異世界ダイエット

第百九十九話

　湖の底で、奈々実は蒼光石で増幅した魔力の結界に閉じこもっていた。
―――怖い・・・―――
男の人が、女性にする行為が。
―――怖い・・・―――
江里香は義理の父親に性的虐待をされて、苦しんでいた。
―――怖い・・・―――
グレースは奈々実の目の前で、悪い男たちに凌辱された。
　性的な行為というのは、本来であれば子孫を残すためにすることのはずだ。ただ、人間は単なる生殖活動では味気ないので、愛というロマンティックな幻想で飾り立てた。
　奈々実が信じかけていたその幻想が、ずたずたに引き裂かれた。
　心が、悲鳴を上げる。セヴランは愛していると言ったけれど、愛していなくたって、男は同じことができるのだ。女性の身体に性器を挿入して、精液を注いで、無理矢理に妊娠させることだってできるのだ。
　動物の交尾なら、もといた世界でテレビで見た。愛しているのかどうかはわからなかったけれど、きちんとメスの同意を得ているっぽい感じの動物もいたし、メスの同意なんかまったく得ていないように見える、傍若無人な動物もいた。一匹のオスがたくさんのメスを独占してハーレムを作る動物は、メスの負担が少なくていいのかな、とも思ったけれど、人間がそれをするのは時代錯誤だと思うし、一匹のメスに複数のオスが群がる生き物の様子は、グロテスクでおぞましいと感じた。
　人間は、ああいう動物とは違うはずだと思っていた。
　思いたかった。
　でも、大差無いのかもしれない。
　オスは、気に入ったメスを孕ませたいだけ。メスの同意をきちんと尊重するのは、ごくごく一部だけ。
　もしくは、子孫を残すためですらなく、ただ女性を暴力的に犯すことが楽しいだけ。複数の男に一人の女性が・・・、グレースが凌辱されるのを至近距離で見てしまったことは、奈々実には衝撃が強すぎた。
　セヴランはそうではないと信じたい。信じたいけれど、強い不安が奈々実を取り巻いて結晶し、殻をつくった。殻の中に閉じ籠って、奈々実は塩湖の底に沈んだ。
　遠くで、セヴランが呼んでいる。しかし、今はそれに返事をしたくなくて、しっかりと耳を塞いだ。それでも聞こえるので、聴覚を遮断した。



　奈々実は二か月以上、出て来なかった。






ここまでお読みいただき、どうもありがとうございました。

年内、更新はここまでとさせていただきます。

新年は四日に更新できるように頑張ります。

皆さま、よいお年を。