友人に裏切られて勇者にならざるを得なくなったけど、まだ交渉の余地はあるよね?

しぼりたて柑橘類

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二章R:その道は魔女の導き

五話:魔女は追われる

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 私がステラと一緒に村に向かうと、何故か小屋の前に人だかりが……!?みんな松明やら稲刈り用の鎌やら物騒なものを持っている。

私たちは茂みの中でその様子を見ていた。


 「クソっ!魔女を連れて行きやがったな勇者!!どこに逃げやがった!」
 「馬がここに居るってことはまだ遠くまで行ってねえはずだ!!」
 「どうしようか……この不気味な小屋燃やした方がいいんじゃねえか?」


 そんなことを村の大人たちは口々に言っている。


 「(ど、どうしてなんでしょうか……)」

 小声でステラは言う。なんだか肩を竦めて不安そうだ。

 「(分からない……一体どうしたんだろう……)」


 どうやら私とステラを探しているようだ。話の雰囲気的に丸く収まりそうではないけど……。


  「(とりあえず、私が先に話をしてくるから。しばらくそこにいてね)」

 そう言うと、ステラは首を何度も縦に振って応えた。
 

  私は茂みから抜けて、村人たちの前に出た。

 「ゆ、勇者が戻ってきたぞう!!」 

 一人がそう言うと、わらわらと私のところに向かってきた。
 
 「化け物は一体どこに!?」
 「魔女を連れていったのか!? お前何するつもりだ!」
 「やっぱりお前俺らを殺しに来たんだな!」


 私は両手を広げて密着されないようにする。いくら訓練していないとはいえ、凶器を持った大勢襲ってくるとなるとひとたまりもない。


 「お、落ち着いてください。 どなたかきちんとお話をさせてください!」 


 
 私がそう言うと、一際ご高齢の方が後ろからやってきた。


 「……失礼したな勇者殿。わしはこの村の長老。若いもんに代わろう 」

 そう行ってきたので私は目線を合わせて答える。



 「はい。それはいいですが……どうされたんですか?ま、魔物なら倒してきたので問題ないですよ 」


 本日二度目のなれない嘘をついた。

「そうか。辺りにいた魔物を倒してくれたのなら、礼を言う。しかしな……」


 そこまでいって小屋の方を指さす。


 「魔女は……どこに居るのだ。 あやつはこの村の汚点。しかしこの村から外に出す訳にはいかん」

 「なぜ……ステラをそこまで毛嫌いしているんですか」

 「好き嫌いの話ではない。それがこの村……否、この世界のためなのだ」


 「ですがステラは子供たちに何をされていたかご存知ですか? 暴力を受けていたんですよ!? そんな扱いが許されるわけないでしょう!?」



 私がそう言うと、長老はため息をついた。



 「……魔女に肩入れするか勇者よ。あの女は呪われておる。世にはなってはならんのだ!災いが起こるのだ!……答えようによってはここで死んでもらうぞ!」

 後ろをちらりと見ると、ステラが私を潤んだ目で見ていた。
 ……私は一呼吸して、答えた。


 「肩入れなどしていない」

 「ほう?」


 「私とステラはもう仲間だ。これ以上の暴力はどんな理由だろうと見過ごせない」

 「ならば仕方あるまい。……小屋に火をつけろ」

 「──!」


  
 長老の一言と共に、ステラの小屋に火が放たれる。火は屋根の端から一気に燃え広がり、ごうごうと燃え始めた。

 「い、いや…… !わたしの家がっ!」

 ステラが驚いて茂みから出てきてしまう。


 「おい、魔女だ!魔女がいたぞ!」
 「今だ!殺せ!」


  そして瞬く間に見つかってしまった。ステラは結構走るのが苦手のようだ、逃げてもすぐに追いつかれてしまうだろう。
 一体どうすれば……!

 「おい! さっさと進めじゃじゃ馬!」

 「ブルルルッ!! 」

 「う、うわあ! お前手綱をちゃんと持ちやがれ!ひっ!蹴られる!」







 これだ!きっと彼は賢い。何とかしてくれるはずだ!

 私は人混みを押し分け、必死の抵抗をする彼の方に真っ直ぐ走る。 

 「な、なんだ! 邪魔するな!」

 「邪魔なのはそっちだよ!」

 
 手綱を掴んでいる男の胸の当たりを、走った勢いのまま思いっきり殴りつける!

 「ぶへっ!!」


 男の体は中を舞い、そのさなかに手綱から手を離した。そして私は彼の鼻の頭に両手を擦り付ける。

 「この匂いだよ! あの子を連れて森の中に!」

 「ヒヒンッ!!」



 私がそう言うと、彼はステラの方に一直線。道中の村人を蹴散らしていく。


 「ぎゃあああ!!」
 「ぐわっ!」
 「馬を離しやがったな!あの野郎!」
  

  さすがに武器を持っていようと、訓練していない以上、急にやってきた馬に反応できるはずがないだろうと踏んでいたが大当たりだったようだ。

 そのまま栗毛の彼はステラを咥え、ひょいと背中に乗せて森の中に走り去った。

 
 それを見届けると同時に、私は燃える小屋に突っ込む!

 「ば、馬鹿!死にてえのかこの勇者!」
 「水を持ってこい! さすがに勇者がここで死んだとなればこの村が潰されてしまう!」


 そんな声を小耳に挟みながら、大急ぎで書類をまとめる。小屋にはたくさんの紙があり、どれも壁に貼られていたり、床に散乱しているせいで所々火がついている。

 「ぐ、ぐうっ!」


 それをできるだけ文字に影響のないよう踏みつけ、消して、束ねていく。置いてあった彫刻、絵、飾りなども拾い集める。

 あとは大急ぎで本棚のものを……!  私がそう思って本棚の大きな本を抜こうとした時だ。

 「ぐぎぎ……抜けなっ……軽い?」


  本は本棚から全然抜けそうな気配が無かったものの、それを持ち手に本棚を浮かせることが出来そうなほど、本棚は軽かった。火事場の馬鹿力ってやつだろうか?なんにせよ好都合だ!

  
  「それなら!」


 私は本棚を寝かせ、荷物を本棚に載せて乗せて乗せて……!



[バキッ……!]


 頭上の梁がそんな音を立てて折れ曲がった。



 「……っ!」


 
 まずい!小屋が崩れる!







[ズドーン!!]










 
 小屋が崩れる様を、私は少し遠くの場所からみていた。
 ステラの家が……壊された。


  しかし傷心している場合ではない。私は本棚を頭上に抱えて森の中に入った。












 何とか森を走り抜け、川までたどり着く。ステラは座って休んでいた馬の背で泣きじゃくっていた。
 

  「うぅ……りんさんがぁぁ……わたしのいえがぁ……わたしのいばしょがぁぁぁ…………」


  川岸に本棚を寝かせ、ステラの肩を叩いた。


 「ごめんなさい……まさかあんなことになるだなんて……」
 
   
 ステラは私の姿を見ると驚いたのか目をまん丸にして飛び上がり、そして私にすがりついた。


 「よかったぁぁぁぁ!!!  りんさんもいなくなっちゃったかとおもいましたぁぁぁ!!」

 「ごめん……ごめんね……」







 追っ手も来ない今、私はステラを抱きしめ返すことしか出来なかった。







 落ち着いたステラに本棚を見せる。

 「一応全部持ってきたと思うんだけど……どうかな…… ?」

 「す、すごい……全部、全部入ってます……い、いったいどうやって!?」


 喜びと言うより、驚きの表情を見せるステラ。

 
  「うーん? なんでだか分からないけど……思ったより軽かったよ」

 「と、とにかくこれでわたし!実験を続けられますっ!ありがとうござい……ま……すぅ……」
 
 「す、ステラ!!」


 緊張が解けたのだろう。倒れ込んだステラは緩みきった顔で、すやすやと眠っていた。

 私はマントを外してステラの体にかける。もっとも、足は膝まで出てしまうくらいサイズが足りないのだが。

 
  私は焚き火を焚いて、すっかり暮れてしまった辺りを見張ることにした。
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