21 / 90
二章L:その道は聖女との取り引き
四話:魔女はいなくともゴブリンはいる
しおりを挟む
王都から走って一時間ほど。俺らは魔女の森の前に着いた。
「ハァ……ハァ……馬のポテンシャル舐めてたわ……なんでこんなクソ遠いところに最高速のまま突っ込めるのよ……」
「知らないですよ……特に彼女は別格なんです。あなたには負けますが血気盛んですよ」
「言うわねローレル。アンタの何考えてるか知らない腹の底を風通し良くしてやるわ」
「どうかご勘弁を。穴が空くのは仕事の予定だけで結構ですからね」
軽口を叩きながら、先程ビオサが開けたトンネルの中をくぐる。
その森のあまりの暗さは、今が昼であることを忘れさせるほどだ。
「うっわ……薄気味悪いわね。魔女はおろかゴブリンも湧きそうねここ」
「口が悪いですよゼラさん。 ゴブリンなんかいないですよ。ここは国境からかなり離れているんですから」
ここ魔女の森は流刑地である。周りを茨に囲まれた天然の要塞は、その内外を隔絶する。そのためこの中に寄り付く人など、ろくな素性ではない。ここを超えた先にまだまだ緩衝地帯は広がるのだが、その途中に村があるとかっていう噂もある。
ただ徴税逃れをするのなら、そう言う場所に流刑者だらけの村を作るのにはうってつけだろう。
そんなことを考えながら、低く屈んで進む。俺の前を、ずっと立ったまま歩けるゼラが憎い。
「ねぇ……もっとこう……なんか野生動物とか居ないわけ?こうも殺風景に森、森、森だと気が狂いそうなんだけど」
「居ませんよ。正確には居ますけれど、ここらの生物は密漁者がいるせいで警戒心が強いんです」
「うへぇ……背景すら陰湿な森ね……。早くこんなとこ出ましょ!」
そういえば禁止薬物の取引現場にもなってるとか何とか……。ところでリンに飲ませたあの薬は本当に毒薬だったのだろうか?そういえばあの時はそそのかされるがまま、特に相手側のことも調べないで買ってしまった。不思議な魅力があったのだ。……一体アレは……。
考えながら歩いていると、
「痛っ!」
何かにぶつかって、尻もちをつく。見上げると、ゼラが立ち尽くしていた。
「何やってるんですか? この森の木々の仲間入りのつもりですか?」
俺がそう言うが、ゼラは何も答えない。見ると、その体は小刻みに震えている。
「……いないって」
「へ?」
「いないって言ったじゃないゴブリン!!!!」
ゼラの横から顔を覗かせると、確かに目の前にはゴブリン三兄弟。こんなところにいるはずも無いのだが……真新しいククリナイフを持っている奴を見てはっきりした。
こいつら徒党を組んで盗賊まがいのことをしてやがる。
「アァ……オアエ……イイア?」
俺を指さし、ゴブリンはそう言った。
「ひいっ!? アンタ!! このゴブリンと知り合いだったりする!?顔が広いのねっ!!」
「いえ。 初対面です。ですが……」
何かがおかしい。ゴブリンは人間ほどとまではいかないが、知性は高く言語を扱う。 多くは人語を解するはずだが……。
「あー……そこ行く御仁。何用ですかな? ここらは不緩衝地帯ですが、この先は人間の国ですよ?」
ゴブリンたちはこちらを見るも、必死に口をパクパクと動かすばかり。口から出てくるのは叫び声だけだ。
もしかして、ここらに住み着いたゴブリン族の独自の言語か?
「ウオッ……イイオエアインア! オエアオ、イアアアイアア……」
一体は他のゴブリンに話しかけているようだが、まるっきり互いの言葉に聞く耳を持たない。独自言語の線は無いな。
「イイ!イイアンアオ、オアエ? アウエエウエ!」
そうやってすがりついてくる。こいつよく見たらどこかがおかしいような……?
[ドスン……]
何かが落ちたような音がして振り返ると、ゼラが尻もちを着いていた。震える指先をこちらに向けている。
「したが…… 」
「したが? どうしたんですか?」
「舌がないのよ……このゴブリンたち……」
そう言われてすぐにゴブリンの口を覗く。
「オウイア? アイアアッアオア?」
開いた口の中、ゴブリン特有の長い舌はどこにも見られずただ真っ暗な空洞になっていた。
「まさか……」
この残忍性……リンの両親を襲った奴と同じ犯人がここにいやがるのか……?
俺が首を傾げていると、
「イイ、イイ! オッイ、オイ!」
そう言って俺の手を引いた。今のは「騎士、騎士、こっち、来い!」か。なるほど、聞き取れるようになってきたぞ。
「ゼラさん。私についてきてください。彼らの目的は少なくとも追い剥ぎではありません」
「わ、わかったわよ……」
ゼラは俺の後ろをおずおずと着いてきた。
「オオ! オオ!」
ここ、ここ! か。ゴブリンは茂みを指さしてそう言った。
促されるままに、茂みをかきわける。
「さーて……お宝でもあればいいですね」
「調子のいいこと言ってんじゃないわよ」
「って……そう、うまいこといきませんよね……」
「っ……!」
俺らは息を飲んだ。そこにはボロボロの男が一人。血まみれで横たわっていたのだ。
「たす……けてくれ……」
「ハァ……ハァ……馬のポテンシャル舐めてたわ……なんでこんなクソ遠いところに最高速のまま突っ込めるのよ……」
「知らないですよ……特に彼女は別格なんです。あなたには負けますが血気盛んですよ」
「言うわねローレル。アンタの何考えてるか知らない腹の底を風通し良くしてやるわ」
「どうかご勘弁を。穴が空くのは仕事の予定だけで結構ですからね」
軽口を叩きながら、先程ビオサが開けたトンネルの中をくぐる。
その森のあまりの暗さは、今が昼であることを忘れさせるほどだ。
「うっわ……薄気味悪いわね。魔女はおろかゴブリンも湧きそうねここ」
「口が悪いですよゼラさん。 ゴブリンなんかいないですよ。ここは国境からかなり離れているんですから」
ここ魔女の森は流刑地である。周りを茨に囲まれた天然の要塞は、その内外を隔絶する。そのためこの中に寄り付く人など、ろくな素性ではない。ここを超えた先にまだまだ緩衝地帯は広がるのだが、その途中に村があるとかっていう噂もある。
ただ徴税逃れをするのなら、そう言う場所に流刑者だらけの村を作るのにはうってつけだろう。
そんなことを考えながら、低く屈んで進む。俺の前を、ずっと立ったまま歩けるゼラが憎い。
「ねぇ……もっとこう……なんか野生動物とか居ないわけ?こうも殺風景に森、森、森だと気が狂いそうなんだけど」
「居ませんよ。正確には居ますけれど、ここらの生物は密漁者がいるせいで警戒心が強いんです」
「うへぇ……背景すら陰湿な森ね……。早くこんなとこ出ましょ!」
そういえば禁止薬物の取引現場にもなってるとか何とか……。ところでリンに飲ませたあの薬は本当に毒薬だったのだろうか?そういえばあの時はそそのかされるがまま、特に相手側のことも調べないで買ってしまった。不思議な魅力があったのだ。……一体アレは……。
考えながら歩いていると、
「痛っ!」
何かにぶつかって、尻もちをつく。見上げると、ゼラが立ち尽くしていた。
「何やってるんですか? この森の木々の仲間入りのつもりですか?」
俺がそう言うが、ゼラは何も答えない。見ると、その体は小刻みに震えている。
「……いないって」
「へ?」
「いないって言ったじゃないゴブリン!!!!」
ゼラの横から顔を覗かせると、確かに目の前にはゴブリン三兄弟。こんなところにいるはずも無いのだが……真新しいククリナイフを持っている奴を見てはっきりした。
こいつら徒党を組んで盗賊まがいのことをしてやがる。
「アァ……オアエ……イイア?」
俺を指さし、ゴブリンはそう言った。
「ひいっ!? アンタ!! このゴブリンと知り合いだったりする!?顔が広いのねっ!!」
「いえ。 初対面です。ですが……」
何かがおかしい。ゴブリンは人間ほどとまではいかないが、知性は高く言語を扱う。 多くは人語を解するはずだが……。
「あー……そこ行く御仁。何用ですかな? ここらは不緩衝地帯ですが、この先は人間の国ですよ?」
ゴブリンたちはこちらを見るも、必死に口をパクパクと動かすばかり。口から出てくるのは叫び声だけだ。
もしかして、ここらに住み着いたゴブリン族の独自の言語か?
「ウオッ……イイオエアインア! オエアオ、イアアアイアア……」
一体は他のゴブリンに話しかけているようだが、まるっきり互いの言葉に聞く耳を持たない。独自言語の線は無いな。
「イイ!イイアンアオ、オアエ? アウエエウエ!」
そうやってすがりついてくる。こいつよく見たらどこかがおかしいような……?
[ドスン……]
何かが落ちたような音がして振り返ると、ゼラが尻もちを着いていた。震える指先をこちらに向けている。
「したが…… 」
「したが? どうしたんですか?」
「舌がないのよ……このゴブリンたち……」
そう言われてすぐにゴブリンの口を覗く。
「オウイア? アイアアッアオア?」
開いた口の中、ゴブリン特有の長い舌はどこにも見られずただ真っ暗な空洞になっていた。
「まさか……」
この残忍性……リンの両親を襲った奴と同じ犯人がここにいやがるのか……?
俺が首を傾げていると、
「イイ、イイ! オッイ、オイ!」
そう言って俺の手を引いた。今のは「騎士、騎士、こっち、来い!」か。なるほど、聞き取れるようになってきたぞ。
「ゼラさん。私についてきてください。彼らの目的は少なくとも追い剥ぎではありません」
「わ、わかったわよ……」
ゼラは俺の後ろをおずおずと着いてきた。
「オオ! オオ!」
ここ、ここ! か。ゴブリンは茂みを指さしてそう言った。
促されるままに、茂みをかきわける。
「さーて……お宝でもあればいいですね」
「調子のいいこと言ってんじゃないわよ」
「って……そう、うまいこといきませんよね……」
「っ……!」
俺らは息を飲んだ。そこにはボロボロの男が一人。血まみれで横たわっていたのだ。
「たす……けてくれ……」
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

転生勇者の三軒隣んちの俺
@aozora
ファンタジー
ある日幼馴染のエミリーと遊んでいる時に木の枝から落ちて気を失ったジェイク。目を覚ました時、彼は自分が転生したと言う事を自覚する。ここはRPGファンタジーゲーム”ソードオブファンタジー”の世界、そして俺はオーランド王国の勇者、”赤髪のジェイク”。あのゲームで主人公は国王からの依頼で冒険の旅に旅立ったはず。ならばそれまでにゲーム開始時以上の力を手に入れれば。滾る想い、燃え上がる野心。少年は俺Tueeeをすべく行動を開始するのだった。
で、そんな様子を見て”うわ、まさにリアル中二病、マジかよ。”とか考える男が一人。
これはそんな二人が関わったり関わらなかったりする物語である。
この作品はカクヨム様、ノベルピア様、小説になろう様でも掲載させて頂いております。
よろしくお願いします。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。

とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。

だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる