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21.手段はこれしかない
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俺とユーは空中散歩を終え、コズハの家の前に到着した。
「ナナイ、コズハの部屋ってあれかゆー?」
ユーはコズハの家の一室を指さす。
通り沿いでベランダ付きの窓がついているその部屋は、間違いなくコズハの部屋だ。夜中の1時を回っているが、カーテンの切れ間から光が漏れている。おそらく今日も今日とてオカルト情報収集に勤しんでいるのだろう。
「ああ、そうだよくわかったな」
「だとしたら浮いたまま直接上がりこんだ方が良くなかったかゆー?」
「あくまで謝りに来てんだから入る時くらいはちゃんとした方いいだろ。
それに、さすがにコズハにもプライバシーはある。電気つけっぱで寝てるだけかもしれねえだろ?」
「ナナイはもっと雑にコズハを扱っても許されるんじゃないかゆー?」
「そんな訳があるかよ……待ってろ今電話すっからよ」
そう言って携帯を構えてみるが、
『おかけになった電話は電源の入っていないか、電波の届かないところにあるか、留守電中です。早急にご用がある場合にはナナイ君の電話までお願いします。電話番号は080……』
コズハの声で再生される留守番電話が流れた。というかちょくちょく俺経由で連絡よこす奴いたけど、そういうことかよふざけんじゃねえ。
……とにかく、理由までは定かではないが、コズハが俺の話を聞きたくないのは確かだろう。こうなれば無理やり連絡いれてやるしかない。
「仕方ねえ。ちょっと手間だが、あれやるか……。ユー、着いてこい」
「ゆ、ゆー?何する気だゆー?」
俺はひっそりとコズハの家の庭に入った。そして、芝生の真ん中に走る石畳を慎重に歩く。
「そこの芝生、コズハのお母さんが整えてっから踏むんじゃねえぞ」
「わ、わかったゆー!」
「それと、ここ住宅街だからなるべく静かにな。もうド深夜だし」
「わかったゆー……」
少し歩いて俺らはベランダ下から伸びる雨樋に近づいた。
「よし、あとは……」
俺は腹ばいになって雨樋を覗き込みつつ、懐中電灯を雨樋に差し込んだ。
「……何してるんだゆー?」
低いトーンでユーは聞いてくる。
「いいから黙って見てろ。携帯持ってねえ頃にやってた連絡手段だ」
俺は軽く深呼吸して息を整えつつ、懐中電灯のスイッチに指をかけた。そして、
『---- ・・-・ ・・・ ・-・ ・-・ ・- ・-・・・ ・・- ・・-・・ ・・- --・- ・-・・ ・・ ・・- 』
と、打ち込んだ。『こちらナナイ 応答願う』である。そして片目をつむって、雨樋の中を覗く。
「な、何してるんだゆー?それは雨水を下に流すための筒だったはずだゆー。それ見てて楽しいかゆー?」
「黙ってろ。まず帰ってくるかが分からねえんだから」
「本当に何やってるんだゆー?」
困惑するユーをよそにしばらく筒を眺めていると、目の前に光が届いた。
『---- ・・-・ ・・・ ---- ---・- ・・ -・・・ -・- -・ --・-・ ・-・・ ・・ -・--・ ---・- ・-・-- ・・ ・-・-・ -・-・ --・-・ ・-・-- -・--・ --・-・・-- ・・- -・- ・-・・ ・・・ ・-・ ・- ・・-- ・-・・ -・-・- --- 』
ええっと……『こちら コズハ 私が留守電にしてる理由分からないのか 去れ』か。分かっている。分かっているからこそわざわざこんな手段を取ってやっているのに、去れとまで言うか。
「……とりあえず返っては来たな」
「な、なんだゆー……!?なにか見えたのかゆー?」
再び懐中電灯を突っ込んで信号を送る。
『アヤマリニキタ カエリガケハ スマナカツタ ゲンカンアケテクレ』
そして再び雨樋を覗き込む俺の肩に、ユーが触れてきた。
「ナナイには何が見えてるんだゆー?見せて欲しいゆー」
「あ?ちょっと待て、あっちから帰ってきたらな」
「えーそんなこと言わないで見せて欲しいゆー」
「ちょっとでも見逃したら意味わかんなくなるんだよ。後で原理教えてやるからよ」
「ゆーっ……」
ユーが不貞腐れてからしばらく後、
『イマサラ ナニヨ ワタシガ ドレホド キズツイタカ シラナイクセニ』
そんな信号が届いた。
「昼ドラかよっ……!」
「本当に何が見えてるんだゆー……?幻覚とかじゃ無いのかゆー?」
「はぁ……仕方ねえ」
俺は再度交信を試みつつ、ユーと話もするというマルチタスクを試みることにした。
「……モールス信号ってやつを光で伝えてたんだ。ベランダの雨樋は実は偽物で、中に鏡が着いてんだ。下と上が鏡で繋がってんだよ」
『シラネエ ダカラコソ アヤマラセテ クレ スマナカツタ』
「へぇー。わざわざこんなことしなくても他に電話?とかなかったのかゆー?」
『ナニヨ ドウセ ワタシトモ
アソビダツタ ノ デシヨウ』
「あーくそっ、なんで発想がトレンディな方に向くんだ……!」
「と、トレンディかゆー?ナウなヤングにバカウケとかそういう時代のものでも無いかと思うんだゆーけど……」
「お前の方じゃなくてだな……えっと、ユーはさっき電話はなかったのかって話してたよな?」
「そうだゆー」
「夜中に着信音なったら迷惑だろ?それに固定電話だと電話代だって馬鹿にならねえしな」
「なるほどだゆー。けっこう手馴れてるけどよく使ってるのかゆー?」
「まあそれなりにな。山の中とか電波の届かねえとこで離れてると、こっちの方が便利で都合がいい」
『ソウヤッテ バカニシテ ワタシヲ ツゴウノイイオンナダト オモツテルンデシヨ』
「んなわけねえだろうが……お前のどこが都合いいんだよ……!」
「あの、ナナイ……。さっきから言ってることが二転三転しててめちゃくちゃ怖いゆー……」
「悪ぃ。コズハの送ってきた内容が……その、滅茶苦茶過ぎてな」
「一体何を話してたんだゆー……?」
怪訝そうにこちらを覗き込むユー。
やはり俺にマルチタスクは無理だ。そう思った矢先、ベランダの窓が開く音が聞こえた。
「……ナナイ君にユースティンさん。玄関、空いてますよ。入ってきてください」
見上げた先に居たのは、ネグリジェ姿のコズハであった。
「ナナイ、コズハの部屋ってあれかゆー?」
ユーはコズハの家の一室を指さす。
通り沿いでベランダ付きの窓がついているその部屋は、間違いなくコズハの部屋だ。夜中の1時を回っているが、カーテンの切れ間から光が漏れている。おそらく今日も今日とてオカルト情報収集に勤しんでいるのだろう。
「ああ、そうだよくわかったな」
「だとしたら浮いたまま直接上がりこんだ方が良くなかったかゆー?」
「あくまで謝りに来てんだから入る時くらいはちゃんとした方いいだろ。
それに、さすがにコズハにもプライバシーはある。電気つけっぱで寝てるだけかもしれねえだろ?」
「ナナイはもっと雑にコズハを扱っても許されるんじゃないかゆー?」
「そんな訳があるかよ……待ってろ今電話すっからよ」
そう言って携帯を構えてみるが、
『おかけになった電話は電源の入っていないか、電波の届かないところにあるか、留守電中です。早急にご用がある場合にはナナイ君の電話までお願いします。電話番号は080……』
コズハの声で再生される留守番電話が流れた。というかちょくちょく俺経由で連絡よこす奴いたけど、そういうことかよふざけんじゃねえ。
……とにかく、理由までは定かではないが、コズハが俺の話を聞きたくないのは確かだろう。こうなれば無理やり連絡いれてやるしかない。
「仕方ねえ。ちょっと手間だが、あれやるか……。ユー、着いてこい」
「ゆ、ゆー?何する気だゆー?」
俺はひっそりとコズハの家の庭に入った。そして、芝生の真ん中に走る石畳を慎重に歩く。
「そこの芝生、コズハのお母さんが整えてっから踏むんじゃねえぞ」
「わ、わかったゆー!」
「それと、ここ住宅街だからなるべく静かにな。もうド深夜だし」
「わかったゆー……」
少し歩いて俺らはベランダ下から伸びる雨樋に近づいた。
「よし、あとは……」
俺は腹ばいになって雨樋を覗き込みつつ、懐中電灯を雨樋に差し込んだ。
「……何してるんだゆー?」
低いトーンでユーは聞いてくる。
「いいから黙って見てろ。携帯持ってねえ頃にやってた連絡手段だ」
俺は軽く深呼吸して息を整えつつ、懐中電灯のスイッチに指をかけた。そして、
『---- ・・-・ ・・・ ・-・ ・-・ ・- ・-・・・ ・・- ・・-・・ ・・- --・- ・-・・ ・・ ・・- 』
と、打ち込んだ。『こちらナナイ 応答願う』である。そして片目をつむって、雨樋の中を覗く。
「な、何してるんだゆー?それは雨水を下に流すための筒だったはずだゆー。それ見てて楽しいかゆー?」
「黙ってろ。まず帰ってくるかが分からねえんだから」
「本当に何やってるんだゆー?」
困惑するユーをよそにしばらく筒を眺めていると、目の前に光が届いた。
『---- ・・-・ ・・・ ---- ---・- ・・ -・・・ -・- -・ --・-・ ・-・・ ・・ -・--・ ---・- ・-・-- ・・ ・-・-・ -・-・ --・-・ ・-・-- -・--・ --・-・・-- ・・- -・- ・-・・ ・・・ ・-・ ・- ・・-- ・-・・ -・-・- --- 』
ええっと……『こちら コズハ 私が留守電にしてる理由分からないのか 去れ』か。分かっている。分かっているからこそわざわざこんな手段を取ってやっているのに、去れとまで言うか。
「……とりあえず返っては来たな」
「な、なんだゆー……!?なにか見えたのかゆー?」
再び懐中電灯を突っ込んで信号を送る。
『アヤマリニキタ カエリガケハ スマナカツタ ゲンカンアケテクレ』
そして再び雨樋を覗き込む俺の肩に、ユーが触れてきた。
「ナナイには何が見えてるんだゆー?見せて欲しいゆー」
「あ?ちょっと待て、あっちから帰ってきたらな」
「えーそんなこと言わないで見せて欲しいゆー」
「ちょっとでも見逃したら意味わかんなくなるんだよ。後で原理教えてやるからよ」
「ゆーっ……」
ユーが不貞腐れてからしばらく後、
『イマサラ ナニヨ ワタシガ ドレホド キズツイタカ シラナイクセニ』
そんな信号が届いた。
「昼ドラかよっ……!」
「本当に何が見えてるんだゆー……?幻覚とかじゃ無いのかゆー?」
「はぁ……仕方ねえ」
俺は再度交信を試みつつ、ユーと話もするというマルチタスクを試みることにした。
「……モールス信号ってやつを光で伝えてたんだ。ベランダの雨樋は実は偽物で、中に鏡が着いてんだ。下と上が鏡で繋がってんだよ」
『シラネエ ダカラコソ アヤマラセテ クレ スマナカツタ』
「へぇー。わざわざこんなことしなくても他に電話?とかなかったのかゆー?」
『ナニヨ ドウセ ワタシトモ
アソビダツタ ノ デシヨウ』
「あーくそっ、なんで発想がトレンディな方に向くんだ……!」
「と、トレンディかゆー?ナウなヤングにバカウケとかそういう時代のものでも無いかと思うんだゆーけど……」
「お前の方じゃなくてだな……えっと、ユーはさっき電話はなかったのかって話してたよな?」
「そうだゆー」
「夜中に着信音なったら迷惑だろ?それに固定電話だと電話代だって馬鹿にならねえしな」
「なるほどだゆー。けっこう手馴れてるけどよく使ってるのかゆー?」
「まあそれなりにな。山の中とか電波の届かねえとこで離れてると、こっちの方が便利で都合がいい」
『ソウヤッテ バカニシテ ワタシヲ ツゴウノイイオンナダト オモツテルンデシヨ』
「んなわけねえだろうが……お前のどこが都合いいんだよ……!」
「あの、ナナイ……。さっきから言ってることが二転三転しててめちゃくちゃ怖いゆー……」
「悪ぃ。コズハの送ってきた内容が……その、滅茶苦茶過ぎてな」
「一体何を話してたんだゆー……?」
怪訝そうにこちらを覗き込むユー。
やはり俺にマルチタスクは無理だ。そう思った矢先、ベランダの窓が開く音が聞こえた。
「……ナナイ君にユースティンさん。玄関、空いてますよ。入ってきてください」
見上げた先に居たのは、ネグリジェ姿のコズハであった。
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