友人に裏切られて勇者にならざるを得なくなったけど、まだ交渉の余地はあるよね?

しぼりたて柑橘類

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二章R:その道は魔女の導き

三話:魔女のフードのその下は

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 「え、えーっと話を整理するね?」

 「は、はい! 分かりました……!」


 私の前で魔女さんは正座している。心無しかさっきよりハイテンションだ。私は彼女と目線を合わせるため、少し屈んだ。

  「あなたは魔王については何も知らないんだよね?」

 「は、はい……なんにも知らない……です。皆さんいつもお尋ねになるんですけど……」

 申し訳なさそうに目を伏せる。てっきりこんな服装だし魔女なのだろうと思い込んでいたけれど、それすら私含めその他の人たちの思い込みに過ぎなかったらしい。

 「その節は本当にごめんね……。 もう一つ質問いい?」

 「え、あっ! はい!!」


 「どうして私の旅に着いて来たいの?」




 私がそう聞くと、魔女さんはまた少し俯いた。

 「それは!……えっと……でも…………言わなきゃ……!い、言わなきゃっ……!」

 そう言うと、魔女さんはフードを両手で掴む。そして、

 「……よし……いくぞ…………いくぞぅ……! え、えいっ!」






 掛け声とともに、頭を覆っていたフードを外した!


 「──え? えぇぇぇぇ!?」
 
 
 思わず素っ頓狂な声を上げた。


 フードの下には生え放題の手入れのされていない黒髪。その上に立派な巻き角が一対生えていた。
 それだけでない。彼女の頭の横には黒い短毛に覆われた草食動物みたいな耳がピンと立っていたし、長い前髪をかき分けた先には横一文字の瞳孔が入った目が……。

 「や、ヤギだ……」


 彼女は黒ヤギだった。正確に言えば人の形に限りなく落とし込んだヤギと言った感じだ。何を言っているのか分からないと思うが、彼女の素肌は真っ白だ。
 パーツの要所はヤギだったが、その素体は人に違いなかった。


 当惑しながらも、彼女の姿に見入る。えも言われぬ美しさを感じた。
 しばらく見つめていると、

 「あの……私が怖くないんですか?」

 

 おずおずと聞いてきた。

 「全然。 むしろかわいいと思うけど」

 「ひ、ひゃうぅぅぅ…………」


 そう唸って両手で顔を覆ってしまった。袖を掴むのも忘れてしまっているようで、手首から手の甲にかけてファーのように毛が生えていることがわかった。指は太くゴツゴツしていて厚く黒い爪が生え揃っている。

 そして、さっきまで青白かった肌が真っ赤に染まっているのがわかった。

 悶えたままの彼女に話を聞く。

 「それで、理由って何?」

 「え、ええっと……」

 彼女は顔を覆ったまま話し始めた。

 
 「わたし……魔王国に行きたいんです」

 「魔王国に?」

 「は、はい!……でも……こんな外見だから……人の住んでいる所を通過なんてできそうもなくって……」

 「まあそれはそうだね……」

 
 私より頭3つ分ぐらい大きく、なんだかヤギっぽい彼女がここらを自力で移動するのは厳しいかもしれない。

 「わたし……妹がいるんです……。よ、よく出来た妹で! 私なんかよりずっとすごくて! ……そ、そういう話じゃなくて……わたし、妹に会いたいんです! 会わなきゃいけないんですっ!」

 「わかった。連れていくよ」

 「即決ぅ!?」

 驚く彼女の目の前に座った。
 
  「うん、もちろん。 どこに行けばいい? 」
  
  「え!? あ、ええっと……」


 魔女さんは服の中をまさぐる。そして胸の辺りから一枚の紙片をとりだした。すごい回数おられているようで、広げるとなかなか大きめサイズ。私の広げた両手ぐらいある。
 何やら地図みたいなのも書いてあるが、なんだかやっぱり獣臭がする。

 「えぇっと……魔王国城下町外れの『星見村』ですっ!」


 そう言って地図の赤丸指さすも、全然ピンとこない。

 「初めて聞く地名だなぁ……。ちょっと見せてもらってもいい?」

 「は、はい!」


 私は地図を受け取った。なんだか見たことの無い地名がびっしりと書かれている。
 ……?この端に書かれているのは……緩衝地帯?
 まさか王国にいた時には一切見たことの無い『魔王国の地図』?!


 「なんでこんなものを……!?」
  
 「わたしの妹が、送ってくれたんですっ! 情報筋の人に聞いてまとめたから間違いないって!」

 「これは……すごいな……」


 まとめてくれたんだ妹さん。何はともあれ、魔王国の地図が手に入ったのはすごいな……。
 私が興奮して見入っていると、


 「あ! ……で、でもっ」

 魔女さんは申し訳なさそうにフードをかぶり直した。

 「勇者さんの冒険って……わたしなんかがお供になっていて許されるんでしょうか……わたしがお供してしまうことで迷惑をおかけするかも……」

 「全然問題ないけど」

 「なんでっ!?」
 
 「実は私、勇者だけど勇者じゃないんだ」


 そうしてあれこれ語り始めた。任命された話。私を殺そうとしてきたローレルの話。それで逃げてこの村にやってきた話。森の中でであった栗毛の彼の話。


 「だからさ、全然気にしなくていいし、私もあんまり道中の目的がないんだよね」

 「そ、そうだったんですねぇ……」

 「だからさ、行こうよ二人で」
 

  私が差し出した手を、少し躊躇ってから魔女さんはとった。
  
 「そういえば自己紹介がまだだったね。 私の名前はリン。よろしくね!」

 「わっわたし、ステラって言います! よ、よろしくお願いしますっ!!」


 見上げるその顔は、先程よりもずっと頼もしかった。


 「ところでステラ。ここら辺に小川とかってあるの?」

 「へ!? あっ……ありますっ! この先に!  ……何か御用があるんですか?」

 そう言って森の奥を指さした。


 

 「なんて言うか……その……街に出るならステラは水浴びとかしてからの方がいいんじゃないかなぁって……」


 私がそう言うとステラはきょとんとした。

 「……水浴び? そんなに暑くないですし、必要ないですよ?」

 「あー……。なんて言うかね……すごく……野性味に溢れてるっていうか、そういう匂いがするんだよね」

 私がそう言って見上げると、真っ赤になったステラがぱくぱくと口を開けていた。

 「ご、ご、ご……!」

 「ご?」

 「……ごめんなさあぁぁぁぁい!!!!」


ステラは逃げながらそう叫んだ。私のデリカシーの無さに反省しつつも、いつの日か仲良くなりたいと思うのであった。
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