでしょう。 これはあくまで探す一助にしかならないでしょうが……ないよりはずっとマシです。角尾村からあなた達が引き返す助けになるでしょう 」
と、カノコさんに言われて手渡されたものだ。聖鎧布のしくみを応用しており、とても頑丈なのだ。また結ばれるとなかなか解けず、良い目印になりそうだった。ただコレを使うには、聖女が紐の末端を握っている必要があるらしい。ならばゼラに持ってもらうべきだろう。
「ゼラ~! ゼラ~!! ……どこ行ったんだあいつ?」
いくら大声で呼びかけようと一向に反応がない。まさか迷った?いや、違うだろう。この坂道さえ下れば、すぐに街道に出るとカノコさんは言っていた。
なら、さらわれた? ……まだ森の中に突っ込んで迷子になっていたと考えた方が自然だ。誘拐犯だって、命は惜しいだろう。
とりあえず街道に出よう。俺はビオサを引っ張って坂を下る。内心焦る気持ちに合わせ、次第にペースは速く、歩幅は大きくなっていく。俺は首を左右にせわしなく動かす。しかし人影は無い。それどころか──。
「……まじかよ」
道らしい道すらない。俺の目の前には足止めでもするように、木々が生い茂っていた。
どうなっている!? カノコさんが嘘を吐いただなんてことは無いだろう。俺が聞き間違えたんだろう。そう思い、振り返る。
俺は目を丸くした。
「なんの冗談だよコレは」
目の前には来た道すらない。ただ森が広がっている。俺の行方全てを木々が通せんぼしている。いつの間にか、四方を囲まれた森の中。次第に空も暗くなり、月すら出てきた。暗い森の中、ひっそりと開けた空間を満月が照らす。
──おかしい。俺らは昼過ぎには出発した。あれから対して経っていないのに、この時間の進み方は変だ。一体何が起こっている? そしてゼラはどこに……!
「ローレルー!! こっちこっち!!」
呼び止められる。ゼラの声ではない。
声がした方に目を向けると、横向きの三日月が浮かんでいる。不気味につり上がったその端に、見覚えがあった。俺の目線より少しのそれは口を開けた。
「遅いよー! 私書いてたよね? 『長くは待たない』って!」
頭の片隅、わざと追いやっていた言葉が蘇る。血文字だ。あの壁の血文字だ!
「お前なぁ……書き置きってのはわかりやすく書くもんだぜ? ずいぶん元気そうだな、リン」
「うん!! 久しぶり、ローレル!」
嫌味を嫌味ともせず、闇の中で快活な笑い声が響いていた。
「テメェらが変なとこでくたばっちまったら俺も面目丸つぶれだ。 しぶとくやれよ」
孤児院の前。カノコさんとアングラは穏やかな笑みを浮かべてそう言った。
「「「じゃーね! 騎士さんとゼラさん!! 」」」
横並びになった子供たちは、揃って元気に言った。そして子供のうち、二人ほどが代表して出てくる。その手には白い花で作った指輪が握られていた。
俺の方にはおずおずと男の子が歩いてきた。年長のその子は、よく俺が囲まれている時に助けてくれた子だ。
「あの……私、頑張って作りました! も、もらってください!」
必死に顔を伏せ、まっすぐ腕を伸ばしてくる。
俺は片膝ついて少し歪な形のそれを手に取り、指にはめた。
「ありがとうございます。 わあ……綺麗ですね! 似合っていますか?」
そう言って指を広げて見せた。
「は、はい!! とってもお似合いですっ!」
彼の顔はぱあっと明るくなり、飛び上がってよろこんだ。
ふとゼラの方に目を向ける。ゼラに渡す役の子は常にどこかケガをしているヤンチャな女子だ。ひざまずくゼラの頭に花の冠を置いた。
「いつかぜってぇこいよ!! オレもアングラさんみたいにつよくなって、こんどはオレとたたかってもらうぜ!!」
そう言って、ゼラの拳に拳をぶつける。
「もっちろん来るわよ! その時までマザーの言うことよく聞いていい子にしとくのよ! ……マザーの関節技まじで痛いから……」
「ゼ~ラ~?」
「ひいっ!? い、行くわよローレル!! 退散退散ッ!!」
笑顔が怖くなったカノコさんから逃げるように、ゼラは後ろ向きで走る。その目と振られる両手は、子供たちの方を向いていた。
「わかりましたよ。それでは皆さん、お元気で。 また会いましょう!!」
俺はそう言って手を振って、ビオサと共に孤児院をあとにした。
孤児院がすっかり見えなくなった頃、俺はカノコさんから貰ったひもを眺める。だいだい色に煌めくそれは、
「恐らく魔導書は戦力の増強になるでしょう。 これはあくまで探す一助にしかならないでしょうが……ないよりはずっとマシです。角尾村からあなた達が引き返す助けになるでしょう 」
と、カノコさんに言われて手渡されたものだ。聖鎧布のしくみを応用しており、とても頑丈なのだ。また結ばれるとなかなか解けず、良い目印になりそうだった。ただコレを使うには、聖女が紐の末端を握っている必要があるらしい。ならばゼラに持ってもらうべきだろう。
「ゼラ~! ゼラ~!! ……どこ行ったんだあいつ?」
いくら大声で呼びかけようと一向に反応がない。まさか迷った?いや、違うだろう。この坂道さえ下れば、すぐに街道に出るとカノコさんは言っていた。
なら、さらわれた? ……まだ森の中に突っ込んで迷子になっていたと考えた方が自然だ。誘拐犯だって、命は惜しいだろう。
とりあえず街道に出よう。俺はビオサを引っ張って坂を下る。内心焦る気持ちに合わせ、次第にペースは速く、歩幅は大きくなっていく。俺は首を左右にせわしなく動かす。しかし人影は無い。それどころか──。
「……まじかよ」
道らしい道すらない。俺の目の前には足止めでもするように、木々が生い茂っていた。
どうなっている!? カノコさんが嘘を吐いただなんてことは無いだろう。俺が聞き間違えたんだろう。そう思い、振り返る。
俺は目を丸くした。
「なんの冗談だよコレは」
目の前には来た道すらない。ただ森が広がっている。俺の行方全てを木々が通せんぼしている。いつの間にか、四方を囲まれた森の中。次第に空も暗くなり、月すら出てきた。暗い森の中、ひっそりと開けた空間を満月が照らす。
──おかしい。俺らは昼過ぎには出発した。あれから対して経っていないのに、この時間の進み方は変だ。一体何が起こっている? そしてゼラはどこに……!
「ローレルー!! こっちこっち!!」
呼び止められる。ゼラの声ではない。
声がした方に目を向けると、横向きの三日月が浮かんでいる。不気味につり上がったその端に、見覚えがあった。俺の目線より少しのそれは口を開けた。
「遅いよー! 私書いてたよね? 『長くは待たない』って!」
頭の片隅、わざと追いやっていた言葉が蘇る。血文字だ。あの壁の血文字だ!
「お前なぁ……書き置きってのはわかりやすく書くもんだぜ? ずいぶん元気そうだな、リン」
「うん!! 久しぶり、ローレル!」
嫌味を嫌味ともせず、闇の中で快活な笑い声が響いていた。
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