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一章.魔法使いと人工キメラ

十一話目-回復薬と調理の仕方

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「イーヴォ? もう一度聞くわ……何を作るの?」
「だから回復薬だよ」
「マジで?」
「マジで」
「イーヴォ大丈夫? さっき変なとこ打った?」 
「安心していつもの僕だよ」

 まあ回復薬なんて物は一から作るものでは無いだろう。 
 ましてこんな進んだ時代である、そもそも使われる機会が減っているせいもあり、回復薬をモンスターから作る方法など知らない人の方が圧倒的に多いだろう……。
 
セシリアが僕の正気を疑うのも無理もない。
 
「何で買わないの?」
「お金がないからだよ」
「そこに関しては百歩譲って良しとするけど……何で作るの?」
「作った方が遥かに効果が高いからだよ」
「え!?」

 一般的に医療用として売られている回復薬はほとんどが「回復薬Ⅰ」とされるものだ。それでも効果は高い。
 かすり傷程度ならたちまちに治る。
 しかし、これから僕らが作るのは「回復薬Ⅱ」と言われる市販薬の上位互換である。

 「作るなら早く作りましょ! ちょっとワクワクしてきた!」
 「じゃあセシリア、水色のスライムと歩きのこを気絶させて持ってきてもらえる?」
 「歩きのこって何?」
 「文字通り歩く、百二十センチ位の傘が赤いやつ」
 「毒はないの?」
 「猛毒だよ」
 「殴っても大丈夫なのそれ!?」
 「だってセシリア、毒効かないじゃん」
 「あ」

 自分の最高の利点を忘れないでくれ……。
 
 「それじゃあ行ってきまーす!」
 「気を付けてねー」

 大きめの網をもってセシリアが草原を突っ切っていった。
 スピード的にもそう言うのが一番いいだろう。

 「よし!取りかかるか!」

 そう言って僕はまず魔圧式ハウスを出して巨大化、ゴールデンスライム(今や単なる純金の塊)を運び入れた。
 否、引きずり込んだ。 セシリアの腕力は僕の十倍はあるのではないだろうか……持ち上げることなどできそうもないくらいに重い……。

 やっとこさ運び込んで、家から手袋を取ってきて手にはめた。ここから取り扱うのは無論、危険な植物である。
 
 辺りを見回すとその危険な植物は三種ともうじゃうじゃあった……。
 うれしくもあり恐ろしくもあり……。
 
一種目:【ロアの悪戯】燃えてる。見るからに燃えてる。 強い毒を持っていてそれが空気に触れ
ることで大炎上する……。
 そのままで食べると神経毒が有るとか無いとか……。
 パット見、単なる雑草なのに怖い。

二種目:【マアトの微笑み】解毒作用、精力増進などの効果がある草。
 加熱することで解毒作用が強くなり、関係無いものまで中和するようになる。
 
三種目【竜殺し】説明不要! 食竜植物である。
 強い毒があり、触れるだけで害がある……。
 非常に大きいが、今回は十センチ四方ぐらいあればいいので後ろの方からゆっくり切り取って拝借すればばれない。

 これらの知識はすべて両親から習ったものである。
 最初は毒薬しかできなかったが今では普通に作れるようになった。
 本当に感謝しなくては……。

 そんなことを考えて家に持ち帰り、それらを刻んで鍋にいれるとセシリアが帰って来た。

 「ただいまー! スライムとキノコぶん殴って来たよ!」
 「お帰り。 ありがとね」
 
 受け取ったときには、二体ともすでに事切れていた……。
 加減ができないのだろうか……?
 
ともあれ、僕はそれらを刻んで鍋に水と一緒に放り込んで無理矢理蓋をのせて加熱した。

 「ねえ……これで本当にできるの?」
 「もちろん。 ここから三時間かかるけど……」
 「三時間も煮込むの!?」

 成分が溶け出すのに一時間、それらのせいで互いに溶かし合って完全に具材が溶けるまで一時間半、それぞれが混ざるまで三十分、熱を加えないとならない。
 
 「この辺に居るモンスターで炎の練習でもしたら?」
 「それもそうね! 初対面の人を燃やすのは失礼だからね!」
 「初対面の人を燃やすのは、初見殺しって言うんだよ?」
 「まずどうでもいいや! 練習練習!」

 セシリアは家から飛び出すとそこら中の茂みを焼き払い、モンスターを燃やし、たまに出てくるドラゴンは撲殺していた……。
 
 確実に強くなってない? 
 僕も頑張らないと……。

 僕はそれの裏でしばらく麻痺毒の練習をしていた。
 対人戦で致死量を出してしまったら大変だ……。

 そうしている間に日は傾き、セシリアが帰ってきた。
 
 「ただいま! 頑張ったよ!」
 「お帰り。 薬できたから見てみようよ」
 「やった!」

 僕は家に入り、セシリアに手を洗わせ、僕はミトンを取ってきて手にはめた。

 「さて……失敗してないといいけど……」
 
おそるおそる蓋を開けるとそこには緑色で透明な液体が入っていた。
 
 「よし成功!」
 「嘘でしょ!?」

セシリアが驚くのも無理もない。
 市販薬は工場でマアトの微笑みを煮詰めた茹で汁と何処だっけかの泉の水を混ぜたもので、無色透明だ。
 
だが、これは成分がちゃんと溶けているため緑になる……はず……。
 
 取り敢えず僕はさっきまで煮込むのに使っていたお玉でゆっくりと飲んでみる……と、顔の火傷は消え去り、髪と爪が勢い良く伸びた。
 ざっとどちらも二倍になるくらいまで……。

 「何!? 育毛成分みたいなのもあるの!?」
 「違うよ代謝が良くなるだけだよ……」
 
 まあ結果的にそうなんだが……。

 「効果は抜群みたいね! それにしても髪……どうする?」
 「次の町で切ってもらうかな? 」
 「私に切らせて!」
 「え?」

 セシリアと刃物を合わせたら非常に危ないことぐらい容易に理解できた……。

 「えっ、遠慮しとくよ……」
 「出費は抑えないと! さあそこに座って!セシリアお姉さんがイメチェンしたげるよ!」

 何それ怖い……。

 促されるままに席に座らせられ、首にタオルを巻かれた。
 
 「じゃあ始めるよ!」

 セシリアは勢い良く僕の髪を切り始めた。
チョキチョキ……チョキチョキ……。

 その音が首筋の近くで鳴る度に僕はとてつもなく恐怖し……気付けば疲れて寝ていた。
 ん……? 寝てしまった!? ヤバいっ!

 「お! ちょうど切り終わったよ!見てみて!」

 震えながらセシリアの持つ鏡を見てみると……そこには上手く頬の辺りで整えられた横の髪、眉に程良くかかった前髪をした僕の姿があった。
 今までほとんど伸び放題で切り揃える程度だったが、ずいぶんとおしゃれになった感じだ!

「すごい! 美容院にいくより安いし、もしかしたらそっちよりうまいかもしれない!」
「いやぁ……!お母さんの切っててね……それでかな?  誉めてもなにもでないよ……」

 セシリアはまんざらでもないようで、真っ赤になりながら少し下を向きつつそう言った。

 何だよこいつ……可愛いな……。

「さて!気を取り直して次の町に向かいましょ!」
「そうだねもう暗いし急ごう!」

  急いで家を出て僕らはホウキに飛び乗りイゴロノスの街へと進んだ。
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