26 / 90
三章R:汝、剣を振るえ
三話:うなされる悪夢
しおりを挟む
「うーん……ヤギが……ヤギを……ヤギに……」
「うなされてるね」
「う、うなされていますぅ…… 」
私たちは、修道士さんの顔を覗き込んでそう言った。落下の衝撃で気を失った修道士さんだったが、ステラの顔を見るなり卒倒してしまったのだ。
ま、まあ……宗教家なら無理はないかも。なにより自業自得だし。
そんな彼が倒れてからしばらく経った。それでも追っ手のゴブリンは来ない。おそらく諦めたのだろう。
私は修道士さんを小脇に抱えた。
「ゼラ、前の方を持っててもらえる?」
「は、はい……!」
もう片方の手で、荷車の後ろの方を持ち上げる。水平になるように、少し高めに。
「ちょっと大変だけど、このまま登っていこう」
「は、はい! べ、ベイさんも着いてきてください……! 」
「プルルッ」
ゴツゴツした岩混じりの斜面を、二人と一匹は進んだ。……いや三人か。
修道士さんの口ぶり的に、この辺りに孤児院がある。まずは、彼をそこに送り届けなければならない。この道をしばらく歩けば高台に着くはずだ。そこからなら見渡せるはず!
「あ、あのぅ……」
ステラが急に話しかけてきた。言葉にさっきまでの元気は無かった。
「どうしたの? 疲れた?」
「い、いいえ! そういうんじゃなくてですね……。
この方……わたしを見て気を失われたんですよね…… ? だったら……わたしはここにいない方がいいのかなぁって……」
そう弱々しく言った。耳は力なく垂れている。
ステラは自分の見た目を理解している。そしてその異様さ、なぜ嫌われているかもだ。その姿は、言い伝えられてきた悪魔にとても似ていたのだ。
私もあえて考えないようにしていたが、あの『冒涜的』という一言で思い出してしまった。 それはステラも同じなのだろう。
「ステラ……」
ステラの大きな背中が小さく見えた。足取りも重く、順調だった山登りもペースが落ちてしまった。
「やっぱり……わ、わたしが勇者様の旅についていくだなんて……過ぎたマネだったんですよねっ……」
「……ステラ?」
「わ、わたしやっぱり……やっぱり何をやってもダメなんですぅっ……!」
そう言って、荷車を取り落とした。両手で頭を抱え、うなだれて縮こまる。膝をつき、小さくまるまったステラの肩は震えていた。
「ステラ! 大丈夫!?」
私がそう言うも反応がない。言葉がまるで届いていないようだ。
「わたし……わたし……やっぱり居ちゃダメなんですぅ……どこにも……あの小屋で……あの小屋の中で……燃えちゃえば良かったんですっ……!」
「そんな事言わないでよ!ステラ! 」
私がステラの肩に触れる。
「やめてっ!!」
それとほぼ同時だった。私の体は中に浮いた。視界がぐるりと回った後、背中に衝撃を感じて地に落ちた。
「ぐうっ……! がはっ!」
突き飛ばされ、木に背中を打ったらしい。呼吸を整えながらステラの方を向く。……どこも痛めては居ないようだ。ステラは、ハッとした顔で私の方を見た。
「り、リンさん!? わ、わ、わ……わたしは、なんてことをっ……! 」
両目いっぱいに涙を浮かべ、ぐちゃぐちゃになった顔でそう叫んだ。ようやく私を見てくれたようだ。
私は胸を撫で下ろす。そして、ゆっくりと近づく。
「私ならずっとここにいるから……。だから……安心していいよ」
「うぅ……ぐずっ……うぅぅぅ……りんさぁぁぁん……」
「大丈夫……大丈夫だからね……」
ステラは私に抱きついて、そのまま寝てしまった。 すぅすぅと寝息を立てている。
私はステラを小脇に抱え、荷車を引いた。
静かな山の中を黙々と登り続ける。
すると急に道が開けた。大きな原っぱ、奥には建物が見える。
「おにいちゃんだあれ?」
ボールを持った小さな子が、私に話かけてきた。
「うなされてるね」
「う、うなされていますぅ…… 」
私たちは、修道士さんの顔を覗き込んでそう言った。落下の衝撃で気を失った修道士さんだったが、ステラの顔を見るなり卒倒してしまったのだ。
ま、まあ……宗教家なら無理はないかも。なにより自業自得だし。
そんな彼が倒れてからしばらく経った。それでも追っ手のゴブリンは来ない。おそらく諦めたのだろう。
私は修道士さんを小脇に抱えた。
「ゼラ、前の方を持っててもらえる?」
「は、はい……!」
もう片方の手で、荷車の後ろの方を持ち上げる。水平になるように、少し高めに。
「ちょっと大変だけど、このまま登っていこう」
「は、はい! べ、ベイさんも着いてきてください……! 」
「プルルッ」
ゴツゴツした岩混じりの斜面を、二人と一匹は進んだ。……いや三人か。
修道士さんの口ぶり的に、この辺りに孤児院がある。まずは、彼をそこに送り届けなければならない。この道をしばらく歩けば高台に着くはずだ。そこからなら見渡せるはず!
「あ、あのぅ……」
ステラが急に話しかけてきた。言葉にさっきまでの元気は無かった。
「どうしたの? 疲れた?」
「い、いいえ! そういうんじゃなくてですね……。
この方……わたしを見て気を失われたんですよね…… ? だったら……わたしはここにいない方がいいのかなぁって……」
そう弱々しく言った。耳は力なく垂れている。
ステラは自分の見た目を理解している。そしてその異様さ、なぜ嫌われているかもだ。その姿は、言い伝えられてきた悪魔にとても似ていたのだ。
私もあえて考えないようにしていたが、あの『冒涜的』という一言で思い出してしまった。 それはステラも同じなのだろう。
「ステラ……」
ステラの大きな背中が小さく見えた。足取りも重く、順調だった山登りもペースが落ちてしまった。
「やっぱり……わ、わたしが勇者様の旅についていくだなんて……過ぎたマネだったんですよねっ……」
「……ステラ?」
「わ、わたしやっぱり……やっぱり何をやってもダメなんですぅっ……!」
そう言って、荷車を取り落とした。両手で頭を抱え、うなだれて縮こまる。膝をつき、小さくまるまったステラの肩は震えていた。
「ステラ! 大丈夫!?」
私がそう言うも反応がない。言葉がまるで届いていないようだ。
「わたし……わたし……やっぱり居ちゃダメなんですぅ……どこにも……あの小屋で……あの小屋の中で……燃えちゃえば良かったんですっ……!」
「そんな事言わないでよ!ステラ! 」
私がステラの肩に触れる。
「やめてっ!!」
それとほぼ同時だった。私の体は中に浮いた。視界がぐるりと回った後、背中に衝撃を感じて地に落ちた。
「ぐうっ……! がはっ!」
突き飛ばされ、木に背中を打ったらしい。呼吸を整えながらステラの方を向く。……どこも痛めては居ないようだ。ステラは、ハッとした顔で私の方を見た。
「り、リンさん!? わ、わ、わ……わたしは、なんてことをっ……! 」
両目いっぱいに涙を浮かべ、ぐちゃぐちゃになった顔でそう叫んだ。ようやく私を見てくれたようだ。
私は胸を撫で下ろす。そして、ゆっくりと近づく。
「私ならずっとここにいるから……。だから……安心していいよ」
「うぅ……ぐずっ……うぅぅぅ……りんさぁぁぁん……」
「大丈夫……大丈夫だからね……」
ステラは私に抱きついて、そのまま寝てしまった。 すぅすぅと寝息を立てている。
私はステラを小脇に抱え、荷車を引いた。
静かな山の中を黙々と登り続ける。
すると急に道が開けた。大きな原っぱ、奥には建物が見える。
「おにいちゃんだあれ?」
ボールを持った小さな子が、私に話かけてきた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

転生勇者の三軒隣んちの俺
@aozora
ファンタジー
ある日幼馴染のエミリーと遊んでいる時に木の枝から落ちて気を失ったジェイク。目を覚ました時、彼は自分が転生したと言う事を自覚する。ここはRPGファンタジーゲーム”ソードオブファンタジー”の世界、そして俺はオーランド王国の勇者、”赤髪のジェイク”。あのゲームで主人公は国王からの依頼で冒険の旅に旅立ったはず。ならばそれまでにゲーム開始時以上の力を手に入れれば。滾る想い、燃え上がる野心。少年は俺Tueeeをすべく行動を開始するのだった。
で、そんな様子を見て”うわ、まさにリアル中二病、マジかよ。”とか考える男が一人。
これはそんな二人が関わったり関わらなかったりする物語である。
この作品はカクヨム様、ノベルピア様、小説になろう様でも掲載させて頂いております。
よろしくお願いします。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる