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二章R:その道は魔女の導き

六話:新しい夜明け

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  締め切った室内。ホコリっぽくてジメジメしている。私の真正面にはお父様が座っていて、その前で膝まづいている。


 私は今、家でお父様にお叱りを受けている。

 騎士の叙勲を受けたため、ローレルを連れて里帰りしたのだ。ローレルが帰ってから、私は家の一室に閉じ込められていた。


「お前は騎士にならなければならない。立派な騎士にならねばならない。この国のために」

 「はい。お父様」

 「お前は信心深くなければならない。人徳を持ち、人格者でもなくてはならない。この国のために」

 「……はい。お父様」

 「そして、常に冷徹であるのだ。 特にあの金持ちの小僧、ローレル。あいつはお前……果ては国の邪魔にしかならん」



 そう言って、お父様は一本のダガーを私に投げた。刃は反り返り、鋭く長い。こんなものを刺しては無事では済まないだろう。


 「殺せ」

 そう一言だけ言った。おずおずと見上げた先には、一筋の光がぎらついていた。

















 「ん……あ……?」


 
 眩しくて顔をしかめる。手で光をさえぎり、目元を揉みほぐす。瞬きをすると、少しずつものか見えてきた。

 目の前には朝日。森の木々からひょっこりと顔を出した。……あれは夢だったようだ。


 「あ、朝かぁ……嫌な夢だなぁ……」


 昨日お祈りをしていたら、そのうちに寝てしまっていたようだ。
 目の前に突き立てた剣を引き抜き、立ち上がって思いっきり後ろに伸びる。


 「……う~ん!」


 立膝のまま寝ていたせいもあり、ちょっと体が痛い。少し体を動かすだけで、体の凝りがほぐれていくのがわかった。
 
  一通り動かしたあと、小枝を集める。そして持ってきた火打石で火をつける。それと……。



「……んあ?……あ! 朝はお早いんですねぇ……!」
 
 「プルルルッ」


 栗毛の彼と、一緒に寝ていたステラが起き上がった。
 
 ……いい加減、彼にも呼び名をつけた方がいいだろうか。なんだか呼びづらい。


 「 ああ、おはよう!昨日はよく眠れた?」

 「そっそれはもうぐっすりと!!じゃないっ!あ、ああいえっ! おはようございますっ!」

  そう言ってステラは一礼した。そして、焚き火の方をまじまじと見つめる。



「その……このお魚どうされたんですかぁ?」

 「えっと……村の人たちが『昨日ははすまなかった』って言って分けてくれたんだよ」

 「へ、へぇ……」

 ステラは神妙な面持ちで、焚き火にかかる数匹の魚と私の顔を見比べる。


この顔は「これ私のなんですか?」か「魚なんて食べるんですか!?なんて野蛮な!」のどっちかの顔だ。 



 異宗教の人間は別の価値観があるのだと、以前言われたことがある。もっともローレルの受け売りだが。
 つまり、私の常識は彼女の常識でない。というか見た目が草食のそれだし、常識なんてあってないようなものだ。

ならば少しだけでも探りを入れるべきだ。


私は感情の捉えにくい一文字な瞳孔を懸命に覗く。
どっちの顔だろうかこれは。やっぱりわかんない。


  
 「あ、あのぅ……それって……」


「昨日の夜、村の人に貰ったんだ! 『昨日はすまなかった』って。ステラさえ良ければ一緒に食べたいんだけど……魚は好き?」

 「はい!大好きですっ!!  」

  

 即答だった。目をキラキラと輝かせる。焚き火の近くにステラを座らせ、私はその反対側に座った。
 
 拙すぎるコミュニケーションではあったが、偉大なる異文化交流の第一歩だ。極めて文明的なやり取りができた気さえする。

 上機嫌に魚を頬張るステラ。


 「はふっ……!はふっ! おいひぃ!!!」


 なんだか背中の当たりがパタパタと動いている。どうやら彼女にはしっぽも生えているみたいだ。
 栗毛の彼はその辺の芝を食んでいる。
 


 それを横目に、私は2回胸の前で十字を切って手を組んだ。

  一つはこのお恵みと慈しみへの感謝。そしてこの食物への祝福と勤労の誓いを。

 一つは懺悔。私が行っている冒涜的な行動と、その背徳感に心踊らされていることへの。
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