友人に裏切られて勇者にならざるを得なくなったけど、まだ交渉の余地はあるよね?

しぼりたて柑橘類

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三章L:暫時、言を繰るえ

十四話:きっとまだ変わらない

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……翌朝。俺は独り、ソファーの上で目覚めた。まだ早朝なのだろう。辺りには薄く朝霧が残っていた。
     
 
「ふぁ……ふわぁ……」


 眠気に耐えきれず、思わずあくびが漏れ出る。昨日はよく寝付けなかったのだ。リンの殺人、不可視の魔術に異形の魔術師……弱りきったゼラ。
 そう。恥ずべきことに、俺はゼラのことを心配しきっていた。ただ目的が一致したに過ぎない一人の女と割り切っていたはずなのに。ゼラは俺よりもずっと精神的ダメージは大きいだろう。実際眠れなかったようで、ベットの上にゼラの姿はなかった。


 「チッ……調子狂うな……」

 

 俺は思考にかかるモヤを払うように、何度か頭を振ってから天井を仰ぎ見た。そして少しだけマシになった頭で、荷物をまとめ始めた。
 リンの居場所はわかった。 しかしそれによって問題も生じる。
一つ目の問題はどう探すかだ。カノコさんに角尾村の危険性をきちんと聞き、場合によってはそこを迂回して探す必要がある。そうなれば捜索は骨が折れるだろうし、せっかくの位置情報を生かせない。
 二つ目にゼラ。もしリンを見たら、あのままでは発狂しかねない。出来れば避けたいが、万一の場合ここに置いていくことも考慮する必要があるだろう。 


 「……どうすりゃいいんだろうな」


 その時。部屋で一人呆然とする俺の耳に、金属音が届いた。


 「……!」


 その音は外から聞こえる。周期的に硬い何かを打ち合っているような、そんな音だ。
 俺は慌てて外に出た。なぜか音の主に検討が着いていたのだ。朝もやのかかる外に、打撃と声がひびきわたる。


 「ゼラ! お前の力はそんなもんじゃねぇだろ!! もっと……もっとだ!!」

 
 そう言ってインナー姿で大槌を振り回すアングラ。その前にはゼラが居た。対してゼラは拳ひとつ。布のようなものを巻いてはいたが、それっきり。そんな質素な装備で、アングラの一撃を受止めては打ち返している。


「うっさいわね!!! あんたこそなまってんじゃないの?」


 いったい何時間殴りあっているのだろうか? 彼女たちの額からは多量の汗が滴る。俺はとりあえず止めに入る。


 「一時休憩してください」
 

 「「うっさい!!! ここからがいい所なんだろうが!!!」」


  そう言う二人に辟易しながらも、どこか安心する俺がいた。
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