友人に裏切られて勇者にならざるを得なくなったけど、まだ交渉の余地はあるよね?

しぼりたて柑橘類

文字の大きさ
上 下
5 / 90
一章L:賢者ローレルは追う

一話:勇者に仕立てた日

しおりを挟む
 「ほほう……リンを勇者選抜にか?」

 レンガ積みの城の、薄暗い一室で王が俺に言った。
 俺は片膝ついてへりくだる。
 

 「ええ。左様でございます。リンは信心深く、腕も立ち、なおかつ庶民からの成り上がりという騎士団の信頼と憧れの的。勇者にはピッタリでございましょう?」

 「なるほどな……しかしあやつは我が騎士団の長だ。やつに抜けられると統率が崩れる恐れもある」

「いえいえ王よ。兵士の者共にもぜひリンを勇者にと声が出ているのですよ! ルート等は私がかねてより文献を調べておりますので、生還率は7割を超えるでしょう!」

 「なるほど……そこまでであればわざわざ行かせる価値があるやも知れんな。」


 「ええ! ともすれば聖剣がなくとも魔王軍の掃討と王の栄光は約束されたようなものです!!」

 そこまで俺が言うと、

 「いや、しかし決定打にかけるな。我の為になるような……」

 

したり顔で王は言った。



 目は口ほどに物を言う。賄賂を寄越せと訴えかける。
 欲望が目線に滲み出ていた。俺は笑みを浮かべて懐から小包を取り出す。


 「コチラをどうぞ。 よーくご覧になってください……」

 
 そう言って木のボウルに中身を出して見せた。ジャラジャラと大量に転がるのは真っ白な球体。

  「最高級品にございます」

 わざわざこいつの機嫌取りのために買い付けた真珠だ。脅威の給料3ヶ月分。プロポーズかよ。

さすがに王のお眼鏡にもかなったようだ。
 


 「ほほう……よいではないか……!」



 やつの脂ぎった笑みがこぼれた。その顔のままやつは尋ねる。

 「だが、リンはお前の古くからの友人だったろう?そんな処遇をしても良いのか?」

 「ふふっ……私は貴方様の忠実な配下です。いかなることも貴方の栄光のために行います!」


 俺もそう笑って返した。

 「気に入った。 ローレル!お前の栄光とやら、俄然興味が出た!」



 俺はこいつが好きだ。とことん私欲のために生きている。 


 こいつは一国の王の器じゃない。こんなに単純で私欲に正直なやつが王を務めると、側近やらなんやらに付けいれられるのだ。
 
──俺のようなな!



 


と、まあこういう経緯があり、リンは今勇者に任命されている。



「 この国王たる我の決定に……何か思うことでもあるのか?」


 「め、滅相もございません!」


  
 
 流石のリンも慌てているようだ。いつも余裕綽々な笑みが消えた。

いい気分だ……。憎きアイツが今から、俺の栄光の礎になるのだから。


 俺はその後もリンの動きを監視し続けた。
 一足先に城下町へ降りて様子を見守る。

「リンさんマジっすか!? クズのローレルの挑発に乗って勇者になられたって本当っすか!?」
 「聖剣探しに行くってマ? あんなんただの作り話っしょ?」
 「あのクソ王といいローレルといいこの国にはろくな奴が居ねぇけど……リンさんが居なくなったらどうすんだよ!?  大丈夫かよ!?もう……!」

 
 リンはそうやって詰めかける奴らに愛想笑いを振りまいていた。
 ……あの表情。さては話の9割を理解出来てないな?
 
 

 小一時間観察した後、そーっと群衆に近づく。そして、

 
[──グイッ!]


 「……!?」


  俺はリンの腕を真下に引いた。

 リンが居なくなったことで押し合いの均衡が崩れ、近くに居た野次馬共は互いにぶつかり合った。いい気味だ。
 
 路地裏に連れ込んだリンはまだ呆然としており、今の状況が読めていないようだった。王に呼ばれていたこともあって


 「人気者の宿命だな、リン」

 
 「ありがとうローレル!! 」


 思いっきり抱きつこうとしてきたので、頭に手を伸ばして静止する。
 
 「ああいいんだ。気持ちだけ受け取るよ。……お前がハグとベアハッグの違いを理解するまではな」


 こいつはパワーが並外れてる癖に、その自覚を持っていないのだ。数年前に抱きつかれたせいで上腕ごとアバラが折れたことがある。本当にこいつ人間かどうかすら疑わしい。


 「何か言った?」

 「いいや!なんにも」
 
 
  ニッコリ笑って返した。 


「君が助けてくれなかったら、今日はあそこで過ごすことになってただろう!」

 「お前はいつも本気で言ってそうで怖いんだよな」

 リンは俺が幼少の時に引っ越してきやがった。全て俺より優れた千年に一度の逸材。才能の塊なのだ。

 俺にとっては憎き男であり、何度も邪魔をされ続けた宿敵と言っても過言でない。そんなコイツとも……ようやくおさらばなのだ!笑いが止まらねえ!
  
 勝手に上がる口角を押さえつけ、リンに向き直る。


 「はぁ……」


 リンはため息をついて項垂れていた。


 さて……最後の一仕事に取り掛かるか。
 俺はリンの肩を掴んで覗き込む。

 「なあリン。お前の勇者就任に祝杯をあげたいんだが、受けてくれるよな?」


 「ああ、もちろん!」


  そして俺らは酒場へと赴いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

おっさんは 勇者なんかにゃならねえよ‼

とめきち
ファンタジー
農業法人に出向していたカズマ(名前だけはカッコいい。)は、しょぼくれた定年間際のおっさんだった。 ある日、トラクターに乗っていると、橋から落ちてしまう。 気がつけば、変な森の中。 カズマの冒険が始まる。 「なろう」で、二年に渡って書いて来ましたが、ちょっとはしょりすぎな気がしましたので、さらに加筆修正してリメイクいたしました。 あらすじではない話にしたかったです。 もっと心の動きとか、書き込みたいと思っています。 気がついたら、なろうの小説が削除されてしまいました。 ただいま、さらなるリメイクを始めました。

転生勇者の三軒隣んちの俺

@aozora
ファンタジー
ある日幼馴染のエミリーと遊んでいる時に木の枝から落ちて気を失ったジェイク。目を覚ました時、彼は自分が転生したと言う事を自覚する。ここはRPGファンタジーゲーム”ソードオブファンタジー”の世界、そして俺はオーランド王国の勇者、”赤髪のジェイク”。あのゲームで主人公は国王からの依頼で冒険の旅に旅立ったはず。ならばそれまでにゲーム開始時以上の力を手に入れれば。滾る想い、燃え上がる野心。少年は俺Tueeeをすべく行動を開始するのだった。 で、そんな様子を見て”うわ、まさにリアル中二病、マジかよ。”とか考える男が一人。 これはそんな二人が関わったり関わらなかったりする物語である。 この作品はカクヨム様、ノベルピア様、小説になろう様でも掲載させて頂いております。 よろしくお願いします。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

大好きなおねえさまが死んだ

Ruhuna
ファンタジー
大好きなエステルおねえさまが死んでしまった まだ18歳という若さで

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

処理中です...