15 / 90
二章R:その道は魔女の導き
六話:新しい夜明け
しおりを挟む
締め切った室内。ホコリっぽくてジメジメしている。私の真正面にはお父様が座っていて、その前で膝まづいている。
私は今、家でお父様にお叱りを受けている。
騎士の叙勲を受けたため、ローレルを連れて里帰りしたのだ。ローレルが帰ってから、私は家の一室に閉じ込められていた。
「お前は騎士にならなければならない。立派な騎士にならねばならない。この国のために」
「はい。お父様」
「お前は信心深くなければならない。人徳を持ち、人格者でもなくてはならない。この国のために」
「……はい。お父様」
「そして、常に冷徹であるのだ。 特にあの金持ちの小僧、ローレル。あいつはお前……果ては国の邪魔にしかならん」
そう言って、お父様は一本のダガーを私に投げた。刃は反り返り、鋭く長い。こんなものを刺しては無事では済まないだろう。
「殺せ」
そう一言だけ言った。おずおずと見上げた先には、一筋の光がぎらついていた。
「ん……あ……?」
眩しくて顔をしかめる。手で光をさえぎり、目元を揉みほぐす。瞬きをすると、少しずつものか見えてきた。
目の前には朝日。森の木々からひょっこりと顔を出した。……あれは夢だったようだ。
「あ、朝かぁ……嫌な夢だなぁ……」
昨日お祈りをしていたら、そのうちに寝てしまっていたようだ。
目の前に突き立てた剣を引き抜き、立ち上がって思いっきり後ろに伸びる。
「……う~ん!」
立膝のまま寝ていたせいもあり、ちょっと体が痛い。少し体を動かすだけで、体の凝りがほぐれていくのがわかった。
一通り動かしたあと、小枝を集める。そして持ってきた火打石で火をつける。それと……。
「……んあ?……あ! 朝はお早いんですねぇ……!」
「プルルルッ」
栗毛の彼と、一緒に寝ていたステラが起き上がった。
……いい加減、彼にも呼び名をつけた方がいいだろうか。なんだか呼びづらい。
「 ああ、おはよう!昨日はよく眠れた?」
「そっそれはもうぐっすりと!!じゃないっ!あ、ああいえっ! おはようございますっ!」
そう言ってステラは一礼した。そして、焚き火の方をまじまじと見つめる。
「その……このお魚どうされたんですかぁ?」
「えっと……村の人たちが『昨日ははすまなかった』って言って分けてくれたんだよ」
「へ、へぇ……」
ステラは神妙な面持ちで、焚き火にかかる数匹の魚と私の顔を見比べる。
この顔は「これ私のなんですか?」か「魚なんて食べるんですか!?なんて野蛮な!」のどっちかの顔だ。
異宗教の人間は別の価値観があるのだと、以前言われたことがある。もっともローレルの受け売りだが。
つまり、私の常識は彼女の常識でない。というか見た目が草食のそれだし、常識なんてあってないようなものだ。
ならば少しだけでも探りを入れるべきだ。
私は感情の捉えにくい一文字な瞳孔を懸命に覗く。
どっちの顔だろうかこれは。やっぱりわかんない。
「あ、あのぅ……それって……」
「昨日の夜、村の人に貰ったんだ! 『昨日はすまなかった』って。ステラさえ良ければ一緒に食べたいんだけど……魚は好き?」
「はい!大好きですっ!! 」
即答だった。目をキラキラと輝かせる。焚き火の近くにステラを座らせ、私はその反対側に座った。
拙すぎるコミュニケーションではあったが、偉大なる異文化交流の第一歩だ。極めて文明的なやり取りができた気さえする。
上機嫌に魚を頬張るステラ。
「はふっ……!はふっ! おいひぃ!!!」
なんだか背中の当たりがパタパタと動いている。どうやら彼女にはしっぽも生えているみたいだ。
栗毛の彼はその辺の芝を食んでいる。
それを横目に、私は2回胸の前で十字を切って手を組んだ。
一つはこのお恵みと慈しみへの感謝。そしてこの食物への祝福と勤労の誓いを。
一つは懺悔。私が行っている冒涜的な行動と、その背徳感に心踊らされていることへの。
私は今、家でお父様にお叱りを受けている。
騎士の叙勲を受けたため、ローレルを連れて里帰りしたのだ。ローレルが帰ってから、私は家の一室に閉じ込められていた。
「お前は騎士にならなければならない。立派な騎士にならねばならない。この国のために」
「はい。お父様」
「お前は信心深くなければならない。人徳を持ち、人格者でもなくてはならない。この国のために」
「……はい。お父様」
「そして、常に冷徹であるのだ。 特にあの金持ちの小僧、ローレル。あいつはお前……果ては国の邪魔にしかならん」
そう言って、お父様は一本のダガーを私に投げた。刃は反り返り、鋭く長い。こんなものを刺しては無事では済まないだろう。
「殺せ」
そう一言だけ言った。おずおずと見上げた先には、一筋の光がぎらついていた。
「ん……あ……?」
眩しくて顔をしかめる。手で光をさえぎり、目元を揉みほぐす。瞬きをすると、少しずつものか見えてきた。
目の前には朝日。森の木々からひょっこりと顔を出した。……あれは夢だったようだ。
「あ、朝かぁ……嫌な夢だなぁ……」
昨日お祈りをしていたら、そのうちに寝てしまっていたようだ。
目の前に突き立てた剣を引き抜き、立ち上がって思いっきり後ろに伸びる。
「……う~ん!」
立膝のまま寝ていたせいもあり、ちょっと体が痛い。少し体を動かすだけで、体の凝りがほぐれていくのがわかった。
一通り動かしたあと、小枝を集める。そして持ってきた火打石で火をつける。それと……。
「……んあ?……あ! 朝はお早いんですねぇ……!」
「プルルルッ」
栗毛の彼と、一緒に寝ていたステラが起き上がった。
……いい加減、彼にも呼び名をつけた方がいいだろうか。なんだか呼びづらい。
「 ああ、おはよう!昨日はよく眠れた?」
「そっそれはもうぐっすりと!!じゃないっ!あ、ああいえっ! おはようございますっ!」
そう言ってステラは一礼した。そして、焚き火の方をまじまじと見つめる。
「その……このお魚どうされたんですかぁ?」
「えっと……村の人たちが『昨日ははすまなかった』って言って分けてくれたんだよ」
「へ、へぇ……」
ステラは神妙な面持ちで、焚き火にかかる数匹の魚と私の顔を見比べる。
この顔は「これ私のなんですか?」か「魚なんて食べるんですか!?なんて野蛮な!」のどっちかの顔だ。
異宗教の人間は別の価値観があるのだと、以前言われたことがある。もっともローレルの受け売りだが。
つまり、私の常識は彼女の常識でない。というか見た目が草食のそれだし、常識なんてあってないようなものだ。
ならば少しだけでも探りを入れるべきだ。
私は感情の捉えにくい一文字な瞳孔を懸命に覗く。
どっちの顔だろうかこれは。やっぱりわかんない。
「あ、あのぅ……それって……」
「昨日の夜、村の人に貰ったんだ! 『昨日はすまなかった』って。ステラさえ良ければ一緒に食べたいんだけど……魚は好き?」
「はい!大好きですっ!! 」
即答だった。目をキラキラと輝かせる。焚き火の近くにステラを座らせ、私はその反対側に座った。
拙すぎるコミュニケーションではあったが、偉大なる異文化交流の第一歩だ。極めて文明的なやり取りができた気さえする。
上機嫌に魚を頬張るステラ。
「はふっ……!はふっ! おいひぃ!!!」
なんだか背中の当たりがパタパタと動いている。どうやら彼女にはしっぽも生えているみたいだ。
栗毛の彼はその辺の芝を食んでいる。
それを横目に、私は2回胸の前で十字を切って手を組んだ。
一つはこのお恵みと慈しみへの感謝。そしてこの食物への祝福と勤労の誓いを。
一つは懺悔。私が行っている冒涜的な行動と、その背徳感に心踊らされていることへの。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
転生したので好きに生きよう!
ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。
不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。
奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。
※見切り発車感が凄い。
※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
転生幼女は幸せを得る。
泡沫 ウィルベル
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!?
今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−
チュートリアル場所でLv9999になっちゃいました。
ss
ファンタジー
これは、ひょんなことから異世界へと飛ばされた青年の物語である。
高校三年生の竹林 健(たけばやし たける)を含めた地球人100名がなんらかの力により異世界で過ごすことを要求される。
そんな中、安全地帯と呼ばれている最初のリスポーン地点の「チュートリアル場所」で主人公 健はあるスキルによりレベルがMAXまで到達した。
そして、チュートリアル場所で出会った一人の青年 相斗と一緒に異世界へと身を乗り出す。
弱体した異世界を救うために二人は立ち上がる。
※基本的には毎日7時投稿です。作者は気まぐれなのであくまで目安くらいに思ってください。設定はかなりガバガバしようですので、暖かい目で見てくれたら嬉しいです。
※コメントはあんまり見れないかもしれません。ランキングが上がっていたら、報告していただいたら嬉しいです。
Hotランキング 1位
ファンタジーランキング 1位
人気ランキング 2位
100000Pt達成!!
異世界で至った男は帰還したがファンタジーに巻き込まれていく
竹桜
ファンタジー
神社のお参り帰りに異世界召喚に巻き込まれた主人公。
巻き込まれただけなのに、狂った姿を見たい為に何も無い真っ白な空間で閉じ込められる。
千年間も。
それなのに主人公は鍛錬をする。
1つのことだけを。
やがて、真っ白な空間から異世界に戻るが、その時に至っていたのだ。
これは異世界で至った男が帰還した現実世界でファンタジーに巻き込まれていく物語だ。
そして、主人公は至った力を存分に振るう。
神様のミスで女に転生したようです
結城はる
ファンタジー
34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。
いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。
目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。
美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい
死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。
気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。
ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。
え……。
神様、私女になってるんですけどーーーー!!!
小説家になろうでも掲載しています。
URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」
ダンジョン配信 【人と関わるより1人でダンジョン探索してる方が好きなんです】ダンジョン生活10年目にして配信者になることになった男の話
天野 星屑
ファンタジー
突如地上に出現したダンジョン。中では現代兵器が使用できず、ダンジョンに踏み込んだ人々は、ダンジョンに初めて入ることで発現する魔法などのスキルと、剣や弓といった原始的な武器で、ダンジョンの環境とモンスターに立ち向かい、その奥底を目指すことになった。
その出現からはや10年。ダンジョン探索者という職業が出現し、ダンジョンは身近な異世界となり。ダンジョン内の様子を外に配信する配信者達によってダンジョンへの過度なおそれも減った現在。
ダンジョン内で生活し、10年間一度も地上に帰っていなかった男が、とある事件から配信者達と関わり、己もダンジョン内の様子を配信することを決意する。
10年間のダンジョン生活。世界の誰よりも豊富な知識と。世界の誰よりも長けた戦闘技術によってダンジョンの様子を明らかにする男は、配信を通して、やがて、世界に大きな動きを生み出していくのだった。
*本作は、ダンジョン籠もりによって強くなった男が、配信を通して地上の人たちや他の配信者達と関わっていくことと、ダンジョン内での世界の描写を主としています
*配信とは言いますが、序盤はいわゆるキャンプ配信とかブッシュクラフト、旅動画みたいな感じが多いです。のちのち他の配信者と本格的に関わっていくときに、一般的なコラボ配信などをします
*主人公と他の探索者(配信者含む)の差は、後者が1~4まで到達しているのに対して、前者は100を越えていることから推察ください。
*主人公はダンジョン引きこもりガチ勢なので、あまり地上に出たがっていません
パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる