友人に裏切られて勇者にならざるを得なくなったけど、まだ交渉の余地はあるよね?

しぼりたて柑橘類

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一章L:賢者ローレルは追う

三話:切れる女

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 王城、謁見の間。そこに王の腹心が集められた。
 まずは王の側近。実は俺に次いで王に賄賂を贈っている廃課金者だったりする。何やら難しい顔で眉間をつまみ上げている。また金のことでも考えているのだろう。


 その隣、背丈に見合わない大層な帽子を被って居る女は、ここらの教会の修道司祭。さっきからぷりぷり怒って膨れているし、こちらを睨んでいる。キレまくるナイフである。
 
 こいつは司教に殴り込みして、修道女も修道司祭になれるように戒律を改めさせた。信念はまともだが、アプローチ方法は乱世。俺とは正反対で水と油みたいな立ち位置だ。



 とりあえず先程からの熱視線に笑顔で手を振ると、奴はぷいっとそっぽを向いて腕を組んだ。
 あぁ……めんどくさい……。


  そいつの隣に俺こと外交官兼、騎士団の副長。副長と言っても形だけだが。






 その他財政大臣だの重役たちは、一応集まってはいるが難しい顔で居眠りしている。せめて考えてるふりでもしてくれていた方がありがたいのだが。

 そしてそれを束ねる王。まだ若く、俺より少し上くらいだ。だいぶ太っているので年齢不詳ではあるが。





  欠員だらけの会議は、とりあえず始まった。王が手を叩いて注目を集める。

 「今日集まってもらったのは他でもない。 勇者リンが失踪した」

 「つまりは、リンが裏切ったと?」

 「えぇ……そうですねローレル。そしてあなたの人選ミスです」


 俺の質問に、叱責で修道司祭は答えた。そして俺を睨む。切れ長の目は鋭さを増し、その辺のテーブルくらいなら容易く刻めそうだった。
 冗談はさておき、修道司祭は続ける。

 「アナタには聞きたいことが山ほどあるんです!いいですか!? 
 まず、なぜリンさんっていう立場のある人をわざわざ勇者にさせたんです!?これはアナタが後釜を狙うための企てじゃ無いんですか!? 
 それと、アナタには王への贈賄容疑がかかっていてですね!」

 
 うわあ凄い剣幕……そしてそれのほとんどに、心当たりしか無い。なんならリンを何度か殺そうとしているし、なんなら余罪はさらにあるだろう。そんなことを万一にでも言えば本当に拳が飛んできそうだが。


 「アナタがたはこのまま政治をやっていていいと思っているので「静粛に」

 そんな彼女も王に制された。


 「ですが!……ぐうっ!」

 修道司祭は言葉を噛み殺した。相当イライラしているようでテーブルの端に乱暴に拳を振り下ろす。ズシンと重いものが落ちたような音がした。隣を覗くと、大理石の分厚いテーブルが拳の形に凹んでいる。怖い。


 「確かにそれはそうだが、今話すべきはリンの処遇だ。 奴は本当に、実はやむを得ない事情があったのか。それを解き明かすことは大前提である。
 また勇者として、騎士団長として、その任から逃れた罪はどう問うべきかを決めねばならん 」

 「左様ですか」

 「ですが王!」


 修道司祭は王の話に割って入る。怖いもの無しかこいつ。

 「……リンがなぜ裏切ったか、その動機が私には分かりません! やはり状況証拠から見てもローレルが何かしら一枚噛んでいると考えた方が……!「失礼いたします!」

「……チッ」


 司祭がそこまで言ったところで、謁見の間の扉が開いた。出てきたのは兵士。またも走ってきたらしく、息は絶え絶えだ。

 
 「お話の途中申し訳ございません! れ、連絡を……!」


兵士は会議の輪から少し遠くのところで力の限り叫んだ。

 
 「なんだ?申してみよ」

 側近がそう言うと、兵士は懐から紙片を取り出す。赤い封蝋がされた封筒だ。

 そして紙片を側近に手渡すと、ガチャガチャと音を立てて俺の方に走ってきた。


 「ローレルさん、一度私とご同行願いたいのですが!」

 「なんですか……今少し忙しいのですが」


 「……リンさんの実家で……不審な死体が発見されましたので……捜査にご協力ください」


 「なんですって?」
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