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三章R:汝、剣を振るえ
一話:歩き始めは慎重に
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村からかなり歩いた。出発した地点からはだいぶ離れた。平坦だった道も石混じりで狭く、勾配がきつくなってきた。そろそろ荷車で運ぶのも限界かもしれない。
ステラは荷車の上で足を伸ばして、ずっと本を読んでいる。すごく難しい顔をして、何やら紙に書き留めては頭をひねっている。書いている内容はやはり私には読めない。
そして、改めて見たらステラはずっと裸足なのだ。走るのがあまり得意でなさそうなのは、裸足で走るのが痛いのもあるのかも。町に着いたら靴を見繕うのも悪くないかもしれないな。
……でもそれより服かも。さすがにローブ以外何も着てないのは良くないだろう。今は良くても北へ向かえば寒くもなってくる。風邪でもひいてしまったら大変だ。
そんなことを考えながら進み続けると、
[ぐぅぅぅぅ……]
「うひゃっ!? す、すみません……」
ステラの腹の虫が鳴った。
日はまだ高いが、ここらで休憩した方がいいだろう。
「ちょっと休憩がてらご飯にしようか!」
「は、はい……! そうしましょう!」
ベイの背中から鞍を外す。これで少し楽になっただろう。地図によればこのまま道なりに登り続けると山に入るらしく、その山を下ると『角尾町』に入れるらしい。
私はとりあえず火を起こし、貰ってきた豚とパンを切り分ける。沢山貰いすぎてしまったし、早めに食べてしまおう。
ステラはそれを枝で作った串に刺して火で炙る。そして香ばしい匂いがしてきたところで塩を振る。
このくらいしか知らないが、これが一番美味しいのだ。
私は十字を切ってから豚肉にかぶりついた。
「──!」
焦げ目の香ばしさと脂の甘さが口いっぱいに広がり、少し締まったその身は噛めば噛むほど出汁がこぼれ、塩味がそれをまとめる。
「美味しい! ステラ、すごく上手だね!」
「え、えへへ……わたしお料理なんてこれくらいしか出来ませんが……気に入っていただけて何よりです……」
そう言いながら私の二倍のペースで、パンと肉にかじりついている。その草食っぽい見た目とは裏腹にいい食べっぷりだ。
しばらく感心しながら見ていると、
「──っ!!」
ステラの横に垂れた耳が、ピンと真上に立った。そして見るからにうろたえながら私に近づくようにジェスチャーを送る。
「……う、うん」
頷いてから顔をステラに寄せると、両手と口を私の右耳に当てた。
「(こ、この近辺にゴブリンが大勢いるみたいです……! 十人ほどは集まっているかと……)」
耳を疑った。私はその存在に全く気が付かなかったのだ。仮にも私は元騎士団長だと言うのに、ステラの方が先に察知していたということになる。やっぱりステラはすごい。
ステラの耳はそれこそヤギの耳みたいな形をしている。ヤギとか草食動物は天敵から身を守るために、はるか先の音も聞くことができるらしい。おそらくステラの耳もそうなのだろう。
勝手にひとりで納得していた。
「なるほど……何かほかに音は聞こえる?」
「(えぇっと……な、なんだか話し声と……ガチャガチャしていてなんだか聞き取れないですっ……!)」
ガチャガチャなっているのは、多分鎧の音だ。ここまでの状況を踏まえると、そのゴブリンたちは統率がされている兵士と言ったところだろう。
参ったな。私が持ってきているのはリンがくれたロングソードくらい。鎧をもし着ているのならさすがに分が悪い。それだけでなく数も多い。飛び道具か何かで数を削っておきたいところだが……。現実的じゃないか。
「うーん……どうしようかな。とりあえず刺激しないように迂回しながら山に向かおうか……」
私がそう呟くと、ステラはまた耳を立てた。そして、
「(誰か……います! 男の人……ゴブリンに囲まれてます!!)」
確かにそう言った。そうなれば話は別だ。放っておける訳がない。口に残りのパンを放り込み、私は焚き火を踏み消した。
飲み込んで、ステラに聞く。
「助けに行こう。 方向はどっち?」
「あ、あっちです! まだちょっとだけ離れてます!」
「じゃあ隠れながら様子を見ようか。ベイはまだここに居ていいからね」
「プルルッ」
ベイはその辺の草を食みながら返事した。
「行こう」
「はいっ!」
私と……特にゼラは身をかがめ、ゆっくりと移動し始めた。
茂みに入って近づくと、少しずつ様子がわかってくる。と、いうよりも話し声が聞こえてき始めた。
ゴブリン十体ほど……人によっては兜すらつける高待遇。やはり兵士のようだ。そのゴブリンに囲まれていたのは修道士さんだ。聖書を片手に、必死になって説教を試みている。
「なりません! 私たちは孤児院を経営しているだけ。この荷物もその子たちの食料なのです! 返しなさい!」
「ギヘヘ、ヤナコッタ……!」
「オマエントコ、ガキイッパイ。 ツメクサマ、ヨロコブ」
「ダカラ、アケワタセ!」
口々にゴブリンはそんなことを言っている。ツメクサマ……『ツメク』様なのだろうか。もしかしたら魔王はそんな名前なのかもしれない。
ところで、どうやってあの人を救いだそうか。私はかなり打つ手なしだ。このままインファイトに持ち込めれば戦えるかもしれないが……。
頭を悩ませていると、ステラは私の肩を叩いた。
「わたしの……魔術に任せてください!」
そう言ったステラはなんだか自信満々だった。
ステラは荷車の上で足を伸ばして、ずっと本を読んでいる。すごく難しい顔をして、何やら紙に書き留めては頭をひねっている。書いている内容はやはり私には読めない。
そして、改めて見たらステラはずっと裸足なのだ。走るのがあまり得意でなさそうなのは、裸足で走るのが痛いのもあるのかも。町に着いたら靴を見繕うのも悪くないかもしれないな。
……でもそれより服かも。さすがにローブ以外何も着てないのは良くないだろう。今は良くても北へ向かえば寒くもなってくる。風邪でもひいてしまったら大変だ。
そんなことを考えながら進み続けると、
[ぐぅぅぅぅ……]
「うひゃっ!? す、すみません……」
ステラの腹の虫が鳴った。
日はまだ高いが、ここらで休憩した方がいいだろう。
「ちょっと休憩がてらご飯にしようか!」
「は、はい……! そうしましょう!」
ベイの背中から鞍を外す。これで少し楽になっただろう。地図によればこのまま道なりに登り続けると山に入るらしく、その山を下ると『角尾町』に入れるらしい。
私はとりあえず火を起こし、貰ってきた豚とパンを切り分ける。沢山貰いすぎてしまったし、早めに食べてしまおう。
ステラはそれを枝で作った串に刺して火で炙る。そして香ばしい匂いがしてきたところで塩を振る。
このくらいしか知らないが、これが一番美味しいのだ。
私は十字を切ってから豚肉にかぶりついた。
「──!」
焦げ目の香ばしさと脂の甘さが口いっぱいに広がり、少し締まったその身は噛めば噛むほど出汁がこぼれ、塩味がそれをまとめる。
「美味しい! ステラ、すごく上手だね!」
「え、えへへ……わたしお料理なんてこれくらいしか出来ませんが……気に入っていただけて何よりです……」
そう言いながら私の二倍のペースで、パンと肉にかじりついている。その草食っぽい見た目とは裏腹にいい食べっぷりだ。
しばらく感心しながら見ていると、
「──っ!!」
ステラの横に垂れた耳が、ピンと真上に立った。そして見るからにうろたえながら私に近づくようにジェスチャーを送る。
「……う、うん」
頷いてから顔をステラに寄せると、両手と口を私の右耳に当てた。
「(こ、この近辺にゴブリンが大勢いるみたいです……! 十人ほどは集まっているかと……)」
耳を疑った。私はその存在に全く気が付かなかったのだ。仮にも私は元騎士団長だと言うのに、ステラの方が先に察知していたということになる。やっぱりステラはすごい。
ステラの耳はそれこそヤギの耳みたいな形をしている。ヤギとか草食動物は天敵から身を守るために、はるか先の音も聞くことができるらしい。おそらくステラの耳もそうなのだろう。
勝手にひとりで納得していた。
「なるほど……何かほかに音は聞こえる?」
「(えぇっと……な、なんだか話し声と……ガチャガチャしていてなんだか聞き取れないですっ……!)」
ガチャガチャなっているのは、多分鎧の音だ。ここまでの状況を踏まえると、そのゴブリンたちは統率がされている兵士と言ったところだろう。
参ったな。私が持ってきているのはリンがくれたロングソードくらい。鎧をもし着ているのならさすがに分が悪い。それだけでなく数も多い。飛び道具か何かで数を削っておきたいところだが……。現実的じゃないか。
「うーん……どうしようかな。とりあえず刺激しないように迂回しながら山に向かおうか……」
私がそう呟くと、ステラはまた耳を立てた。そして、
「(誰か……います! 男の人……ゴブリンに囲まれてます!!)」
確かにそう言った。そうなれば話は別だ。放っておける訳がない。口に残りのパンを放り込み、私は焚き火を踏み消した。
飲み込んで、ステラに聞く。
「助けに行こう。 方向はどっち?」
「あ、あっちです! まだちょっとだけ離れてます!」
「じゃあ隠れながら様子を見ようか。ベイはまだここに居ていいからね」
「プルルッ」
ベイはその辺の草を食みながら返事した。
「行こう」
「はいっ!」
私と……特にゼラは身をかがめ、ゆっくりと移動し始めた。
茂みに入って近づくと、少しずつ様子がわかってくる。と、いうよりも話し声が聞こえてき始めた。
ゴブリン十体ほど……人によっては兜すらつける高待遇。やはり兵士のようだ。そのゴブリンに囲まれていたのは修道士さんだ。聖書を片手に、必死になって説教を試みている。
「なりません! 私たちは孤児院を経営しているだけ。この荷物もその子たちの食料なのです! 返しなさい!」
「ギヘヘ、ヤナコッタ……!」
「オマエントコ、ガキイッパイ。 ツメクサマ、ヨロコブ」
「ダカラ、アケワタセ!」
口々にゴブリンはそんなことを言っている。ツメクサマ……『ツメク』様なのだろうか。もしかしたら魔王はそんな名前なのかもしれない。
ところで、どうやってあの人を救いだそうか。私はかなり打つ手なしだ。このままインファイトに持ち込めれば戦えるかもしれないが……。
頭を悩ませていると、ステラは私の肩を叩いた。
「わたしの……魔術に任せてください!」
そう言ったステラはなんだか自信満々だった。
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