友人に裏切られて勇者にならざるを得なくなったけど、まだ交渉の余地はあるよね?

しぼりたて柑橘類

文字の大きさ
上 下
18 / 90
二章L:その道は聖女との取り引き

一話:背水の陣

しおりを挟む
 王の玉座前。俺とゼラは絨毯の上で跪いている。

 「ならばゆくがよい。必ずや勇者を……いや。背信者リンを捕らえ、我の元に連れ帰るのだ!」

 「はっ! このローレル、必ずや貴方に栄光を捧げましょう!」

 「はい! ワタシも全力を尽くします!」


 玉座に座る王に一礼して、謁見の間を後にする。
 もちろん、好青年らしい笑顔は忘れぬように。


 王の取り巻きやら○○長と名前の最初に付くやつやらに、軽く一礼して門から外へ。
 皆、俺の方を睨んでいる。……隣のゼラも含めて。


 連中は、やはり俺の事をよく思っていないようだ。
 閉じた門の向こうからしわがれた怒鳴り声が聞こえる。

 「王!まだあやつの嫌疑が晴れたわけでは無いのですぞ!」
 「付き人のあの女もいけ好かない!あんな狂犬共を放し飼いにして良いというのですか!」
「そうでございます! あんな信心もない男に、勇者の捜索をさせるだなんて!きっとやつの両親を殺したのもあやつに違いありません!」
「それに加え王よ!貴方の収賄も疑われているのですよ! そんな中こんな独断を……!」



 「静かにせい」  





 沸き立つ老人たちを王が制する。


「落とし前をローレル自身につけさせ、それを見届けてもらうだけよ。そして奴らの腕っ節、聡明さをお主らも知っているだろう?」


 場はしんと静まり返った。

 何も文句が聞こえないあたり、どうにかこの場は切り抜けたようだ。広間を過ぎた廊下でほっと胸を撫で下ろす。

 「はぁ……暑いってもんじゃないわ……どうなってんのよ」

ゼラは首元の布をゆるめ、手うちわで顔を扇いだ。ついでに縦長の帽子まで外している。急に口調が変わり、少しぎょっとする。

 「なによ。 アタシの顔になんか付いてんの? 」

 そう言って下から睨んでくる。コイツいつも俺の事を睨んで……というか顔を凝視してくるが、俺の顔に穴でも開ける気なんだろうか?
 やめろよ、こう見えて美丈夫だし俺の最大の武器なんだから。
 そろそろ視線が痛くなってきたので、第二の武器の笑顔で応える。

 「いいえ。ただ、随分と気を抜かれるのだなと思いまして」

 「これから寝食を共にしないといけないのに、気なんか遣ってやってられるかってのっ!!」

 「ここは王城ですよゼラさん。気を抜くにも限度があるとは思いますが」

 「昔居た孤児院のマザーみたいなこと言うわねアンタ。いけ好かないわ」 

 そう言って襟を正した。そのさなかも、俺を見ている。俺はそれを横目につかつかと歩く。


 「ねぇ……なんでアンタずっと敬語なわけ? リンさんと話してる時はタメ口だったじゃない」

 「なんでそれをご存知なんですか?」


 というかなんで俺のことは呼び捨てで、リンのことはさんをつけて呼ぶんですか???
 
 俺の問いかけに少し動揺したようで、少しだけ目が丸くなった。

 「なっ……アンタには関係ないでしょ!!」

 そう言ってそっぽを向いて、つかつかと先を行った。本当にコイツのことは分からない。

  
 長い廊下を越え、ようやく出口まで着いた。
 
 城から1歩外に出ると、下士官やら侍女やらがわんさかいた。全員サボって野次馬だ。仕事しやがれ。
 どいつもこいつも俺から目を逸らしている。
 だが少し聞き耳を立てれば、

 「リンさん殺ったとかマジかよ……」
 「ローレルのこと怪しいと思ってたんよ……」
 「魔王国からのスパイなんだろ?とっとと出ていけばいいのに……」
 「あんなのが上官やれんなら、俺は国王になれるわwww」


そんなことを集って、下品な言葉遣いで話している。
立派に野次馬してた割には、話をクソも理解できていない。何より、言葉に品性の欠けらも無い。

 近頃は目に余るくらいで、囲まれていたリンが話の9割を理解出来ていなかったことすらあった。
 馬鹿を晒すぐらいなら引っ込んでりゃいいものを。


 閑話休題。


 
 反応はないだろうが、そいつらにも微笑んで会釈。するとヒソヒソと話しながら退散していった。度胸も無いのかコイツらは。
 


 俺はそのまんまの顔で宿舎の自室に入り、ドアを閉めて鍵をかけた。

  玄関前に立てかけた貰い物の姿見には、笑顔をうかべた好青年がいた。
 誰も褒めてくれないから俺だけでも褒めよう。ナイス美丈夫!!
 

 「ふぅ……」

 息を吐くとともに無表情に戻ると、途端に老け顔のおっさんに変わる。最近年上に見られることが多かったが、改めて見ると目元のシワとか皮膚の水分不足とかが目立ってきていた。

 俺もあんな元老みたいなしわくちゃになっていくんだろうか。


 「あー…………くっっっっっそが…………」


 思い出したくないことまで思い出し、考えるのが面倒になった俺は、膝から崩れ落ちてそのまま突っ伏した。
 自己嫌悪と呵責で嫌で嫌で仕方が無くなる。

 「クソ野郎どもが……」


 ここ2日3日の精神的疲労やらなんやらが全部降り掛かっできた。俺以外みんなクズ。
 もう一歩も動きたくない。


腕も足も投げ出してしばらく放心する。
これから鎧を脱いで、ダブレットを着替え、香水振って、明日からの食料、馬、武器、ありとあらゆる準備を始めて……。


 「めんっ……どくさぁぁぁっ」

 ダルい。全てが嫌になってくる。
 俺一人で行くならまだしも、あの女がついてまわるとか胃が何個あっても足りない。

 できることならこのまま全部終わっちまえばいいのに。実はタチの悪いオオカミに襲われた……とかで、リンはその辺で野垂れ死んでいないだろうか。そんなヤワじゃないか。
 そんな空想を続けながら、足回りのベルトを緩めていく。


 状況証拠的にリンが自分の父母を殺したのは、やはり疑問が残る。
というか大体のやつが俺が犯人だと思っている。今更慣れたものだが、ここまで人望を無くすと助力は得られまい。俺に必要なのは明確な犯人とその立証、そしてリンを連れ帰ること。それが出来なければ俺が野垂れ死にすることになる。

  また、殺人捜査なんてもんはその辺の司教が行うんだが、それもあってリンは初歩の初歩の辺りから犯人候補から外されている。
 あいつら教会関連の奴らは隣人を疑えないらしい。説得には骨が折れることだろう。
 
 そして俺の相方になったらしいゼラ。あいつは完璧にリンの味方だ。そんなふうな言動をしている。寝首を掻かれないようにしなくてはならないだろう。

 とどのつまり、前進と成功以外は死だ。

 「──クソが……」



 旅支度を始めるために、有り金をかき集め始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

おっさんは 勇者なんかにゃならねえよ‼

とめきち
ファンタジー
農業法人に出向していたカズマ(名前だけはカッコいい。)は、しょぼくれた定年間際のおっさんだった。 ある日、トラクターに乗っていると、橋から落ちてしまう。 気がつけば、変な森の中。 カズマの冒険が始まる。 「なろう」で、二年に渡って書いて来ましたが、ちょっとはしょりすぎな気がしましたので、さらに加筆修正してリメイクいたしました。 あらすじではない話にしたかったです。 もっと心の動きとか、書き込みたいと思っています。 気がついたら、なろうの小説が削除されてしまいました。 ただいま、さらなるリメイクを始めました。

転生勇者の三軒隣んちの俺

@aozora
ファンタジー
ある日幼馴染のエミリーと遊んでいる時に木の枝から落ちて気を失ったジェイク。目を覚ました時、彼は自分が転生したと言う事を自覚する。ここはRPGファンタジーゲーム”ソードオブファンタジー”の世界、そして俺はオーランド王国の勇者、”赤髪のジェイク”。あのゲームで主人公は国王からの依頼で冒険の旅に旅立ったはず。ならばそれまでにゲーム開始時以上の力を手に入れれば。滾る想い、燃え上がる野心。少年は俺Tueeeをすべく行動を開始するのだった。 で、そんな様子を見て”うわ、まさにリアル中二病、マジかよ。”とか考える男が一人。 これはそんな二人が関わったり関わらなかったりする物語である。 この作品はカクヨム様、ノベルピア様、小説になろう様でも掲載させて頂いております。 よろしくお願いします。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

大好きなおねえさまが死んだ

Ruhuna
ファンタジー
大好きなエステルおねえさまが死んでしまった まだ18歳という若さで

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

処理中です...