友人に裏切られて勇者にならざるを得なくなったけど、まだ交渉の余地はあるよね?

しぼりたて柑橘類

文字の大きさ
35 / 90
三章R:汝、剣を振るえ

十二話:鉄拳を食らえ

しおりを挟む
 「ふふふふ~! 引っかかった~!!」

 「ぐ……あぁっ!」



 私はなるべく傷が開かないように遠い右足でどうにか飛び退いた。一体……何が?ツメクの手が光ったと思ったら、私の左胸と肩が貫かれていた。長さは控えめ……と言っても私の体を貫通して地面に付かない程度。下手に抜かない方が身のためだろう。
 そのまま私はツメクの方を見据えた。


 「はぁ……はぁ……」


 胸に刺さった槍のせいで息が深く吸えない。吸う時に痛みはあるが、刺さった時と比べたら大したことではない。問題は左肩。筋かどこかが切れてしまったようで、左手に力が入らない。不幸中の幸いだが、槍が刺さったままなので大量出血は回避出来た。

 おそらくヒールをカノコさんにかけてもらえば、無傷同然になるはず。

 私は後方をチラリと見た。
 あとは……何とかするだけだ!


  そんな私の様子を、ツメクは食い入るように見ていた。その場に立ち止まって、目を輝かせている。

 「すっご~い! みんなこれくらいで死んじゃうのに! やっぱりこの勇者さんタフネスね!」

 
 「急所から外れてたからね。 この位の怪我で倒れてなんか居られないよ」


 「ふふふ……ふふふふ~!!」



 ツメクは小刻みに飛び跳ねて、子供のようにはしゃいだ。両手で口をおおっているが、それですら隠しきれないほど口角は鋭くつり上がっている。


 「……何がそんなにおかしい?」


 「アナタなら……『本気』出していいかなって~!! 興奮してきちゃったの~!!!!」


 そう言って左腕をもう一度掲げた。また鈍く赤黒く輝く。

 「私のこの力は魔術の力の応用なの~! 私の血を触媒に色んなものを呼び出せるの~! さっきは槍だったけど、次はね~……これ!」


 
 そう言って、パチンと指を弾く。すると、ツメクの左腕だけが単体の生き物であるかのように蠢いた。右に、左に、まるでウジ虫のように。そして、ツメクの腕から無数の針が飛び出した。まるきり同じ向きに、キノコのように生える。一本一本がエストック並に鋭く、太い。
 体内に流れる血でも、内出血などをして出血している血なら使えるようだ。

 針の山が束ねられ、ツメクの腕は一本の杭のようになった。

 「これだけじゃないけど……まず様子見ね!」


 そう言って、真っ直ぐ突っ込んできた!
 
 「ぐうっ!!」


 ──重い!純粋に片腕の筋力だけでしか受けられないとはいえ、先程とは比にならない手応えだ!その上殺傷能力があまりに高い。まともに刺さったらさすがに即死するだろう。

 「まだまだ~!」


 次の瞬間、地面から次々に剣が生えてきた。 それも至る所からだ。おそらく、蹴飛ばした時に飛び散った血のせいだろう。辺りを見回したが、血が付着した草を探そうにもこの闇の中では分からない。
  
 ツメクは傍観しながら微笑んでいる。それが一層私を怒らせた。そして一歩、右足を下げた時だ。

 「あ~……そこ……ビンゴ!」



 ツメクが指を鳴らした。






 「──っっ!? ぐぁぁっ!!」


 そのうち一本が、私の右足を貫いた。剣は地面にすっかり固定されているし、深々と刺さっている以上ツメクの攻撃を避けながら、引き抜くことも難しい。このままでは動けない……!ツメクは私が焦る様を満面の笑みで見ていた。
  
 「あらあら~? 骨がある勇者だと思ってたのに~意外とあっさりしてたわね。まあいいわ~ご馳走に早くありつけたんですもの!」


 そう言って、俺の首を掴んで持ち上げた。かろうじて動く右腕でツメクの腕を掴むが、ビクともしない。俺に出来ることは、もう何も残されていなかった。

 
 「ぐうっ……!」
   

 「いただきますね~!  勇者さんの肉、強かったですしきっと美味しいですよね!! あ~!……」


 ツメクは口を大きく開けて、持ち上げた私の横の方から食べるつもりのようで、首を傾げて右の腕に狙いを定めてきた。さらに、ツメクが口を開くと白く鋭い三角形の牙がびっしりと生えていた。その口の中らヨダレが糸を引いている。
 
  私はまたしても、後ろを見た。


 「そうだ、ツメク。たまには上も見た方がいいよ」

  「え? 上? 上に何か……ってえぇ!?」



 
 私たちの頭上、本来なら星が輝くそこに光の手があった。手は固く強く握られ、落ちるその時を待っている。


 「一体……どうして!?」


 混乱して目を回すツメクが、そう口走るとほぼ同時。



 「──『鉄拳』!!!」


  ステラの一言ともに、拳は振り下ろされた。

 


 私がツメクと戦う直前、ステラに耳打ちしていたのは、後方で魔術の詠唱をしてもらうためだ。あの時、ゴブリンたちに与えた一撃は不完全なもの。時間さえあればステラはやってくれると信じてこの作戦にかけたのだ。
 そして戦ってみると、いくら切っても再生する特性。一発でかつ物理以外の攻撃を当てて見るとどうなるか試してみたかったのだが……。


「ぐえっ!」

 私は背中から倒れた。というより落っこちた。首にツメクの手首だけが残り、拳に触れた全ての部位は消滅してしまったようだ。効果は抜群だったようだ。



 「り、リンさぁん! ご無事ですかぁ!?」


 私の方に走ってきたステラは、元気そうにそう言った。安堵感で勝手にまぶたが下がってくる。もう……疲れたな……。
 

 意識を手放す直前、


 『これで終わったと思わないでくださいね~?』


そんなことを言うツメクの声が聞こえた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...