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二章L:その道は聖女との取り引き
二話:聖女との取り引き
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「金が……無い……」
そこらじゅうの財布という財布をひっくり返し、かき集めたのは金貨十枚、銀貨二枚。
ざっくりと計算すると金貨一枚で三食飯が食える。寝泊まりもすると考えると一・五枚。銀貨は金貨の半分ほどの価値しかない。
つまり……生活の質を下げないようにするには、行き帰りも含めて三日以内に捕まえて帰るしかない。
どう足掻いても野宿は確定した。あとこの金でなけなしの保存食を買うしかない。
あと残りの金で馬を用意しなくてはな。
こんな限界な状況で体力の化け物みたいなあいつを捕まえられるだろうか?……無理じゃねえか?
頭をひねり続けていたその時だ。
[コンコン……]
ノックが聞こえる。ここは便所じゃねえぞという声を飲み込んでドアへと向かう。
ドア近くに置かれた鏡で笑顔確認……。少し乱れていた黒の短髪をまとめる。
よし、仕事モード入った色男が参ります。
「はい、どうかされましたか?」
ドアを開けた目の前には、誰も居なかった。こりゃイタズラされたな。忙しい時だと言うのに。少し苛立ちながら戸を閉めようとすると、すごい力で押し返される。
「アタシが見えないっての!? この薄情者~!!!」
「うわっ」
よく見たらゼラがいた。ゼラも多少軽装になっていて、ドアを押しのけて部屋に入ってきた。
「邪魔するわよー!」
入口付近にカバンを置いて、その上に座った。そして開口一番、
「ごめん! 金貸して!!」
両手を合わせてそう言ってきたのだ。
「……はい? どういう風の吹き回しですか!?」
髪を弄り、目を逸らしながらゼラは続ける。
「……冷静に考えればアタシ貯蓄無かったのよね。全部寄付してたのよ」
「あー……そういえばあなたシスターでしたね」
「そういえばって何よ!……まあそんなこと言ってられる状況じゃないわね。あんた騎士らしいし高給取りでしょ? ちょっと工面してくれないかしら?」
「希望を持ってきてくれたところ申し訳ないのですが……私も無いです」
「あんたもう贈賄容疑で引っ囚われればいいのに……っていうか金ないならもう黒じゃないの。今から黙って吐きなさい!!」
ゼラは俺をうつ伏せに押し倒し、足を抱え思いっきりそらし始めた。
「いだだだだだ!!! やめてください!私の関節をキメようと、金は湧いてでませんよ!」
「うっさいわね! アンタなんてリンさんの容疑も全部被って牢屋行けばよかったのよ!!」
「やっぱあなたリンと何か有りますよね!?あだだだだ!!!」
俺がそう言うと拘束の手が緩んだ。
「──なっ! そっ、そんなことないわよ! 知らない!知らないんだから!やましいことも何も無いわ!」
「大ありの反応じゃないです……かっ!」
「ひゃあ!」
俺は飛び起き、浮いたゼラの両脇を手に持って部屋に一個しかない椅子に乗せた。
「すごく……尊厳を踏みにじられたような、屈辱的な扱いを受けた気がするわ」
そんなことを言うゼラに向かって、どこまで聞いてくれるか分からないが話す。
「……いいですか? 多少現地調達にはなりますが、保存食を買えば食い繋げるぐらいの金にはなります。野宿は必至となりそうですが」
「うん」
「そして私はあなたと目的が同じ。 リンを捕らえ、その無実を証明することです」
「それで?」
「我々が争っても仕方ありません。 ここは一時、協力関係を結びましょう」
そう言って手を差し出した。
「……仕方ないわね。 リンさんのためだからね!アンタのことはいずれ訴えてやるから!」
そう言ってゼラは俺の手を握り返した。
「交渉成立ですね。それではまた明日の朝に」
「えぇ。わかってるわよ」
俺はゼラを見送ると、物資の調達をし始めた。
そこらじゅうの財布という財布をひっくり返し、かき集めたのは金貨十枚、銀貨二枚。
ざっくりと計算すると金貨一枚で三食飯が食える。寝泊まりもすると考えると一・五枚。銀貨は金貨の半分ほどの価値しかない。
つまり……生活の質を下げないようにするには、行き帰りも含めて三日以内に捕まえて帰るしかない。
どう足掻いても野宿は確定した。あとこの金でなけなしの保存食を買うしかない。
あと残りの金で馬を用意しなくてはな。
こんな限界な状況で体力の化け物みたいなあいつを捕まえられるだろうか?……無理じゃねえか?
頭をひねり続けていたその時だ。
[コンコン……]
ノックが聞こえる。ここは便所じゃねえぞという声を飲み込んでドアへと向かう。
ドア近くに置かれた鏡で笑顔確認……。少し乱れていた黒の短髪をまとめる。
よし、仕事モード入った色男が参ります。
「はい、どうかされましたか?」
ドアを開けた目の前には、誰も居なかった。こりゃイタズラされたな。忙しい時だと言うのに。少し苛立ちながら戸を閉めようとすると、すごい力で押し返される。
「アタシが見えないっての!? この薄情者~!!!」
「うわっ」
よく見たらゼラがいた。ゼラも多少軽装になっていて、ドアを押しのけて部屋に入ってきた。
「邪魔するわよー!」
入口付近にカバンを置いて、その上に座った。そして開口一番、
「ごめん! 金貸して!!」
両手を合わせてそう言ってきたのだ。
「……はい? どういう風の吹き回しですか!?」
髪を弄り、目を逸らしながらゼラは続ける。
「……冷静に考えればアタシ貯蓄無かったのよね。全部寄付してたのよ」
「あー……そういえばあなたシスターでしたね」
「そういえばって何よ!……まあそんなこと言ってられる状況じゃないわね。あんた騎士らしいし高給取りでしょ? ちょっと工面してくれないかしら?」
「希望を持ってきてくれたところ申し訳ないのですが……私も無いです」
「あんたもう贈賄容疑で引っ囚われればいいのに……っていうか金ないならもう黒じゃないの。今から黙って吐きなさい!!」
ゼラは俺をうつ伏せに押し倒し、足を抱え思いっきりそらし始めた。
「いだだだだだ!!! やめてください!私の関節をキメようと、金は湧いてでませんよ!」
「うっさいわね! アンタなんてリンさんの容疑も全部被って牢屋行けばよかったのよ!!」
「やっぱあなたリンと何か有りますよね!?あだだだだ!!!」
俺がそう言うと拘束の手が緩んだ。
「──なっ! そっ、そんなことないわよ! 知らない!知らないんだから!やましいことも何も無いわ!」
「大ありの反応じゃないです……かっ!」
「ひゃあ!」
俺は飛び起き、浮いたゼラの両脇を手に持って部屋に一個しかない椅子に乗せた。
「すごく……尊厳を踏みにじられたような、屈辱的な扱いを受けた気がするわ」
そんなことを言うゼラに向かって、どこまで聞いてくれるか分からないが話す。
「……いいですか? 多少現地調達にはなりますが、保存食を買えば食い繋げるぐらいの金にはなります。野宿は必至となりそうですが」
「うん」
「そして私はあなたと目的が同じ。 リンを捕らえ、その無実を証明することです」
「それで?」
「我々が争っても仕方ありません。 ここは一時、協力関係を結びましょう」
そう言って手を差し出した。
「……仕方ないわね。 リンさんのためだからね!アンタのことはいずれ訴えてやるから!」
そう言ってゼラは俺の手を握り返した。
「交渉成立ですね。それではまた明日の朝に」
「えぇ。わかってるわよ」
俺はゼラを見送ると、物資の調達をし始めた。
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