友人に裏切られて勇者にならざるを得なくなったけど、まだ交渉の余地はあるよね?

しぼりたて柑橘類

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三章R:汝、剣を振るえ

三話:うなされる悪夢

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 「うーん……ヤギが……ヤギを……ヤギに……」

 「うなされてるね」

 「う、うなされていますぅ…… 」


  私たちは、修道士さんの顔を覗き込んでそう言った。落下の衝撃で気を失った修道士さんだったが、ステラの顔を見るなり卒倒してしまったのだ。
 ま、まあ……宗教家なら無理はないかも。なにより自業自得だし。

 そんな彼が倒れてからしばらく経った。それでも追っ手のゴブリンは来ない。おそらく諦めたのだろう。
 私は修道士さんを小脇に抱えた。

 「ゼラ、前の方を持っててもらえる?」

 「は、はい……!」
 

  もう片方の手で、荷車の後ろの方を持ち上げる。水平になるように、少し高めに。


 「ちょっと大変だけど、このまま登っていこう」

 「は、はい! べ、ベイさんも着いてきてください……! 」

 「プルルッ」


 ゴツゴツした岩混じりの斜面を、二人と一匹は進んだ。……いや三人か。
  修道士さんの口ぶり的に、この辺りに孤児院がある。まずは、彼をそこに送り届けなければならない。この道をしばらく歩けば高台に着くはずだ。そこからなら見渡せるはず!


 「あ、あのぅ……」


 ステラが急に話しかけてきた。言葉にさっきまでの元気は無かった。


 「どうしたの? 疲れた?」

 「い、いいえ! そういうんじゃなくてですね……。
 この方……わたしを見て気を失われたんですよね…… ? だったら……わたしはここにいない方がいいのかなぁって……」



 そう弱々しく言った。耳は力なく垂れている。
 ステラは自分の見た目を理解している。そしてその異様さ、なぜ嫌われているかもだ。その姿は、言い伝えられてきた悪魔にとても似ていたのだ。
 私もあえて考えないようにしていたが、あの『冒涜的』という一言で思い出してしまった。  それはステラも同じなのだろう。


 「ステラ……」


 ステラの大きな背中が小さく見えた。足取りも重く、順調だった山登りもペースが落ちてしまった。


 「やっぱり……わ、わたしが勇者様の旅についていくだなんて……過ぎたマネだったんですよねっ……」

 「……ステラ?」

 「わ、わたしやっぱり……やっぱり何をやってもダメなんですぅっ……!」


 
 そう言って、荷車を取り落とした。両手で頭を抱え、うなだれて縮こまる。膝をつき、小さくまるまったステラの肩は震えていた。

 「ステラ! 大丈夫!?」


 私がそう言うも反応がない。言葉がまるで届いていないようだ。


 「わたし……わたし……やっぱり居ちゃダメなんですぅ……どこにも……あの小屋で……あの小屋の中で……燃えちゃえば良かったんですっ……!」
 
「そんな事言わないでよ!ステラ! 」

 私がステラの肩に触れる。

 「やめてっ!!」




 

 

 それとほぼ同時だった。私の体は中に浮いた。視界がぐるりと回った後、背中に衝撃を感じて地に落ちた。

 「ぐうっ……! がはっ!」

 
 突き飛ばされ、木に背中を打ったらしい。呼吸を整えながらステラの方を向く。……どこも痛めては居ないようだ。ステラは、ハッとした顔で私の方を見た。
 


 「り、リンさん!? わ、わ、わ……わたしは、なんてことをっ……! 」

  両目いっぱいに涙を浮かべ、ぐちゃぐちゃになった顔でそう叫んだ。ようやく私を見てくれたようだ。

 私は胸を撫で下ろす。そして、ゆっくりと近づく。

 「私ならずっとここにいるから……。だから……安心していいよ」

 「うぅ……ぐずっ……うぅぅぅ……りんさぁぁぁん……」

「大丈夫……大丈夫だからね……」



 ステラは私に抱きついて、そのまま寝てしまった。 すぅすぅと寝息を立てている。

 私はステラを小脇に抱え、荷車を引いた。



 静かな山の中を黙々と登り続ける。

 

 すると急に道が開けた。大きな原っぱ、奥には建物が見える。





 「おにいちゃんだあれ?」


 ボールを持った小さな子が、私に話かけてきた。
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