49 / 90
三章L:暫時、言を繰るえ
十話:動けぬ、動かぬ朝。
しおりを挟む
あくる朝。
「あ……あかるい……朝か……」
鳥のさえずりで目を覚ます。首だけ動かして窓を覗くと、青い空が広がっていた。なんとも清々しい朝だ。その一方で俺とゼラの二人は、着の身着のまま床に転がっていた。
「ハァ……ハァ……くっそ……体が……! ローレル、アンタは?」
「私もボロボロですよ……もう動けそうにない」
あれから私たちは一睡もしていない。なぜなら……。
「あー! 笑った笑った……今でも思い出すと涙出てきそう……それでもアンタが好色な元老から追いかけられた話は傑作だったわね……ぶふっ! 痛だだだ! 」
「思い出し笑いするとか死にたいんですか? ふふっ……い痛たっ……」
二人揃って腹を押さえながら、身をよじる。しばらく転がった後でゼラが言った。
「ハァ……まさかクソ上司トークだけで、あんなに盛り上がれるとはね」
「ええ。全くですよ……」
俺らは愚かにも徹夜をし、さらに馬鹿なことに大笑いしまくったのだ。そのせいで顔、喉、腹筋、両手両足とにかく全身が筋肉痛だ。もう一歩も動けない。
大騒ぎしてしまったが、ゼラいわくこの孤児院かなり作りがしっかりしているらしい。ちょっとやそっとじゃ音漏れしないそうなのだ。どこに金かけてんだ。
俺は古今東西色んなところに行って、色んなクソ上司に当たった話を。ゼラはめちゃくちゃ面白がっていたので、それを延々と話し続けていた。そして対抗して話してきたゼラの話も凄まじく面白かったのだ。話題は尽きることを知らず、元老たちのスキャンダルはダダ漏れになった。
そして、昨夜あんなに元気だったゼラは、今は為す術なく床に向かって話していた。
「あ゛ー……眠いし頭痛い……あと腹痛すぎて動けないわ……。ローレル、アタシの朝食取ってきなさいよ」
「無理ですよ。私だって同じなんです……こういう時都合よく誰かが来てさえくれれば……」
「何馬鹿なこと言ってんのよ……マザーグースじゃないのよ? 妖精さんが来てくれるとでも?」
ゼラがそう言うと、乱暴にドアが押し開けられた。
「おい!! ゼラにローレル!! 決闘だ!!!」
「来たわね。 妖精と言うにはゴツイけど」
「んだとテメェ!」
まさに渡りに船、行き倒れにアングラと言った感じだ。口ではああ言ったもの、案外素直。律儀にも三人分の朝食を持ってきてくれた。それを見たゼラはどうにか起き上がる。
「やっぱりアンタ結構可愛いところあるわよね。ムキムキのくせに」
「お前は一言多いんだよ! っていうか可愛いってなんだよ! そ、その……言われても反応しにくいだろうが!」
アングラは頬を赤らめる。
「熱でもあるんですか?」
「お前は一言少ねぇな!! なんの心配をしてんだよ! ……まったく」
満更でもなさそうな顔をして、アングラはパンにかじりつく。つられて俺らもパンを頬張りアングラに聞いた。
「そう言えば決闘決闘って、決闘することになにか意味があるんですか?」
「あ? オレが相手を信用するためにやる、習慣みたいなもんだ。拳には相手の魂が乗るだろ? だから殴り合うことで信用できるかどうか決めるんだ」
アングラはボウルのホットミルクを飲みながらそう言った。ゼラはうなずきながら聞いているが、相変わらず理由が俺には理解できない。
だが、郷に入ったからにはやらざるを得ないのだろう。
「アングラさん?」
「なんだよ」
「貴女、リンに会ったんですよね?」
「……ああ」
アングラは曇った顔でそう返した。俺らが聞いても恐らく何かあったのだ。俺はそれならと、アングラの顔に近づいた。
「なら取引です、アングラ。私が勝てたら、リンのことを洗いざらい全て話してもらいます」
「最初からそう言ってるだろうが。オレはお前がきちんと信用出来れば教えてやろうと…… 」
「そういうものじゃないですよ。 私は私のやる気が出るやり方でやります……それでいいですね?」
「ああ。 いいぜ! なんでそう言い直した方がいいのか、全然分からねぇがな!」
アングラは歯を見せて笑った。殴り合うことで分かり合うっていうのは全く分からない。何の因果もないだろ。しかしだもし仮に俺の腹黒さに気づいたら、情報を吐かない可能性がある。それは避けたかった。
「受けて立ちますよ、決闘」
一言、そう言った。アングラはわずかに微笑み、またパンを口に詰めた。
「ああ。いつがいい?」
「食べ終わってからすぐで構いませんよ」
「おう! それなら……!」
「ただし」
「あ? ……なんだよ?」
「私の栄光に精々目を眩まされないことですね 」
「あぁ? 急にどうした?」
したり顔でそう言う俺を、アングラは怪訝そうな目で見つめた。
「あ……あかるい……朝か……」
鳥のさえずりで目を覚ます。首だけ動かして窓を覗くと、青い空が広がっていた。なんとも清々しい朝だ。その一方で俺とゼラの二人は、着の身着のまま床に転がっていた。
「ハァ……ハァ……くっそ……体が……! ローレル、アンタは?」
「私もボロボロですよ……もう動けそうにない」
あれから私たちは一睡もしていない。なぜなら……。
「あー! 笑った笑った……今でも思い出すと涙出てきそう……それでもアンタが好色な元老から追いかけられた話は傑作だったわね……ぶふっ! 痛だだだ! 」
「思い出し笑いするとか死にたいんですか? ふふっ……い痛たっ……」
二人揃って腹を押さえながら、身をよじる。しばらく転がった後でゼラが言った。
「ハァ……まさかクソ上司トークだけで、あんなに盛り上がれるとはね」
「ええ。全くですよ……」
俺らは愚かにも徹夜をし、さらに馬鹿なことに大笑いしまくったのだ。そのせいで顔、喉、腹筋、両手両足とにかく全身が筋肉痛だ。もう一歩も動けない。
大騒ぎしてしまったが、ゼラいわくこの孤児院かなり作りがしっかりしているらしい。ちょっとやそっとじゃ音漏れしないそうなのだ。どこに金かけてんだ。
俺は古今東西色んなところに行って、色んなクソ上司に当たった話を。ゼラはめちゃくちゃ面白がっていたので、それを延々と話し続けていた。そして対抗して話してきたゼラの話も凄まじく面白かったのだ。話題は尽きることを知らず、元老たちのスキャンダルはダダ漏れになった。
そして、昨夜あんなに元気だったゼラは、今は為す術なく床に向かって話していた。
「あ゛ー……眠いし頭痛い……あと腹痛すぎて動けないわ……。ローレル、アタシの朝食取ってきなさいよ」
「無理ですよ。私だって同じなんです……こういう時都合よく誰かが来てさえくれれば……」
「何馬鹿なこと言ってんのよ……マザーグースじゃないのよ? 妖精さんが来てくれるとでも?」
ゼラがそう言うと、乱暴にドアが押し開けられた。
「おい!! ゼラにローレル!! 決闘だ!!!」
「来たわね。 妖精と言うにはゴツイけど」
「んだとテメェ!」
まさに渡りに船、行き倒れにアングラと言った感じだ。口ではああ言ったもの、案外素直。律儀にも三人分の朝食を持ってきてくれた。それを見たゼラはどうにか起き上がる。
「やっぱりアンタ結構可愛いところあるわよね。ムキムキのくせに」
「お前は一言多いんだよ! っていうか可愛いってなんだよ! そ、その……言われても反応しにくいだろうが!」
アングラは頬を赤らめる。
「熱でもあるんですか?」
「お前は一言少ねぇな!! なんの心配をしてんだよ! ……まったく」
満更でもなさそうな顔をして、アングラはパンにかじりつく。つられて俺らもパンを頬張りアングラに聞いた。
「そう言えば決闘決闘って、決闘することになにか意味があるんですか?」
「あ? オレが相手を信用するためにやる、習慣みたいなもんだ。拳には相手の魂が乗るだろ? だから殴り合うことで信用できるかどうか決めるんだ」
アングラはボウルのホットミルクを飲みながらそう言った。ゼラはうなずきながら聞いているが、相変わらず理由が俺には理解できない。
だが、郷に入ったからにはやらざるを得ないのだろう。
「アングラさん?」
「なんだよ」
「貴女、リンに会ったんですよね?」
「……ああ」
アングラは曇った顔でそう返した。俺らが聞いても恐らく何かあったのだ。俺はそれならと、アングラの顔に近づいた。
「なら取引です、アングラ。私が勝てたら、リンのことを洗いざらい全て話してもらいます」
「最初からそう言ってるだろうが。オレはお前がきちんと信用出来れば教えてやろうと…… 」
「そういうものじゃないですよ。 私は私のやる気が出るやり方でやります……それでいいですね?」
「ああ。 いいぜ! なんでそう言い直した方がいいのか、全然分からねぇがな!」
アングラは歯を見せて笑った。殴り合うことで分かり合うっていうのは全く分からない。何の因果もないだろ。しかしだもし仮に俺の腹黒さに気づいたら、情報を吐かない可能性がある。それは避けたかった。
「受けて立ちますよ、決闘」
一言、そう言った。アングラはわずかに微笑み、またパンを口に詰めた。
「ああ。いつがいい?」
「食べ終わってからすぐで構いませんよ」
「おう! それなら……!」
「ただし」
「あ? ……なんだよ?」
「私の栄光に精々目を眩まされないことですね 」
「あぁ? 急にどうした?」
したり顔でそう言う俺を、アングラは怪訝そうな目で見つめた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。

とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

転生勇者の三軒隣んちの俺
@aozora
ファンタジー
ある日幼馴染のエミリーと遊んでいる時に木の枝から落ちて気を失ったジェイク。目を覚ました時、彼は自分が転生したと言う事を自覚する。ここはRPGファンタジーゲーム”ソードオブファンタジー”の世界、そして俺はオーランド王国の勇者、”赤髪のジェイク”。あのゲームで主人公は国王からの依頼で冒険の旅に旅立ったはず。ならばそれまでにゲーム開始時以上の力を手に入れれば。滾る想い、燃え上がる野心。少年は俺Tueeeをすべく行動を開始するのだった。
で、そんな様子を見て”うわ、まさにリアル中二病、マジかよ。”とか考える男が一人。
これはそんな二人が関わったり関わらなかったりする物語である。
この作品はカクヨム様、ノベルピア様、小説になろう様でも掲載させて頂いております。
よろしくお願いします。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる