41 / 90
三章L:暫時、言を繰るえ
二話:その手は刀を振るうため
しおりを挟む
ガーベラと名乗る男は、上等そうな……なんだこれ。腕の辺りにでっかいポケットでも着いていそうなドレス? をまとい、木靴……いや木だがただの板に紐をつけただけ、みたいなふざけたものを履いている。腰に提げたアレは……身の振り方から予測して鉄の塊。恐らく棍棒か剣だ。
声は男。節々に花の意匠。女っぽい出で立ち。
見れば見るほどに奇妙なその姿。……情報量が多すぎて胃もたれしそうだ。思わず口を押さえた。
「うっ……わぁ……。私こんな奴が隣にいたのに、なんで気が付かなかったんでしょう。一生の恥ですよこんなの」
「そなた口悪っ!! 初対面の魔王軍幹部に言うセリフじゃなくない……で、ござるか!?」
「たったの数秒で、記念すべき二つ目が出来ましたよ。貴方に口を開かせるんじゃなかった」
こいつ……最初喋ってた感じは『作って』いたようだ。今の喋り方が、恐らく自然体だ。スラスラと出てきたから間違いない。喋り慣れていない頃の俺と似ている。なんだか小さい頃の俺を見ているようで、嫌悪感が湧いてきた。一生の恥三つ目だ。
額を押さえる俺の隣で、ゼラは身を震わせていた。コイツも突っ込みたくて仕方ないんだろうな。いいぞ言ってやれ。あわよくば追撃もして叩きのめしてくれ。もうコイツを追い払う気すらしなくなってきた。
ゼラはまっすぐガーベラを指さし、わずかに口を開いた。
「アンタ……アンタねえ!! 」
「ど、どうしたかな聖女殿。 その勢いで詰め寄られるとさすがに恐ろしいというかなんというか」
「最っ高にクールねその服!! ちょっとよく見せてよ!!」
「「えっ?」」
ゼラはまっすぐガーベラの胸ぐらをつかみ、目を輝かせながら全身を見廻す。隅々まで、舐めるように。スリットに手を突っ込んで、匂いまで嗅いでいる。いよいよ暑さで頭がおかしくなったようだ。
「手ぇあげなさい!! これ脇にもスリットあるのね!なるほど……!!」
体と至る所をまさぐっている。もうそういう怪異の類だろこれ。妖怪服まさぐりみたいな。
初対面の騎士には罵倒され、初対面の聖女には全身を漁られているのかコイツ……。可哀想に。俺はとりあえず、哀れみの目を向ける。
ガーベラは両手を上げ……頬を赤らめている。
「……んっ/// 」
「艶っぽい声を出すな」
「そなた! 先程は失礼したっ!だっ、だからこの聖女を止めっ……/// や、やめてっそこはっそこだけはっ……!」
俺は無視して焚き火の前に向かい、干し肉をうらがえす。うん。いい焼き加減だ。
「助けてください! お願いします! 人として大事なものが!尊厳が無くなる!」
閑話休題。
俺はガーベラからゼラを引き剥がし、とりあえず焚き火の前に座らせた。コイツ本当に魔王軍幹部の器なのだろうか……。ガーベラは膝を抱え込んで座り、ガタガタ震えている。
「け、汚された……」
「悪かったわよ……これで良ければ食いなさい」
「すまぬ……かたじけない」
「そう言いながら私の分の串を差し出すあたり、本当にいい性格してますよね」
「悔しかったら、今度は名前でも書いとくのね」
ゼラは肉に噛み付きながらそう言った。一体コイツは何を考えているのだろう。考え無しにあんなふざけた真似をするようには思えない。こいつは打算的なのだ。俺が見つめると、口角を上げて見せてきた。
一方ガーベラは俺の肉に、美味しそうにかぶりついている。よく見たらまだあどけない顔立ちだ。俺が数え年で十九。コイツは……十五くらいだろうか? いや、もう少し下か? 口ぶりもそんなくらいだった。とても幹部に成り上がれるほどの歳じゃない。
「お、おいひぃ……」
そう呟くガーベラ。ホロリと涙を流した。さすがに悪いことしたかもしれない。ここは反省すべきだろうな。
しかしこの面妖な姿が目に入ると、どうしても気になってくる。好奇心が自制心を上回った。
「そういえば、その服なんて言うんですか? 見たことすらないんですが」
そう言うと、警戒心も無さそうにつらつらと語った。
「これか。 これはそれがしの国に伝わる『フリソデ』を仕立て直したものでござる。そして履いているこれは『ゲタ』。 故、そこかしこに売ってはござらぬ。 職人に仕立てさせた特注品でござる」
「なるほど……通りで見たことないわけですね」
俺は産まれてこの方王国から出たことがない。ござるござるって言ってるのは、そこの国の方言なのかもしれないな。
「アンタ生まれどこ?聞いたことない口調ね」
ちょうど気になっていたことを、ゼラが聞いた。
「いやはや、それがしの生まれはにっ……ここよりはるか遠き……極東の地よ」
言葉につまりながら、ガーベラは返す。
「随分とぎこちない返しですね。出自を知られると、なにかまずいことでも?」
「い、否! 斯様なことはござらぬ! それがしの言い方が古めかしい故にそう聞こえるのではないか?」
「なんだか古めかしいと言うより……難解な話し方だと私は思いますがね」
そう言って、俺は干し肉の最後の一片を 口に放り込んだ。コイツ何者なんだろうか。色々と裏がありそうだ。
ガーベラをしばらく見ていると、ガーベラはなにか思い出したかのように顔を上げた。そのまま俺らに、
「そうだ。 そなたたちは『リン』という名前の騎士を知らぬか? 最近ここに現れたそうなのだが」
そう聞いてきた。ゼラは喉に詰まらせたか、胸を数度叩いてから答える。
「知ってるも何も、アタシたちもそのリンさんを追いかけてるのよ! 」
「そうか……して、なんのために? 捕らえるつもりか?」
「え? うん。 王国に連れ戻すわよ」
「ならば……」
ガーベラは立ち上がった。
「切らねばならぬ」
背筋が凍った。ガーベラが剣に手をかけただけだと言うのに、どうしようもないほどの身の危険を感じる。
ガーベラはゆっくりと柄に手をかけ……!
「ゼラさん! 頭を下げて!!」
「えっ!? 」
「──『上り閃 一両』」
そうガーベラが呟くと同時、俺らの後ろの巨木が倒れた。
声は男。節々に花の意匠。女っぽい出で立ち。
見れば見るほどに奇妙なその姿。……情報量が多すぎて胃もたれしそうだ。思わず口を押さえた。
「うっ……わぁ……。私こんな奴が隣にいたのに、なんで気が付かなかったんでしょう。一生の恥ですよこんなの」
「そなた口悪っ!! 初対面の魔王軍幹部に言うセリフじゃなくない……で、ござるか!?」
「たったの数秒で、記念すべき二つ目が出来ましたよ。貴方に口を開かせるんじゃなかった」
こいつ……最初喋ってた感じは『作って』いたようだ。今の喋り方が、恐らく自然体だ。スラスラと出てきたから間違いない。喋り慣れていない頃の俺と似ている。なんだか小さい頃の俺を見ているようで、嫌悪感が湧いてきた。一生の恥三つ目だ。
額を押さえる俺の隣で、ゼラは身を震わせていた。コイツも突っ込みたくて仕方ないんだろうな。いいぞ言ってやれ。あわよくば追撃もして叩きのめしてくれ。もうコイツを追い払う気すらしなくなってきた。
ゼラはまっすぐガーベラを指さし、わずかに口を開いた。
「アンタ……アンタねえ!! 」
「ど、どうしたかな聖女殿。 その勢いで詰め寄られるとさすがに恐ろしいというかなんというか」
「最っ高にクールねその服!! ちょっとよく見せてよ!!」
「「えっ?」」
ゼラはまっすぐガーベラの胸ぐらをつかみ、目を輝かせながら全身を見廻す。隅々まで、舐めるように。スリットに手を突っ込んで、匂いまで嗅いでいる。いよいよ暑さで頭がおかしくなったようだ。
「手ぇあげなさい!! これ脇にもスリットあるのね!なるほど……!!」
体と至る所をまさぐっている。もうそういう怪異の類だろこれ。妖怪服まさぐりみたいな。
初対面の騎士には罵倒され、初対面の聖女には全身を漁られているのかコイツ……。可哀想に。俺はとりあえず、哀れみの目を向ける。
ガーベラは両手を上げ……頬を赤らめている。
「……んっ/// 」
「艶っぽい声を出すな」
「そなた! 先程は失礼したっ!だっ、だからこの聖女を止めっ……/// や、やめてっそこはっそこだけはっ……!」
俺は無視して焚き火の前に向かい、干し肉をうらがえす。うん。いい焼き加減だ。
「助けてください! お願いします! 人として大事なものが!尊厳が無くなる!」
閑話休題。
俺はガーベラからゼラを引き剥がし、とりあえず焚き火の前に座らせた。コイツ本当に魔王軍幹部の器なのだろうか……。ガーベラは膝を抱え込んで座り、ガタガタ震えている。
「け、汚された……」
「悪かったわよ……これで良ければ食いなさい」
「すまぬ……かたじけない」
「そう言いながら私の分の串を差し出すあたり、本当にいい性格してますよね」
「悔しかったら、今度は名前でも書いとくのね」
ゼラは肉に噛み付きながらそう言った。一体コイツは何を考えているのだろう。考え無しにあんなふざけた真似をするようには思えない。こいつは打算的なのだ。俺が見つめると、口角を上げて見せてきた。
一方ガーベラは俺の肉に、美味しそうにかぶりついている。よく見たらまだあどけない顔立ちだ。俺が数え年で十九。コイツは……十五くらいだろうか? いや、もう少し下か? 口ぶりもそんなくらいだった。とても幹部に成り上がれるほどの歳じゃない。
「お、おいひぃ……」
そう呟くガーベラ。ホロリと涙を流した。さすがに悪いことしたかもしれない。ここは反省すべきだろうな。
しかしこの面妖な姿が目に入ると、どうしても気になってくる。好奇心が自制心を上回った。
「そういえば、その服なんて言うんですか? 見たことすらないんですが」
そう言うと、警戒心も無さそうにつらつらと語った。
「これか。 これはそれがしの国に伝わる『フリソデ』を仕立て直したものでござる。そして履いているこれは『ゲタ』。 故、そこかしこに売ってはござらぬ。 職人に仕立てさせた特注品でござる」
「なるほど……通りで見たことないわけですね」
俺は産まれてこの方王国から出たことがない。ござるござるって言ってるのは、そこの国の方言なのかもしれないな。
「アンタ生まれどこ?聞いたことない口調ね」
ちょうど気になっていたことを、ゼラが聞いた。
「いやはや、それがしの生まれはにっ……ここよりはるか遠き……極東の地よ」
言葉につまりながら、ガーベラは返す。
「随分とぎこちない返しですね。出自を知られると、なにかまずいことでも?」
「い、否! 斯様なことはござらぬ! それがしの言い方が古めかしい故にそう聞こえるのではないか?」
「なんだか古めかしいと言うより……難解な話し方だと私は思いますがね」
そう言って、俺は干し肉の最後の一片を 口に放り込んだ。コイツ何者なんだろうか。色々と裏がありそうだ。
ガーベラをしばらく見ていると、ガーベラはなにか思い出したかのように顔を上げた。そのまま俺らに、
「そうだ。 そなたたちは『リン』という名前の騎士を知らぬか? 最近ここに現れたそうなのだが」
そう聞いてきた。ゼラは喉に詰まらせたか、胸を数度叩いてから答える。
「知ってるも何も、アタシたちもそのリンさんを追いかけてるのよ! 」
「そうか……して、なんのために? 捕らえるつもりか?」
「え? うん。 王国に連れ戻すわよ」
「ならば……」
ガーベラは立ち上がった。
「切らねばならぬ」
背筋が凍った。ガーベラが剣に手をかけただけだと言うのに、どうしようもないほどの身の危険を感じる。
ガーベラはゆっくりと柄に手をかけ……!
「ゼラさん! 頭を下げて!!」
「えっ!? 」
「──『上り閃 一両』」
そうガーベラが呟くと同時、俺らの後ろの巨木が倒れた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

転生勇者の三軒隣んちの俺
@aozora
ファンタジー
ある日幼馴染のエミリーと遊んでいる時に木の枝から落ちて気を失ったジェイク。目を覚ました時、彼は自分が転生したと言う事を自覚する。ここはRPGファンタジーゲーム”ソードオブファンタジー”の世界、そして俺はオーランド王国の勇者、”赤髪のジェイク”。あのゲームで主人公は国王からの依頼で冒険の旅に旅立ったはず。ならばそれまでにゲーム開始時以上の力を手に入れれば。滾る想い、燃え上がる野心。少年は俺Tueeeをすべく行動を開始するのだった。
で、そんな様子を見て”うわ、まさにリアル中二病、マジかよ。”とか考える男が一人。
これはそんな二人が関わったり関わらなかったりする物語である。
この作品はカクヨム様、ノベルピア様、小説になろう様でも掲載させて頂いております。
よろしくお願いします。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる