友人に裏切られて勇者にならざるを得なくなったけど、まだ交渉の余地はあるよね?

しぼりたて柑橘類

文字の大きさ
上 下
10 / 90
二章R:その道は魔女の導き

一話:魔女の森の『魔女』

しおりを挟む
 そこには、名状しがたい『巨女』がうずくまっていた。体格はそこそこせが高めな私くらい……いやまだ大きい。大きめなローブ……というか黒っぽいボロ切れをまとっているので良くはわからなかったが、私より恵まれた体格なのは確かだった。


 「うぅ……やめてくださぃぃ……」
 

 子供たちに木でつつかれたり、足蹴にされている。


 「ちょ、ちょっと……何をしてるの!?」

 「こいつは魔女なんだよ!変なやつでこんなボロ屋にいつもとじこもってるんだ……ぜっ!」

 「ぐうっ……!」

 
 魔女と呼ばれた彼女は、腹を蹴られた痛みに小さく縮こまって苦しんでいる。子供の所作は変に慣れているし、いつもこんなことをしているのだろうか……。

 ちょっと待って?『魔女』!?魔女って作り話にしかいないと思ってたけど……。もし彼女が本当に魔女なら魔王と繋がりがあるかも知れない!
 でも……どうすればこの魔女さんと話ができるだろうか……。この子たち結構粘着してそうだなぁ……。
  
ここまで陰湿って……なにか原因があるんじゃ?原因があれば、それを解決すればその子たちはこの子をいじめなくなるだろう。そうすれば……私はこの魔女さんとお話できるし、魔女さんは蹴られなくて済むし、さらにその子たちはストレスの元が無くなって一石三鳥!


 「なんでこの子をいじめるの?」
   
  
 ダメ元で、私は近くにいた子に問いかけた。



 「だって変な格好でさ!なんか臭いし!」

 「オマケに邪教の信徒だぜこいつ!気持ち悪い糸くずみてえなのの絵を飾ってんだ!」


 子供たちは口々に彼女を罵った。この子をどうにかしろという願いは私の力を超えているかもしれない……。前者はともかく後者はちょっと無理だ。

 
 とにかく、子供たちを魔女さんから離さないと……!
 この状況でただ言っても聞いてくれないだろうけど。

 私は子供たちの目線まで屈んで話しかける。

 「事情は分かったよ。 あとは私に任せて帰った方がいいよ!」

 私は子供たちにそう言って、女の人に向き合った。

 「えぇー! これから魔女が倒されるのに見てちゃダメなのかよー!」
 「ケチー!」
 「どーせ適当なこと言って俺らを追い払う気だろー!」


 子供たちはそう言って駄々をこね始めた。うーん……いつまでもここに居られると話せないんだけどなぁ……。うん?



 「……!」


 小屋裏手側……村の外れの森との境界に、キラリと光るものを見つけた。ちょっとだけこの子たちを驚かそう。


 私は腰に提げたロングソードを引き抜いた。
 そして麦わらの子がなにか喋りそうだったので急いで口を塞ぐ。

 「もがっ!もががっ!」

 必死に抵抗するその子の口を塞ぎ、森の方を睨みつける。
 
 「──静かに! ……森の方に怪物がいる」

 
 そう言うと子供たちはすぐに青ざめた。何か言いたげの子供たちの言葉を塞ぐため続けざまに、

 
 「……怖いかもしれない。でも騒がないで。やつは蛇だ。口を開いた子の口の中に飛び込んでくるよ」


 そう言うと子供たちは顔を合わせながら示し合わせ、互いに手で口を塞ぎあった。

 「私が合図したら、ゆっくりここを離れてお家に戻るんだ……わかった?」
 



 振り返って聞くと、何度も頷いてきた。そして……。


 「……今だ!」

 私が叫ぶと子供たちは後ろを向いて駆け出した。それと確認してから私は魔女さんを両腕で抱える。

 「ごめんなさい。少しだけ静かにしててくださいね」



 私の言葉に何度も頷いて応える。もっとも彼女はすっぽりローブを被っているので、シルエットでそう判断したのだが。



 私は急いで茂みの中に入り、しばらく走る。何度も木の枝が何度か顔に当たりながらも、私は村が見えなくなる辺りまで走り抜けた。

 「あとは……」



 手頃な平らな地面を足の感覚で探し、そこに生えている草をロングソードで刈る。
 そうして草に囲まれた秘密基地みたいなスペースができた。ちょうど一人分だ。

  私は肩に担いでしまっていた彼女をそこに下ろす。
 
  
 下ろした魔女さんは、必死にフードを引っ張って押さえつけていたフードの下からぷっくりと頬を膨らませていた。息を止めているようだ。手までローブの袖で隠れていたので人相などはまるっきり分からなかったが、案外可愛いところもあるようだ。
 だが私はそれ以上に、彼女の頭の上のところが気になって仕方がなかった。
 

 彼女の頭のフードには、明らかに人間にはないような固そうなシルエットが現れていたのだ。
 

 「貴女は……一体……!?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生勇者の三軒隣んちの俺

@aozora
ファンタジー
ある日幼馴染のエミリーと遊んでいる時に木の枝から落ちて気を失ったジェイク。目を覚ました時、彼は自分が転生したと言う事を自覚する。ここはRPGファンタジーゲーム”ソードオブファンタジー”の世界、そして俺はオーランド王国の勇者、”赤髪のジェイク”。あのゲームで主人公は国王からの依頼で冒険の旅に旅立ったはず。ならばそれまでにゲーム開始時以上の力を手に入れれば。滾る想い、燃え上がる野心。少年は俺Tueeeをすべく行動を開始するのだった。 で、そんな様子を見て”うわ、まさにリアル中二病、マジかよ。”とか考える男が一人。 これはそんな二人が関わったり関わらなかったりする物語である。 この作品はカクヨム様、ノベルピア様、小説になろう様でも掲載させて頂いております。 よろしくお願いします。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

処理中です...